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満腹食堂の大戦 6  

 早く行け逃げろと叫ぶウルシュを横目に、”金狼の牙”たちはおのおのの得物を構えて散開した。
 大きなわざとらしいため息をついたエディンが、モルヴァンへと呼びかける。

ScreenShot_20130301_034925671.png

「おっさん、報酬は3倍だ!」
「・・・!よかろう!承知したぞ!ごうつくばりどもがッ!」

 彼らの意図に気づいたウルシュが叫ぶ。

「馬鹿な真似はよしなさい!」
「まーまー、魔女さん。しっかりその綺麗な眼でやっこさんを見てみなよ」
「え・・・・・・」

 エディンは、ウルシュにナウネルの癒えていない傷を無言で指し示した。
 ウルシュの翡翠の双眸が理解に細まる。
 それを見ていたモルヴァンもゆっくり首肯した。
 身構えると、ナウネルの水色の目が輝き、小さな唇が喜悦を湛えてきゅっと上がる。

「何を愚かに勘違いしているのか知らんが、その愚かな勇気は誉めてやろう・・・」
「知ってるかい?人間の常識じゃ、吠える犬は噛まないんだよ!」
「来るぞ!」

 ナウネルに言い返したエディンににモルヴァンは合図した。

「再戦、受けてたってやる。ナウネル!」

 ナウネルの周りを、火精霊サラマンダーが取り囲む。
 ウルシュの【魔法の矢】の援護を貰いながら、ギル・アレク・エディンが切り込んでいった。

「サラマンダーが厄介ですね・・・!」

 ≪カナンの鎧≫と引き換えに貰った≪静謐の繭≫に取りすがる火トカゲたちを払いのけて、アウロラが支援魔法を再び張る。

「そっちはあたしの領分ね。ま、当たればの話だけど・・・」

 ジーニがポーチから取り出した緑の薬瓶には、破魔の成分が宿っている。
 それにいち早く気づいたアレクが、指先に電撃を集めてナウネルの足元を狙った。

「姑息な!こんなもの・・・!」
「スネグーロチカ、奴に冷気の戒めを!」
『サラマンダーになんか、負けないんだから!』

 ミナスの召喚に応じた雪娘たちが、ナウネルの召喚獣の囲いをものともせずに攻撃を仕掛ける。
 防戦に追いやられたところを、ギルの【暴風の轟刃】による竜巻がまた叩いた。

「いけ、ジーニ!」
「そーれ!」

 エディンの合図に励まされて、ジーニの腕が弧を描く。
 見事にぶち当たった薬瓶により、せっかく呼び出していたサラマンダーたちは精霊界へと強制送還されてしまった。
 狼狽しつつも、再び攻撃をと体勢を立て直そうしたナウネルの目に、エディンの長身の影が映った。

「一番愚かなのは、お前さんだよ」
「ガアアアアアアアアアアアアア!」
「封印を!」

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 ミスリルレイピアに貫かれた魔族を見てギルがウルシュに言うと、彼女は「言われなくても!」と怒鳴り返して封印の札を貼った。

「おのれ・・・憶えておくぞ・・・」

 この屈辱は忘れないと歯軋りする魔族ナウネルに、フンとギルが鼻で笑った。

「忘れっぽいんでね。いちいち覚えてられないな」

 するするとベージュ色だった札が錆びた鉄のような色に変わり、それに比例してナウネルの体も徐々に霧のように薄れていく。
 ぱさ、と札が床に落ちた。
 モルヴァンが恐る恐るといった態でウルシュに訊ねる。

「・・・やったか?」
「ウルシュ、どうなのよ!」

 焦れたジーニも呼びかけると、はたして彼女はにやりと笑って頷いた。
 意味を解したモルヴァンが、大口を開けて快哉を叫ぶ。

「ざまぁみやがれ!はっはぁ!」
「今度はもっときちんと封印してよね~」

 疲れて肩を回すジーニに、ウルシュはやれやれと言ってから応えた。

「参ったわよ、封印されながら力を蓄えていたなんてね!あなたたちの馬鹿がなかったら、フルポテンシャルのあいつに寝首をかかれていた。恩には着ようじゃない」
「うけけけけ。結果オーライですよ、ウルシュ様!」
「お黙りなさい、インプ。部屋の隅で焦げてたのを見ましたよ」

 氷のようなアウロラの言に、騒々しく飛び回っていたインプはぴたりと口をつぐむ。
 モルヴァンがザマを見ろと言いたげな表情になった。

「まったく、口だけは達者な奴だ!」
「モルヴァン、あなたが騙されやすすぎるのよ!」
「ほんとだよ、危なかったんだから反省してよね!」

 今度はモルヴァンをジーニとミナスが叱りつける。
 あわただしくも賑やかなその様に、ウルシュはこらえ切れずに笑い声をあげた。

「世話になったわ。蛇じゃないとっておきの食材もあるから、食べていって頂戴。私からのせめてのお礼よ」
「そいつぁいいな。ご馳走になるとしよう」
「もう、ドジは踏まないわ。私はここを離れられないけど、何かあったら力を貸す。いつでも来れば?」
「・・・必要があれば、そうさせてもらうさ」

 エディンが小さく彼女に微笑んだ。
 ウルシュに酒と食事を振舞われた一行は、翌日に洞窟を後にした。
 ≪狼の隠れ家≫に帰る途中の夜営にて。
 ふと何かを思い出したモルヴァンが、揺れる焚き火の影を顔に受けながら静かに切り出した。

ScreenShot_20130301_041509062.png

「同じ名前の女魔術師の噂を、昔、聞いた事がある」
「・・・・・・?」

 首を傾げるミナスの頭を撫でて、彼は続けた。

「その魔術師と恋人の魔術師は、まあ二人とも、善人でも悪人でもなかった。だが、男の方は少々無謀だった。魔族を呼び出してしまい、そいつに殺されたんだ」
「・・・確かに聞いた事があるわ」

 ぽつりとジーニが言う。

「ずいぶん昔のことだったと思うのだけど・・・」
「うむ・・・。その女魔術師は、魔族をかろうじて封印した。今でもどこかで、魔族の封印を監視しながら日々を送っている・・・らしい」
「・・・そう・・・」

 ジーニは夜気に身を震わせたのか、その話に身を震わせたのか――ローブのフードを被って、焚き火に手をかざした。

「なに、ただの古い噂だ。そういや、古い話といえば、こんなのがある。俺がインプの依頼を受けた話はしたよな?」

 モルヴァンが焚き火に燃えさしを放った。

「まあ、つまりやつらの言う事を真に受けると、ろくなことがない、ってことなんだが、よ・・・」

 その後。
 ≪狼の隠れ家≫のカウンターで「軽く、世界を救ってきたぜ」と言い放ったモルヴァンに、娘さんが素っ頓狂な声を上げ、親父さんが冒険者の言う事は話半分に聞くよう忠告したのだが――。
 モルヴァンの言葉を信じた冒険者が、”金狼の牙”たち以外にまだいるのかどうか。
 それは定かではない・・・・・・。

※収入600sp※

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■後書きまたは言い訳
45回目のお仕事は、平江 明さんのシナリオで満腹食堂の大戦でした。
シナリオ対象レベルの割に、個性的なキャラクターやギャグっぽい依頼目的で終始明るい作品・・・かと思いきや、最後に語られるモルヴァンの話でちょっぴりビターテイストな余韻もあります。
以前にプレイした同氏の「氷室の囚人」に比べると、ちょっと会話のテンポやシナリオの進み方が今ひとつという気が拭えません。
しかし、構造そのものはシンプルかつ短時間でプレイ可能ですので、寝る前サクッとに入っていても違和感のないシナリオではないでしょうか。

今回のMVPはミナスとエディンですかね。ミナスのおかげでウルシュ戦は雑魚を1ラウンドで一掃できた(【業火の嵐】が最初に手札にきてた)し、エディンのレイピアはびしびしナウネルに当たっていましたので。

そうそう、ギルに≪カナンの鎧≫着せてると、その重量に喘いでいて疲労するイメージが強くちょっと防具を変えることにしました。
シナリオの冒頭でRiverさんの工房「無謬の天秤」から≪鉄の鎧≫を、_銀貨こそ命さんのAsk互換アイテムから≪静謐の繭≫を手に入れています。順番的にはこっちが済んでからフォーチュン=ベルの依頼をやったのですが、物語のテンポとしてこのタイミングで入手したことにさせていただきました。
両シナリオ作者様には深くお礼申し上げます。

当リプレイはGroupAsk製作のフリーソフト『Card Wirth』を基にしたリプレイ小説です。
著作権はそれぞれのシナリオの製作者様にあります。
また小説内で用いられたスキル、アイテム、キャスト、召喚獣等は、それぞれの製作者様にあります。使用されている画像の著作権者様へ、問題がありましたら、大変お手数ですがご連絡をお願いいたします。適切に対処いたします。

2013/03/01 22:24 [edit]

category: 満腹食堂の大戦

tb: --   cm: 4

コメント

中々コミカルなお話でしたね。高レベルの依頼って強敵が出てくる分話も大きくなって、シリアスなものが多い印象があるんですが、こういうお話は貴重なんでしょうか。
モルヴァンさんも、憎めないキャラで良いですね。

うっかり*さわってしまった*アレクと、それに対して珍しく本気で焦ってアイアンクローするエディンさんが面白かったです。
アレクはいつもクールに決めてあんまりああいう事ってなかったような気がするので、なんだか貴重に感じました(笑)

URL | 天河 #- | 2013/03/02 09:41 | edit

コメントありがとうございます

モルヴァンさん、けっこう憎めないキャラですよねえ。
7以上の依頼になると、お話が大きいものやギミック戦闘シナリオが多いので、こういうシンプルな短編でかつコミカルというのは、ちょっと貴重かもしれません。

触らないと話が前に進まないのでやってみたら、珍しくアレクがやったことになってまして(笑)
本来はそういうのギルの役割なんですが、折角だしプレイしたとおりにしようと文章を作っていたら、なぜかエディンが本気でアイアンクローかましてました(笑)
エディンは面倒見が良いのですが、ミナスはともかくアレクはあんまり手が掛からないので、こういううっかりはレアケースだったんだと思います。それで焦っちゃったかと。

URL | Leeffes #zVt1N9oU | 2013/03/02 21:03 | edit

最近5を越える長編リプレイも多いですね。更新お疲れさまです!
満腹食堂の大戦、大好きなシナリオだったので楽しく読ませて頂きました。
いやー、モルヴァンさんいいキャラだ…。「報酬は2倍だ」の下りとか大好きです。
今回は自然と冒険者達のノリもコミカルで素敵ですね。いいアイアンクローでした。アレク、ちょっとそこ替わってくれ。(…!?)

URL | くもつ #tnWn14Gw | 2013/03/03 00:02 | edit

コメントありがとうございます~

くもつさん、よくお気づきで。
そうなんです、最近長編が多い気がしてなりません・・・月下美人の1話だけが異様に懐かしい・・・。
平江明さんのシナリオは、独特の言い回しと言うか台詞口調が面白いのですが、いったんコミカルに変わるとノリのよさが尋常じゃないですね~、やってて楽しいです(笑)

おーい、アレク、くもつさんがそこ替わってってー!(笑)

URL | Leeffes #zVt1N9oU | 2013/03/03 15:07 | edit

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