Tue.

月光に踊る長靴 1  

「んー・・・短期の依頼、立て続けに引き受けたから疲れたわねえ」
「だよなあ。みんな、今日は野宿じゃなくて村で宿でも取ろうか?」
「あら、ギル。この先に村があるんですの?」
「あるある。親父さんから聞いた話が確かなら、この辺で見えてくるはずだぜ」
「あ!ねねっ、ギル。もしかしてあれ?」

 それは、一行がフォーチュン=ベルの依頼を終えたばかりの話。
 ゴブリンや海賊を退治した彼らは、リューンへの道中、ミナスが発見した小さな村の宿でその晩を過ごすことにして、就寝前の一服、と洒落込んでいた。

「あの・・・・・・」

 そこに声をかけたのは、まだ年端もゆかぬ少女だった。
 簡素だが上物の服装が、興味をそそる。

(デザインはシンプルだけど、この桃色は珍しい染料ね。よほどの金持ちじゃなきゃ、こんな布使わないわよ・・・。)

 ジーニの鑑定眼が密かに光る。
 横に座る魔法使いの思惑には気づかず、まず少女にエディンが応えた。

「どうしたんだい、お嬢ちゃん」
「あの・・・・・・。みなさんは、冒険者の方々・・・・・・ですよねっ」

 手の中の酒杯をゆっくり置いたアレクが、少女の勢い込んだ口ぶりに何を感じたのか、眉をひそめる。

「そう、だけど。何か?」
「あの、みなさんにお願いしたいことがあって・・・・・・」
「・・・・・・お願い?」

 この依頼はもしかしたら金になるかもしれん、と判断したエディンが用件を反復する。
 アウロラとミナスは、エディンの後ろで甘い菓子を分け合いながら、事の推移を見守っていた。
 リーダーであるギルは、珍しく押し黙っている。

「ええ。報酬がお要りならわたし―――」

 少女は持っていた可愛らしい、大事にしているのであろう陶製の貯金箱をかちゃかちゃと鳴らした。
 ずっと貯めているのだろうか、それなりに量があるように貯金箱の銀貨は唄う。
 金貨の澄んだ独特の音ではないことに気づいたエディンとジーニが、心持ちがっかりした顔になる。
 代わりに、少女の真剣さに心を打たれたらしいアレクが、身を乗り出して少女を促した。

「こんなので果たしてみなさんの報酬に足るかはわかりませんけど、でもどうしてもお願いしたいんです」
「真剣なんだな」

 すかさず頷く少女に、エディンがうーんと腕を組んで唸った。
 少女はさらに声を高めて言い募る。
 必死、というより何か大切なものへの愛情で瞳が潤んでいる。

「不足なら、将来必ずお渡ししますからっ―――」
「―――話を聞こう」

 それまで黙っていたギルが、とうとう口を開いた。
 少女の態度に、何か思い当たる節があったらしい。
 ギルの発言に頷いたアレクが、自分の隣の席から椅子を一脚拝借し、少女に勧めた。

「詳しく聞こうかな。まぁまず、座って落ち着いて・・・」
「お嬢様!こんなところにいらしたのですか!」

と、話に割って入ってきたのは真面目そうな青年だった。
 どうやら少女を知っているようだ。

「お父様が心配しておいでです、帰りましょう。コーシカもいなくなってその上、お嬢様まで、など・・・・・・」

(コーシカ?)

 初めて出てきた名前に興味をそそられたらしいジーニの横で、青年と少女の話しは続く。

「ジュビアさん・・・・・・。ごめんなさい。わたし、そんなことも考えられなくって・・・・・・」
「まあ、こんな夜遅くだしね」

 ミナスが、肩をすくめて言う。
 ジュビアと呼ばれた青年が、それに同意するように頷いて言った。

「いいですよ。謝るならお父様に言ってあげて下さい」

 そして姿勢を正して、一行に向き直った。

「貴方がたにもご迷惑をおかけして申し訳ございません」

 そうジュビアは一行に深々と頭を下げ、この場を去ろうとしている。
 少女も一行にぺこりとお辞儀をしてから、大人しくジュビアに従う。
 事情をもっと知りたいと思った一行は、2人を引き留めた。
 良家の子弟然とした態度で、アレクがジュビアに声を掛ける。

ScreenShot_20120919_235845703.png

「それは構いませんよ。ところで、お嬢さんに何があったのです?差し支えなければお教え下さい」
「・・・・・・・・え?」

 そのアレクの肩に、ひょいとギルが左ひじを乗せて、戸惑った態のジュビアに笑いかけた。

「俺たちはこれでも、何でも屋稼業の端くれさ。もし、俺たちで力になれることがあるんなら協力する」
「・・・・・・もちろん、それなりに戴くものは貰うけどな」

 ギルの宣言にぽそりとアレクが付け足すと、周りの仲間が笑った。
 彼らの快活な様子に、すっかり毒気を抜かれたジュビアは、

「あ―――ありがとうございます」

と言った。

「そう、ですね。それではどうぞ、ご案内いたします。詳しい話は、お屋敷でいたしましょう」

2012/11/06 05:10 [edit]

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