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少年老いず瞳ばかりが 1  

 ふとミナスは昔の事を思い出した。
 冒険者を始めたばかりの頃――そう、エルフの隠れ里が対立していたダークエルフの手によって焼き討ちに遭い、命からがら逃げてリューンまで辿り着いたとき――あれに比べれば、ずいぶん余裕ができたものだ。
 あの日のミナスは、まだ幼い子供だった。

 しかし今のミナスもまた・・・子供であった。

 ミナスは不思議な空間に立っていた。
 ・・・とは言っても、不思議なくらいが自然だ。
 ミナスは眠っていて、ここは夢の中なのだから。

 足元は浅いが、ずっと同じ場所に立っていたらどこまでも沈みこんでしまいそうな沼。
 ミナスの左足のすぐ横には・・・息絶えたウィードが浮かんでいる。
 まだあまり時間は経っていないようだ。

「・・・どうしてこんな所に、ウィードが・・・?」

 小首を傾げながら周囲を見渡してみると、死体はひとつではない。
 ゴブリンや、オーガや、何故かバジリスクのものまである。生態系などまるで無視だ。
 ・・・ミナスの深層心理だろうか?

(これ・・・・・・違う、知らない所じゃない。ここは隠れ里の沼、ケルピーが宿っているから注意しろって言われたのに、僕が言うこときかないで遊んで溺れたところだ・・・)

 ミナスの視線が、不安げに揺れる。

(じゃあ、ここ・・・・・・隠れ里?戻ってきた?)

 周囲を見渡してみると・・・。
 数匹の召喚獣を従えた、返り血にまみれた青年がぽつんと立っていた。
 この囲われた世界の殺戮者がミナス自身ではなかったことに、少しだけ安堵を覚えている。

(・・・なんで僕、そんな理由でほっとしたの?)

 己の心理を掴みかねながらも、ミナスはじっと青年を観察した。

 それにしても、何てたどたどしい剣の持ち方をしているのだろう。
 あれでは、明日には腕が痛くなってしまう。
 ミナスの視線の行き先に気付いたのか、何もない紫陽花色の瞳がミナスを捉えた。

(・・・怖い)

 この辺りに落ちているものと、同じようにされるのだろうか?

 しかしここは夢の中。
 目が覚めて、昨日の宴会で疲労したミナスの身体を少し回復し損ねるくらいかも知れない。

 青年が不意にこちらへ一歩踏み出した。
 その、青年の影が不自然に歪んで――――。

(――!!影に精霊が潜んでる!!来る!)

 ミナスは華奢な腕で咄嗟に≪森羅の杖≫を構えた。
 精霊の加護を受けた古い樹木の杖・・・・・・。精霊使いとしてエルフとして、これほど頼りになる相棒はいない。
 その構えた杖ごと、ノームの力強い腕が叩く。
 重すぎる一撃に、思わずミナスは3mほど後ろにすっ飛ばされた。

「くっ・・・・・・!出でよ、渓流の魔精ナパイアス!」

 ミナスの身体をたちまち沼とは違う清水が覆い、青年へ鋭い水の槍が突き刺さる。
 青年は何も言わない、悲鳴も上げないという異様さで、自分の白い衣服に飛んだ赤い色を見つめている。

ScreenShot_20130201_192657968.png

 やがてそれに飽きたかのように、視線を上げるとまたノームを使役して、攻撃をこちらへと誘導してきた。

「がっ・・・!は・・・・・・」

 年よりも小柄な身体が、吹っ飛ばされて柔らかい沼の泥土に落ちる。
 ミナスの薄紅色の頬についてしまった泥を、召喚されたナパイアスが気の毒そうに撫でた。
 そして、そのまま青年をギラリと鋭く睨みつけ、一気に激流で彼を押しつぶそうとする。

『好かない小僧だ、ミナスやっちまいな!』
「イフリート、火の精霊王よ!汝が息吹の一部をここに!」

 ミナスの手から、【炎の玉】と見紛うばかりの大きな火球が飛び出す。
 赤々と燃える火球は、あっという間に青年の身体を押し包んだ。

 青年が、体の限界に達してがくんと膝をつく。彼に組していた召喚獣たちがばらばらと逃げていく・・・。

(どういうこと・・・?正式な契約でないの?)

 正式な【精霊術師の徴】を持つ者がいれば、よほど適正に相反するような精霊でなければ、黙っていても寄って来るのが普通だ。
 青年のように召喚した精霊たちが逃げ出す、なんてことはあり得ない。
 ましてや、ここは×××とはいえ、ほとんどの者が精霊を扱う隠れ里の一部なのだ。

(×××・・・・・・・・・そうだ、ここは、夢、の中・・・・・・)

 どうやら戦意は喪失したようだ・・・いや、元々そんなものは存在しなかったのかもしれない。
 意識と喋れるだけの体力を残して相手を伸すのは、あなたには――ミナスには、そう難しい芸当ではなかった。
 聞こえは悪いが、冒険者には必要なスキルだ。

 もちろん相手によっては止めをさしておかなければ危ないが、この青年は自分に対して殺意があるようには見えないのだ。
 手加減せず自分を殺そうとしていたのは間違いないが、しかし殺意はない。

 ・・・矛盾しているが所詮夢の中である。
 この青年はミナスの安眠を妨げたかっただけなのではないかとさえ、思える。

2013/02/05 19:41 [edit]

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