Sat.

子供狩り 3  

 蹄の跡を追いかけてきた冒険者たちは、しかし森の中の泉のところで止まってしまっていた。
 追ってきた馬の足跡は、完全に他の動物のそれに紛れてしまっている。
 おまけに泉へ水を飲みに来たらしい熊とも一戦を交えて、ますます跡が分からなくなってしまった。

「見失ってしまったわね」
「・・・どう思う。本当にあの女の子がさらわれていたとして、今回の依頼と関係があると思うか?」

 静かにアレクが問題を提議すると、ジーニが厳しい表情で彼を見やった。

「依頼人は曖昧に『村を救ってくれ』と言うだけだったわ。なにがなんだか分からないから調査をしていたら、これよ」

 杖の先でぐちゃぐちゃになってしまった蹄の跡を突付く。

「関連性があるとみるのが妥当か。辺境の村で、同じ時期に、二つの事件が平行して起こる可能性というのも考えがたいしな」
「・・・・・・で、手がかりを失ったわけだけど」

 どうする、と一同は顔を見合わせた。
 ぽつりとアウロラが、

「村長の口を割ることが出来れば、話は早いんですがね」

と言うのを聞いて、ジーニは「アンタ時々怖いわよね・・・」とやや青褪めながら応えた。

「口を割らせるのは村長じゃなくてもいいでしょう。村人もある程度事情を知っているはずよ」

 ジーニが注目したのは、こんな田舎の村にありがちな性質だった。
 隣家の子供が風邪を引いた程度のことが、すぐ閉鎖的な村の噂になることを彼女は今までの冒険で学んでいる。
 何か異常が起こったとしたら、それを一人で隠し通すのは至難の業であることも。
 こうした片田舎では、横のつながりが強い。貧困と戦う為の手段でもあるから、仕方ない面がある。

「さて、どうするかね。ガキのことを考えると、あまり時間はねえな・・・・・・」

とエディンは嘯いた。

「村に戻ろう。最初の木こりでも誰でもいい、子供がいなくなったことを言えば、協力する大人がいるかもしれない」

 リーダーの決定に皆が頷き、移動を始めたが・・・・・・。
 シュッ!!!と鋭い音が森の中を横切った。
 それが何かと正体を当てる前に、アレクが咄嗟に抜き放った≪黙示録の剣≫で切り払う。狩猟用の矢だった。
 アウロラの足元に落ちたところをみると、本を抱えただけの軽装に見える彼女をわざわざ狙ったのか。

「誰だ!」

ScreenShot_20130131_110354937.png

 誰何の声に、慌てたらしい人影が森の奥へと消えていく。

「追うぞ!立てるか」
「――いえ、かすりもしなかった。たいした技量ではありません。あれは村人ですね・・・・・・」

 見やれば、すでにエディンとギルが走り出している。他のメンバーも急いで後を追った。
 10分と経たないところで、ギルと同年代くらいに見える青年がうずくまっている。

「うっ・・・・・・くっ」

 足を庇うようにしたその様子から、おそらく足元の木の根に引っ掛け、逃げ遅れたのだろう。
 彼の手には弓もあった。

「敬虔な僧侶を狙ったりするからこんなことになるんです」
「さて。吐いてもらいましょうか。どういうつもりか」

 ジーニが杖の先の髑髏で、青年の顎を掬うようにして言った。

「・・・・・・誰が、あんたたちなんかに」
「あぁん?今なんつった、この青二才。焼肉にするぞ」
「ジーニ、落ち着け。ミナスがいるぞ」

 エディンが黒いローブに包まれた肩をとんとんと叩いて抑える。
 ドスのきいたジーニの声にびびったか、青年は冷や汗を掻いていた。

「アウロラ、アレク。ミナス連れて下がっていてくれ。エディン、ジーニ」
「皆まで言うなよ、リーダー」
「ここは大人のお仕事よ。ねえ?」

 顔色を窺って一番いい手段を選ぶのがエディン、直接脅すのがジーニ・・・ギルは二人の護衛だ。

「おとなしく吐いてくれなきゃ、痛い目を見ることになるわね。・・・・・・どんな風に痛い目を見るか知りたい・・・・・・?」
「・・・・・・・・・」
「冒険者なんてやってると、色んな知識が身につくものでね。たとえば」

 ジーニは杖で青年の右手を押さえつつ続ける。

「指と爪の間、眼球、足の裏。そんな場所を責められたら、大の大人でさえ泣き叫ぶそうよ。・・・・・・試してみる?」
「・・・・・・っ!」

 青年の顔に脅えが走った。後ずさろうとするが、背後を押さえたエディンがそれを許さない。
 ジーニが畳み掛けるように脅しを続けると、青年は声にならない悲鳴をあげた。
 首をぶんぶんと左右に振っている。

(おい、そろそろやりすぎだぞ)
(さっきの憂さ晴らしに決まってるじゃない、やーねー)

 大人コンビは目線で会話をしつつ、青年の脅迫、いや情報収集を続ける。

「・・・・・・セシルという女の子が姿を消したわ」

 青年が息を呑むのが分かった。彼は冒険者を見上げ、言葉の続きを見守っている。

「知っているでしょう?村の女の子よ。彼女の持っていた人形だけが、置き去りにされていた」

 協力してくれないか、というジーニの発言に青年はしばらく黙っていたが。

「・・・・・・。俺の末の弟はセシルのことを好いていた・・・・・・」

 青年は憂いを帯びた目を地面に落とした。諦めたような溜息が漏れる。

「村のためを思うのなら、協力して。力の及ぶかぎり、あんたたちを助けると約束するわ」
「・・・・・・・・・」

 青年は長い間うつむき、葛藤しているようだったが、やがて顔をあげるとついに深く頷いた。
 離れていた仲間を呼び戻し、青年からこの村の事情を聞き取ったが――なんとも無残なものだった。

ScreenShot_20130131_112731031.png

 一昨年の秋頃からだった。
 この土地の領主であるオーギュストによって、近隣の村もこの村も子供がさらわれているという。
 領主はとかく蛮勇で知られた男で、敵国でも恐ろしいと噂に上るほどだったのだが、先ごろ、領主の弟が乱心して国王に切り掛かったかどで処刑され、オーギュスト自身も地位を剥奪されて、財産の多くを没収されてしまったらしい。
 この森の東にある城ひとつ、それがオーギュストにお情けで残されたものだった。いくつも所領を賜っていた身としては、とんでもない屈辱であろう。
 しかし、それは村人になんら関係のないこと。
 重要なのは、あの城に連れてゆかれて帰ってきた子供が、一人もいないということなのだ・・・・・・。

「なーんで抵抗しないのよ?っていうか、国に訴え出ることはしないの?」
「厳密に言えばもう領主ではありません。が、実際は、あの御方は今でもこの土地の領主なのです」
「どういうことだ?」

 アレクが問いかける。

「表立っては、あの御方は全てを失い、ただの平民に身分を落とした、ということになってはいます。しかしお国はその武勲を無視できなかったのでしょう。一城とこの貧しい村々をあの御方に残されました」
「・・・・・・つまり、この村は国からオーギュストに捧げられた生贄だと?」

 青年は力なく頷いた。

「私達、村人にとって領主というのは・・・・・・神にも等しい存在なのです。逆らうなんて・・・・・・考えるのも恐ろしいことです・・・・・・」
「ケ、なーにが神様だよ。悪ィが、俺から言わせればただの寄生虫だ」

 エディンは、ペッ!と地面に唾を吐く。

「王も領主も自分が一番偉いなんてツラをしているが、その実、民がいなけりゃ成り立たないのはあっちだろ。どれだけ賢君と呼ばれようと、結局は民から搾取する立場であることに変わりはない。効率の問題くらいさ。それをはきちがえて、頭がおかしくなる奴の多さときたら!反吐がでるね」

 そこまで鋭い口調で言い募ると、それ以上彼は語ろうとしなかった。
 しかし、他の仲間たちには分かっていた――バルツの街の領主、トラップ男爵。
 エディンの一番弟子や他の冒険者たちを楽しみの為に殺していた貴族、彼もまた、自分を神と間違えた人間だった・・・。
 話の向きを変えようと、ギルは依頼人の男性について尋ねてみる。

「この、翡翠のペンダントくれた奴なんだけど」
「・・・・・・彼だけが・・・・・・『助けを求めるべきだ』と言っていました。いくらオーギュスト様といえども、こんな横暴は許されるべきではない、と。・・・・・・私たちは彼が恐ろしかった」
「いいこと言ってるじゃん」
「たとえ何をされても、私達はただ奴隷のようにあの御方のために働き、そして耐えるしかないんです。今までだってずっとそうしてきた。なのに今更、何を言い出すのかと。焦った村人達が村長の命を受けて、・・・・・・彼を襲いました」
「やれやれ・・・」

 アレクは困ったように頬を掻いた。薄々は察していたものの、なんともやりきれない。
 ギルが依頼人の男の死に際について話をすると、青年は涙ぐんだ。

「彼は・・・・・・死の間際まで子供たちのことを・・・・・・私達のしたことはやはり間違っていたのでしょうか・・・・・・」

 がっくり項垂れていた青年が、ふと頭を上げて縋るような目線で話を続けた。

「あなたがたは・・・・・・やはりオーギュスト様を・・・・・・」
「倒すことになるでしょうね。依頼内容は『この村を救うこと』だった」
「けど、この国を敵に回すことにはならねえのかな」

 エディンが心配しているのはそこだった。オーギュストを退治する事に関しては、彼は躊躇いはない――問題は後ろ盾の方である。
 確たる後ろ盾のない者たちが貴族に手を出すのは、後が面倒になるケースが圧倒的に多い。できることなら、対立している貴族や国、あるいは教会勢力なりのバックアップがあるのが望ましかった。
 だが、それを青年は小さな声で否定した。

「・・・・・・その心配はないと思います。さっきも言ったとおり、あの御方は本当はもう領主ではありませんし。国と各領のつながりも希薄です」
「・・・あの山奥の廃教会の魔術師といい、今度の件といい、この国マジで大丈夫か」

 エディンはふと遠い目になった。
 青年はといえば、「恐ろしい」だの「本当にあのオーギュスト様を」だの繰り返している。
 よほどに今の奴隷に等しい生活が身についてしまっているものか、抵抗するという考えそのものが頭に浮かばないらしい。
 羊皮紙の切れ端を取り出したギルが、「要点を纏めよう」と小型の羽ペンを手に取った。

「そんじゃ、エディンから発言どうぞ」
「城に子供たちが連れて行かれている、と。食料や雑貨を運ぶ人以外は、入城を禁じられているわけだ」
「だから、内部がどうなってるかは分からない・・・ってことだよね。慎重にいかないと」
「・・・ここ数年兵士の姿を見た者がいないというのは、おそらく解雇されたんだろう」
「戦で恐れられていたわけですから、領主と一対一になったら危ないでしょうね」
「なるべくそうならないことを祈っておいてね、アンタの神様に」

 分かりやすく現状を把握した”金狼の牙”一行は、「さて!じゃあ行くか!」というギルの号令に立ち上がった。

「・・・・・・皆さん」

 青年がそれを呼び止める。

「私はまだ・・・・・・、領主様に逆らうなんて愚かなことだという気がします。けれど、もし皆さんが、本当に成功したのなら。・・・・・・きっとそれは正しいことなのでしょうね」
「は?何言ってんの?」

 ギルは首を傾げた。

「こんな状況に甘んじているのはおかしいと、間違いなのだと。皆さんが証明しては下さいませんか・・・・・・」
「そんな責任は負えないね。あんたの気持ちの改革まで、面倒見ていられないよ」

 あっさりとギルは青年の懇願を拒否した。

「俺たちが正義だから領主を倒すわけじゃない。依頼を貰った上で、そうしたいからそうするんだ。自分が正しいと思ったことが、他の人にも正しいなんて誰が保証できる?」

 肩をすくめて続ける。

「それにな、そういうものは誰かに教わるもんじゃないだろう。・・・・・・あんたが今の村の状況に疑問を抱いているんなら、もう答えは出てるんじゃないのか」
「・・・・・・ええ・・・・・・そう、ですね。私はいつも人に流されてばかりだったのかもしれません」

 冒険者たちは「お気をつけて」と青年に見送られ、森の東にある城へと向かったのだった。

2013/02/02 21:16 [edit]

category: 子供狩り

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