Tue.

丘の上の洋館後編 1  

「あー、頭痛い・・・・・・」

と、頭に手をやりながら降りてきたのはアレク。

「ふぁぁ・・・・・・よく寝ました」

と、どうにも欠伸の止まらない口に手をやったのはアウロラ。
 フラフラのしまらない顔つきをした”金狼の牙”たちは、過ぎたアルコールを後悔する様子で階下にやってきた。

「お ま え ら!いま何時だと思ってる!」

 情けない”金狼の牙”たちの姿に、親父さんが喝を入れる。
 その気迫の声によって、頭痛の増したアレクが青ざめて頭を揺らしているのに、近寄った親父さんが素早くチョップを入れた。

「いてえ!!」
「シャキっとせい!シャキっと!もう午後四時だぞ!」
「うー、いってえ・・・・・・なあ、そういえばアイツがいなくないか?」

 チョップによって多少なりとも周りの様子を確認できるようになったアレクが、きょろきょろと店の中を見回す。
 その横で、未だに眠気の飛ばない顔をしたエディンが、間抜けな声をあげた。

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「ん?誰?」

 ガチャリ、と。
 ドアノブの回る音がして、アレクの探し人が店に戻ってきた。

「ただいまー」
「おかえりなさい」
「ギル。もう起きていたのですね」
「あのなー・・・・・・」

 アウロラが感心したように本気で言うのに、ギルはジト目で睨み付けたが、すぐに「これ、午前の内に買い物行った土産」と言いながら、ジーニに≪エメラダ≫の指輪を、アウロラに≪キルギルの葉≫を、そしてウェイトレスのエセルに≪天使の香水≫を手渡した。
 次々と出てくる品物に、エディンが目をむく。

「おっ、おい!勝手に散財してきたのか!?」
「エディンにも土産あるぜ。ほら、お酒。後で一緒に飲もうな~」

 とろりとした液体の入った琥珀色の瓶を、オーガの首を取ったかのような顔でギルが示す。
 その合間にも、お土産を貰った女性陣たちは、各々の品物をじっくりと眺め喜びの声を上げていた。

「うわあ、ギルありがとう。・・・いい匂いねえ。可愛い瓶だわ」
「これ中々いい指輪じゃないの。魔法の品物ではないようだけど、すごく役に立ちそうね」
「こっちの調味料も良いものですよ。爽やかな香りがします」

 皿洗いを再開していた親父さんが、たちまち姦しくなった店内を見て口を開く。

「どうだ、ギル。親は見つかったのか?」
「それが、見つからなくて。役所にも顔出したけど、捜索願いは出てなかったよ」

 その答えに、娘さんが頬に手をやってため息をつく。

「困ったわねえ」
「何、なんの話なんですか?」

 まったく話の見えないアウロラが、きょとんとした顔つきになった。

「ああ、実はさ。・・・ほら、エアリ。入っていいよ」
「・・・・・・」

 ギルの合図で、入り口で待っていたエアリが少し緊張した顔で宿の中に入ってきた。
 そのまま、ギルへと走り寄ってくる。

「この子はエアリっていうんだ。外で迷子になってたんだよ」
「可愛いなあ。お前、まさか誘拐したんじゃないだろうな」

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 幼馴染までがからかうように言ってくるのを、ギルは軽く頭を叩いて否定した。

「違うっつーの、ばか!現に、今まで俺は親を探してたんだって」

 親父さんが眉間に皺を寄せて心配そうに零す。

「しかし、この時間まで親が現れないとなると難しいなあ。日が暮れれば、暗くなってもっと見つけづらくなる」

 その意見に、ギルの仲間たちは困ったような彼の顔へ目を向けた。
 役所に預けてきた方が――という親父さんの意見を、ギルは腕組みして吟味する。

「うーん。そうするか・・・・・・」
「帰り道覚えてるかもしれないぞ。君、お家はどこ?」

 白皙の美貌を少女に近づけてアレクが聞き出そうとしたが、パタパタとギルが手を顔の前で振った。

「無理だよ。その子、口が利けないんだ」

 違う町から来たらしい子どもが、その日のうちに帰り道を覚えられるはずはない・・・・・・と、ギルは真剣に悩み始めた。
 しばしその顔を見上げていたエアリが、ふっと顔を上げた。
 いち早くそれに気づいたエディンが「どうした」と声をかけようとするも、少女はその暇すら与えずに、いきなり宿から飛び出す。

「あ、・・・・・・!」
「どうしたんだ?」

 呆気に取られた幼馴染と、ぎょっとした表情の親父さんを等分に見比べながら、

「わからない。追いかけてみるよ」

と言って、ギルは慌てて駆け出した。
 ギルを含む”金狼の牙”たちは、もう暮れてきた街の中をエアリの名前を呼びながら懸命に捜索した。
 その内、今度は夕飯の買い物をしていたらしいシアン――結婚したばかりの若奥様――が、

「あ、ギルバート!さっき、金髪の女の子がここを通ったわよ」

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と教えてくれた。
 「あっちの方に行っちゃって」と彼女が指し示したのは、郊外につながる道だった。

「ありがとう。追いかけてみるよ」

 ギルは礼を言うのももどかしい様子で、その道に走っていく。
 そのすぐ後を、”金狼の牙”たちも追っていった。
 木々の立ち並ぶ黄昏の中を、

「おーい、出ておいでー」

とミナスが口に手を当てて呼ぶ。ギルも「おーい!エアリー!」と少女の名前を大きく呼ばわっていた。
 ぐるりと首をめぐらすも、何の反応もないことを訝しんだエディンが、

「なあ、きっと家に帰ったんじゃないか?」

と発言する。
 勢いよくギルが首を横に振った。

「あんな小さい子がこの道を一人で歩いて帰れるはずないだろ?途中でモンスターに襲われるかもしれない・・・・・・」
「でも出てこないんじゃどうしようもないわ」

 お手上げね、とでも言うようにジーニが両手を水平にやってギルに意見した。
 その時・・・・・・葉の微かにこすれ合う音が、ギルの耳にまず入った。

「ん?」
「エアリ!」

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 ひょっこりと藪の中から顔を出した少女をミナスが初めに見つけたのは、背丈が近いからであっただろう。
 スカートを小枝に引っ掛けてしまった彼女を助けて、手を引っ張る。
 エアリは今にも泣き出しそうな顔をしていた。
 ギルはしゃがみ込み、彼女の小さな頭を撫でた。

「勝手に何処かに行っちゃだめじゃないか」
「・・・・・・」
「でも、無事でよかった」

 ギルはエアリを抱きしめ、安心させるように背中を叩いてやる。
 その様に、アウロラはくすりと笑った。

「ギル、すっかり父親ですね」
「ん?そうかな」
「・・・・・・」

 心なしか、エアリの顔もリラックスしたように微笑んでいる。
 幼馴染と少女の様子を見守っていたアレクは、「さて」と口を開いた。

「これからどうする?この子、帰り道を思い出したんじゃないか?」
「エアリ。家までの道、思い出したのか?」
「(こくり)」

 ギルの質問に黙って首肯する少女に、家まで連れて行こうとアレクは提案した。

「うん、そうだね。エアリ、道案内お願いするね」
「(こくこく)」

 やはり、子どもは子ども同士ということであろうか――ギルの懐きぶりには敵わないものの、ミナスの言葉にエアリは大人しく頷いている。
 エアリは道の先を指差した。森の奥の一点を見つめている。どうやらその先に家があるようだ。
 ギルがエアリと手を繋ぎ、一行はそちらへと歩を進めることにした。

「この子の親に会ったらまず初めに怒鳴ってやろうぜ。それでも親か!ってさ」

 まんざら、冗談でもないような口調でギルが言う。
 小首をかしげたミナスが悩んだように応えた。

「そもそも親は家にいるのかな?まだリューンでこの子を探してるかもよ」
「いや、かなり探したからリューンにはいないはずだ」
「祭のことで頭がいっぱいで、子どもを置いて帰ってしまった・・・という可能性もありますよ」

 いやに冷静な口調でアウロラが指摘する。
 そんな深刻な話も聞こえないようで、エアリは道端に花を見つけて喜んでいる。

「小さい野ばらね」

 ジーニが少女の手の中の紅を見つけて言った。
 それを摘んで頭にさす様は、まるで人形のように愛らしい。どうも薔薇がお気に入りのようで、さした薔薇から漂う匂いに目を細めている。
 道のりはかなり険しかった――森の中の大分奥まったところまで来ているようだが、小さな歩幅でがんばってついて来ようとしているエアリに臆した様子はない。
 元々、森にある隠れ里に住んでいたミナスが、拍子抜けの顔をしている。

「意外だな。モンスターが一匹も出ないなんて」
「確かに。いつもだったらウルフの一匹でも出てくるのにな」

 ギルがそう言って笑い飛ばした瞬間、きゅっとミナスの眉根が寄った。
 荒々しい生命力の気配を、精霊使いである彼は早速感じ取ったらしい。

「いや、やっぱり期待は裏切らないみたいだ」
「やっぱり出てきましたか・・・」

 狼の群れが、暗い茂みの奥から次々と姿を現す。
 一行は群れに向き直った。
 ギルはと言えば、エアリを牙や爪の犠牲にさせまいと少女を抱え込む。
 その時、群れが出てきたのと別の方角の茂みから一匹、【魔法の矢】のように勢いよく飛び出して、彼の肩に牙を突きたてた。

「いてぇ!!」
「!!」

 狼の頭を殴りつけて剥がしたものの、肩から流れる流血にエアリが目を瞠る。
 剣を抜いていたアレクは、血の臭いに顔をしかめて呼びかけた。

「ギル大丈夫か!?」
「ああ、これくらいの傷なら・・・・・・」

 大丈夫だ、とギルが続きを言おうとしたのとほぼ同時、閃光が辺りを包み込む。

「な、何だ!?」

 咄嗟に”金狼の牙”全員が目を瞑り、再び開いた時には・・・狼の群れが眼前からかき消されてしまった。
 ジーニが眉をひそめる。

「ど、どうなってるの?今なにが起きたのよ?」
「・・・・・・ねえ、みんな。僕、この子が魔法を使ったように見えたんだけど・・・」

 最年少のメンバーの申し立てに、最年長者が不審げに言った。

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「魔法を?でも、ウルフ五匹を一瞬でかき消したんだぜ?」
「でも、エアリの手が光ったんだ。間違いないよ」
「――――」

 二人のちょっとした言い争いをよそに、エアリは言葉を紡がない唇を震わせて、小さく柔らかい手を未だに自分を抱え込んだギルの肩口へと伸ばした。

「おい、何してるんだ?」
「ギルの傷が治っていく・・・・・・」

 ミナスが呆然としたように言う。確かに、ギルの肩の傷は跡形もなく癒えていた。
 うそ、と小さなエルフが洩らした。
 僧侶の法術であれ、精霊術師の扱う魔法であれ、まず口を開かなければ呪文は紡げない――つまり、癒す事は出来ない。なのに今のエアリは全く呪文を使わなかった。
 しかし、癒しを与えた当人は不思議そうに”金狼の牙”たちを見つめて首をかしげるばかりである。

「そんなとんでもない力を持ってるようには見えないが・・・・・・」

 盆の窪に手をやったアレクがぼそりと言った。

2013/03/05 00:51 [edit]

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