Wed.

暴虐の具現者 3  

「は――ぁ、はぁ。やべ、カナンのじい様の鎧重すぎ・・・」
「く――、ふぅ・・・はぁ・・・。あたし、こんなに、走った、ことな、い」

 でたらめな強さを誇る竜も、自分たちが作った隙をつき、生きていた騎士が放ってくれた火薬のお陰でいったんは――死亡したと思っていた。
 太い胴体がほぼ千切れかかっていたのだから、そう思うのも無理はない。
 しかし、尋常ではないスピードでそれは起きたのだ。
 千切れ飛んだはずの肉片、拡散したはずの大量の血液――それらがまるで地虫が這うかのように集まりだし、傷口を塞いだ。・・・再生を止めるなどという暇もなかった。

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 それでも痛みは確かに残るらしく僅かに怯んだのを見計らい、一目散に逃亡してきた冒険者たちは、竜の苦悶と怒りの慟哭も気配も届かない場所まで辿り着くと、力尽きたように腐葉土の絨毯に座り込んだ。

「もうダメだ・・・息が続かん」

 ギルが鎧のベルトを少し緩める。
 本来なら、もと来た方角へと戻るほうが、態勢を整えるという意味ではよかったのだろう。
 だがそうするには、竜の脇をすり抜ければならないため困難だった。
 縄張りの奥へと進む事になろうと半ば予想しながらも、冒険者らは逆方向へと進むより他なかった。

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「・・・・・・それにしても」

と、つぶやく。
 実際体験しても、信じられない能力だった。
 肉体が強いだけではない、木々を薙ぎ払う攻撃力に、常軌を逸した再生能力――。
 幾度も討伐隊が背走したというのも、分かる気がする。

「今のところは、大丈夫、みたいだよ」

 ミナスが注意を払う。不自然に揺れる樹木や、何かが這うような音。巨大な獣の息遣い。そういったものは、彼の鋭敏な知覚には感じられなかった。

「だが・・・どうする。リーダー」
「『蟲竜』ワイアーム。・・・ひと工夫もふた工夫もしなきゃ、どうこうできる相手じゃなさそうだぜ」

 騎士団に付き従っているだけで、報酬と『竜殺し』の称号を得ることができる。
 そんな甘いことを考えていたわけではない。波乱も想定していた。
 ――が、しかし。

「・・・・・・まぁいいさ」
「リーダー?」

 泣き言を口にしても始まらない。
 いきなりの危機ではあったが、討伐対象を実際に眼にし、ぶつかりあった。
 その中で得た情報も、少なくない。

(生かすも殺すも俺たち次第・・・だ)
「生き残りの騎士を探そう。後は、その過程で得られそうな武器・・・。さっき見た火薬とか、ああいうのがあれば随時回収していこうぜ」
「・・・・・・まあ、再生能力が桁違いとは言え、逃げる時間は稼げたしな」

 ふむ、とエディンが顎に手をやった。
 暫し考え込んでいたアウロラが、ようようという様子で口を開いた。

「あれだけの強靭さを誇るのに、超常の域に達したような回復力を持っていましたね」

 ジーニもそれに応じる。

「飛散した血肉まで、まるで意志を持っているように集まるなんて・・・・・・ね」
「あるいはあれは特別なことではなくて、あの竜生来の、自己治癒能力なのかも知れません」
「うーん・・・・・・手ごわいなあ」
「この森自体があの『蟲竜』の庭みたいなものです・・・地形の把握にも努めた方がよいでしょうね」
「とりあえず、動こう。一所に立ち止まってちゃ、見つかる確率は高くなる」

 ギルにそう促され、一行は周りの気配を警戒しながら歩き始めた。
 先行隊が落としたらしい廃棄物(錆びた剣や鏃)や、上質の木材を拾う内、土が剥き出しの切り立った崖に出た。
 結構な高さで、崖下には大きな河が流れている。

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「不意打ちのように、目の前に現れたな」

 ぼうっとしてたらそのまま転落してたと苦笑するエディンに、アレクが無言で頷いた。
 濁流というわけではないが、河底は見えない。
 結構な深さがある、ということだろう。

「流れも速いな。それによって水面は泡立っているし、水の塊同士がぶつかって弾け飛ぶから、河底は余計に見え辛くなる」
「なるほどな・・・・・・」
「あ、今なんか跳ねた!」

 エディンに教わるアレクの外套をつかんでいたミナスが、河のとある方向を指して言った。

「あれは――?」

 水の中から姿を現したのは、大きな背びれを有した水棲生物。
 水面に映る影から、全長4メートルは超えていようと判断できる。
 また水面から時折のぞく肌は、十分にぬめっていることが一見して知れる。

「あの生き物はたぶん、グランガチってやつでしょう」
「あらすごい、アウロラ分かるの?」
「ええ・・・。『魚の王』とも呼ばれ、水中でもっとも強力な精霊の1つです。姿はご覧の通りワニに似ますが、大きな背びれはグランガチ固有のものです」
「あれね、すごい誇り高いんだよ。無闇に暴力を振るう精霊じゃなくて、敬意には敬意を、恩義には恩義を返すんだって」

 ミナスも言い添えた。恐らくはこの河の主なのだろう。
 特に刺激しなければ大丈夫だろう、という意見により、それ以上の過度の接触を避けて一同はまた歩き始めた。
 途中、先行隊が丸ごと放り出したらしい荷も見つけ、周囲を警戒しがてらエディンが槍の穂先や切っ先の欠片を鎖帷子に埋め込む。

「エディ、それどう使うわけ?」
「装備した奴が、『蟲竜』に締め付けられても大丈夫なようにさ。こいつが上手く刺されば、警戒して攻撃してこれないだろ?」
「なるほどねぇ」
「とは言っても、再生を封じるほどじゃない。そっちは別に何か手立てを用意しねえとな」
「考えとくわよ、チームの頭脳担当としては。ん、こっちの草は・・・」

 ジーニの繊手が、見慣れない草を摘み上げる。

「こっちは強化草、こっちが浮遊草か。ふーん」
「浮遊草なら知ってるけど・・・こっちの赤いの、どういう効果があるものなの?」
「何、ミナス知らない?これはね、薬効成分のある素材と組み合わせればブーストしてくれるのよ」
「へえ。じゃ、浮遊草とあわせたら空飛べるの?」

 思いがけない子供のアイデアに、ジーニは目を瞬かせてその意見を吟味した。
 確かにそうだ、身を軽くする浮遊草をブーストするのなら、そういう効果が出ておかしくない。

「・・・・・・何かに使えるかもね。よし、合わせておこうか」

 ジーニは錬金術の要領で手早く浮遊草と強化草を合わせ、『特濃浮遊薬』を作り出した。
 やがて、『蟲竜』に見つからないようにと適度なところで移動を開始し、”金狼の牙”は部隊壊滅の痕跡も見つける。

「これは・・・酷いな」

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 首から先がない者。身体の一部分しか残っていない者。
 あるいは、眠っているだけに見えるが鎧からのぞく顔に生の色がない者。
 エディンの見立てでは、中には冒険者もいるように思われる。
 手厚く葬ってやりたいところだが、今はその余裕すらもない――、と。
 微かな呻き声をあげる者がいた。走り寄ったミナスが、ウンディーネの霊験を使う。

「うぅ・・・冒険者殿、か?」
「その声、シニサさんか!?」

 アレクが呆気に取られた表情でその人物を見やった。

「脚をやられていたのだが、治療してくれたのだな。驚いた・・・我輩以外にも、まだ無事な者がいた」

 途切れ途切れではあるが、騎士の発する声には力があり、健在振りを窺わせた。
 他の騎士の所在は分からず、うな垂れる騎士のリーダーにかける言葉もなく冒険者たちは黙って見つめていたが、やがて騎士はすぐに気を取り直して言った。

「気遣いは最早無用だ。それに、こうして1つの場所に留まり続けることも、危険であろうし」

 弔いをしてやりたいところだが、悠長にそんなことをしていては襲撃を受ける。
 必ずあの『蟲竜』をしとめようと士気を上げ、彼らは再び慎重に歩き始めた。

2013/02/20 20:51 [edit]

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