Wed.

暴虐の具現者 1  

 リューンから北西に6日馬車を走らせ、さらに2日間、南北を繋ぐ大きな河を遡上したところ。
 人も物も、せわしなく動き続ける地方がある。
 ――ランプトン領。
 農業、交易、ともに活発な土地だ。ここは、そんなランプトン領内にある農村のひとつだった。
 この時期なら、収穫期に達した黄金色の小麦が村の畑一面に茂り、さわさわと音を奏でているはずであった。
 だが今はその音もない。
 ・・・多くの若者が畑を捨てて逃げてしまったからだ。

「・・・・・・・・・」

 ミナスは悲しそうな顔で、ただ荒涼とした畑を見渡した。
 若者たちがこの村から姿を消した理由は、ある災禍がこの地方に根を下ろしたからである。
 ”金狼の牙”たちはその災禍とやらを目の当たりにしてはいないが、情報が本当だとすれば、一般人が抗せるようなモノではない。
 というよりも――。

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(俺たちのように・・・日々闘いに身を置く者にとっても、気楽に向かい合える相手じゃない)

 アレクは密かにそう思っている。
 災禍の爪痕は村のいたるところに残っているようだ。
 家屋の屋根や壁が破壊されているのは被害としては軽い方で、全壊している物も珍しくはない。
 かつて住民たちが雑談に華を咲かせたり、集会で用いたであろう村の中央に位置する広場には、まるで隕石でも墜ちたかのような大穴も空いていた。

「話には聞いてたけれど、大したものね」
「大したっていうか・・・。相手にするのかねえ、本当に俺らで」

 ジーニが感心しきりといった様子でいるのに水を差すかのごとく、エディンがため息をつく。
 ”金狼の牙”たちは依頼を受けてここにいる。
 依頼の目的はこの地を見舞った災禍――を、もたらした原因を排除することだった。
 領内で同様の被害が出始めたのは、1年ほど前からだ。
 そして、今なお被害を受ける地域は増え続けており、終息する気配は見えていない。
 ギルはひょいと荷物を担ぎ直すと、仲間を振り返って言った。

「原因はこの村の北西だ。とっとと出発しようぜ」

 村人が掻き集めてくれた保存食は簡素で量も少なかったが、十分に冒険者たちの心と空腹を満たしている。
 一同が動き始めると、白銀の鎧に身を包んだ人物から話しかけられた。

「冒険者殿・・・よいか?」
「ん・・・?あぁ、シニサさんか、なんでしょう?」

 間近にいたアレクが振り返ったため、彫刻のような美貌にやや気圧されながらもその騎士は口を開いた。

「もうそろそろ出立しようと思うのだが。目的地までもう、さほどの距離もないとはいえ、陽の高いうちに到着しておくべきだ」
「そうですね」
「それで準備のほどは――?」
「発てますよ、いつでも」

 簡素だが肯定である返事に、騎士は満足と喜びの声をあげた。
 騎士は今回の依頼における同行者である。
 いや、その表現はいささか正確ではない。
 今回の依頼の主力はあくまで彼ら――騎士団であり、”金狼の牙”をこそ同行者と呼ぶべきだった。
 ――と。
 入れ替わりに冒険者たちの前に姿を現したのは、この村に住む少年だった。

「おーい、待ってよ、冒険者さんたち――と」
「・・・・・・」
「アレクシスのおっさん!」
「お兄さんと呼べ!ひっぱたくぞ、このガキ!」

 アレクはまだ16歳である、そう言いたくなるのも無理はない。
 村の少年は軽やかな笑い声をあげると、ごめんごめんと謝った。
 彼はこの村に到着した時から、なにくれとなく冒険者の一行にまとわりつき、年の近いミナスやお気に入りになったアレクから冒険譚を聞かせてもらっては、瞳を輝かせていたものだ。
 ・・・彼らが語った話は、少しばかり脚色されてはいたが。

「なぁ・・・・・・アレクシス」
「・・・・・・?」
「ぼーけん終わったら・・・帰りにもここに来て、どんなぼーけんだったか話してくれるよな。・・・ねぇ、約束してよ」
「ま、帰り道だしな・・・。飛びっきりの冒険譚を聞かせてやる」

 もう村に危険が降りかかる事もない、と言ってクシャリと少年を頭をひと撫ですると、

「・・・・・・うん!」

と彼は信頼を込めた視線でアレクを見やった。
 親が心配する前にと促され、少年は家に帰ろうと踵を返したが、中途で何かを思い出したようで慌てて立ち止まり、アレクにポケットから取り出した何かを投げてくる。

「あ、そうだアレクシス!これあげるっ!」

 アレクが受け取ったのは、オレンジ色の珍しい木の実だった。 

「じゃあね!」
「・・・・・・」

 走り去る少年を無言で見守るアレクに、アウロラが問う。

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「・・・よかったのですか、軽々しく約束して。今回のヤマは途轍もなく厄介なんですよ?」
「・・・なんだ、達成して帰ってくるつもりがないのか?」
「そんなつもりじゃありませんけど・・・」
「だったら同じさ。依頼が厄介だろうがなかろうが、やるべきことは変らん」

 普段は口数の少ない男が珍しく興に乗じて話をしたのは、ただの同情心や哀れみではなかったらしい。
 落ち着いた挙措のまま出発を口にされて、アウロラも小さく苦笑してから後に続いた。

2013/02/20 20:39 [edit]

category: 暴虐の具現者

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