Sat.

娘と冒険者 2  

 目を瞑って精神を集中していた後、簡易詠唱で刃に火炎を纏わせた剣が、ひゅん!と唸りを上げて仮想の敵を打ち払う。
 続けて、炎が消えると同時にアレクの体が沈み、円を描くような剣舞を始めた。

「お、【炎の鞘】からの【風切り】か!」

 感心したようにエディンが腕組みをして頷いている。
 アレクの周りを、唸りを上げたつむじ風が取り巻いている。
 純粋な剣技のみ――それでここまで練り上げた実力は、決してこけおどしに留まるものではない。
 すぱん、と近くの細木がいい音を立てて割れ――目に見えぬ刃で、その後も切り裂かれていく。

「たあっ!」

 超神速の剣は大気さえ両断する真空を宿し、敵対する者たちを深く切り裂く――驚異的な命中率を誇る、アレクお得意の剣舞であった。

「・・・・・・す・・・すごーい!!!」

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 娘さんの顔がすっかり興奮で朱に染まっている。
 キン、と音を立てて剣を鞘に収めたアレクが、滅多にないことだが微笑んだ。

「ざっと、こんなものだ」
「アレクさん、お手本ありがとう。次はあたしもやってみるわ」

 好奇心に溢れた笑顔で、娘さんはアレクに渡された練習用の長剣の柄へ手をかけた。
 美しい剣舞を見せられて、自分でもできるのではないかと思っているのだろう。素人があそこまでの水準に達するまでには幾年月の修練が必要であるのだが・・・。

「うーん・・・」

 やはりというか、重量がありすぎたらしい。

「重くて持ち上がらないわ・・・」

 ここでピコーン、とジーニが何かを考え付いた。

「がんばれ、杉代さん!」

 一刹那・・・・・・長剣が宙を舞い、見事ジーニの脳天を剣の腹が打ち据えたように見えたのだが。

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「エカテリーナ他の剣がいい」
(めっ、目の錯覚!?しかも名前また変わってる!?)

 沈黙したジーニを見て、ギルの背中に冷や汗が流れた。
 しかしこのままではいけないと、彼は口を開く。

「娘さんじゃ、剣は扱えないよ。親父さんも反対しているし、今日はもう帰ろう」
「・・・・・・」

 娘さんが不満そうな顔で口をへの字に結んでいるのを見て、気の毒に思ったのだろうアウロラが、

「これを使ってみたら?」

と細剣を取り出した。

「レイピアなら軽いから、娘さんでもきっと大丈夫ですよ」

 ギルは内心で(余計な事を・・・)と舌打ちするが、娘さんはアウロラから手渡されたレイピアを軽々と振り回し、にっこりと笑った。

「あら、これならあたしでも扱えそう」
「じゃあ、この岩を突いてみて」

 アウロラが指差したのは、等身大ほどの岩であった。
 実は彼女が荷物袋から取り出し平地にすえたのを、ミナスやエディンだけは気づいている。

「じゃあ、行くわよ・・・はああ!」

 娘さんが気合と共に思い切りよくレイピアを突き刺す。

「必殺!穿鋼の突き!!!」

 すると――いくらなんでもそれは無茶だろう、と案じていたギルをよそに、その岩はあっけなく砕け散ったのである。
 えっ!?と自分でも驚く娘の足元に、砕けた岩の欠片が転がった。

「すごいですね、娘さん剣の才能あるんじゃないですか?」
「えへへへ。そうかなあ・・・」

 照れたように笑う娘に気づかれないよう、こっそりとギルが質問する。

(おい、一体どういうことなんだ?)
(ふふふ、あの石はちょっとの衝撃で崩れる材質でできてるのです)
(娘さんを騙したのか!?)
(嘘も方便と申します。喜んでくれてるからいいじゃないですか)

 なんとなく納得できず憮然となってしまったギルだったが、娘さんはそんなことにかまうはずもなく、今度はジーニに魔法をせがんでいる。
 黙って彼女を見つめていたジーニは、おもむろに口を開いた。

「その前に、魔法を使うには魔力がなかったらだめなの」
「えっ、そうなの?」

 驚く娘さんに、人差し指を立ててジーニは説明した。

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「人間が魔力を持つためには、エルフや魔族の血筋を受け継いでなければいけないのよ。ほかにも契約とか同化って手段はあるんだけどね」

 血筋を受け継いでいない素人がいくら詠唱を紡ごうとも、魔力を練ることはできない。
 では契約や同化とはどのように成すべきものか――というと、その答えがジーニの持つ≪死霊術士の杖≫だったり、一般的な魔術師が扱う≪賢者の杖≫なのだ。
 魔法の触媒を持つことで、己の中に眠っているが扱われる事のない魔力をコントロールし、魔法を使えるようにするわけである。
 賢者の塔を創立した者たちが見出した無理のない魔力の引き出し方法は、当時、画期的な大発見として爆発的に世界に広まったのだった。

「娘さんからは魔力を感じないから、純人間だと思うわ」
「よく分かんないけど、あたしは魔法を使えないのね」
「そこで・・・」

 傍らに置かれていた荷物袋から、ジーニは赤い宝石を2、3個取り出した。

「きゃあ、綺麗なルビー!」
「これは触媒・・・・・・つっても分かんないか。まあ、ようは魔力の素。魔力が込められた宝石なの」

 元々は後輩冒険者相手に、魔力の引き出しをするためとってあった品である。
 白い繊手が、娘さんの手の上にそれをそっと置いた。

「持ってるだけで魔力得ることができるから、これなら娘さんでも・・・使い捨てだけど貸してあげる」
「えっ、あたしにくれるの?全部?やったー!」

 娘さんは大喜びだったが、続いて出てきた台詞にジーニは愕然とした。

「ブローチにしようかしら」
「え・・・・・・」

 使い捨てって言ったじゃない!というツッコミに、ごめんごめんと娘さんは謝った。

「魔力の素も持ったし、じゃあ始めましょ」
「どんな魔法を教えてほしいの?」

 ミナスが娘さんに尋ねると、間髪いれず「炎の玉!」という返事が返ってきた。
 ジーニがそれを使ったのは見たことがなかったので、ギルは大丈夫なのかと心配になるが、当の本人は「まかせなさいっ!」と無駄に張った胸を叩く。
 そして荷物袋から出したわけではない、裏山に元からあった岩壁を顎でしゃくった。

「じゃあ、指をあの岩に向けて」
「ええっと・・・こうかしら」

 普段、冒険者たち相手に食事や飲みものを運んでくれる指が、すっと岩壁に突き出される。

「いいわよ、センスがありそう」

 そう褒めるジーニの言葉に、ますますギルの眉間に皺がよった。

「集中して炎の玉って叫ぶのよ」
「じゃあ、集中するわよ!」

 そう言って娘さんは両目を固く閉じた。
 言われたとおり集中している娘さんを尻目に、ジーニはなにやら小声でつぶやき始めた。

(・・・誇り高き炎の精霊サラマンダーよ・・・汝、我が紡ぎし言霊にその身を預け・・・いっとき我が力とならん・・・)
(・・・天界を羽ばたきし光の精霊フォウよ・・・汝、我の紡ぎし言霊にその身をささげ・・・いっときこの闇の世を我が聖なる光で満たさん・・・)

 ジーニが普段、高レベル攻撃魔法を使わずに薬瓶を応用しているのは、このように正式な詠唱が長いから、という理由がある。
 技量の高い術者はルーン文字を駆使して詠唱を短くできるよう工夫するのだが、その工夫が彼女にとっては苦痛らしい。
 しかし、今はただの練習と割り切ってジーニはちゃんと詠唱を唱えた。
 二人の目が、同時にカッと開いた。

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(炎の玉!)
「炎の玉!」

 一瞬まぶしい光がすべてを包む。
 その後、凄まじい爆炎が岩壁に着弾し、辺りが土煙でいっぱいとなった。

「ゴホッ、ゴホッ」

 ギルが煙にむせながら岩壁の方を見やると、さっきの爆発で岩壁は粉々に吹き飛んでいた。

「あたしってば、すごーい!」

 娘さんは有頂天となっている。
 その横で、ジーニもギルのようにむせながらちょっと反省をしていた。

(ちょっとリキ入れすぎたかな・・・)

 ガッ!と娘さんはジーニの両手を取った。

「今の見た!?ジーニさん!」
「ええ、すばらしい腕前ね。いや、さすが娘さん。光輝の狼の血は伊達じゃあないわね」
「えへへへ・・・」
(サ、サギだ・・・)

 なんともいえないペテンに、ギルは一人しゃがみ込んで頭を抱えた。
 その横でミナスがよしよしと頭を撫でている。

「やっぱり魔法はすごいわね。他の魔法も教えて」

 調子に乗った娘さんと、滅多にないことに他人から喜んでもらえて気分が良くなってしまったジーニは、次もいんちき紛いの魔法を次々に特訓した・・・。
 こうして親父さんの知らないところで、それからも”金狼の牙”たちは――どれも冗談半分なものばかりではあるが――彼女に剣と魔法を教えた。
 はじめは、「剣と魔法を覚える事」がどんな意味を持つかよく知っていたために、乗り気ではなかったギルも、他の面子が教える技能が大したことのないものばかりだということが分かると、次第に黙認するようになっていた。
 仲間たちが娘さんの喜ぶ顔を見て微笑む、その様子が嬉しくて止められなかったのである。

2013/03/09 00:00 [edit]

category: 娘と冒険者

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