Mon.

丘の上の洋館前編 2  

 奇妙な少女だった。
 人品卑しからぬという形容を使うほど彼女は年を取っていないはずなのだが、妙にそれがマッチしている。
 長身とは言えずとも、それなりに鍛えた体を持つギル相手にまったく臆する様子はない。
 じっとこちらを見つめてくるのに閉口したギルは、しゃがんで少女と視線を合わせることにした。

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「えーと。お買い物かな?」
「・・・・・・」

 少女からの応えはない。
 子どもは苦手ではなく、むしろ「かまってー!」と寄ってくる子と一緒に遊んでやるのが上手だったりするギルなのだが、反応がまったくない相手というのは困ってしまう。
 今までにいないタイプだった。

「・・・・・・んーと。弱ったな」
「・・・・・・」
「もうちょっとしたら、店のおばちゃん戻ってくるからな」
「・・・・・・っ!」

 突然、少女は瞳を輝かせて何かを指差した。

「ん?なに?」

 彼女が指差した先には、小さな人形が棚の上で壁に寄りかかって座っていた。
 金色の巻き毛に、上等なベルベットの赤い服を着ている。

「!」

 少女は飛び跳ねた――どうやら、人形が欲しいらしい。
 子供狩りの被害にあった少女といい、やっぱり女の子はこういうお人形さんが好きなのだな・・・と思いつつ、ギルは小首を傾げた。

(しゃべれないのか?親は一緒じゃないのかな)

 そうしていると、キリルが奥の倉庫から「ああ、重かった」と言いながら戻ってくる。
 カウンターに縄で結ったカゴが置かれた。中に瓶が五本入っている。

「ありがとう、キリル」
「しめて、5000spになります」
「くう・・・・・・この5000sp、財布に入れられたらどんなに幸せか・・・・・・」
「馬鹿なこと言ってないで。・・・・・・そんなに前の依頼、実入りがなかったの?」
「・・・・・・魔族と戦って600spぽっち」

 あらあら、と気の毒そうに言ってくれたキリルに渋々代金を支払うと、ギルは横目で少女をうかがった。
 彼女はまだ人形を見つめている。
 ギルは彼女を驚かさないよう、できるだけそっと呼びかけてみた。

「・・・・・・あれ、欲しいの?」
「・・・・・・は?」
「いや、キリルじゃないよ。この子」

 訝しげな声のキリルにそう答えたギルは、傍らの少女を示した。

「・・・・・・あら、小さい子。カウンターに隠れてちっとも見えなかったわ。・・・・・・ついにできちゃったのね。」

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 衝撃の言葉をキリルは発する。

「母親はジーニとアウロラどっち?それとも、新しいウェイトレスの子?」
「ちがうっつーの!お前の客だよ!」
「あら、残念。まあ、あんたに似てなくて可愛いからね」

 ギルは「何が残念だ・・・・・・」と脱力してぼやきながらも、人形が売り物かどうかをキリルへ確認した。
 キリルは首を横に振った。
 昔の縁日の射的で当てて、可愛いから飾っているだけだという。

「こんど、何か奢ってやるから、その人形くれないかな。この子が欲しがってるみたいなんだ」
「いいわよ。はい」

 キリルは背伸びして人形を掴むと、それをギルに手渡す。
 「さんきゅ」と短く礼を言ったギルは、少女へ人形をそのまま差し出した。

「・・・・・・!」

 少女は驚いて目を見開く。
 仲間のミナスより幼いその反応を微笑ましく思い、ギルはふっと笑った。

「今日は、お祭りだからな。大サービスだ」
「すごく嬉しそうね、この子。でも、声出さないのね」
「ああ。しゃべれないみたいだ。じゃあ、俺は宿に戻るわ。ありがとうな、キリル」
「ええ、また来てね」

 手を振って≪プラの樹≫からギルが出て行くと、キリルは優しげな笑みを浮かべて少女に話しかけてみた。

「さて、あなたは何のお使いかしら。でもこの辺じゃ見ない顔ね。引っ越ししてきたの?」
「・・・・・・・・・―――」

 少女はすこし口を動かそうとしていたが、すぐにそれをやめてスカートを翻し、店から出て行った。
 しばし呆気に取られていたキリルだったが、ぼそりと独り言をつぶやく。

「・・・・・・行っちゃった。せっかちな子ね。何の用だったのかしら」

 ギルは瓶を割らないよう、細心の注意を払って荷物を持ち直した。

「しかし、この酒は五本で5000spってことは一本で1000spなんだろ?」

 昨日の”金狼の牙”の打ち上げで飲んだ酒を思い出す。
 一本せいぜい100spの葡萄酒になったのは、収入が少なかったというちょっとしょっぱい事情もあるが、元々安物の方が酔えるというのが彼の持論だからであった。

「高級品ってのはどうも体に合わないんだよなあ」

 そうぽつりともらした時、彼の後ろからタッタッタ・・・という軽い足音が聞こえてくる。
 おや、と思う間もなく、見覚えのある姿が彼に飛びついた。

「!」
「ぬおっ!?」

 いつものギルなら、がっしりとそれを受け止めることも出来ただろう――しかし、タイミングがちょっとばかり悪すぎた。
 小さな回想に耽っていた報いなのか、小さな体の衝突に耐え切れず、彼は尻餅をつく。

「い、いってぇ・・・・・・バカヤロ!ちくしょう、酒が割れたらどうしてくれるんだよ!」

 小さな手が、気遣わしげに彼の額へと伸びた。

「あ、あれ、君はさっきの・・・・・・」
「・・・・・・」

 人形をあげた少女が、ギルを追ってきたものだったらしい。
 走ってきたようで息を切らしている。
 怪我がないことを見て取ったのか、おもむろに少女はギルの赤いマントを掴んだ。

「こ、このシチュエーションは一体どうしたらいいんだ・・・・・・」

 改めて少女を見やる。
 恐らく年はミナスの2~3歳は下のように思えた。
 質素だが質はいい身なりは、この少女が職人や小さな商店の子どもとはちがうことを示している。
 困り果てていると、よく店に酒だけを楽しみに来る役人のジェイクが通りかかり、声をかけてきた。

「ん?どうしたその子は」
「迷子だと思う。服っつーかマント離してくれないんだけど・・・・・・」
「気に入られたんじゃないのか?男前さん」
「弱ったなあ・・・・・・。そうだ、ジェイク役所に勤めてるんだろ?職場でそれらしい親見かけたら、宿に来るように言っといて」

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「了解」
「よし、じゃあ行こうか」

 ギルが少女の手を取り≪狼の隠れ家≫に戻ろうとすると、彼女は首を横に振りだした。
 どうやら、宿には行きたくないらしい。

「えー。どうすんだよ・・・遊びたいの?」

 そう問いかけると、少女は無言のまま喜色もあらわに頷いた。

「なるほど。仕方ないな。ちょっと連れて行ってやるか」

 そうだ、とギルは思った。≪プラの樹≫ではお使いは果たしたものの、自分や仲間が飲む分の≪月姫の酒≫を購入していない。
 前回の実入りは少なかったとはいえ、一応それなりの貯蓄は残っている。ギルは、自分に回されている分の財布を握り締めると、さっき出て行ったばかりの≪プラの樹≫に入り直した。

「いらっしゃい、ギル。戻ってきたの?何か買っていく?」
「ああ、商品を見せてくれ」
「いいわよ」

 ≪月姫の酒≫はもう在庫が切れていたのだが、他にもいくつかの酒や、調味料代わりになる薬草の瓶詰めなどがある。
 とりわけギルの興味を引いたのは、四つの品であった。

「こっちは香水、魔道研究会の試作品。瓶のデザイン可愛いから仕入れてみたの。そっちのお酒は≪太陽の酒≫って言って、気付けにもなるうち特製の品よ」
「こっちの指輪は?エメラルドみたいに綺麗だけど」
「これ?外見は似てるけど、エメラダって鉱石で出来た指輪よ。冒険でも使えるらしいわ」

 敵に見せ付けることで上手くいくと束縛状態にできる――そんな説明を聞いたギルは、「ジーニがすんげえ喜んで使いそうだな」と思った。
 ギルはしばし迷ったものの、≪太陽の雫≫を買うことにした。そのほか、≪キルギルの葉≫をアウロラの、≪エメラダ≫をジーニのお土産にしようと思いつく。
 そして――。

「・・・お守り代わりくらいには、なるかな?」

と言って、香水も一本カウンターに置いた。

「毎度どうも~」

 しめて4300spの買い物である。キリルは商品が売れたことこそ嬉しかったが、「・・・ギルだけでこんな使ってていいのかしら」とヒヤヒヤしながら会計をした。
 店を出ると、ちょうど一緒にいる少女と同じくらいの年の娘が泣いているのに行き逢った。
 ペットがいなくなったの、と嘆き悲しむ娘に、ギルは出来るだけ物柔らかにどんな子なのかを質問してみた。

「ウサギなの・・・・・・」
「うさぎかあ・・・・・・。わかった、お兄さんが探してあげるよ」
「ありがとう、おじさん」
「おじっ・・・・・・!?」

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 ショックを隠しきれないギルは、肩を落としながら少女と一緒に街中を歩いた。

2013/03/04 06:20 [edit]

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