Sat.
娘と冒険者 3 
そして一週間後。
深緑都市ロスウェルに出かけ、そこで依頼をこなしてきた”金狼の牙”たちがふらりと帰ってきた。

「親父さんただいま」
「あ・・・ああ、お前さんたちか・・・仕事の方はどうだった?」
「なに、簡単なものだったよ」
それ以上は依頼人との守秘義務により詳しく話せなかったものの、ギルは親父さんを心配させまいと微笑むに留めた。――実際には、剣士とのとんでもない死闘があったのだけど――。
「依頼料の他に手に入れた技もあったし、いうことなしだね」
「そうかい」
エセルから笑顔と共にワインを貰ったギルが、ふと気づいたように訊ねる。
「そういえば、娘さんは?」
「それがなあ・・・まだ帰ってないんだ・・・」
親父さんが唸るように答える。
「お友達の家に遊びに行くって言ってたんですが・・・」
もう一人のウェイトレスであるエセルも、困ったように頬に手を寄せて言った。
親父さんが深くため息をつく。
「やれやれ、どこをほっつき歩いてるんだか」
「心配?」
からかうようにギルが言う。
「何を言うか。いや、わしはだな・・・」
しかし、その台詞をアレクの余計な一言が遮った。
「娘さんも、もう年頃だしね。ややもすると・・・」
「おい、アレク。今なんて言った?」
「? いや、娘さんももう子どもじゃないって・・・」
「まさか・・・」
親父さんがぶるぶる震え始めたのを見て、ギルが顔色を変える。
慌てて華奢な背中を押して誘導した。
「あ、これまずい。エセル、2階に逃げてろ」
「え?ギルさん?えっ、えっ?」
「早く!後で説明するから逃げろ!」
その間も親父さんのヒートアップは続き・・・・・・。
「まさか・・・まさか・・・許さん!わしは絶対に許さんぞ!!!」

「アレク!なんでそんなこと言っちゃったんですか!?」
「す、すまない。他意はなかったんだが・・・」
「オイオイ、親父さんが本気モードだぞ・・・」
急いで”金狼の牙”たちは得物を構えた。
親父さんの逞しい腕が、カウンター下に強盗対策で潜めている木刀を取り出し――≪狼の隠れ家≫はしっちゃかめっちゃかになった。

「何あの地獄めぐりって技・・・格闘のくせに睡眠とか・・・」
「油の入った樽投げて着火とか、店が全焼したらどうすんだよ、ったく・・・」
がくり、と大人コンビが膝をつく。
”金狼の牙”たちは、隙あらば油を引っかぶった自分たちに火をつけようとする親父さんに苦戦を強いられながらも、どうにか勝ちを拾い、正気に戻す事に成功した。
「はあ・・・はあ・・・はあ・・・」
「お、親父さん落ち着いて」
アレクがさっきのは軽い冗談だからと必死で宥めると、親父さんもようやく気分が収まったようで、
「そうだよな・・・うん、あいつはまだ子どもさ」
とカウンターの定位置に戻った。
暴れまわった店内を、アウロラと、2階から降りてきたエセルや他の後輩冒険者達が片付けはじめる。
(でも、それにしても遅いよな娘さん・・・)
ギルが気遣わしげな顔になって、窓から外を見た。
そこには夜闇が広がっているだけである。
彼の懸念は当たり――――数時間後。
疲れきって眠ってしまったミナスを部屋に寝かせ、残りの面子で親父さんを交えポーカーをしたところ、アレクが一人勝ちをし、
「それに比べて、親父さんはぼろぼろ・・・」
「娘さんが心配でポーカーどころじゃなかったんだろう・・・」
と幼馴染たちが話している最中に、先程の戦闘の余波でぼろぼろになってきた扉が開いた。
すわ娘さんか?と振り向いた一同(親父さん含む)の目に映ったのは、褐色の髪をした長身の男が、眠っているらしい娘さんを横抱きにして入ってきた図だった。
男が耳障りのいい声を発する。
「失礼しますが・・・ここは狼の隠れ家ですよね」
親父さんの顔色がまた変わった。
「・・・・・・き・・・き・・・」
「あ」
「ちょっとまたなの!?」
一足先に気づいたエディンとジーニが呻くが、親父さんと――何より、この店に初めて立ち寄った男にはその意味が分からない。
「きさまか!うちの娘をたぶらかしおって!」
「?」
きょとんとした様子の男に、親父さんはまたもやカウンター裏にあった油樽を投げつけ始めた。
「成敗してくれるわ!!」
「おわっと!」
ひらりと避ける男を見て、ギルが言う。
「おい、そろそろ止めた方がいいんじゃないか。あの男、R・C・S・D(リューン市警備機関)で見たことあるぞ」
「でも今日の親父さんは強いから・・・あたしはごめんだわ」
「なまじ伊達男なだけに気の毒に・・・・・・こういうときは・・・」
そう言って、アレクは入り口の辺りにそっと横たえられた娘さんに声をかけた。
「起きろっ!菊枝っ!」
「なんですって!あたしの名前は、フランソワーズよ!!!」

――名前に反応して一時的に目を覚ました娘さんの手によって、事態は収束した。親父さんは気絶している・・・。
深緑都市ロスウェルに出かけ、そこで依頼をこなしてきた”金狼の牙”たちがふらりと帰ってきた。

「親父さんただいま」
「あ・・・ああ、お前さんたちか・・・仕事の方はどうだった?」
「なに、簡単なものだったよ」
それ以上は依頼人との守秘義務により詳しく話せなかったものの、ギルは親父さんを心配させまいと微笑むに留めた。――実際には、剣士とのとんでもない死闘があったのだけど――。
「依頼料の他に手に入れた技もあったし、いうことなしだね」
「そうかい」
エセルから笑顔と共にワインを貰ったギルが、ふと気づいたように訊ねる。
「そういえば、娘さんは?」
「それがなあ・・・まだ帰ってないんだ・・・」
親父さんが唸るように答える。
「お友達の家に遊びに行くって言ってたんですが・・・」
もう一人のウェイトレスであるエセルも、困ったように頬に手を寄せて言った。
親父さんが深くため息をつく。
「やれやれ、どこをほっつき歩いてるんだか」
「心配?」
からかうようにギルが言う。
「何を言うか。いや、わしはだな・・・」
しかし、その台詞をアレクの余計な一言が遮った。
「娘さんも、もう年頃だしね。ややもすると・・・」
「おい、アレク。今なんて言った?」
「? いや、娘さんももう子どもじゃないって・・・」
「まさか・・・」
親父さんがぶるぶる震え始めたのを見て、ギルが顔色を変える。
慌てて華奢な背中を押して誘導した。
「あ、これまずい。エセル、2階に逃げてろ」
「え?ギルさん?えっ、えっ?」
「早く!後で説明するから逃げろ!」
その間も親父さんのヒートアップは続き・・・・・・。
「まさか・・・まさか・・・許さん!わしは絶対に許さんぞ!!!」

「アレク!なんでそんなこと言っちゃったんですか!?」
「す、すまない。他意はなかったんだが・・・」
「オイオイ、親父さんが本気モードだぞ・・・」
急いで”金狼の牙”たちは得物を構えた。
親父さんの逞しい腕が、カウンター下に強盗対策で潜めている木刀を取り出し――≪狼の隠れ家≫はしっちゃかめっちゃかになった。

「何あの地獄めぐりって技・・・格闘のくせに睡眠とか・・・」
「油の入った樽投げて着火とか、店が全焼したらどうすんだよ、ったく・・・」
がくり、と大人コンビが膝をつく。
”金狼の牙”たちは、隙あらば油を引っかぶった自分たちに火をつけようとする親父さんに苦戦を強いられながらも、どうにか勝ちを拾い、正気に戻す事に成功した。
「はあ・・・はあ・・・はあ・・・」
「お、親父さん落ち着いて」
アレクがさっきのは軽い冗談だからと必死で宥めると、親父さんもようやく気分が収まったようで、
「そうだよな・・・うん、あいつはまだ子どもさ」
とカウンターの定位置に戻った。
暴れまわった店内を、アウロラと、2階から降りてきたエセルや他の後輩冒険者達が片付けはじめる。
(でも、それにしても遅いよな娘さん・・・)
ギルが気遣わしげな顔になって、窓から外を見た。
そこには夜闇が広がっているだけである。
彼の懸念は当たり――――数時間後。
疲れきって眠ってしまったミナスを部屋に寝かせ、残りの面子で親父さんを交えポーカーをしたところ、アレクが一人勝ちをし、
「それに比べて、親父さんはぼろぼろ・・・」
「娘さんが心配でポーカーどころじゃなかったんだろう・・・」
と幼馴染たちが話している最中に、先程の戦闘の余波でぼろぼろになってきた扉が開いた。
すわ娘さんか?と振り向いた一同(親父さん含む)の目に映ったのは、褐色の髪をした長身の男が、眠っているらしい娘さんを横抱きにして入ってきた図だった。
男が耳障りのいい声を発する。
「失礼しますが・・・ここは狼の隠れ家ですよね」
親父さんの顔色がまた変わった。
「・・・・・・き・・・き・・・」
「あ」
「ちょっとまたなの!?」
一足先に気づいたエディンとジーニが呻くが、親父さんと――何より、この店に初めて立ち寄った男にはその意味が分からない。
「きさまか!うちの娘をたぶらかしおって!」
「?」
きょとんとした様子の男に、親父さんはまたもやカウンター裏にあった油樽を投げつけ始めた。
「成敗してくれるわ!!」
「おわっと!」
ひらりと避ける男を見て、ギルが言う。
「おい、そろそろ止めた方がいいんじゃないか。あの男、R・C・S・D(リューン市警備機関)で見たことあるぞ」
「でも今日の親父さんは強いから・・・あたしはごめんだわ」
「なまじ伊達男なだけに気の毒に・・・・・・こういうときは・・・」
そう言って、アレクは入り口の辺りにそっと横たえられた娘さんに声をかけた。
「起きろっ!菊枝っ!」
「なんですって!あたしの名前は、フランソワーズよ!!!」

――名前に反応して一時的に目を覚ました娘さんの手によって、事態は収束した。親父さんは気絶している・・・。
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