Sat.

爆弾仕掛けの番犬 1  

 それは、かのランプトン卿からの依頼を見事果たした”金狼の牙”の噂が、そろそろ下火になってきた頃の事だった。

「・・・というわけで、盗まれたゴーレムを取り戻して欲しいのよ」
「ギルドの保護がないとはいえ、ディトニクス家に入ってゴーレムを盗むたあ、剛毅な話だなァ・・・。親父さんと話はついてるのかい?」
「今、父さんはいないんだけど・・・ゴーレムたちが盗まれたことが知られたらまた喧嘩になっちゃうわ」

ScreenShot_20130220_231544203.png

 いつもなら生き生きとした表情を欠かさないはずの娘の顔は、すっかり曇っている。
 いつものカウンター席でやや早めの昼食を食べに来ていたエディンはそれを哀れに思い、ウェイトレスの一人であるエセルを呼び止める。

「エセル、わりぃんだがこっちのお嬢さんにもサンドイッチ頼むわ。今日は中身なんだっけ?」
「焼いたハムとチーズです!自家製ピクルスもたっぷり挟みますよ。付け合せはハムのグレービーソースかけた粉ふきいもです」
「・・・お前さん、本当にじゃがいも好きだよな。じゃあそれ二人分」

と、サンドイッチを娘の分まで追加注文した。
 そして彼女に――ルーシェラン=ディトニクスに向き直る。

「何で喧嘩になるんだ?」
「お前のスチームゴーレムは館の警備もできないのか、番犬が盗まれてどうする!・・・ってね」

 妙に色気のある声が割って入り、ルーシーに同意をした。

「あらら、そりゃあの人ならそう言うでしょうよ」
「ジーニ。お前さん、もう降りてきたのか」
「ええ、ミナスとシエテの勉強見終わったからね。庭にいる子達もみんな、こっちにくるわよ・・・ほら」

 窓から素振りの練習を見守っていたジーニの台詞が合図だったかのように、ぞろぞろと宿の裏口からギル・アレク・アウロラの三人が入ってくる。
 勉強道具を片付けたミナスもシエテと連れ立って降りてきたが、階段から仲間の姿を見つけて嬉しそうに寄ってきた。
 そしてカウンター席についているかつての依頼人の姿を見て、目を丸くする。

「ルーシー!?久々だね、何かあったの?」
「大有りよ、ミナス。実は私の可愛いウーノや他のスチームゴーレムが、盗まれたのよ・・・」
「盗まれたあ!?」

 異口同音にエディン以外の面子が大声を上げると、ルーシーは慌てて彼らの口を塞ごうとわたわた意味もなく動いた。
 そして口を塞ごうとするのが無意味である事を悟ると、

「だから、あなた達でこっそり取り戻して欲しいの」

としょぼくれた様子で付け加えた。
 これは”金狼の牙”への依頼だなと判断したシエテは、そっと邪魔をしないよう違うテーブル席につく。

「ね、あのスチームサイクロプスを撃破したあなた達だからこそ、お願いしてるのよ」
「うーん・・・」

 ギルは腕組みをして唸り、しばし考えた。
 ・・・ルーシーと会うのはこれが初めてではない。
 以前、スチームゴーレムの実験に付き合わされたことがあった。
 その際、ルーシーとその父ファランとの確執が明らかになったわけだが・・・それはまだ解消されていないようだ。

「ね、お願い!報酬はちゃんと払うから。ゴーレムを全部取り戻したら・・・そうね、銀貨1200枚払うわ!」
「1200か・・・」

 なかなかの金額であるし、今の彼らのパーティ名”金狼の牙”の元になってくれたゴーレムのことでもある。できるだけの協力はしてやりたいところなのだが・・・。
 だがギルは、『全部取り戻したら』という言葉が引っ掛かった。

「で、ゴーレムは何体盗まれたんだ?」
「あ、まだ言ってなかったわね。盗まれたのは全部で四体よ」

 そういってルーシーは、スカートのポケットから取り出したメモをギルに手渡した。

「盗まれたゴーレムの詳細と、一体ごとの報酬についてはこのメモを見てちょうだい」
「りょーかい。ジーニ、見ておいて」
「・・・あんたねえ、少しは自分で確認しなさいよ・・・」

 あきれ返った顔になりながらも、一応メモはジーニが目を通す事になった。

「んー。ウーノが銀貨300枚、違うスチームドッグが150枚、スチームゴブリンが250枚・・・。え!?ちょっと、スチームサイクロプスまで盗まれてるの!?」

 スチームサイクロプスは、ルーシーが行った実験でかなり手こずらされたゴーレムである。
 全体攻撃と硬い装甲を持ち、かなりタフな傾向のあるゴーレムの中でも、なかなかの強者だったと記憶している。
 アウロラがミナスと仲良くそば粉のパンケーキやレーズン入りプディングを分けながら言った。

「・・・まあ、なんてことでしょう。アレを盗むなんて、よほどに腕のいい人なんでしょうね」
「ちなみにそれはいくらなの、ジーニ?」
「銀貨500枚!・・・・・・これだけ盗むなんて容易なことじゃないわね」
「さて、何か質問はある?」

 それまでずっと黙って経緯を聞いていたアレクが口を開いた。

「盗んだやつの心当たりとか、盗まれた当時の状況とか、色々知りたいんだが」
「なるほど。まず、何から話そうかな・・・」

と、その時だった・・・・・・。急に犬の吠える声がする。

ScreenShot_20130220_234453109.png

「・・・犬?」
「・・・ウーノ?その鳴き方はウーノでしょ!?」

 ルーシーが叫んだ瞬間、宿に入ってきたのは一体のスチームゴーレムだった。
 しかもアレクたちにも見覚えがある。
 ウーノはルーシーが製作した犬型スチームゴーレムである。
 足が車輪状の通常のスチームドッグと違い、ウーノは普通の脚をつけているのが特徴だ。
 ルーシーはウーノを抱きかかえていたが、やがて不思議そうな表情で顔を上げた。

「でも変ね・・・なんでウーノが一人でこんな街の中にいたのかしら?」
「それは確かに・・・」

 ルーシーと”金狼の牙”たちは、そろって首をかしげる。
 しかし答えは出てこない。

『ふふふ・・・教えてあげましょうか?』
「え・・・ウーノ?・・・じゃないわよね、今の声は・・・」
『あなたのゴーレムを盗ませたのはこの私よ・・・。そして、あなたのウーノを操ってその宿に行かせたのも私・・・』
「・・・・・・一体、どういう仕組みだ?」

 アレクがウーノをかつてなく厳しい表情で見やりながら詰問する。

『今、私は近くにはいないけど、音声伝達魔法でウーノを通してそっちに声を送っているの』
「あ、あなた誰よ?何でこんなことしたの!?」

 ルーシーが気色ばんだ。

ScreenShot_20130220_235406171.png

『黙って聞きなさい。いい?このゴーレムには爆弾が・・・と言っても小さなモノだけど・・・仕掛けてあるわ。それを解除できたら、私の居場所を教えてあげる』
「ば、爆弾ですって!?」
『そう。小さいと言ってもこのゴーレムを壊すくらいの威力は十分にあるわよ。ミスしたら、あなたの大事なウーノちゃんはボロボロ、他のゴーレムも帰ってこない・・・お父様は何と言われるかしらね?』

 ウーノから発せられる謎の声に、ジーニは形のいい小指の爪で額を掻きながら唸った。
 今までの言動からすると、この声の持ち主はルーシー当人に私怨か何かを抱いており、ディトニクス家の家庭事情、及びルーシーがウーノをどれだけ大切に扱っているかを知っている・・・・・・ということになる。

「やり方が狡いわね」
 
 ジーニは声の持ち主の周到さに、ふんと鼻を鳴らした。

「あなた・・・あなたキャシーね!?よくもこんな、手の込んだ嫌がらせを!」
『うっふふふ。気づいてくれたのね。じゃあひとつサービスよ。爆弾解除用のツールをあげる。これを使って解除しなさい』

 ウーノの背中にくくりつけてあった箱が開き、中から解除ツールが転がり落ちた。

『さあ、ウーノに仕掛けた爆弾を見事に解除して見せて!』

 音声はそこで途切れた。音声伝達魔法を解いたらしい。

「調子乗ってんなー。本職相手に挑戦状たあ、いい度胸だぜ」

 ルーシーに追加したサンドイッチを食べるよう促して、エディンは鼻歌交じりに――しかしその実、注意深く――ウーノへと手を伸ばした。

「終わったぜ。こんなもんかい?」
「あぁ、良かった!良かったねウーノ!」
『うふふ、良かったわねぇルーシー』

 ウーノに抱きついていたルーシーが、あからさまに顔を顰める。

「げっ・・・まだ繋がってたんだ。あ、そうだわ!爆弾解除したんだから、居場所を教えなさいよ!」
『もちろんよ。ここまで来てもらわないと困るし、ちゃんと教えてあげるわよ』

 キャシーと呼ばれた声の持ち主は、すらすらとリューンから東へ半日ほどの位置にある遺跡を指定した。
 詳しい場所の地図も背中の箱から転がり出てくる。
 それを用心深い手つきで摘み上げて目を通したルーシーが、ぽつんと呟いた。

「ここは・・・もう調査が済んで誰も訪れなくなった遺跡ね」
『そうよ、誰にも邪魔されずあなたと決着がつけられるわ。そうそう、一応言っておくけど、さっきの爆弾は素人でも解除できるように簡単な造りにしておいたの』
「ああ、そうだろうよ。造りは簡単だった。・・・・・・だが、この犬を壊す威力ってえのも、本当だったぜ」

 一方的に喋りまくったキャシーは、遺跡で待つと言い残し音声伝達を解除した。

2013/02/23 10:01 [edit]

category: 爆弾仕掛けの番犬

tb: --   cm: 0

コメント

コメントの投稿

Secret

プロフィール

最新記事

最新コメント

月別アーカイブ

カテゴリ

カレンダー

検索フォーム

RSSリンクの表示

リンク

ブロとも申請フォーム

QRコード

辺境に足を運んだ方の人数

▲Page top