Wed.

暴虐の具現者 4  

 落ち着いたところを見計らって、シニサに死亡前に言葉を交わした騎士からの情報を聞いた彼らは、ある意味の光明を見出していた。
 なるほど、あの『蟲竜』は確かに強い。しかし、頭から遠く離れた尻尾が一番切り離しやすいことを、彼らは発見していたのだという。
 おまけに一部分を切り離せば、全体の動きのバランスを崩して防御が疎かになるらしい。
 濃藍色の双眸が希望に輝いた。

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「――!そうなれば強固な鱗の護りも怖くないね」
「ですが、問題は――」
「そう、やはりあの回復力だな。守りが弱まるどころか、瞬く間に鱗が再生する」

 冷静なアウロラとシニサの指摘に、「・・・・・・むぅ」とジーニは妙な声をあげた。

「特殊な状況を・・・あの能力を阻害できるような状況を作ってやる必要がありそうだな」

 ギルはぽりぽりと頬を掻いて言う。
 それを聞いていたアレクは、とある一方を指して訊いてみた。

「あそこはどうだ?」
「何――――?」

 森から極端に突き出た巨大な岩盤――その先端を彼は指していた。
 その上に、冒険者たちは立つ。
 この岩場が山の中で最も高い位置にあり、急な崖になっている。
 地形がそうさせるのか、吹く風は岩壁を昇って逆巻き、冒険者たちの顔を激しく叩いてくる・・・。
 しばらく辺りを探っていたエディンが報告をした。

「・・・視界は良好だ。縄張りの森全体が見下ろせるが、岩場は激しく隆起を繰り返していて、人が身を隠すのには困らない」
「あちらさんからの視界はどうなる?」
「森の側から、俺たちの姿を見つけるのは困難だろう。・・・・・・ただ、こちらからも奴の姿を確認することは難しそうだ」

 報告がそこで止まった時、手を挙げて仲間たちの注目を集めたアウロラがおもむろに話し出す。

「私たちがあの竜に対して手を焼いているのは、際立った攻撃力ももちろんですが、クロガネの刃を弾き魔法を撥ね返す鋼鱗の防御力と、たとえ傷を負わせても、即時回復する再生能力・・・」
「うむ。そうだな」
「さいですな」

 アレクとトールが頷く。

「つまり有効な攻め手がないのが問題なわけですが、もし再生能力を完全に封じることはできなくても、その速度を緩めることができたとしたら――どうです?」
「それは・・・・・・」

 どういうこと?と不思議そうなミナスに笑いかけて、アレクが口を出した。

「あの強固な護りを打ち破るは至難だ。しかしそれは、不可能というわけじゃない」
「そう。現に、あなたの【竜牙砕き】もあの『蟲竜』には通じていた」
「ヤツの胴体の各所を撃破できたら、その状況をしばらく保てる、ということになるだろうな。なにせ、再生の速度が落ちている」
「――その通りです」

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「だから、何が言いたいの?」

 焦れたような小さなエルフに、アウロラはゆっくりと考えている作戦を教えた。
 シニサの話にもあった、「肉体の部位を各個撃破ができればそのたびに肉体のバランスが崩れ、動きに乱れが生じ、防御が疎かになる」という特性。
 あの再生能力を抑えるのに――、

「――崖を使ってそれを成す」

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 再生を妨げるには、胴を破壊もしくは切り離しを行い、切れ端や血肉を本体から遠ざけることが必要となる。
 崖の自由落下を利用して、もしそれを行うことができればというのだ。

「もちろん、こちらの意図通りに展開してゆくと限らない。ですが、策なく挑むよりはいい」
「むむむ・・・・・・」

 ギルはなるほどと唸った。
 ただこの策を実践するには、崖の先――それも容易に引き返せないほどの中空にまで、おびき寄せなければならない。

「囮役が必要なんだね?そういうことなら――」
「・・・俺がやろう。全員でぞろぞろ動いても仕方ないし、任せてもらいたい」

 ミナスの言葉尻を奪うように、アレクが言った。
 確かに森住まいのエルフほど、敏捷に森の中で動ける存在はそうはいまい。おまけに、ミナスには≪エア・ウォーカー≫という飛翔用のアイテムもある。
 しかし、逃げる途中で傷を負っても、のんびり立ち止まって先程の霊験をかけている暇は絶対にないのだ。
 その点、アレクの場合は怪我をしても雪精トールが憑いている。
 体力があるというだけならギルもだが、彼はさっきからカナンの鎧の重量で疲れていた。
 ――ついでに付け加えると、本来は戦術を嬉々として捻り出しそうなジーニが黙っているのは、今までの森の強行軍でやはり疲れているからであった。

「ひとりで・・・いや、アレクならトールがいるから大丈夫か」
「ハイですわ、わてにお任せください」
「・・・無論、無茶はしない。おびき寄せることに集中するさ」

 心配そうなミナスの頭をそっと撫でた。
 ぱちりと軽く手を合わせてアウロラが纏める。

「さて――決まりです。まず囮役が、あの竜を挑発なりして崖までおびき寄せる。そのまま、さっきジーニが作った浮遊薬の効果で宙へ逃れて・・・抜き差しならぬ場所まで引きずり込む」
「でもそれは、噂どおりあのドラゴンが空を飛べたらの話でしょ?」
「そうですね」
「・・・飛べないとしたら?」
「そのときは、空中から囮役が仕掛ける中、残りのメンバーが後ろから襲い掛かるだけです」

 けろっと彼女は言った。

「再び退いて態勢を立て直すということも、想定はしておくべきでしょう」
「・・・・・・なんつーか、お前さんが味方で本当に助かるよ」

 ブルネットの髪をかきあげてエディンが呟く。
 その隣では、シニサが興奮で震えながら、しきりと賞賛の言葉を口にしていた。

「そうなると、もっと罠が用意できる方がいいな。自由落下だけにすべてを賭けるのも危険だし」
「ええ。もう少し、森の中を散策してみましょう」

 そうして拾った素材や薬草たちを組み合わせ、罠や必要そうな薬を大人二人が作っていく。 

「・・・・・・なぁ、冒険者殿、よろしいか?」

 銀の髪を揺らして、シニサが問いかける。

「はい?どうぞ」
「うむ・・・、空中戦をやるというが、いったいどのあたりで仕掛けるのだ?」
「どの、というのは――?」

 アウロラは戸惑ったように首を傾げた。

「いやな、ひとくちに空と言っても色々とあるであろう。どこまでも高くか、崖のそばか、ここよりも下なのか」
「あぁ、そういう・・・崖の傍ですよ。あるいは、状況に応じてその少し下か、というところです」
「ふむ。ともかく、崖の傍でやりあうと言うのだな?」
「ええ」

 シニサは1つ提案をした。
 冒険者たちが『蟲竜』と相対している時、シニサは完全に自由に動ける状態である。
 骨折を起こしていたから戦うことはできないが、援護することくらいは可能であろう・・・例えば、彼らがこさえた罠によって。

「あれらをこの場に仕掛けてくれ。アレクシス殿が彼奴を引き回しておる間に、少々手を加えたい。狙いをつけて発動できるようにしたいのだ」

 そしてひとたび戦いが始まった後――シニサはタイミングを見計らって背後から痛めつける、という寸法らしい。

「・・・無論、冒険者殿らが我輩を信用できなければ聞き流してくれて良い策なのだが」

 シニサは領内の妖魔退治や国境沿いの戦などに立ってきた身である。
 援護役を任せるに足る人材だろうと、アウロラは思った。

「では――お願いします」
「うむ、了解した」

 残っていた傷をトールに癒してもらい、”金狼の牙”たちはいよいよ『蟲竜』を誘き出す準備を始めた。

2013/02/20 20:56 [edit]

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