Tue.

死人の宴 2  

 情報通に教えてもらったから、とエディンが皆を案内した呪い師の庵は、薬草の匂いが充満し、羊皮紙がうず高く積み上げられていた。
 よくよく目を凝らすと、羊皮紙と薬草束に混じって、酒瓶が何本も床に転がっている。この老婆、かなりの酒好きらしい。

20130312_02.png

 老婆は一行の顔ぶれの中にエディンのしかめっ面を見出すと、

「ヒッヒッヒ・・・しばらく見ないから、どこかで野垂れ死にでもしたのかと思ってたよ。今日は何の用だい?」

と、しわしわの歯抜けた口を開いた。

「ベルルース地方の事さ」
「ベルルース地方かい?ずいぶん遠くまで行くんだねぇ。まあ、気を付けて行くんだね」

 当たり障りのない言葉だけを口にする老婆に、エディンからいささか詳細を教えてもらっていたギルが焦れた。

「なあ、婆さん。あんたはベルルース地方の、それも死者の森の近くの出身らしいじゃないか。あの森について、何か教えてくれないか?」
「・・・さあねぇ。そんな昔の事は、とっくに忘れちまったよ」

 そう言って引き下がろうとする老婆の面前に、公には製造や売買が禁止されているはずの密造酒が突き出された。特殊な薬草を蒸留酒に漬け込んでおり、麻薬成分が含まれている。
 突き出した腕の持ち主はアウロラだった。
 驚いたギルが訊ねる。

「アウロラ。その酒、いつの間に・・・?」
「さあて・・・夢の中で回収したと思ってたんですが、いつの間にか荷物に紛れてまして。失礼ですが、こちらでお代にはなりませんか?」
「ヒッヒッヒ・・・さすが冒険者、よく分かっておるようじゃ。よかろう。このババが知っておる事を、全て教えてやろう」

 そうして老婆は様々な情報を口にした。
 死者の森を彷徨うクドラの亡霊の中でも、特に強力なのが狂戦士ウクスルの亡霊と、尖兵長ホルストの亡霊である事。
 狂戦士ウクスルはミスリルの鎧に憑依し、霧の濃いところから急に現れる事。
 尖兵長ホルストは最期の場所となった沼地に潜んでいる事。
 ついでにと、老婆は≪クドラの涙≫についても教授してくれた。

「≪クドラの涙≫ってのは、四季と大地の女神クドラを信仰する奴らの祭具さ。噂じゃ死者復活の秘儀に必要な祭具だって話だよ」
「そういう代物でしたか・・・・・・」

 アウロラが眉をひそめたのを見て、エディンがにやりと笑った。

「ちょうど良いじゃねえか。クドラの関係者の手に渡るよりは、無関係で護衛を雇える奴の手に入る方が、妙な事に使われねえだろ?」
「もっとも、死者復活の秘儀なんて眉唾物だし、単なる噂に過ぎないとは思うがね」

 エディンの台詞をからかうように、老婆は付け足す。

「まあ、本気で探すか、探したフリをして適当な宝石を買って帰るかは、あんた達次第さ。好きにするがええ」
「それにしても婆さん。思っていた以上に死者の森について詳しいんだな、なんで?」
「ヒッヒッヒ・・・何しろ、あの2人とは長い間、男と女の関係じゃったからのぅ。あの森の事に詳しくなっても当然じゃ」
「・・・・・・・・・」

 聞き出したギルが、うわあと言う顔になって黙り込んだ。柄にもなく後悔しているらしい。
 この台詞から老婆がクドラ教徒であることは明白だったが、アウロラは教会に対して彼女の事を黙っているようエディンから依頼されているため、余計な事は口に出さなかった。
 これで大体聞くべき事は聞いただろう、と彼らはリューンの街の入り口である北の城門に向かった。
 そこにはオットーが用意した馬車が待っており、彼らは自分達の荷物――ちなみに、アウロラとミナスは死者の森対策に呪歌や魔法を整えた――を整理し直して、ベルルース地方・死者の森へと出発した。

 住み慣れたリューンを離れ、異郷の地を旅すること20日。
 ”金狼の牙”はついに死者の森に到着した。

20130312_04.png

「ここが死者の森か・・・名前のとおり薄気味悪い所だぜ」
「まずはクドラの隠れ里を探すのが先決か・・・・・・?」

 アレクのつぶやきにエディンは頷いた。

「だな。いつもの通り、俺が先頭に立つ。後ろへの警戒はお前さんに任せたぞ」

 こうして冒険者たちは、エディンを筆頭に森の奥へと入っていった。
 霧が立ち込める丘の上に、崩れかけた石造りの壁がある。周囲を歩いて調べてみるが、変わった物は見つからない。

「大昔の砦か何かの跡のようだな。おそらく、この丘の下に死人がたくさん眠ってるんだろうよ」
「・・・・・・ねえ、エディン。あれ」

 比較的損傷の少ない壁の上から辺りを睥睨していたミナスが、北のほうを指差した。

「ただの霧じゃないよ。何か変なの」
「・・・・・・呪い師の婆さんが言ってた奴か?」
「アンデッドの気配じゃない、他の気配がする。ジーニなら分かる?」
「流石にここからじゃねえ。近づいて見ないことには分からないわ」

 ギルが頭を掻いて言った。

「隠れ里って言うぐらいだ、そういう霧で隠してるのかもしれない。行ってみよう」

 そしてミナスが指した霧のほうへと向かったのだが・・・・・・。
 確かにその霧は異常だった。特に濃い場所のようで、ただ単に周りが見えないだけではなく、声も通りにくいような感じがする。

「ちょっと待ってよ、これって・・・」

 ジーニが素早くポーチから≪蒼石の指輪≫を取り出し、コマンドワードを唱える。

「魔力を捕らえ我が目に映せ!」

 それは【魔力感知】の呪文であった。術者の視界内に存在する魔力を感知するその力は、本来不可視である魔力のオーラを術者に視認させる。
 はたして反応はあった。この辺りを漂う霧から、強力な魔力をジーニは感じる。
 ギルの推測どおり、何かを隠す為に魔法で作られた物のようだ。
 ジーニは特に強い反応を示す枯れた木を見上げると、その根元へベルトポーチから取り出した薬瓶の中身を振り撒いた。
 たちまち強い魔法の反応があり、驚いたエディンが声を上げた。

「わっ・・・・・・なんだ、何やったジーニ!?」
「【破魔の薬瓶】で魔法を破ったのよ。ほら、何か出てくるわよ・・・!」

 周囲を覆っていた濃い霧が急速に晴れていく。
 突如、彼らの眼前に大きな塚とその入り口が現れた。

20130312_06.png

 ここがクドラ教徒の隠れ里かと、”金狼の牙”たちが洞窟の奥へ進んでいくと、やがて小部屋の様な空間に行き当たった。
 頭蓋骨に囲まれたその部屋の奥には、少し大きな鏡の置かれた祭壇がある。

「なんだこりゃ?」

 エディンはしげしげと鏡を見つめた。
 縁に金の装飾が施された大き目の鏡は、表面が徹底的に磨き上げられており、全く曇りと言うものがない。なぜ、こんな物が洞窟の祭壇などに祀り上げられているのかと訝しく思っていると。
 同じように鑑定していたジーニが、ひょっとしたら魔法の品かもしれないと言った。

「呪いだとか、そっち系統じゃないとは思うんだけど・・・。これにも魔力を感じるのよ」
「・・・・・・どうする、ギル。俺はあまりこれは好かんのだが」

 アレクは幼馴染に判断を委ねた。

「即効性の罠とかじゃないんだろ?持っていこう。クドラ教徒との取引に使えるかもしれないし」
「・・・・・・お前さん、意外と狡猾だね」

 エディンは祭壇における罠がないことを確かめると、そっと鏡を外して自分の毛布で包んだ。
 そしてまた、”金狼の牙”たちはクドラ教徒の隠れ里を目指して歩き続ける。
 ・・・やがて、霧の奥に広がる沼地へとたどり着いた。
 どうやらここが森の端のようだ。

「あれってなんだろう?」

 ミナスが呟いて指差す方を他のメンバーがよく見ると、沼の中から長い棒の様な物が突き出ている。枯れ木とは少し違うようだが・・・。

「よし・・・俺が確かめに行くぞ」
「ギル、わざわざ危ないと分かっているところに・・・」

 アウロラの咎めるような声に、ギルは首肯して言った。

「ああ、婆さんの忠告を忘れたわけじゃないさ。だから先に支援魔法を頼む」
「もう・・・すぐには駆けつけられないんですからね?」

 アウロラとミナスが、ギルの身を守るための魔法をかけていく。

20130312_07.png

(もし、呪い師の婆さんから聞いた事が本当なら・・・)

 足の半ば以上を濁水に取られつつ、彼はゆっくりと進む。
 そしてギルが沼の中央付近まで来たその時、咆哮と共に無数の死体と強烈な瘴気を放つ亡霊が現れた。

「出たな、尖兵長ホルスト!」

 かちゃり、と斧が鳴った。

2013/03/12 19:32 [edit]

category: 死人の宴

tb: --   cm: 0

コメント

コメントの投稿

Secret

プロフィール

最新記事

最新コメント

月別アーカイブ

カテゴリ

カレンダー

検索フォーム

RSSリンクの表示

リンク

ブロとも申請フォーム

QRコード

辺境に足を運んだ方の人数

▲Page top