Sat.

子供狩り 5  

 城主の部屋に隠し階段があるのは、珍しいことではない。
 多くは緊急事態のための避難用通路だったり、愛人の部屋に繋がる秘密の通路だったりする。
 しかし、冒険者たちが緊張しながら降りたそこは、そのどちらでもありえなかった。
 彼らの嗅覚が、嗅ぎ慣れてはいるが親しみを感じない匂いを捉えた。血だ。

 壁側で蝋燭の明かりがゆらゆらと揺れている。
 頼りない光源だったが、部屋の規模を推し量るには充分だった。ごくごく小さな部屋である。
 武器や、おそらくは拷問用の器具が、所狭しと立て掛けられている。
 床に視線を落とすと、赤い染料――恐らくは血――で描かれた魔方陣が見えた。

「誰だ?そこにいるのは・・・・・・」

 長い黒髪は自然なウェーブを描いて、肩に広がっている。
 端整ではあるものの、妙な顔色をしたまったく親しみのもてない男――彼がオーギュストだった。

「ふん、汚らわしい身なりだな」
「祭壇への供物が増えましたな。ほっほっほ」
「ハン、何だって?」

 すっかり気分を害しているエディンが、小指で耳の穴をほじりながら言った。

「このような者たちを捧げたところで、悪魔もそう喜びはしますまいが。儀式の彩りにはちょうど良いでしょう」

 魔術師らしき男は、ひび割れた唇を吊り上げて笑う。
 領主オーギュストは冒険者にさして興味もないらしい。魔方陣上の幼女に熱っぽい視線を注いでいる。

「アウトだ・・・・・・これ、完璧に頭逝っちゃってるよ・・・」
「そんなの、あの日記読んだ時から分かってたじゃない、ギルバート」

 ばっさりと切り捨ててから、ジーニは魔術師に視線を向けて鼻で笑った。

「血の魔方陣、それに拙い祭壇・・・・・・。召喚の手法が間違いだらけだわ。恥ずかしいったらありゃしないわね」
「・・・・・・なんだと?」
「ああら、気に触った?ごめんなさいねえ」

 魔術師を挑発していたジーニだったが、横から早く幼女の断末魔と血を感じたいオーギュストに遮られる。

「何をぶつぶつと言っている。命乞いなどしても無駄なことだ」
「誰がするか、ど変態」

 毛虫を見るような嫌悪を込めてジーニが吐き捨てる。
 だが、オーギュストは幼女に向けていた剣をこちらに振るおうとして、はたと手を止めた。
 彼の視線は、美形率がきわめて高いエルフ族でも群を抜いているミナスの顔。そして身体、四肢をじっとりと舐め回している。

ScreenShot_20130131_131849718.png

「子供がいるではないか。おお、それも、なんと・・・・・・美しい・・・・・・」
「・・・・・・うえええ、なんかあの人の視線気持ちわるっ。寒気がするっ」
「ちょっと、うちの子を変な目で見るの止めてくださいません?」
「おお、しかし、その美しさはすぐに失われてしまう。年齢とともにみるみる腐敗してゆくのだ」
「・・・・・・ミナスはエルフだから、あんたより老化はよっぽど遅いと思うけどな」

 ぼそりと、アレクが呟いた。

「耐えられぬ。このような美を、ただ腐敗するに任せるなど・・・・・・おいで。私の手でその美を永遠に留めてあげよう」
「・・・・・・・・・けるな
「この剣でその首を落として、私の寝台に飾ってあげよう。悪魔にくれてやるのは勿体無い。寂しくはないぞ、毎日話をしてあげるから」
「・・・・・・けるな
「さあ、おいで・・・・・・」
ふざけるな!!

 ミナスは怒鳴りつけた。

「冗談じゃない。あんたにくれてやるほど僕の体は安くないよ!」

 花の街ファレンに行った時のことが、ミナスの脳裏を巡る。
 聖北教会から捨てられた街。しかしアウロラの台詞を思い出したあの日――。

(神様は、もしかしたら各人の心の中にいるのかもしれません。同じように、悪魔も。私が神様に捧げる祈りは助けを求めるのではなく、祈ることで自分の意思をくじけないようにしているのですよ。)

「悪魔なんてわざわざ呼び出すまでもない」

 一歩、前に進んだ。

「自分を省みてみなよ?あんたの中にいるよ、それは」

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 ≪森羅の杖≫を構えて、ミナスは双眸に力を込めて領主を睨み付ける。

「・・・・・・『野盗』に斬られて死ぬのが似合いだよ」

 その台詞に、オーギュストは口端を軽くあげただけだった。
 そしてもう有無を言わさぬとばかりに、まっすぐ切り込んできた。
 オーギュストの大剣が唸りを上げて【薙ぎ倒し】を仕掛けてくる。
 斧の重いギル、渾身の一撃を放とうとしていたアレク、もともと足の遅いジーニが怪我を負うものの、前もってかけた防御の魔法のおかげでかすり傷に終わっている。
 もう少し広い部屋であれば、もっと散開して自分達の間合いで攻撃を出来るのだが・・・。
 果たして精霊の思考でそれに気付いたのか、ミナスが呼び出していた渓精ナパイアスは、気まぐれにも激流の壁を作り上げて術者を守る構えだ。
 その水の壁の前を、二人の戦士が走り抜けていく。

「そうら、お返しだ!」
「・・・子供の無念、晴らさせて貰う!」

 ギルの【風割り】と、アレクの渾身の一撃が領主を叩く。
 エディンは魔術師が魔法を唱える隙を与えまいと、レイピアの先に宿った魔力を釘のように魔術師の足に突き刺し、動きを束縛する。
 そこへ護身用ナイフを振りかぶったアウロラが攻撃を仕掛け、ジーニはオーギュストの行動力を奪おうと、【火炎の壁】を唱えて炎でなぎ払った。

「馬鹿な・・・・・・こんなっ!?」

 あっという間に重傷に追い込まれたオーギュストが、大剣で半ば自分の身体を支えながら叫んだ。
 【暁光断ち】という技のために腰を捻るように構えたギルが、にやりと笑う。

「あの世で悪魔に会ったら言ってみな。俺を仲間に入れてください、ってさ!!」

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 ・・・・・・幼女を家へと帰した冒険者は、すでに帰路についていた。
 止んでいたはずの雨が、再びぱらぱらと降り出している。
 村では宿を断られた。

「失礼しちゃうわよねえ」
「まあまあ。カナナン村みたいな所ですもの、泊まらないのが正解なんじゃないですか?」

 突然に領主の支配から解き放たれた村人たちは、ひたすら困惑していた。
 困惑しながらも、「悪いが出て行ってくれ」と冒険者ににべもなかった。
 ・・・・・・そんな態度を取られても、彼らは変わらない。変わらずにここまできたのである。
 ”金狼の牙”の中で、一番前をアウロラとジーニが連れ立って歩いていた。

「本格的に降り出す前に、雨をしのげるところが見つかればいいんだけど」

 天を仰いで、半ば諦めたように言ったジーニは、雨音の中に歌声を聞きつけた。
 アウロラが、小石を蹴りながら老婆の家で聴いたわらべうたを歌っている。

ScreenShot_20130131_134820921.png

「あら、また歌? 吟遊詩人にでもクラスチェンジするの?」
「それもいいかもしれません」

 からかうような声音に対して、アウロラは微かな苦味を帯びた笑いを浮かべた。
 今の自分の実力では、あの幼く哀れな魂たちを本当の意味で救うことが出来なかった――この苦い経験は、むしろ歌として昇華するべきではないだろうか、と。

「・・・・・・城で見つけた日記によると、昔の領主もああいうことをしていたそうですね」
「ああ、うん。十六代目の人?」
「この歌はきっとその頃生まれたものなんでしょう」
「でしょうね。それにしても、よく歌詞を覚えてるわね」
「繰り返しが多いし、なんだか印象深くて。リューンで歌ったら流行るでしょうか」

 でも忘れた方がいいのかもしれない、と悩むアウロラに、ジーニは静かに言った。

「忘れなくてもいいんじゃない?」
「・・・・・・そうですね。語り継いでいくこと。後世への警告とすること。それがきっと死んだ子たちへのはなむけになる」

 雨に降られながら道をゆくと、小さな看板と柵が見えた。ここが村のはずれのようだ。
 そこに一つだけ、人影が見える。

「・・・・・・待っていたんですか?雨が降っているのに」
「・・・・・・・・・・・・」

 青年は答えず、黙ったまま、冒険者にむかって深く頭を垂れた。
 雨の中へ消え行く冒険者の姿を、青年はいつまでも見送っていた。

※収入0sp、【亡霊の哀哭】≪翡翠の首飾り≫≪女神の杖≫≪人形≫≪聖水≫×3≪傷薬≫×3≪森のキノコ≫×2※

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■後書きまたは言い訳
34回目のお仕事は、柚子さんのシナリオ・子供狩りです。ぶっちゃけた話をすると、同氏の「滅びの呼び声」とどっちやるかものすごく悩みました。ただ、こちらの作品だと、前回プレイからの流れでアウロラに呪歌フラグが確立するのですよね。それにせっかくパーティに秀麗な子供がいますので・・・やらない手はないな、と。(笑)
それから、ファレンの騎士でアウロラが言った台詞が、こんなところで伏線になるとは思いもしませんでした。リプレイってこういう奇跡あるんですね・・・。

スキル【亡霊の哀哭】は、癖があるけど前準備に使うと割と強いスキル(呪縛や睡眠が敵全体、ただし出現低確率)なので、「召喚術士一人旅」のルルエルさんみたいに使いこなせたら・・・!とか思ったんですが、ミナスに適正がありませんでした。
アウロラなら適正ばっちりなんだけど、流石に僧侶が使うのはまずいので売るしか・・・。(涙)

今回のシナリオをきっかけに、”金狼の牙”たちは、ちょっとパーティの方向性やらバランスやらを見直します。
そのため、次回はオリジナルストーリーです。

当リプレイはGroupAsk製作のフリーソフト『Card Wirth』を基にしたリプレイ小説です。
著作権はそれぞれのシナリオの製作者様にあります。
また小説内で用いられたスキル、アイテム、キャスト、召喚獣等は、それぞれの製作者様にあります。使用されている画像の著作権者様へ、問題がありましたら、大変お手数ですがご連絡をお願いいたします。適切に対処いたします。

2013/02/02 21:41 [edit]

category: 子供狩り

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