Fri.

満腹食堂の大戦 3  

「ふうぅぅぅ」
「な、なにあれ!?」

 黒い影・・・・・・のようなものが、砕け散った祭壇の残骸の上にわだかまり、徐々に形を作っていく。
 あまりに禍々しい影の気配に、ミナスが鳥肌を立てながら≪森羅の杖≫を構えた。
 それを庇うように、ギルが赤いマントをばっと広げて舌打ちする。

「く、不安定な封印だったのか」

 その台詞に反応し、肥大化した右腕をこれ見よがしに振りかざした影が、しわがれた声で嘲る。

「独力では、後数年を要した。開放の手助け・・・礼を言う。愚かな人間族の愚者よ!」
「・・・・・・・・・俺が起こした不始末だ。ここでお前を討って尻拭いするさ」

 アレクが静かに剣を引き抜き、影が天井に飛んだ。

「くそッ!来るぞッ!」

 モルヴァンの声を合図としたかのように、影の両隣からバンシーの透き通った体が滲み出てくる。
 刀身に赤い魔力をチャージし始めたアレクのやや後方で、ギルが斧を振りかざす。

「俺とアレクで影は片付ける。後の雑魚は任せたぞ!」
「おうよ、リーダー!」
「ま、仕方ないわね。ちゃっちゃっと終わらせよう」

 バンシーに狙いを定めた大人コンビの傍らで、それぞれアウロラとミナスが自分の魔法の触媒に魔力を込めて詠唱を始めた。
 高い位置から鋭い爪をとんでもない膂力で振り下ろしてきた影の攻撃は、【緋色の翼】を放たんとしていたアレクの腕を抉った。
 血の花を咲かせながらも、苦鳴すら上げずに剣士は魔力を溜め続け、自分に突き刺さる爪で相手の動きを封じたまま神速の二連撃を刻む。
 影が爪を折られ、宙を舞う。

「生意気な・・・!」
「さあて、いくぞー!!」

 一際大きな声を上げてギルが放ったのは、闘気による竜巻である。
 空中にいる影を見事に捕らえ、竜巻はそのまま敵を壁にめり込ませる。
 呻き声を上げながら壁から影が脱出を果たした時には、せっかく呼んでいたバンシーたちは、エディンとジーニによる波状攻撃ですでにその姿を空気に溶け込ませていた。

「なんだ・・・っ!!?なんだこの人間族は!?」
「ふふーん、古い魔族ごときが調子に乗らないことね」
「こないだ、大きな依頼であなたの同族を倒しました。今の私たちが、あなたに負けるはずありません!」

 アウロラは、だらりと爪の刺さった腕を垂らしたアレクに【活力の法】を施そうとしたが、彼の懐から飛び出てきた雪精トールが傷を魔力で塞ぐのを見て、待機の態勢になる。
 その間も影を狙って、ミナスの指示によりスネグーロチカとファハンが攻撃を繰り出す。
 スネグーロチカの攻撃まではともかく、ファハンの石つぶてはいまいち精度に欠けるため、敵は悠々とそれをかわしてみせた。
 続けてエディンとギルがそれぞれ違う方向から渾身の攻撃を仕掛けるも、中途で折れたとはいえまだ半ば以上残る硬い爪で、斧とレイピアが止められてしまう。
 並外れた魔族の強力に、二人がかりでもじりじりと圧し戻されようとしていた。

「ふ・・・・・・ふふ・・・その程度、か・・・?」
「・・・・・・お前、一個忘れてんだよ」
「!?」

 にやりと不敵に笑んだギルの顔が、束の間翳る。
 影が視線を僅か上にずらすと――――ぎりぎりまで跳び上がったアレクが、負傷したはずの腕を振り抜きながら、【風切り】の風圧を放ったところだった。

ScreenShot_20130301_022054281.png

「く、実体が戻らん・・・封印は二重か・・・ぬかったわ・・・」

 ぶつぶつと愚痴るような言葉を残して、その場から影が消えていく。

「まだ封印がどこかにあったか。ふぅ。不幸中の幸いだ」

 そう言ったアレクの頭を、がしぃ!とエディンが片手で掴んだ。
 そのままギリギリと締め上げていく。

「い、痛い痛い痛い!」
「お、ま、え、は~。何で調べる前に触れるんだ!新米じゃないんだぞ!」
「す、すまない!時間経過による劣化がないのが、つい気になってしまって・・・!」

 かなりエキサイトしている仲間をよそに、アウロラはごく冷静にギルへまだ探索を続けるのかと訊ねた。

「そりゃあ、怪しすぎるけど。こんな危ないところ放って帰るほうが、かえってまずいんじゃないか?」
「・・・・・・それもそうですね」

 魔族にバンシー、グールに魔術師が生み出した腐肉。危ないものてんこもりの洞窟である。
 何も知らない旅人が迷い込むようなことがあったり、先程のアレクのような失態をして良くない事態を引き起こすのは、アウロラにとっても避けたいところである。
 もしも裏で糸を引いている者がいるとして、何かの目的により彼らをここに招き入れたのなら・・・。
 遠からず、その目的を自分で明かしてくれるだろうと、アウロラは依頼続行を主張するギルに頷いてみせることにした。

2013/03/01 22:00 [edit]

category: 満腹食堂の大戦

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