Thu.

スティープルチェイサー 5  

 そして・・・レース当日。
 晴れ渡った青空の下、”金狼の牙”たちは円陣を組んで向かい合っていた。

「・・・さて、スタートは2時間後ね。ざっとだけど、作戦を組み立てたわ」

 簡単に描かれた周辺地図を広げる。
 仲間たちがどれどれと覗き込むと、そこにはスタート地点や鬱蒼と広がっているであろう森、川や主要な橋が描かれていた。
 地図の一番北には、リューンの文字がある。

「聖北教会の正午の鐘が、レース開始の合図よ。他の選手は、小細工など必要の無い手練ばかり」

 ここでジーニは小型の羽ペンを手に取ると、破線でその選手たちが取るであろうコースを書き記す。

20130306_113.png

「おそらく、森沿いのなだらかな丘をぐるっと回って、橋を渡ってリューンに入るでしょう」
「・・・ああ、その辺が一番障害と思われるものが少ないのは、俺が行って確認した」

 アレクが横で頷き、アウロラは腕組みした。

「うーん。安全で確実で、しかも気持ちよく走れそうですね」
「そうでしょうね。天気もいいし、保障するわよ」

 からかうような目で彼女を見やった後、ジーニは急に真剣な顔つきに変わった。

「だけど、単純に実力がものを言うコースになるから、このルートでの勝ち目はまず無いわ」
「うーん」
「という訳で、あたしたちが取るコースは、こっちの森よ。森」

 唸るギルを放置して、ジーニはもう一つの破線を描いた――スタートからリューンまでの最短距離を、森を突っ切って進む道。

「この森を突っ切る直線上に、木こり用の森林道が通っていたはず」
「あ、うん!ファハンについてきてもらって、途中までは僕が見たよ!」
「進入禁止の柵さえ跳び越せば、馬でも通り抜けられそうな幅の道が通っていたと思う」

 誉めてと主張するミナスの頭を撫でながら、ギルが口を挟んだ。

「多分、木材なんかの運搬に使ってるんだろうな」
「ただ、頻繁に使われていなさそうなのは好都合なんだけど、所々に雑草が茂っていた・・・のよね、ミナス?」
「うん」
「まあ、人が通らないと、道なんてすぐに荒れるからな」

 だから、とジーニは続けた。
 騎手以外の面子は、今からこの森ルートの点検と整備を開始する、と。
 さすがに呆気に取られた顔をして、アレクが「本気か・・・」と呟く。
 ちっちっち、と立てた指を横に振ってジーニは言う。

「なに、多少荒れていた所で道は道。一から作れという訳でなし、十分に勝算はあるわよ」

 ジーニはスタート直後からの動きをみんなに説明した。
 まず、騎手はスタート後、すぐに最後尾に付ける。
 これは、他の選手にコースを逸れる所を大っぴらにアピールして、ついて来るようなことを避ける為の措置である。
 こちらを素人と侮っていてくれるはずだが、わざわざ勝機を減らすような真似は不要だろう。
 上手に森を突っ切る事が出来れば、まともに丘を行くよりもかなり時間を稼げる。
 そのまま森を通り抜けたら南門からリューンに突入。あとは大通りを駆け抜けて、聖北大聖堂前がゴール地点となる。

「レースとしては、ここが一番の見せ場なんだよね?ソウさんも、ゴール付近で待ってるって言ってたもの」
「ああ」
「もし、ゴール付近で他の選手と競ったら?」

20130306_114.png

 無邪気なミナスの質問に、ジーニはにっこり笑って答えた。

「その時はまあ・・・・・・頑張ってーとでも言うしかないわね」
(実際、そこまで持ち込めたらね)

 ぽつりと心中で洩らした。

「ま、その為の人選だろ。エディン以上にリューンの街中を知ってる奴はいない・・・」
「競う事になれば、彼の知る近道が功を奏してくれると願いましょうか」

 ギルとアウロラの言に首肯すると、エディンは傍らでしきりに顔を振っているハセオに目をやる。

「・・・ハセオ、やれるか?」
「・・・・・・」


20130306_115.png

 ブルルル、といういななきで応えたハセオは、すりすりとエディンの広い背中に顔を擦りつけた。

「・・・よし。頑張ろうな」
「じゃエディン、健闘を祈ってるぞ」
「ああ、そっちもな」

 エディン以外の”金狼の牙”たちは、さっそく作業に入るため移動を開始した。
 スタートまでの2時間、エディンはハセオと軽く駆ける時間に費やす。
 草原のしっとり濃い空気を鼻から脳天へ届けとばかりに、思い切り吸い上げてやった。

「――俺は俺のなすべき事をやるだけだ。なあ、ハセオ」
「ブルルルル・・・・・・」

 その頃・・・・・・・・・・・・。

「ここだな」

20130306_117.png

 リューン南部の森林道。
 柵が視界を横切る前まで、仲間たちは来ていた。
 調べてみたジーニがため息をつく。埋まりこんでいるだけに、これを取り外すのは難しそうだ。

「壊しますか?」

 にっこり微笑んだアウロラが指先に【光のつぶて】を集めているのを見て、慌ててジーニは言った。

「そういう破壊行動は、ばれたら後々厄介ごとの種になるわよ!・・・ったく、思い切り良すぎるのよ、アンタは」
「では・・・・・・?」
「これぐらいの柵、飛び越して貰いましょう」
「手厳しいねえ」

と言ってギルが笑う。

「これぐらい飛べない様じゃ、馬が逆立ちしたって入賞なんて出来ないでしょうよ」

 そう言って、ジーニは背負っていた荷物袋からいくつかの道具を取り出した。手斧、草刈り鎌、ロープである。

「宿から使えそうな道具を借りて来てるから、これを使って整備して行くわよ」

 レースが始まるまで、そう間もない。出来る事を効率よく見極めて行かねば、エディンとハセオがこちらへやって来るのに間に合わなくなるわけだ。
 一行は急いで歩き始めた。
 途中の雑草を刈り、ぬかるみは途中にあった小屋から持ち出したおがくずで埋める。
 
「今さらですが、勝手に失敬していいものでしょうか」
「・・・まぁ・・・用途を考えると、お礼を言われてもいいくらいだと思うんだけど・・・」

 万が一見つかって怒り出したら、頑張ってごまかすからとジーニが保障し、一行はひたすら道の整備に努めた。
 しかし・・・・・・。
 道を塞ぐように転がってしまっている丸太といい、先程のぬかるみといい、意外と昨日の雨の影響が出ていることに懸念を示す。
 この先どうなっているのか・・・と考え込んだジーニに、目の前の事を片付けるのが先、とアウロラは諭して笑った。

「・・・そうね」

 そしてまた歩き出す。
 森林道の半分に差し掛かったところで、細木が道を邪魔している。
 幼馴染が手斧で始末するのを見守りつつ、アレクがぽつりとジーニに訊ねた。

「レース開始まで、あとどれくらいかな」
「そうねえ。開始まで、まだ間はあるわ。探索ペースも悪くない」

 このペースでいくなら、まずエディンとハセオが通っても大丈夫であろうとジーニは予測していた。

「うーん。斧ってすごい」

 ギルが手斧でざっざと細木を倒し、その倒れた木をジーニとアレク、アウロラとミナスがコンビになって道の脇へと引きずり、邪魔にならないよう隠す。
 その後、似たような立ちふさがる細木を発見し、ギルがため息をつく。

20130306_118.png

「・・・はぁー。それにしても、もうちょっと・・・こう」
「何よ」
「薬草だの果物だの、おいしい特典があってもばちは当たらないと思うんだが」

 ほんっとに何も無いと嘆くギルの尻を、ジーニは容赦なく蹴飛ばした。

「いてえ!何すんだよ」
「リューンに程近い、それなりに整備された森林道でそんなもんあったら、みんな採っていくに決まってるでしょ」
「何も蹴ることないだろうがよ・・・」

 ぶつぶつ文句を言いつつ、何とか道の整備を進めて彼らがたどり着いたのは――。

「・・・・・・・・・」

 増水した川だった。
 大きく口を開けてそれを見ていたミナスが叫ぶ。

「掛かってた橋がない!どういうこと・・・?」
「見立てが甘かった。簡易の木橋だったから、昨夜の雨で流されたんだわ」

 ジーニは苛立たしげに地面を蹴飛ばした。

20130306_119.png

「落ち着いて。時間がありません。・・・どうします?」
「・・・ごめん。街道から見える流れはさほどの増水に見えなかったから・・・油断したわ・・・」

 このメンバーだけならロープがあれば何とでもなるだろうが、エディンは馬に乗ってやって来るのだ。
 もう橋の代わりの資材を見つける時間も、木を切り倒す時間も・・・そして、どこに流れたか分からない橋を探す時間も残されていないのは自明の理である。

「馬で跳べないか?」

 単純なようでいて唯一ではないかと思える策を出したのは、ギルだった。

「・・・・・・。あるいは・・・だけどギリギリ・・・いや・・・」

 慎重に川の幅を測っていたジーニの耳に、無情にも聖北教会の鐘が聞こえた――正午である。

2013/03/07 18:04 [edit]

category: スティープルチェイサー

tb: --   cm: 0

コメント

コメントの投稿

Secret

プロフィール

最新記事

最新コメント

月別アーカイブ

カテゴリ

カレンダー

検索フォーム

RSSリンクの表示

リンク

ブロとも申請フォーム

QRコード

辺境に足を運んだ方の人数

▲Page top