Thu.

命を失くした話 2  

「ん、んう・・・」

 エセルは真夜中に目を覚ました。
 普段なら朝までぐっすり、もしくは日が高くなるまで眠っているのに・・・。
 彼女は額の汗を拭った。何か、夢を見ていた気がする。相当に悪い夢だったのかもしれない。

「・・・着替えてこよ」

 全身汗だくで気持ち悪かった。干し終わった着替えは裏口の籠に置いたままだ。リビングを横切らないと――。

「・・・え?」

 目の前に――。

「え?え、え・・・!?」

 リビングには喉から血を噴き出して死んでいる男の死体があった。
 エセルは訳が分からず、ただ恐怖に叫んで後ずさりする。
 そして、その死体が見慣れた顔であることに嫌でも気づく。紛れも無い、彼女の父だ・・・!

「いやあああああああああああ!!」

 エセルは未だかつて味わったことの無い恐怖に混乱し、訳も分からずに外に出た。
 もはや何も考えられなかった。
 昼に、野良犬にじゃれられた階段には、死体が二つ転がっていた。
 見紛うはずも無い。夕食の席でギルバートに話したハリスと彼の兄だ・・・。

ScreenShot_20130204_190055296.png

 悲鳴を上げてそこを抜けるも、家を出たエセルを嘲笑うように家から出た彼女を待っていたのは、死体のいる風景ばかり・・・。

「いや!いや!こんなのいやああああ!!」

 ともかく人に会いたいと思ったエセルは、村長宅へ逃げ込んだ。

「はぁ・・・はぁ・・・」

 村長宅へ辿り着いたエセルは力なくぺたん、と床に座り込んだ。
 今までに有り得ない程に全速力で走った事と、精神的な疲弊が原因である。
 未だに頭の中が混乱して何も考えられない。
 人が死ぬ様を見たことの無いエセルには刺激が強すぎた所為もあっただろう。

「ひっ・・・!?」

 奥の部屋から、何かが壊れる音がした。誰かがいるのだ。
 しかも、普段の生活の中で聞くような音ではなかった。
 あれは、ドアや木箱を蹴破るような荒々しい破壊音――エセルは再び恐怖が蘇り、全身がぶるぶると震え出した。
 この場から逃げ出したかったが、エセルは何故か奥へ続くドアに向かった。

「何・・・やってるんだろ・・・私・・・」

 そう、彼女は『思い出した』。夢だ。さっき見ていた悪夢だ。

(だったら私は、見なくてはならない――)

 それが好奇心だったか、生きていることに対する責任感なのか・・・彼女はそこまで頭が回らなかった。
 そしてドアを開けると――そこは下りの階段になっていた。
 その先に何があるかは分からない。
 エセルは身体を震わせながらも一歩一歩、音を立てずに下っていった。

(そんなに長い階段じゃない・・・)

 少し下ったところに開け放たれた扉を見つけた。

「地下室・・・?村長の家に、そんなものが・・・?」

 エセルは訝しがりながらも、極力音を立てないように扉をくぐる。 
 すると倉庫のような場所に出る。村の近くの草原の匂い――所狭しと保管された樽の中から、匂いがするようだった。
 なぜ草を保管してあるのか、村長の意図はエセルには分からない。

(いや、村長は煙草を吸っていたっけ。確か寄り合いのときはお父さんも吸ってた・・・)
(もしかしてこれは煙草?)
(でも何故ここにだけこんなに大量にあるの?)

 保管が難しいわけでもないし、草は村の近くにいくらでも生えている。
 エセルの父も吸っていたのだから、家にあってもおかしくは無かったはずだ。

 ぱしゃっ。

「・・・・・・・・・?」

 不意に、奥に進むドアから水を床にぶちまけたような音が聞こえた。
 そして、それに次いで聞こえたのは何かが倒れる音。それは階段の先のドアから重く、重く屋内に響き渡った。
 また、さっきと同じような水音。
 それに続く音は――、

「うわああああああああ・・・!!」

 ――絶叫だ。
 エセルの頭の中はまたしても混乱に混乱を招いていたが、妙な使命感が彼女の足と手を動かしていた。
 彼女はまったくの無音と言っていいくらいの動作でドアを開けた。
 ・・・案の定、そこはバケツの水を引っくり返したように大量の血液がぶちまかれて、その中に一人の男が佇んでいた。
 それは紛れもなく――。

ScreenShot_20130204_195752304.png

「エセル」

 ギルバートの姿だった。
 誰の血なのか良く分からないが、彼はこれでもかというほど血塗れだった。

「ギルバート・・・?」
「ここまで来ちゃったか。なら見たかい、これまでの死体を?」

 エセルは嫌な記憶が蘇り、力なく首を縦に振って肯定した。
 ギルバートの顔は、恐ろしいほどに無表情だった。

「それじゃ、向こうの野草も見たな?」

 エセルは再び頷く。
 ギルバートは≪護光の戦斧≫についた血を拭っていたが、すぐその布を投げ捨てた。

「あれ、は・・・ギルバートが、ギルバートがやったの?村の皆を・・・?」

 重い沈黙が二人の間を包む。
 エセルの眼を真正面から捉えて「そうだ」とだけ言った。

「理由はこれからの会話を聞けば自ずと見えてくる・・・その辺の物陰に隠れていろ」
「・・・・・・・・・!」

 エセルは反射的に、近くの本棚の陰に隠れた。
 ギルバートの声は低く、威圧するような声だった。今までエセルに見せてきた姿とは大違いの――。

2013/02/07 20:10 [edit]

category: 命を失くした話

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