Thu.

命を失くした話 4  

 ギルバートは依頼人との約束の場所に来ていた。依頼人は、村長の弟だった。

「よォ・・・終わったかい・・・?」
「ああ、首尾は見ての通りだ」
「へっへ・・・こうしてラッシュ村の悪者は消えました・・・とさ。いやはやあんたは英雄だぜ」
「・・・・・・・・・悪いが」
「あん?」
「まだ、依頼は終わっていない。・・・エセル」
「・・・・・・・・・」

 ふらりと木の陰から姿を現したのは、お下げ頭の華奢な少女だった。

「おいおい、困るぜ?こんな小娘だけ生かしても可哀想ってもんだ」

 男は薄暗い月明かりの下もはっきりと分かる、下卑た表情で笑って言った。

「ほれ、手っ取り早く殺っちまいな。それとも、報酬は要らないというのなら別だが」
「いや、報酬は貰う。依頼の内容は”村の人間を一人残らず殺せ”・・・だったな?」

 ギルバートはその童顔に似合わない冷厳な様子でクッと笑った。

「この娘はすでに死んでいる。・・・これを見ろよ」
「な、何だこりゃあ!?」

 依頼人の男の手に、ギルバートが投げつけたのは赤みがかった栗色の髪――その一部だった。
 滑らかな光沢を帯びたそれは、冷たい夜気に晒されてひやりとしている。

「エセルの髪の毛さ。たった今、俺が切った」

 彼は大切な骨董品を扱うように、彼女の髪を掴んだのだ。
 そうっとあてがった短剣は優しくそのひと房を切り取ったが、エセルはぶるぶると震えていた。
 それはてっきり彼に殺されると思っていたからか、村の人間たちが全員殺された後の感情の高ぶりからか――はたまた、求愛にも似たその仕草のせいか。

「こ、これがどうしたってんだ!」
「なんだ、知らないのか。髪は女の命というだろう?だから彼女は今、命を失ったと同じ状態だ。俺は一人から二つも命は取らない主義なんでな・・・!」
「馬鹿なことを・・・!いいから殺せ!これは契約違反だぜ!」
「ああ、殺すさ。依頼の内容は村の人間の抹殺・・・」

 ちゃきり、とギルが握る斧が鳴った。

ScreenShot_20130204_203521789.png

「ならば、あんたも村の人間だ。だったら殺さなければ契約は成立しない」
「は、な・・・なんだとォ!?」
「あんたが望んだことだ。契約が成立しないなら、殺すしかないよなァ・・・?」
「ま、待て。待ってくれ。分かった、報酬は払う。その娘も生かしていい!だからやめろ!」

 報酬が不足だというなら増額するから、とギルバートの本気を感じ取った依頼人は命乞いを始めた。
 その浅ましい姿を見て、ぽつりとギルバートが呟く。

「あんたが依頼した理由だって分かってるんだ。この村の麻薬と、それが生み出す金・・・。あんたが欲しいのはそれだ。俺としては苦労してやった依頼が水泡に帰すのは何とか避けたいんでね」
「わ、分かった・・・!この村の麻薬は全て焼却しようじゃないか!!」
「・・・して下さい」
「!?」

 エセルははっきりと告げた。

「殺して下さい。この人は、人間じゃない」

 丸い瞳に、今まで憎しみを知らずに生きてきた娘の瞳に、並々ならぬ劫火が燃え盛っていた。

「お父さんも、村長さんも、ハリス君も、そのお兄さんも、村の皆が・・・その人に殺された。なのに、全てを手放せば生きられるなんて許せない。私は全てを投げ捨ててももう返してもらえないのに・・・!」
「だ、そうだ。残念だったな」
「ま、待って・・・ひいいいいいいい!!!」

 余計な痛みや苦しみを与える事も出来たが、ギルバートはそうしなかった。
 ただ、村の者たちを殺してみせた様に、重い斧の一撃を脳天に食らわせた。

「・・・ッ」
「我慢しなくていい。泣きたいなら、泣け」

 頬に付いた最後の赤を手の甲で拭い、ギルバートは彼女に向き直った。

「胸くらい貸してやる。気が済むまで待ってやるよ」
「――ッ・・・!うあぁぁぁ・・・・・・・・・」

 エセルは泣きじゃくった。
 もはや誰もいない村に、かつての村人の少女の声が響き渡った。
 翌日、ギルバートはエセルの荷物も担いで、華奢な手を引いていた。

「本当に、良いの?」
「ああ、俺にも責任がある。それに、依頼だしな。俺は君の父親を殺してしまった・・・だから、君だけは・・・」
「良いの・・・村長やあの人との話を聞いて、分かったから・・・」

 エセルは泣きそうになるのをこらえて言った。

「父は・・・父は、長くは無かった。そうでしょう?」

 エセルの父は定期的に煙草を吸っていた。物心ついた頃から吸っていたようだった。
 つまり、相当の長期間吸っていたこととなる。そうなってしまうと禁断症状も尋常ではなくなる。

「君の父の・・・最後の言葉は君の事だった。”よろしく頼む”、と」
「・・・な、泣かないよ。もう、な・・・泣かないって、決めたんだから」
「・・・そうか。エセル」
「な、な、何よ・・・・・・」
「俺の名前はギルバートだが、愛称はギルだ。今度からそっちで呼んでくれよ」
「・・・・・・・ギル?」
「ああ。それじゃ、行くか」

 ≪狼の隠れ家≫についたらツケで奢ってやるよ、とギルバートは・・・いや、ギルは笑った。
 エセルは「ええ、お願いね」と言って情けない顔だったかもしれないが、確かに笑顔であるものを浮かべたのである・・・・・・。

 ・・・・・・――それが、≪狼の隠れ家≫に新しく雇われたウェイトレスの昔話。
 とは言っても、すべてを洗いざらい話してしまうのは、娘さんに対して刺激が強すぎるだろうと、エセルは当たり障りの無い部分だけを説明していた。
 村で忌まわしい事件があって、村でただ一人生き残った自分。それを責任感でもって連れ出してくれた冒険者。
 それ以上の説明はいらない、とエセルは思っていた。

「へぇ~そんな事があったんだ」

と感心したのは、宿の娘さんである。
 エセルはあの閉鎖的な村で生きてきて、今まで働いた事がなかった。
 かつてのミナスのように魔法が使えるわけでも何でもない、ただの小娘である。
 それゆえ、ギルと親父さんがじっくり相談した結果、エセルは色々なことを学びながら、この≪狼の隠れ家≫にて住み込みで働くことが決定したのである。
 今のエセルは、化粧の技術や文字の読み書き、金銭の計算や接客の仕方などを娘さんに教わりながら、どうにか一人で生きていけるだけの力を身につけようと奮闘していた。

ScreenShot_20130204_210200960.png

 だから宿の娘さんは、エセルにとって師匠であり、初めての同性の親友でもある。

「あのギルさんがねぇ・・・。ちょっぴり意外だわ」
「でも、彼が居たから私がここに居られるの。そのことに、毎日感謝してる」
「そうねぇ・・・私も、同年代(?)のお友達が出来て嬉しいわ」
「同年代って・・・娘さん、年齢教えてくれないじゃないですか」
「ふふふ、トップシークレットよ」
「もうっ・・・」

 厨房の奥から親父さんの声が響く。
 仕事しろだの、さぼるなだの、ここ2週間で口癖になった言葉だ。

「さて、エセルちゃん。お仕事しましょ」
「そうですね。午後のお仕事、頑張らなくっちゃ!」
「あら、そういえば・・・。そろそろギルさんが帰ってくる頃じゃない?」

 宿の娘さんが言ったそのタイミングで、ドアが開き、客が入ってきた。
 残念ながらギルではない。

「いらっしゃいませっ!」

 エセルは大きな声で挨拶をすると、輝く太陽のような笑顔を振りまいた。

(そう、娘さんにも・・・・・・そして、親父さんにもみんなにも内緒にしないと)

 エセルとギルバートの、秘密。

「俺の仲間に、この村の人間を皆殺しにしたこと・・・・・・言わないでくれるよな?」

 そう言って弱々しく笑ったギルバートの目の中に、まだあの時の殺意と同じものが潜んでいた事。
 武器を突きつけられるよりも鋭利なその感覚に、エセルはぞくりと身を震わしたのだが、同時にそれを知るのが自分だけである事に歓喜も覚えていた。・・・・・・他にこの「彼」を目撃した人間は、皆死んでしまっているから。

(言わないわ・・・・・・。でも、私だけがそれを知っている・・・)

※収入1000sp※

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■後書きまたは言い訳
36回目のお仕事は、リンクを繋がせていただいている周摩さんのシナリオで、命を失くした話です。こういうシビアな一人旅やってみたかった!

若者男性PCのソロシナリオという事で、”金狼の牙”ではギルかアレクが該当するのですが、ReadMeにある諸注意を読んだら「これはギルだろう」と思いまして・・・。というのも、私も最近まで知らなかったんですが、ギルの性格って一番突出してるのがなんと狡猾なんですよね。そう、以前に「翡翠の海」で罠作りにギルが貢献してたのって、どうも器用さではなく狡猾な部分だったようで・・・・・・うわあ。ごめん、私がドン引いた。
でも、彼の場合は腹黒いところを隠してるというよりは、天然で白と黒が入り混じってて(混沌派なので)、その上で黒い部分がとっても狡猾なんだっていう方がしっくり来ると個人的に思っています。

何だか途中、非常にエセルに対してエロティック未満なことをやらかしていますが、殺意とエロティックって紙一重ってことなんでしょうか?周摩さん、非常にシリアスな素晴らしいシナリオに対して、こんなリプレイの出来ですいません・・・これが私の精一杯でした。(ばた)

当リプレイはGroupAsk製作のフリーソフト『Card Wirth』を基にしたリプレイ小説です。
著作権はそれぞれのシナリオの製作者様にあります。
また小説内で用いられたスキル、アイテム、キャスト、召喚獣等は、それぞれの製作者様にあります。使用されている画像の著作権者様へ、問題がありましたら、大変お手数ですがご連絡をお願いいたします。適切に対処いたします。

2013/02/07 20:40 [edit]

category: 命を失くした話

tb: --   cm: 5

コメント

大感謝!

うわわわわ、何だろうこの感覚は……!
むず痒いというか何というか、そう、恥ずかしいっ!
嬉しいけど恥ずかしい! ナニコレー!?

拙い出来のシナリオをここまで補完してくださってありがとうございます。
シナリオの方のエンディングは少し投げやり感がありましたが、綺麗にまとまっちゃってまぁ……!

バージョンが1.00のままでして、ろくに見直していないシナリオでしたが、こうして見ると見逃しちゃ行けない粗が見えてきちゃいますね……
なんだか申し訳ない気持ちでいっぱいなので、補完的なSSでも書こうかと思います。
いや、良いもの見させて頂きました。
ありがとうございましたっ!

URL | 周摩 #xomJgpUE | 2013/02/07 22:01 | edit

はじめまして

こちらでははじめまして。なにげにちょくちょく寄らせていただいておりました。
拝見していて思いましたが、やっぱり色んなシナリオがあるものですね。
僕はほとんどやった事がないシナリオばかりですが、ネタバレとかあんまり気にしないタチなので、ガンガン読まさせて頂いております(笑)この先も楽しみにしております。
金狼の牙メンバーでは、エディンがお気に入りです。ああいう大人キャラは頼りがいがあっていいですね。

URL | 天河 #- | 2013/02/08 00:45 | edit

コメントありがとうございます!

>>周摩さん
嬉しいお言葉、ありがとうございます!
拙い出来なんてとんでもない。せっかくエセルに感情移入しやすい一人称を三人称の文章にしてこのリプレイの出来・・・周摩さんをがっかりさせてしまったのではと、戦々恐々しておりました。
補完SS・・・というと、以前にお話いただいてたあれでしょうか!?(どきどき)
よ、読みたい・・・・・・。
それにしても、ギルってこうやって改めて見るとドSのヤンデレですね。とんでもない奴だ。エセル本当ごめんよ。

>>天河さん
こちらでははじめまして、ようこそいらっしゃいませ!
ちょくちょく・・・おうふ、拙いリプレイばっかりですいません。全くの小説風に書く、ということが出来ず、選択肢の赴くまま地の文を書かせてもらってるのですが、楽しんでもらえて何よりです。
エディンは、ああいう大人いてくれないと纏まらないですね、このパーティ。(笑)
傍目はただの眠そうなおっさんなんですが、酸いも甘いもよく心得てる人なので、どうにか仲間の手綱握ってて欲しいと思います。(笑)

URL | Leeffes #uzssGd3A | 2013/02/08 07:42 | edit

DLしたものの埋もれていたシナリオだったけれど、何とも面白そう。
リプレイとかシナリオ感想とか、見落としてた名作が見つかるのが楽しみです。
PCの性格設定をシナリオ側が拾ってくれた時はCWやってて良かったと思える瞬間なんですが…堅物な僧侶のつもりで作ったPCが「ござる調のナイト」になってた時はどうしようかと思いました。

URL | 堀内 #wKzDXcEY | 2013/02/08 17:44 | edit

コメントありがとうございます~

堀内さん、再度のコメントありがとうございます。
このシナリオ埋もれていたんですか?なんという偶然、ぜひぜひプレイをお奨めさせていただきます。
私も、他所のリプレイやシナリオ感想の文章自体も楽しんでおりますが、気になるシナリオが見つかると「おおう、これは・・・!」と興味をそそられますね。
PC性格設定についても、リプレイを始めたせいか、余計設定に合ってると歓声を上げたくなります。そう、口調がてんで合わない時とか、大爆笑する事ももちろんありますが・・・。(笑)

URL | Leeffes #uzssGd3A | 2013/02/08 19:22 | edit

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