Tue.

丘の上の洋館後編 5  

 何が悪かったのか、どこであの子を助けてやる事ができたのか――ギルは魔物の攻撃を受けつつ、そればかりが頭をめぐっていた。
 ≪護光の戦斧≫を構え、かろうじて直撃を防いだものの、太い腕から力任せに繰り出される拳の連打は、確実にギルの体力を奪っていった。
 唇の左端から血がひと筋、流れる。内臓に響いたらしい。
 ぺろりとそれを舐めとって、ギルは呻いた。

「くそっ!こんな時に皆がいれば・・・・・・!」
「ギルバート!」

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「今の声は・・・・・・!」

 彼の脂汗によって滲んだ視界に、大事な仲間たちの姿が映る。
 彼女にしては珍しく血相を変えた様子で、アウロラが怒鳴る。

「なかなか帰ってこないから何してるのかと思ったら・・・・・・これはどういうことですか!?」
「説明はあとだ!とにかく、死にたくなかったら一緒に戦ってくれ!」
「よくわかんないけど・・・・・・了解!」

 ミナスが答えて、魔物の攻撃を回避する為に【蛙の迷彩】を唱え始める。
 ギルの傷の程度を正確に察したか、アウロラも【癒身の結界】を準備した。
 回避力を強化された前衛たちが、入れ替わり立ち代わり攻撃を繰り出す中、ジーニはローブのポケットからとある品を出して指に嵌める。

「いきなり実戦投入もどうかと思うけど・・・背に腹は変えられないのよ!!」

 ≪エメラダ≫――敵に見せ付けて魅了し、その動きを止めると言う不思議な鉱石の指輪。
 その威力は確かに値段に見合うものだったらしい。

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「ほら、今のうちよ!」
「ありがとよ、ジーニ!」
「しっかりでっせ、ギルはん!」

 アレクの懐から飛び出した雪精トールも、アウロラに続けてギルの傷を冷気で塞いでいった。
 魔物が動きを封じられている間に、ミナスも額に汗を滲ませつつ、ナパイアスとファハンを召喚する。

「渓流のじゃじゃ馬よ!地の野人よ!お願い、皆を助けて!」
『やってやろうじゃないか、相手に不足はないよ!』
『主の命なれば、承知』

 エディンがレイピアの刀身に冷気を込めて、思い切り振りぬく。
 たちまち、辺りに氷の欠片が漂い、ガラスのように魔物の分厚い皮膚を切り裂いていった。

「オイオイ。しぶとすぎるんじゃねえ?」
「だがエディン、冷気の技はよく効くようだぞ」

 アレクは、さっき【炎の鞘】で切りつけた時の感触を思い出して言った。
 この魔物は恐らく炎に属するもので、だからこそ火には強く冷気に弱いのではないか・・・?

「よし、ミナス!雪娘を呼べ!」
「分かった!」

 ギルの合図にミナスがスネグーロチカの召喚を行なう。

「出でよ、スネグーロチカ!あの赤い魔物にお前の抱擁を!」
「ウォォオオ――!!」

 冷たい雪の娘たちの腕に、魔物が身もだえ・・・・・・立ち竦んだところを、アレクの≪黙示録の剣≫がばっさりと切り捨てた。

「・・・・・・はぁ・・・・・・やったのか?」
「静かに!」

 片膝をついて呼吸を整えているアレクを、エディンが鋭く制止した。
 ふとあどけない表情になってエディンを見やったアレクだったが、あることに気づいて慌てて体勢を立て直した。

「・・・・・・心臓が動いてる?」
「上位の魔物は心臓を複数持ってるんだ!もう一度くるぞ!」

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 そして再び魔物が立ち上がり――!

「な、なんだ!?」

 あまりの禍々しい雰囲気にエディンが動揺の声を上げる。
 冒険者達の目の前に、妖気を帯びた大量の火の玉が現れた。

「ちくしょう、仲間を呼んでやがる」

 舌打ちしたアレクに、「亡霊にゃ普通の攻撃は効かねえからな」と忠告して飛んだ。
 素早く動いたエディンのレイピアは、【磔刑の剣】をもって魔物の足を地面に縫い止める。
 それを上手く補助するように、アウロラの【祝福】が仲間にかかった。

「主よ、我が仲間に十全の力を与えたまえ!」
「あううっ・・・!」

 悲鳴を見やると、ミナスが冷気を扱うことを警戒したのか、彼に亡霊がとりついて動けないようにしている。
 咄嗟に【解放の賛歌】を歌おうとしたアウロラを、エディンが制する。今、魔物は再びジーニの≪エメラダ≫に魅入られて束縛されている――アウロラが歌えば、敵の束縛も解除してしまう。
 エディンは音もなくミナスに近寄り、【盗賊の手】を応用した束縛からの解放にかかった。

「お前さんは亡霊を。俺が助ける!」
「・・・・・・分かりました!」

 エディンがまとわりつく亡霊をレイピアで追い払いながら、ミナスの束縛を断つ。
 そのエディンすらも攻撃しようとする亡霊は、ジーニが【風刃の纏い】で召喚したかまいたちの壁が追い払った。

「吹き飛べええええ!」

 突撃したギルが、神聖な力を宿す刃を振り回す。通常ならば当てづらいはずの【破邪の暴風】であったが、亡霊たちはジーニの風によって弱らされていた。
 束縛をやっと解く事の出来た魔物だったが、続けざまにナパイアスの激流、アウロラの【光のつぶて】、エディンとギルの攻撃でフラフラになる。
 重い腕をそれでも持ち上げ、目の前のアレクに叩きつけようとするが――軽いステップでそれを避けたアレクが、すれ違いざまに脇へ止めの一撃を放った。 

「はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・」

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 アレクが振り返ると、魔物の体は灰になって空に舞い上がった。
 終わったみたいだな、と息をつく幼馴染にギルは応える事もなく、ずっと薔薇に埋もれて横たわっていた小さな体へと走り寄った。

「・・・・・・エアリ!」

 そっとその体を起こす。

「エアリ・・・・・・!俺の声が聞こえるか!?」
「・・・・・・」

 苦しそうに笑顔を作りながら、エアリは微かに頷いた。
 大量の血を失って、月のように白い顔は一層白くなっていた。

「エアリ、死ぬな!死んじゃだめだ!」
「ギル・・・・・・」

 戸惑いと痛ましさを込めて、アウロラが名を呼ぶ。

「誰か魔法を!頼む、誰かエアリを助けてくれ!」
「・・・・・・ギル、残念だけどこの傷じゃあ、もう・・・・・・」

 手のひらに集めたウンディーネが傷を癒す様子もないのに気づいてしまったミナスが、くしゃりと泣きそうな顔をして首を振った。

「・・・・・・そんな・・・・・・」
(・・・・・・ギルバート)

 エアリは血に濡れた小さな手を伸ばして、必死に彼を探している。弱々しい動きで宙をさ迷うそれを、ギルはしっかりと握り締めた。

(ギルバート、もう、いいの・・・・・・。ありがとう・・・・・・)
「だめだ・・・逝くな!」
(もう、行かなきゃ・・・・・・)
「だってお前はまだこんなに小さいじゃないか!お前はこれから普通の人間として生きて幸せになるんだ!」

 ぎゅっとその小さな体を抱きしめると、ギルの服にエアリの血が染みていった。
 かつてエセルという少女に道を示したように、エアリにも普通の幸せを与えたかった。一度成したことだから、出来ないとは思っていなかった。
 しかし、エアリはギルの手の届かないところへ行こうとしている。

「死なせない・・・・・・!死なせてたまるか!!」
(・・・・・・ギルバート、優しいね)

 ふと、エアリの目に映るはずのない夜空が浮かんだ――ギルの髪の色のように真っ黒な夜空に、ぽっかりと輝く月。

(私、きっと死んだら月に行くんだわ。月でなら、私・・・・・・幸せになれるかな)

 両親はそこで自分を愛してくれるかしら、と。
 ギルバートのような人に会えるかしら、と。

(月から、あなたのこと見守ってるから・・・・・・)

 エアリの体がうっすら光り始めた。

「エアリ・・・・・・エアリ!!」
(さようならギルバート。あなたに会えて幸せだったわ)

 エアリの体が光に包まれて消えていく――――。

2013/03/05 01:04 [edit]

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