Sat.

家宝の鎧 1  

 うっとりとした笑みを浮かべながら杖を磨いているジーニの姿を見て、ギルが呆れたように言った。

「機嫌いいのはいいんだけどさ。磨いてる対象が”あれ”じゃなきゃ」
「仕方ないだろ、もうジーニのお気に入りになったみたいだぜ?」

 エディンがちびちびと干し肉を齧りつつ、それに答えた。
 ジーニの白い手に握られているのは、灰色の髑髏がついた杖だった。
 以前、ゾンビの出る洞窟で、魔力によって隠されていた部屋から見つけた、死霊術士の魔法の媒体である。
 詠唱に集中する手助けに、よくルーンマスター(魔法を扱う者)は指輪や杖を選ぶのだが、数ある中で、どうしてああいうデザインの物を好むのか、女性はギルにとって永遠の謎である。
 干し肉をエールで流し込んだ後、エディンが何かを思い出したように、自分の懐を探った。

「おっと、そうだリーダー。さっきから依頼書を選んでたんだが、こんなのどうだい?」
「なんだい?・・・求む、勇敢な戦士・・・?」
「親父さんによると、リヒャルト卿って騎士さんからの依頼なんだと。なんでも、長く使ってなかった山荘の大掃除を手伝って欲しいって」
「・・・大掃除ぃ?冒険者の仕事じゃないだろ、それは」
「いやいや、依頼書がこういう書き方ってことは、俺が思うに、ただの大掃除じゃないだろう。リヒャルト卿っていや、一応羽振りは悪くない筈だしさ。近所に家があるらしいし、行ってみないか?」

 結局、彼らは騎士リヒャルト卿の家へと向かうことにした。
 宿の親父さんからは、「相手はプライドの高い騎士さんだ。くれぐれも粗相のないようにな」と釘を刺されている。
 刺されているが、自分たちのリーダーに失言が多いのも事実だ。
 どうか、何事もなく終わって欲しいと、アウロラは祈らずにいられなかった。

 徒歩10分も歩いた先に、その目的の場所はあった。
 ノックで出てきた中年男性に、事のあらましを説明すると、中に入るよう促される。
 どうやら、彼が依頼人のリヒャルト卿だったらしい。

 通された応接室は、古ぼけてはいるが、品のいいデザインの家具が多かった。
 大きな窓からは、リューン市内の一部が見える。

「じゃ、早速じゃが仕事の話をさせてもらおう」

と言って、一人がけのソファに腰を下ろしているリヒャルト卿は、今回の依頼の詳細を説明し始めた。

 リヒャルト卿は、なくなった祖父から譲られた山荘を、北の山に持っている。
 王宮勤めの身では、そうそう足を運ぶわけにもいかないので、人を雇って管理しているそうだ。ここまでは、よくある話なのだが・・・。

 ところが、最近になって、その山荘に下等妖魔が住み着いてしまったらしい。
 管理人の職務怠慢としか言いようがないが、いまさらそれを言っても仕方ないので、退治に行くことに決めた。
 が、私用では部下を使うこともできない。
 そこで、ギルたち冒険者を雇った、というのが彼の話だった。

 報酬は800ガメル。今の実力からすれば、相場より少し高めである。
 ギルは、ただの大掃除ではなく、妖魔との一戦が待っていることを予想して、嬉しそうな顔になった。もとより、他の面子に否やはない。
 依頼を引き受けることになった。

 翌日の正午、リューンを出発した一行は、大した障害もなく、問題の山荘に到着した。
 さっそくドアへと一歩踏み出した彼らへ、「こほん」と咳払いをしたリヒャルト卿が声を掛ける。

「作戦遂行に当たり、まず諸君らに言っておかねばならん事がある。心して聞いて欲しい」

 はてなんだろう?と首をかしげたのはミナス、なぜ昨日のうちに言わないのかと、憮然とした顔になったのがアレクである。
 それに気付いているのかいないのか、リヒャルト卿は言葉を続けた。

「屋敷にすくっておるのは卑劣極まりない妖魔どもじゃ。戦うとなれば建物を傷つけてしまう事もあるじゃろう。それはそれで一向に構わんが・・・」
「構わないんかい!」
「いやいや、それじゃリヒャルト卿、何が問題なんです?」

 ギルが思わず突っ込むと、その後ろでエディンがブルネットの髪をかきあげるようにして言った。

「ただし・・・ただしじゃ。二階に安置されている鎧だけは、間違いなく回収して欲しい」
「・・・鎧?」

 エディンがそう言って眉をひそめる。

「さよう、鎧じゃ。高名な騎士であった我が亡き祖父の愛用の鎧でな。時の国王陛下より賜った大切な家宝の鎧じゃ」
「家宝ねえ・・・」

 頬をぽりぽりと掻いて、アレクが呟く。
 国王からの下賜だのなんだのは、正直、貴族でもない彼らに実感は沸かないが、祖父の愛用の品だったというのであれば、何となく大事にしたい気持ちは分かる。
 最善を尽くす、という返答を口々に言う冒険者たちに、リヒャルト卿は満足そうに頷いた。

「話は以上じゃ。では、そろそろ参ろう。覚悟はよいな?」

2012/11/03 16:43 [edit]

category: 家宝の鎧

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