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娘と冒険者 1  

「あー、クソ。地下四階までは行けたのになあ」
「まあまあ。一気に攻略しなくてもいいって親父さんが言ってたし、実力が上がるまでのんびりやろうよ」
「ミナスの言うとおりだぜ、リーダー。呪いの水晶だか何だか知らねえが、7匹のうち4匹までは退治したんだから大したもんだよ」

 禍々しい紫色に輝く水晶球を前に、”金狼の牙”たちが騒いでいる。

20130307_01.png

 水晶は「悪魔たちの挽歌」という名前で呪いがかけられており、中に住まう悪魔たちを退治しなければ呪いが解けないのだ。
 一切の魔法による肉体強化や気功の術などは嫌われ、戦闘の前準備にかける事が出来ない。 
 そんな悪条件ながらも、この間手に入れた≪エメラダ≫を上手く使い、どうにか地下四階の悪魔までは退治できたのである。

20130307_02.png

「退治したら、新しい術を教わる機会が増えるらしいから頑張らないと!諦めないんだから!」
「・・・どうしても呪いを解いてみたいんですね、ジーニ・・・。この手の呪いが掛かったアイテムは案外多くて、本の形のものもあるそうですが、私たちは今のでイッパイイッパイですよねえ・・・」
「・・・・・・まあ、いい鍛錬にはなる。今度また挑戦しよう」

 ・・・そんないつもの≪狼の隠れ家≫の昼下がり。
 当然と言うか、こんなに”金狼の牙”が騒がしいのは、店内の客がまばらなせいだ。
 それでも親父さんは忙しそうに働いている。
 娘さんはいつもの満面の笑みを浮かべながら、お客さんと他愛もない話をしている。

「あ、ギルさんたち。おかえりなさい」

20130308_03.png

 水晶から帰ってきた一行に気づいた娘さんは、

「ちょっとそこに座って待っててね。すぐにお茶でも用意するわ」

と言って、厨房へと足を運んだ。
 ”金狼の牙”たちは思い思いに腰掛け、しばらく店内を眺めていたが、そのうち客はみんないなくなってしまった。
 彼らにホットミルクや紅茶を運んできた娘さんは、それらを卓上に置くと、すこし口篭ったようになってからおもむろに切り出した。

「ねえ、ギルさんたち、今日は仕事ないの?」
「ああ、暇だけど・・・どうかしたの?」

 紅茶をふうふうと息を吹きかけ冷ましていたギルが、娘さんを見上げて首をかしげる。

「あたしお昼から仕事お休みなの。でね、その・・・」
「?」

 ジーニは目をぱちくりとさせた。そういう仕草をすると、この女は常よりも柔らかい印象になる。
 しばらく悩むようにしていた娘さんは、滝へ飛び込むような面持ちで口を開いた。

「あたしに剣と魔法を教えてくれない?」
「どうして急にそんなこと・・・」
「それに、剣や魔法なんて一朝一夕に身につくものじゃないぜ」

20130308_04.png

 ギルに重ねるようにアレクが言う。
 アレク自身も、幼い頃から剣や魔法の訓練をさせられていたために、その事はようく分かっている。
 だからこその忠告だった。

「前から、ちょっと興味はあったんだけど・・・ギルさんでもできるんだから、あたしにもできるかなと思って」
「おいおい、なめてもらっちゃ困るな」

 ギルは苦笑する。

「こうみえても俺は何年も・・・」
「おい、おまえら何を話してるんだ?」

 薄茶色のジャケットを身に纏った親父さんが口を出した。
 それは外出用の上等の上着である事を、”金狼の牙”たちは知っている。これから用事でもあるのだろうか。
 ぽりぽりと頬を掻いてから、エディンが仕方なげに、

「いやね、娘さんが剣と魔法を教えてくれって・・・」

と言いかけると、親父さんの顔色が即座に変わった。

「なんだと!」
「いやあねえ、お父さん。冗談よ冗談。おほほほ・・・」

 白々しい笑い声で娘さんが誤魔化している。

「菊枝、冒険者のまねごとなんて危ない事は許さんからな」
(名前は菊枝!?)
「お父さん!何度言ったらわかるの?あたしの名前はエリザベスよ!実の娘の名前なんだから間違わないでね」

 ぎょっとしたジーニだったが、そう言い張る娘さんに胸をなでおろした。
 ――実際、実は親父さんの本名も娘さんの本名も知らなかった。エリザベスだったのか・・・と妙な感慨に耽る”金狼の牙”たちをよそに、親父さんが必死に謝っている。

「じゃあ、わしは寄り合いに行ってくるからな」

 そういい残して親父さんは店を出る。
 しばしその様子を眺めやっていた娘さんが、ぐるんと体ごとまたこっちに向き直った。

「お父さんもいなくなったことだし、さあ行くわよ、みんな」
「行くって、どこに?」

 呆気にとられたようなギルの言葉に、娘さんは小さく笑った。

「裏山よ。あそこなら剣や魔法を使っても誰にも見つからないし、危ない事もないわ。さき行ってるわよ」

 そう言うと、娘さんはスキップで宿を出て行った。
 エディンが肩をすくめる。

「どうする?」
「ここは、冗談半分でいいから、ピクニック気分で教えてあげたらどうかな」

 ぐびり、と半ば冷めてしまった紅茶を一気に飲み干してから、ジーニが応えた。
 アレクが仕方ない、というようにため息をつく。

「そうだな」
「・・・・・・剣や魔法は人に教えるべきじゃねえと思うんだが」

 いつも楽観的なギルがそういう意見が出て、一同は驚いた。

「剣や魔法は人を傷つける道具だ。知らないほうが幸せさ」
「別に本気で教えなくていいさ。娘さん、ちょっと興味がわいただけだろ」

 アレクの視線が、ちらりとカウンターの隅に設置されている紫の水晶球へ走る。
 あれの呪いを解くためワイワイやってたのに、触発されただろうことは明らかだった。

「簡単なものを教えておけば、すぐ満足するだろう」
「・・・・・・そこまで言うならしょうがないな」

 ギルが折れた後、”金狼の牙”は裏山へと移動した。
 山といっても、森になっているわけではなく、丈の低い草木がところどころに見えるだけである。
 一行は、周りに障害物のない平坦な場所に陣取った。

「たまには仕事を離れて、自然に囲まれながらのんびりするのもいいな」
「ああ、依頼の途中だったら、辺りに注意を払わなくちゃいけねえからな」

 ギルの言にエディンが笑って首肯する。
 何しろ、いつもダンジョンや森の探索でまず周りを調査し、気配をうかがうのは彼の仕事である。

「緑を楽しむ暇なんてねえからなあ・・・」

 しみじみとつぶやいた。
 そんな風に彼らが一息ついていると、

「なにダラダラしてんのよ。さっそく始めるわよ」

という聞き覚えのある声がした。
 声のほうを見やると、娘さんが仁王立ちとなってこちらをねめつけている。
 どうも冒険者達が寛いでいるのを見て、少し怒っているようだ。
 とは言え、娘さんも動きやすい服に着替えることすらしていない。それを鑑みても、剣や魔法を覚えることに対する覚悟のなさが窺える。

「まずは剣からよ。アレクさん」
「では俺の剣さばきをお見せしようか」

 すらり、と≪黙示録の剣≫をアレクが抜き放った。

2013/03/08 23:59 [edit]

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