Tue.
最後の最後に笑う者 3 
カディリンを石化させたらしい狂牛のような怪物を退治し、【癒身の結界】で怪我を治した一行はとある地点で足を止める。
「もし山に入る道があるとすれば、ここら辺が怪しいと思う。みんな、手分けして探してくれ」
田舎育ちで厳しい自然に慣れたギルの指示で、冒険者たちはアイトリーの言ったことを思い出しながら辺りを探った。
周りをゆっくりと見渡していた”金狼の牙”の中で、それを発見したのはアレクだった。
「誰か来てくれ。洞窟だ!」
「何?」
足音を立てずに近づいたエディンが確かめると、若干だが人の手が入った跡が見られる。
彼らは隊列を組み直し、そっと歩を進めた。
途中には小さな社がある。両開きの扉は開かれており中には何も入っていない。
「何もなし・・・か。ちょうど碁盤の目のような地形の洞窟なのね」
「迷わずには済むが・・・・・・何かありそうだな。警戒していこう」
「ん。ねえねえ、そっちからシルフィードの力が少し感じ取れるよ」
エディンの深緑のマントを引っ張ったミナスが、洞窟の奥のほうを指差した。
小さな指の導きに従って進むと、洞窟を抜ける事が出来た。ちょうど山腹らしい。
調べると、山頂に向かうらしい洞窟がもう一つ口を開けていた。
突如、地響きとともに、奥の方で何かが爆ぜる音と男の悲鳴が冒険者達の耳を貫いた!
「行ってみましょう!」

奥の広間らしき場所にたどり着いた冒険者達が見た光景は――――。
一度こちらの行く手を妨害したリテルナの一行がそこにいた。
しかし、立っているのは満身創痍の夫婦二人だけだ。
部下の水夫達の姿が見当たらない。いったいどこへ――と辺りを見回してみた”金狼の牙”たちの視界に、それは衝撃的にねじこまれてきた。
目をえぐられたような二つの穴を持つ顔。
乾燥地帯を思わせるひびの入った身体。
そして、その巨躯を絡め取っている鈍色の輝きを見せる紋様入りの鎖――その周りには水夫だったものが八つ裂きになり、あちこちに散らばっている。
顔の下半分がパクリと開いたかと思うと、化け物はその牙の無い口から重く響く言葉を発した。
「まだ、続けるのか?」
「あ、当たり前よ!お宝を手に入れるまで諦めるわけないじゃない!」
「お、お前・・・これ以上は無理だ。大人しく奴の要望を飲もう」
弱々しくリテルナの夫が説得を試みるも、「悪魔の取引に耳を貸す気はない」と主張したリテルナは素早く動いた。
「とっておきの火晶石を全部お見舞いするわ!!」
「――!!バッカヤロ、危ねえ、みんな伏せろー!!」
リーダーの号令に、他の仲間たちは一斉に身を伏せる。
エディンは近くにいたミナスを咄嗟にマントで包み、アレクはジーニの頭を抱え込んだ。
次の瞬間、かつて雪山で起きた雪崩に勝るとも劣らない威力の轟音が辺りに満ちた。
「ビボルダーも一撃で消滅する威力よ。これなら――」
勝ち誇ったリテルナの台詞は、だが途中で凍りつく。

「!!」
「因果応報――我が身にかかりし大厄は仕掛けた主に返るべし!!」
煙の中から現れた化け物が牙の無い口で何らかの呪を唱えると、魔力がリテルナに収束するのを感じる。
火晶石の爆発による土煙が覚めやらぬ中を、一条の光線――いや、大砲にも等しい何かが走り抜けた。
「仕掛けた者に攻撃が跳ね返った!?」
消し炭になったリテルナは音も無くその場に崩れ落ちた。
しばしの時が経ち、辺りに再び静寂が戻ると、化け物は残された夫に再び声をかけた。
「まだ、続けるのか?」
「アア・・・アアア・・・ァァァァァ・・・・・・アビャビャビャビャ!!」
リテルナの夫は入り口に立っていた”金狼の牙”たちを押しのけ、奇怪な声を発しつついずこかへ走り去っていった。
凄惨な結末を迎えたにも関わらずあたかも日常のような素振りで、化け物は冒険者たちのほうにその太い首を向けた。
「さて・・・・・・今日は実に騒がしい事よ。主らで4度目になる。我に何用か?」
「・・・いったいあなたは何者ですか?なぜ、何のためにここにいるのですか?」
一番先に平静を取り戻したアウロラが訊ねる。
「我が名はヴィンディバックス。人の言葉に直すなら黒翼の淵とでもなるか」
クク、と小さい笑い声をあげた化け物は言葉を続ける。
「現世と隔離世の狭間よりこの地にまかりこした。我の事は人の言葉では悪魔と呼ぶらしいな」
「悪魔!?」
悪魔、という絶対悪の印象を持つ言葉に周囲の空気が1℃ほど下がった。
「主らが何を思うたのかは分からぬが、今の我はただこの地に縛り付けられている卑小な存在。主らの期待に沿える存在ではない、という事は断言しておこう」
「私達はこの島にあるという宝をもとめて来ました。どこにあるか知りませんか?」
「アウロラ・・・っ」
そんなこと聞いて大丈夫かというギルの目線に、アウロラはしっかりと頷いた。
「宝か・・・・・・」
「何がおかしいのですか?」
「失礼。人の求めるものはいつでも同じものよな。宝物庫は、そこだ」
悪魔は縛られた身体を窮屈そうに動かし、あごで冒険者達の頭上を指した。
「この洞窟の上と言うと山の頂上ですか?」
「いや、更に上だ」
「更に上と言うと・・・・・・?」
「そう。人の辿りしえぬ空の上に海賊王の宝が眠っているのだ」
「お空の上・・・・・・」
呆然とした様子でミナスがつぶやく。
鋭くアウロラが問うた。
「そこに行く方法は?」
「主らが鳥のように飛べたとしてもなお届かぬ場所にある。しかし、我の翼なら蒼空の奥深くまで届く事が出来ような」
「翼・・・・・・?あなたにそんなものがついてるとは思えませんが」

度胸がいいというべきか、ふてぶてしいというべきか、あくまで冷静な彼女の疑問に悪魔は再び歯の無い口をパクリと開け、笑いに顔を歪ませる。
「肝の太い女だな・・・。我の翼は海賊王によりこの島に封印されている」
悪魔は言う。翼のみならず、目、牙もこの地のいずこかに封印されているのだと。
海賊王はそれら悪魔の力の源を封じた上で、自縛の結界を張り悪魔を永久の宝物庫の番人としてこの地に封印したという。
「つまり、翼、目、牙を探し、あなたの封印を解かない限り宝物庫への扉は開かないと」
「肝が太い上に察しのいいことよ!面白い女だ、気に入ったぞ!」
悪魔は大声で笑った。
リテルナたちは同じ取引を持ちかけられ、断った。
そして封印されているのだからと悪魔を侮り、襲い掛かったのだが――結果は今見た通りだったわけだ。
「宝への道を開ける代わりに我の封印を解いてはくれまいか?もちろん、封印を解いたからとて我が約束を違える事はけしてない」
悪魔は空ろの目を細めて、アウロラに――場合が場合でなければ、まるで睦言のように囁く。
「我が名ヴィンディバックスに賭けて主らを無事に宝物庫へ運ぶ事を誓おう。さあ、返答はいかに?」
それを横から掻っ攫うかのように、ジーニが応えた。
「ま、いいでしょ。その条件でやってあげるわ」
慌てたアレクがジーニの肩を掴んで揺さぶった。
「お、おい。いいのか?悪魔の取り引きに簡単に応じて」
「宝物庫が上空にあるのなら、こいつの手を借りなきゃならないだろうしね。奴の手の平で踊ってやろうじゃないの」
そこでジーニが口の端を上げる。
まるで、彼女の方がよっぽど性悪な女悪魔のような笑みである。
「途中までだけど」
「・・・・・・、揉め事かね?」
「こっちの話だから気にしないでよ。アンタの条件は飲んであげるから」

「クック・・・・・・、そうかね。では、よろしく頼んだぞ」
その話合いの隅っこで、ギルはミナスの服の埃を払ってやっているエディンに小声で言った。
「やっぱり、女ってこええ・・・」
「今回ばかりは俺も同意するぜ、リーダー・・・」
「もし山に入る道があるとすれば、ここら辺が怪しいと思う。みんな、手分けして探してくれ」
田舎育ちで厳しい自然に慣れたギルの指示で、冒険者たちはアイトリーの言ったことを思い出しながら辺りを探った。
周りをゆっくりと見渡していた”金狼の牙”の中で、それを発見したのはアレクだった。
「誰か来てくれ。洞窟だ!」
「何?」
足音を立てずに近づいたエディンが確かめると、若干だが人の手が入った跡が見られる。
彼らは隊列を組み直し、そっと歩を進めた。
途中には小さな社がある。両開きの扉は開かれており中には何も入っていない。
「何もなし・・・か。ちょうど碁盤の目のような地形の洞窟なのね」
「迷わずには済むが・・・・・・何かありそうだな。警戒していこう」
「ん。ねえねえ、そっちからシルフィードの力が少し感じ取れるよ」
エディンの深緑のマントを引っ張ったミナスが、洞窟の奥のほうを指差した。
小さな指の導きに従って進むと、洞窟を抜ける事が出来た。ちょうど山腹らしい。
調べると、山頂に向かうらしい洞窟がもう一つ口を開けていた。
突如、地響きとともに、奥の方で何かが爆ぜる音と男の悲鳴が冒険者達の耳を貫いた!
「行ってみましょう!」

奥の広間らしき場所にたどり着いた冒険者達が見た光景は――――。
一度こちらの行く手を妨害したリテルナの一行がそこにいた。
しかし、立っているのは満身創痍の夫婦二人だけだ。
部下の水夫達の姿が見当たらない。いったいどこへ――と辺りを見回してみた”金狼の牙”たちの視界に、それは衝撃的にねじこまれてきた。
目をえぐられたような二つの穴を持つ顔。
乾燥地帯を思わせるひびの入った身体。
そして、その巨躯を絡め取っている鈍色の輝きを見せる紋様入りの鎖――その周りには水夫だったものが八つ裂きになり、あちこちに散らばっている。
顔の下半分がパクリと開いたかと思うと、化け物はその牙の無い口から重く響く言葉を発した。
「まだ、続けるのか?」
「あ、当たり前よ!お宝を手に入れるまで諦めるわけないじゃない!」
「お、お前・・・これ以上は無理だ。大人しく奴の要望を飲もう」
弱々しくリテルナの夫が説得を試みるも、「悪魔の取引に耳を貸す気はない」と主張したリテルナは素早く動いた。
「とっておきの火晶石を全部お見舞いするわ!!」
「――!!バッカヤロ、危ねえ、みんな伏せろー!!」
リーダーの号令に、他の仲間たちは一斉に身を伏せる。
エディンは近くにいたミナスを咄嗟にマントで包み、アレクはジーニの頭を抱え込んだ。
次の瞬間、かつて雪山で起きた雪崩に勝るとも劣らない威力の轟音が辺りに満ちた。
「ビボルダーも一撃で消滅する威力よ。これなら――」
勝ち誇ったリテルナの台詞は、だが途中で凍りつく。

「!!」
「因果応報――我が身にかかりし大厄は仕掛けた主に返るべし!!」
煙の中から現れた化け物が牙の無い口で何らかの呪を唱えると、魔力がリテルナに収束するのを感じる。
火晶石の爆発による土煙が覚めやらぬ中を、一条の光線――いや、大砲にも等しい何かが走り抜けた。
「仕掛けた者に攻撃が跳ね返った!?」
消し炭になったリテルナは音も無くその場に崩れ落ちた。
しばしの時が経ち、辺りに再び静寂が戻ると、化け物は残された夫に再び声をかけた。
「まだ、続けるのか?」
「アア・・・アアア・・・ァァァァァ・・・・・・アビャビャビャビャ!!」
リテルナの夫は入り口に立っていた”金狼の牙”たちを押しのけ、奇怪な声を発しつついずこかへ走り去っていった。
凄惨な結末を迎えたにも関わらずあたかも日常のような素振りで、化け物は冒険者たちのほうにその太い首を向けた。
「さて・・・・・・今日は実に騒がしい事よ。主らで4度目になる。我に何用か?」
「・・・いったいあなたは何者ですか?なぜ、何のためにここにいるのですか?」
一番先に平静を取り戻したアウロラが訊ねる。
「我が名はヴィンディバックス。人の言葉に直すなら黒翼の淵とでもなるか」
クク、と小さい笑い声をあげた化け物は言葉を続ける。
「現世と隔離世の狭間よりこの地にまかりこした。我の事は人の言葉では悪魔と呼ぶらしいな」
「悪魔!?」
悪魔、という絶対悪の印象を持つ言葉に周囲の空気が1℃ほど下がった。
「主らが何を思うたのかは分からぬが、今の我はただこの地に縛り付けられている卑小な存在。主らの期待に沿える存在ではない、という事は断言しておこう」
「私達はこの島にあるという宝をもとめて来ました。どこにあるか知りませんか?」
「アウロラ・・・っ」
そんなこと聞いて大丈夫かというギルの目線に、アウロラはしっかりと頷いた。
「宝か・・・・・・」
「何がおかしいのですか?」
「失礼。人の求めるものはいつでも同じものよな。宝物庫は、そこだ」
悪魔は縛られた身体を窮屈そうに動かし、あごで冒険者達の頭上を指した。
「この洞窟の上と言うと山の頂上ですか?」
「いや、更に上だ」
「更に上と言うと・・・・・・?」
「そう。人の辿りしえぬ空の上に海賊王の宝が眠っているのだ」
「お空の上・・・・・・」
呆然とした様子でミナスがつぶやく。
鋭くアウロラが問うた。
「そこに行く方法は?」
「主らが鳥のように飛べたとしてもなお届かぬ場所にある。しかし、我の翼なら蒼空の奥深くまで届く事が出来ような」
「翼・・・・・・?あなたにそんなものがついてるとは思えませんが」

度胸がいいというべきか、ふてぶてしいというべきか、あくまで冷静な彼女の疑問に悪魔は再び歯の無い口をパクリと開け、笑いに顔を歪ませる。
「肝の太い女だな・・・。我の翼は海賊王によりこの島に封印されている」
悪魔は言う。翼のみならず、目、牙もこの地のいずこかに封印されているのだと。
海賊王はそれら悪魔の力の源を封じた上で、自縛の結界を張り悪魔を永久の宝物庫の番人としてこの地に封印したという。
「つまり、翼、目、牙を探し、あなたの封印を解かない限り宝物庫への扉は開かないと」
「肝が太い上に察しのいいことよ!面白い女だ、気に入ったぞ!」
悪魔は大声で笑った。
リテルナたちは同じ取引を持ちかけられ、断った。
そして封印されているのだからと悪魔を侮り、襲い掛かったのだが――結果は今見た通りだったわけだ。
「宝への道を開ける代わりに我の封印を解いてはくれまいか?もちろん、封印を解いたからとて我が約束を違える事はけしてない」
悪魔は空ろの目を細めて、アウロラに――場合が場合でなければ、まるで睦言のように囁く。
「我が名ヴィンディバックスに賭けて主らを無事に宝物庫へ運ぶ事を誓おう。さあ、返答はいかに?」
それを横から掻っ攫うかのように、ジーニが応えた。
「ま、いいでしょ。その条件でやってあげるわ」
慌てたアレクがジーニの肩を掴んで揺さぶった。
「お、おい。いいのか?悪魔の取り引きに簡単に応じて」
「宝物庫が上空にあるのなら、こいつの手を借りなきゃならないだろうしね。奴の手の平で踊ってやろうじゃないの」
そこでジーニが口の端を上げる。
まるで、彼女の方がよっぽど性悪な女悪魔のような笑みである。
「途中までだけど」
「・・・・・・、揉め事かね?」
「こっちの話だから気にしないでよ。アンタの条件は飲んであげるから」

「クック・・・・・・、そうかね。では、よろしく頼んだぞ」
その話合いの隅っこで、ギルはミナスの服の埃を払ってやっているエディンに小声で言った。
「やっぱり、女ってこええ・・・」
「今回ばかりは俺も同意するぜ、リーダー・・・」
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