Thu.

スティープルチェイサー 7  

(二位か。悪くはねえ・・・・・・まあ、優勝はしたかったがな)

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 エディンは反省と興奮の入り混じった、奇妙な高揚に包まれながら歩いていた。

「エディン!」
「だっ!ど、どうしたアウロラ!?」
「お疲れ!やったな、入賞だよ入賞!」

 興奮しきったアウロラが飛びつき、驚いたエディンはよろめきながらもその肢体をちゃんと受け止めた。
 その後ろから、黒瞳を輝かせたギルが走ってくる。

「みんなもお疲れさん!あの道を整備するのは大変だったろうな」

 そっと小柄なアウロラを下ろしギルに笑いかけながら言うと、一所懸命駆けて来たらしいミナスが、額に汗を光らせながらもにっこり笑った。

「結果が出せたんだから、頑張った甲斐があるよ」
「一番負担の大きなポジションをよく走り切ったわ。本当にお疲れ様」

 ぽん、と背中を叩いたのはジーニである。
 大人コンビの相棒に労われて、エディンは大げさに息をついてみせた。

「役目が果たせてほっとしてるよ。さすがに優勝は逃がしたがな」

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「なあに、今日宴会するのに十分な結果だよ!ハセオもお疲れ様!」

 ギルがそう言って、ハセオの首をそっと叩いてやった。嬉しそうにいななく馬を撫でつつ、エディンは首をかしげた。

「・・・あれ、そういえばマートウさんはどこだ?ここに居るはずじゃなかったか」
「あ、そういえば。来てないはずは無いと思うんだが・・・」
「ええと・・・・・・」

 アレクが必死に首を伸ばして辺りを見回す。”金狼の牙”が出会った頃、ギルとほとんど変わらない身長だったのだが、すでに追い抜いてエディンに迫らんとしていた。

「あっ、あれじゃないかギル?むこうで顔覆って泣いてる人」
「あー、ほんとだ。髪下ろしてるから分からなかった。おーい、マートウさーん!」

 ”金狼の牙”たちは「ありがとう」を繰り返しながら泣いているマートウさんを宥めすかした。彼女は泣きながら、ぐしゃぐしゃに笑った。
 それからエディンは表彰台にのぼった。胸元のメダルを光らせて、乞われるままに振ったりする。
 ・・・こういう風にして、今日、”金狼の牙”は依頼をひとつやり遂げた・・・・・・。

「乾杯だ!乾杯!」

 ギルの合図で木製のジョッキが打ち鳴らされる。一行は、マートウさんとハセオを引き連れて≪狼の隠れ家≫へと、なだれ込むように帰還した。
 ・・・もちろん、準優勝の賞金は忘れずに。
 そして夜が更けた。ハセオは、すでに家に帰してある。
 明日は店があるからもう帰る、と別れを口にしたマートウさんを、エディンは夜道が危ないからと送ることにした。

「あー楽しかった。美味しかった」
「夜風が気持ちいいな」
「ほんとね。わー、星も良く見える」

 しばし黒の天幕とそこに散らばる輝きを見上げていたソウは、「りんご食べない?」とエディンに訊いた。

「ああ、じゃもらおうかな」
「はい!どうぞ。自分用だから形はちょっと悪いけど、味は売り物と同じよ」

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「ふーん。魔法のかばんみたいだな。りんごが丸々入ってるなんて」
「おばさんのかばんには、いつでもおやつが入ってるものよ。これ常識」

 二人はりんごを齧りながら、ふらふらと夜道を歩いていた。

「・・・おっ、ミツ入りだ」
「・・・・・・・・・・・・ねえエディン」
「ん?」

 ソウはしばらく逡巡していたが、やがてぽつりと声を出した。

「私の主人ね、事故で亡くなったの」
「ああ、詳しくは知らないけど、突然だったってのは聞いたよ」
「ええ、そう。突然の事故だったわ」

 しゃり、と一口りんごを齧って飲み込んだ彼女の瞳は、乾いていた。

「・・・スティープルチェイスの、練習中にね」

 しゃり、とエディンも一口齧る。

「・・・・・・・・・」
「その日は雨が降りそうだったから、今日はやめた方がいいんじゃない?って私が言ったら、『大丈夫大丈夫』って。手を振って行っちゃった。それが最後」

 生ぬるい夜風が、ソウとエディンの髪を揺らした。

「・・・あの日の雨は、憑かれたみたいな豪雨だったわね。現場は、本当にそこだけ土砂が崩れてて、バカみたいだったわ」
「・・・マートウさん・・・」
「だって、ホントに可笑しいの。何でそこだけ?って感じ」

 しかし彼女の口に笑いは無い。

「・・・多分、主人が雨をやり過ごしていた小さな横穴は、一瞬でのまれてしまったのでしょう」
「・・・・・・そうか」
「だから苦しまなかったわ。きっと」

 ソウの声が、すこしだけ震えた。

「ハセオは、その横穴のすぐ隣の木の影で見つかったの。きっと間一髪で逃れたのね。ひどく興奮していた。かわいそうに、怖かったんでしょう」

 ソウは・・・・・・うな垂れるようにして、ハセオだけ助かった、と呟いた。
 伝えたい事がある、どうか聞いて貰いたい、という彼女の申し出を拒否することは、エディンには不可能だった。

「私ね。金狼の牙に、謝らないといけない」
「私は、心のどこかで、ハセオを手放す口実に、あなた達を使おうとしていたかもしれないから」
「誓ってもいい、明確な自覚はなかったわ。あなた達に依頼したのは、信用が置けると思ったからよ」

 しかし、その時に心を過ぎったのは――。
 冒険者に依頼をして精一杯手を尽くしても駄目だった。
 ゆえに、ハセオを手放すことは仕方ない事態なのだと・・・・・・そんな言い訳を、自分にしようとしてなかったと言えない。
 ソウは小さく笑った。
 今から考えるとジーニには、最初からこんな気持ちを見透かされているような気がしていたと。

「スティープルチェイスが無ければ。主人は、死ななかったかもしれない」

 ごくりと唾を飲み込んだ後、歯を食いしばるようにしてソウは言った。

「ハセオが居なければ。主人は、死ななかったかもしれない」

 エディンはりんごを大きく齧りとると、大きな音を立てて咀嚼した。

「ハセオには何の罪もないわ。私だって、主人のやりたい事を応援していたもの。それを今さら」

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 ぎゅ、と荒れた働き者の手がきつく握り締められる。

「それにハセオは、うちの家族よ。その気持ちに嘘なんて無い。本当よ」
「・・・・・・・・・人間、綺麗な気持ちだけで生きていけるもんじゃねえぜ?」
「ええ、でも・・・でも・・・!」

 凍りついたようなその表情は、とっくに自分のことをすべて見透かしたから出たものだったのかもしれない。

「自分が、実は、ハセオを、スティープルチェイスを責めてるなんて・・・」

 認めたくなかった、と彼女は独白した。

「・・・だけどレースで、あなたとハセオが目の前にやってきた時」
「・・・ああ」
「もやもや抱えていたつまんない事が何もかも、全部吹っ飛んでっちゃった」

 感に堪えないような声。

「あの、ハセオの、伸び伸び駆けてくる姿!眩しくて、嬉しくて、胸が詰まって・・・涙が止まらなかった・・・!」

 曇った心の内でそれでもソウが渇望していたもの。
 それを、エディンとハセオは見事に満たしたのだ。
 おかげでもう一度、夢を見ることが出来たとソウは微笑んだ。

「これから一生懸命生きて行くために・・・あなた達とハセオに、心からお礼を言う為にも」
「・・・ああ」
「私はまず、自分の中の嫌な自分を正直に認めて、向き合わないと駄目だって思ったの」

 だから、ありがとうと彼女は言った。本当にありがとうと。
 少なくとも、ハセオと一緒に走ったエディンには言わずにはいられなかったのであろう――夜空の下の懺悔を知る者は、彼だけである。
 準優勝の銀メダルを片手に、長い脚を持て余すように歩いてエディンは≪狼の隠れ家≫に戻っていった。

「・・・お休みハセオ。いい夢を」

 ハセオが主人と草原を駆ける夢を見ていられるよう、エディンは小さく夜気に呟いた。

※収入1000sp、≪銀メダル≫※
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■後書きまたは言い訳
48回目のお仕事は、バルドラさんのシナリオでスティープルチェイサーです。別名を、「大人組みの本気を見せてやる」でした。(笑)
ちょっとした偶然ですが、新シナリオ作成でバルドラさんの背景素材をお借りした際、エディンみたいなキャラがお好みだと伺っていたのですけども、その前からリプレイは書き上がっていました。こんなこともあるのですね~。(笑)
他サイトさまでも言及しましたが、爽やかで躍動感溢れる良シナリオだと思います。しかも、それだけに留まらずソウ・マートウさんの細やかな心理描写が林檎と共に表現されているラストなど、非常によく気を配って作られているので、プレイしていてとても面白かったです。

実はレースについてガチ攻略掲載のサイトがあるので、参考にしたら優勝狙えなくはなかったのですが、今回はそういうの無しで頑張ってみたいと思い、エディンやハセオと共にやってみました。
結果は準優勝。色々考え抜いた上の入賞でしたので、とても嬉しいです。

それから、冒頭にて深緑都市ロスウェルの冒険について記載しておりますが、これはシナリオにはありませんのでご注意を。クロスオーバーはなさってません。ちょっとオープニングで色々自由にやれる雰囲気でしたので、書かせていただきました。
・・・そういえばこの人たち、前に謎の地下室の時もカードゲームやってましたね。

当リプレイはGroupAsk製作のフリーソフト『Card Wirth』を基にしたリプレイ小説です。
著作権はそれぞれのシナリオの製作者様にあります。
また小説内で用いられたスキル、アイテム、キャスト、召喚獣等は、それぞれの製作者様にあります。使用されている画像の著作権者様へ、問題がありましたら、大変お手数ですがご連絡をお願いいたします。適切に対処いたします。

2013/03/07 18:08 [edit]

category: スティープルチェイサー

tb: --   cm: 8

コメント

わぉ!

騎手はエディンさんでしたか。白熱のレースお疲れさまでした。大人達の本気、さすがです。
ソウさんの位置でゴールの瞬間を見ていたら、きっとぶわあーってなっちゃうだろうなあ…。
道中の整備に精出した金狼の牙の皆もお疲れさまでございました。

一発変換で「勤労の牙」って変換されたのは、きっと今回は間違いではあるまい…。

URL | くもつ #tnWn14Gw | 2013/03/07 19:48 | edit

コメントありがとうございます!

はい、騎手はお父さん・・・じゃないや、エディンでした!勤労の牙か!(大笑)
言い得て妙ですね。はっきり言って、彼は翌日筋肉痛になったんじゃないだろうかと心配です。(笑)

その場でゴールを見守っていたら、きっと号泣ですね。アウロラが「エディン!」って台詞発したのは本当なんです。そこから抱きついた流れを作ってみました。

URL | Leeffes #zVt1N9oU | 2013/03/07 22:41 | edit

先日は遊びに来てくださってありがとうございましたー
スティープルチェイサーのリプレイ、嬉しく拝見しました。
二位おめでとうございます!エディンさんの本気!かっこよかったなー!
他のリプレイでもそうですけど、パーティのこれまでの経験や個性と
シナリオの内容との絶妙な兼ね合いが面白くて、
過去に自分でもプレイしているシナリオでも新鮮な気持ちで読めますね。
随分心を砕かれて書かれているのではないでしょうか。
これからも楽しみに読ませていただきます!

URL | バルドラ #- | 2013/03/12 22:31 | edit

コメントありがとうございます

こちらでははじめまして!エディンにお褒めの言葉ありがとうございます。

6名のキャラクターを書き分けると言うのがリプレイ始めた当初は非常に難しく、店シナリオのプレイでもキャラが勝手に動いてくれるようになるまで、悩んだりもしました。バルドラさんの仰る経験や個性がちゃんと表現できているのなら、非常に嬉しいです。
ストーリーが面白いのはシナリオ作者様のおかげで、私はその合間にキャラの描写や、前に金狼の牙たちが体験したシナリオの出来事を何とか入れさせて頂いてるようなものですが、それでも人様に見てもらって面白いと仰っていただけることに励まされております。
もうそろそろ8レベルが目前となっておりますが、最後までお付き合いいただければ幸いです。

URL | Leeffes #zVt1N9oU | 2013/03/13 06:40 | edit

いいなあ、この一体感。
チームワークの巧みさと軽やかさに「これぞ冒険者パーティよ」と膝を叩いてしまいました。
自分は残念ながら6位でしたが、いずれリベンジ突入予定です。
盗賊はあんまり目立つ大舞台に出たがらないかな、と思いましたがたまには良いですよね、何だかんだでエディンさんもノってたし。

URL | 堀内 #wKzDXcEY | 2013/03/13 19:48 | edit

コメントありがとうございます

主にジーニが金銭欲に走った結果ではありますが、お楽しみいただけたでしょうか。(笑)
このシナリオ、まさにチームワークの再確認ができる良シナリオだと思います。リベンジ頑張ってください、堀内さんのPCにエールを贈らせていただきます!

エディン以上にリューン市街に精通しているキャラクターと言うのが思いつかず・・・というか、参謀キャラと騎手キャラのやり取りを念頭に置くと、金狼の牙の場合はやっぱりエディンしかいないだろうと思ったのでこうなりました。(笑)

URL | Leeffes #zVt1N9oU | 2013/03/13 20:51 | edit

ギミックが凝ってて、楽しそうなシナリオですね。
レベル関係なくこれだけ遊べるシナリオというのは貴重ですね。これもその内やってみたいです。
しかし1位を取るのは相当難しそうですね。
賞金3000はとても魅力的ですが(笑)

URL | 天河 #- | 2013/03/19 09:22 | edit

コメント有り難うございます

はい、すごい楽しいシナリオなのですよ!1レベルでも10レベルでも変わらず楽しめる作品です。
1位は相当にやり込みをやった人でないと難しいと思います。襲歩と速歩と前方騎座だけで進んでみましたが・・・うーむ、どこがイマイチだったのかなあ。(笑)

URL | Leeffes #zVt1N9oU | 2013/03/19 19:13 | edit

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