Sat.

娘と冒険者 4  

 その後、おまわりさんは事件のあらまし――娘さんが遅くなったために近道をしようと裏通りを行ったこと、そこで柄の悪い男たちに囲まれ襲われかけたところを彼が助けたこと――を話した後、帰っていった。

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 娘さんは意識を取り戻したものの、ひどく怯えていて、顔は青白く唇は真っ青である。
 冒険者たちは彼女をそっとしておこうと、世話をエセルに頼もうとしたが、娘さんの方が彼らに話しかけてきた。
 ギルが優しく声をかけると、最初は掠れていた声も、徐々にその感情を吐露するようになった。

「ずびぃ、ずびぃ、えぐぅ・・・怖かったよう・・・」
「かわいそうに・・・」
「・・・だんで(何で)?」

 娘は回らぬ舌で一所懸命に言い募る。

「だんでげんもばほうも、おじえられたとおりにやっだのに・・・」

 それを正確に変換したジーニとアレク――魔法と剣の師匠――は、所在なげに俯いてしまった。
 代わりにギルがため息をついてから口を開いた。

「あれはね。俺らが、娘さんが誰かを傷つけるのを見たくなかったから・・・」
「ぞれで、うぞの剣とばほうをおじえだのね・・・」
「・・・すまなかった」

 ”金狼の牙”のリーダーはギルである。彼は一同を制して、潔く頭を下げた。
 そして優しく娘さんの肩に手を伸ばそうとしたが、無情にもその手は振り払われた。

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「ギルざんなんて、だいぎらい!」
「・・・・・・」

 娘さんが自分の部屋へといなくなり、同室のエセルが慌てて彼女を追った後――妙な静寂が店内を包んだ。
 アレクとジーニ、そしてアウロラやエディンもギルに謝り始める。

「・・・・・・すまない。お前だけに泥を被せて・・・」
「あたしも悪かったわ。ごめん」
「・・・私もいけなかったのです。つい、調子に乗ってしまって・・・」
「年長者として、もっと気を配るべきだった。すまん、リーダー」

 片づけを済ませた親父さんが少し疲れた顔をしながら、カウンターの席へ腰をおろした。
 
「おい、ギル。どういうことだ?」

 ギルは、親父さんの知らないところで娘さんに冗談半分の剣と魔法を教えていたことを説明した。

「悪かったと思ってるよ。こんなことになるなんて・・・」
「いや、お前が謝ることはない。わしは真剣に教えてくれなかったことをむしろ感謝しとるよ」
「えっ?」
「わしだって、娘が人を傷つけるところなんて見たいとは思わん」

 親父さんはゆっくりと首を横に振って言った。

「しかも、聞いた話じゃ、たいした目的もなく、興味半分で始めたそうじゃないか」
「・・・・・・ああ」
「そんな生ぬるい決心で剣や魔法が身につくはずはない」

 ごつい――つい数時間前まで油樽を投げつけていた手が、がしりとギルの肩を包んだ。

「今度のことも、あいつが夜の街をうろついていたのが悪い。お前らは何も気にする必要ない」
「親父さん・・・」

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「お前らも本当は、娘のことを大事に想ってやってるんだろ・・・」
「当たり前だろ」

 照れたように視線を逸らすギルに、親父さんはふっと笑った。

「あいつの喜んだときの笑顔はみんなを陽気にさせるもんな」
「娘さんの笑顔か・・・」

 アレクが片目を瞑って言った。

「さっきのポーカーの勝ち分で、娘さんに何か買ってあげるとするよ。300spもあれば、きっと娘さんが喜ぶものを買えるんじゃないかな?」
「そしたら、またあの笑顔が戻ってくる・・・といいよな」

 アレクとギルの台詞に、親父さんも頷いた。

「そうだといいな」

 隣室でベッドに横たわっていた娘は、扉の隙間からこぼれてくる優しさに先程とは違う色の涙を流していた。
 数日が経過し、プレゼントの効果もあってか、娘さんにも笑顔が見えるようになった。
 はじめはギクシャクしていた”金狼の牙”たちとの仲も、次第にもとのようになっていった。
 だがギルは、娘さんの笑顔が、時折まるで作り笑いであるかのように見えることや、エセルからまだ彼女が夢で魘されているらしいことを聴いて、心の傷が癒されていない事を知っていた・・・。
 そんなある日。

「あら、お父さん。これからどこか行くの?」
「すまんが、これから寄り合いなんだ」
「また行くのか、親父さん」

 そう言ったギルのほうに、親父さんは笑いかけて言った。

「ああ、エイブラハムや他の宿の亭主の話が面白くてな。留守を頼んだぞ」

 そして娘さんと一緒に”金狼の牙”たちも彼を見送ったのだが・・・。

「ねえ、ギルさん」

 娘さんが振り返った。

「なんだい?」
「まえの日の夜の事、覚えてるでしょ」
「酷い目にあった日のこと?」
「あたし、あいつらを見返してやりたいの・・・」

 すわ娘さんからの依頼かと、姿勢を正した一同に、娘さんは予想外の提案を行なった。
 曰く――もう一度、今度は本当の剣と魔法を教えてくれと。

「あたし、本気でがんばるわ。どんなつらい練習も耐えてみせる!」
「復讐からは何も生まれないぜ。親父さんも大反対だろうな」

 もっともに聞こえるギルの台詞を、娘さんはフンと鼻で笑った。

「それは一般論でしょ。あたしはアウロラさんやジーニさんが同じ目に遭ったら、どう思うかを聞いてるの」
「それは・・・・・・まあ、【災いの薬瓶】で動き鈍らせてから、一人ずつ【魔法の矢】でしとめるわね」
「・・・【氷姫の歌】歌って混乱させてから気絶させます」

 女性冒険者の忌憚ない意見。性的な危機に対する怯えは、まず女性でなければ分からない。
 それに渋い顔で黙り込んだギルに対し、あのね、と言って娘さんはお盆を握り締めた。

「あの日から悔しくて、あいつらに乱暴される夢ばかり見るのよ。だからお願い、もう一度チャンスを・・・」
「娘さんにお願いされちゃあ、しょうがないな。ただし次の3つは守ってくれ」

 みなまで台詞を言わせることなく、ギルは約束事項を口にした。
 1つ目。期間は一週間。それ以上は費やせないし、芽が出なかったらそれまで。
 2つ目。途中で投げ出さない。やるからには最後までやること。
 3つ目。命を大切にすること。他人の命も、自分の命をも。

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「わかった?」
「はい、分かりました。ギル先生!」

 娘さんはまっすぐな眼差しをギルに向けた――その瞳には、少しの揺れもなかった。
 その日から血の滲むような特訓が始まった。

2013/03/09 00:02 [edit]

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