Thu.

スティープルチェイサー 6  

 正午の聖北教会の鐘の音が、空に高く響き渡る。
 同時に白い旗が草原に翻り、スティープルチェイスはスタートした。
 朝の打ち合わせどおり、エディンは集団の最後尾につく。
 さすが皆、ひとかどの騎手なのだろう、馬を駆る姿も、折り目正しく無駄がない。最後尾からだと、それがよく伺えた。
 ・・・程なく、森へ下る分かれ道に至る。
 エディンはためらわず、ハセオに合図を送った。

「よし。ここからが、本番だ」

 最初の柵を前方騎座で飛び越すと、エディンはひたすら襲歩を繰り返した。
 たまにハセオのへばってくる様子が手綱から伝わると速歩に変えるのだが、それを頻繁にしていては入賞できない事をエディンは肌で感じていた。

(それにしてもさすがだな、そつなく整備されている。走っていてよく分かる)

20130306_120.png

 ハセオを走らせているのはエディンだけなのだが、森林道の至るところから、彼は仲間たちの声なき応援を感じ取ることができた。
 ややへばっているハセオを労わりながら進むと、エディンの鋭敏な耳に水音が聞こえてくる。

(・・・水音が聞こえる。川が近い。もうすぐ森を抜けるな)

「・・・エディー・・・!!」

(・・・今誰か俺の名を・・・・・・?)

「エディーーーーっ!!」
「・・・・・・ジーニ!?」
「この先の川!!跳べーーーーーーーーーーっ!!」

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 喉も裂けよとばかりに、木々の合間から姿を見せたジーニが叫ぶ。

(今なんて言った、川を跳べ・・・・・・か?止まれとは言わなかった。何かあったのか?)

 そのまま手綱を緩めずに駆ける。
 彼の視界に、昨日の雨により増水した川が見えてきた――そこに橋がないことも。
 ちらり、と端っこに緋色と紫が見えた。

「跳べーーーーーーーーーっ!」
「跳べーーーっ!!跳び越せーーーーーーっっ!!」

 アウロラの横で、ミナスも懸命に声を上げる。

(みんな!この川を跳び越せと言うのか)
(・・・・・・よし!行くぞハセオ!!)

 エディンの眼前に、激しい川の流れが迫る。
 思い切り弦を引いた矢が遠くまで飛ぶように――勢いよく踏み込んで跳んだハセオとエディンの姿が――。

「・・・・・・・・・!!」

 川の向こうへと、着地した。
 ジーニが震える語尾で呟く。

「やった・・・・・・・・・・・・跳んだ」
「行けーーーーーー!!」

 ミナスはすっかり興奮して、≪エア・ウォーカー≫のついた腕を元気よく振り回している。
 いつも冷静なアウロラも、この時ばかりは「突っ走れーーーーーっっ!」とエールを送った。

「よし、こっちもすぐに後を追いかけましょう!」

 ジーニの指示に頷いた一行は、急いで川を渡り始めた。
 ・・・川を跳び越したエディンの視界が程なく大きく開けた。森を抜けたのである。
 順位は?早いのか?遅いのか?――エディンには分からない、分かるはずもない。ただ、必死に駆けた。
 さっき丘から見下ろしていた街は、今や目の前に迫り、ほんの一瞬、求める尖塔は無数の建築の波間に、その姿を潜めた。
 にやり、とエディンの口角が上がる。
 迷う必要はない。ぐんぐん膨れ上がるその全容に、ハセオとエディンは躊躇うことなく挑んで行った。
 見慣れたリューンの街中へ入り、エディンは眠たげな目を一層細めた。遠くに他の騎手が見える。

(教会に続く石畳の道が、まっすぐに伸びている)
(ああ・・・ハセオ、苦しそうだ。息がとても荒い・・・)

 エディンは尖塔に続く近道を脳裏に描きながら、ハセオに発破をかけた。

「そらハセオ、走れ!ここで頑張らなくて、いつ頑張る。競技馬の矜持を見せてみろ!」
「・・・・・・・・・!」
「・・・ゴールまで、突っ走れよ!」

 そして彼は手綱を弛め――。

「ハイッ!いけっ!」

 ハセオの腹を、叱咤と愛情を込めて思い切り蹴りつけた。
 たちまち、他の選手を追い抜いていく。

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「ハイッ!」

 ハセオはラストまで突っ走れというエディンの思いに、存分に応えた。

「ゴーーーーーーール!!」

20130306_124.png

 順位は――――。

(途中で抜き去った奴がいた。ビリとか情けねえ順位じゃねぇのだけは分かるんだが――)

 エディンが馬上から辺りを見回すと、にっこり笑ったレース主催元の人間が走り寄って来た。
 彼の手には、レース結果が書かれた板がある。

2013/03/07 18:07 [edit]

category: スティープルチェイサー

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