Sat.

子供狩り 2  

 通りに人の姿は見当たらない。家々もまばらで、閑散とした村だ。
 夜闇の濃さが増しているのに対し、明かりのついた家が一軒もないのが気にかかる。

「ここに降りてくるまでは、廃村って可能性も考えてたんだが」

 エディンが言う。

「どうも違ったみたいだな。道に足跡がある」

 生活感はある。人が住んでいる気配もある。
 しかし、どこか打ち捨てられたみたいな雰囲気がこの村全体を覆っていた。
 エディンは玄関先に農具が出しっぱなしになっている民家へと近づいた。
 ノックしてしばらく待ってみたが、扉が開かれることはない。
 やむを得ず、彼らは村の奥へと進んでみた。

「・・・・・・・・・・・・!」

 斧を抱えた木こりらしき男は、冒険者たちを見て青褪め、呼びとめる間もなくそそくさと立ち去ってしまった。

「今のなあに?」
「色々後ろ暗いことが起きてますよって、宣伝してるようなものよ。・・・おおっと!?」

 ミナスの疑問に答えていたジーニの腰に、不意に狭い道から突然飛び出してきた幼女がぶつかった。

「きゃ!」

 幼女が青い洋服を着たぼろぼろの人形を取り落とす。
 ギルがそっと拾い上げて渡すと、表情がみるみる明るいものへと変わっていった。
 冒険者が彼女の宝物を横取りするものと思っていたらしい。

「ありがとう・・・。ねえ、お兄ちゃん達、変な格好だね。どこから来たの?」
「リューンだよ。この村の人に、頼まれごとをされてね」

ScreenShot_20130130_165503078.png

「ふうん。ねえお兄ちゃん、セシルと一緒に遊ぼうよ。もう一人で遊ぶのいやだよ」

 幼女はつま先立ちをしながら、ギルの袖を引いてくる。動物と子供にはもてる男である。

「ごめんな。ちょっとばかり、やらなくちゃいけないことがあるんだ。それが終わったら、な」
「ほんと、ほんとに?ぜったいよ」
「お嬢さん、村長さんの家がどこにあるか知りませんか?」

 アウロラは子供と目線が合うように屈みこんで訊ねてみた。
 この村で一番偉い人のことだ、と注釈をつけると、幼女は「グレアムのお爺ちゃんのことね」と言って指を差した。

「そうですか、ありがとうございます。それと・・・・・・もう暗いからそろそろ家にお帰りなさい」

 可愛らしいリボンのついた頭を撫でて忠告する。

「・・・人さらいがきちゃいますよ?」
「・・・・・・」

 幼女はくしゃりと顔をゆがめ、身体をひるがえした。
 アレクが小首を傾げる。

「・・・アウロラにしては、ずいぶんと脅したな。家まで送っていくのかと思ったが」
「今後のことも考えてですよ。自分で明るい内に帰るように教育しないと、私はここの村人ではありませんから」

 話をしながら幼女が指差した方へ歩いていくと、他の家々よりは若干ましな造りの一軒家が見えてきた。
 やはり多少はみすぼらしいが、このような小村ではこれが当たり前なのだろう。
 エディンが代表してノックしてみると、鷲を思わせる鋭い瞳と深い皺が印象的な老人が出てきた。
 彼が村長なのだろう、ジロリと睨んできた。どうやら歓迎されていないらしい。

「・・・・・・なんだね、あんた達は」
「依頼を受けて来た冒険者よ。ある人に『この村を救ってくれ』と頼まれてね」

 村長の態度に不審なものを嗅ぎ取ったジーニは、わざとぼかすような言い方を始めた。

「依頼人に心当たりはないかしら?村の者だと思うのだけど。黒髪で色白、それからこんな首飾りを持っていたわ」

 ジーニが依頼人の首飾りをじゃらりと手に下げると、村長はぎょろりとした目をいっそう剥き出しにした。
 不自然に視線を落としてこう言う。

ScreenShot_20130131_102206218.png

「・・・・・・さぁ、知らんな。どこの誰だね。そんな妙な依頼をしたのは」
「心当たりがおありのようだけど?」
「そんな男は知らん。そもそも何のことだ。『この村を救ってくれ』、だと?」

 村長はふん、と鼻を鳴らして言った。

「見ただろう。ここはいたって普通の村だ。わざわざ冒険者が来るような所ではない」
「ふう・・・・・・そうは言うけど、確かに頼まれたのよね・・・・・・」

 両手をわざとらしく広げてジーニが嫌味ったらしく首を振る。
 わざわざ杖は脇に挟んでやっているが、村長もその意図が伝わったのか、顔が段々と怒りで赤くなってきた。

「依頼人の様子も尋常じゃなかった。ずぶ濡れで、血相を変えて飛び込んできたのよ」
「知らん、知らん。その男も死に際で気が動転していたんだろう」

 意識が朦朧としてあらぬことを口走ったんだと言い募る村長に対して、ジーニの目がキラリと光った。

「あたしは依頼人が瀕死だったなんて、一言も言ってないけど」
「・・・・・・・・・・・・」
「ついでに言えば、依頼人が男だとも言っていないわ。・・・・・・何か知っているわね。村長さん」

 語るに落ちたとはまさにこのこと、先程まで赤かったはずの村長の顔はすでに土気色に変わっていた。

「た、単なる間違いだ。『飛び込んできた』などと言うから何となく死にかけと思ったんだ。深い意味はない!」
「へー。男だって分かったのは?」
「不愉快だ!帰ってくれっ!」

 村長は年の割に敏捷な足取りで奥に引っ込み、音高くドアを閉めてしまった。

「・・・・・・ふん。ああまであからさまなのも珍しいわね」
「この村に何が起こっているかは、まだ分からないけど。村長が噛んでいると見て間違いないね?」

 わざわざジーニが相手を怒らせようとしているのに気付いたミナスが、こてりと首を傾げて言った。

「一枚や二枚はざらに噛んでるわね。あの様子じゃ、ね」
「・・・ふう、それにしても急だったからびっくりしたぜ。アレクの目配せがなかったら、口を出すとこだった」

 ギルが深く息を吐いた。
 すでに村長の家からいくばくか距離を置いている。

「ごめんごめん、ギルバート。ま、それにしても・・・」
「依頼人が瀕死だったことを知っていたね・・・」
「そう、それよ」

 びしっとジーニが杖をミナスに突きつけようとして、流石に行儀が悪いと慌ててやめてから話を続けた。

「早い時点での断定は、視野を狭めることになりかねないけど。あの人が無関係ってことはないでしょうよ」
「もう少し情報を集める必要がありそうだな」

 ギルが落ち着かなさげに頭をかいて言った。

「強引に扉を破って、脅して白状させるというのは?」
「いや・・・・・・最後の手段だろ。怪しいというだけで、物的証拠はねェ。まだその段階じゃねェよ」
「いっそ、こっちを攻撃でもしてくれれば、正当に実力行使に出られるんだがな」

 半ば本気の口調でアレクが零した。
 とりあえず他の村人から情報を得られないか移動してみようと、一行は先ほどの道を引き返した。

「・・・・・・ん?」

 幼女が抱えていた人形――ギルが返したはずのそれが、道に落ちている。

ScreenShot_20130131_103902703.png

「さっきのガキのもんだな。また落としていったんだろ」

 かがみこんで人形を拾おうとしながらエディンが言う。

「薄汚れてぼろぼろですね・・・・・・」
「小さい村だもん、当たり前のことじゃない?」

 ミナスは自分がいた隠れ里のことを思い出しながら、アウロラに問うた。
 決して自分がいた里がこの村のように貧しかったとは思わないが、やはりリューンと比べるとどうしても違いは出てくる。
 二人の話を聞きながら、ギルはしゃがんだままのエディンに呼びかけた。

「・・・・・・エディン?」
「・・・・・・・・・・・・」
「何。こんな人形で、一人で遊んでいた女の子に同情でもしているの?」

 あなたらしくもない、といったニュアンスを含んだジーニの発言だったが、エディンの返答はごく短かった。

「馬の蹄」
「は?」

 ぽかんとアウロラが口を開けてエディンを見やる。

「周囲の地面に蹄の跡がある。ほら、よく見な。点々とあっちへ続いてるだろ」

 彼は素人目にも大きいと分かるその跡を指した。
 ジーニも近づいて覗き込む。

「装蹄されてるな。野生馬じゃねえ。・・・それから確証はねえが乗り手がいたようにも見える」
「ずいぶん大きくない?」
「ああ。大人の男じゃねえと、乗りこなすのは難しいんじゃねえかな」

 エディンの推測によると、蹄の跡は向こうの茂みの方から、こっちへ一直線に続いている。そしてちょうど人形のところで・・・。

「折り返してるな」
「つまり、あの子は何者かにさらわれたと――?」

 少し気色ばんだ様子でアレクが言うのに、盗賊は同意した。

「ああ。状況がそれを指し示してるからな。誘拐と考えるのが妥当だな」
「・・・・・・蹄の跡を追える?エディ」
「そうだな・・・・・・難しくはねえよ。午前中に降ってた雨のせいで地面が柔らかいからな」

 そして蹄が森の方へと向かっていることを知った”金狼の牙”たちは、追跡を開始した。

2013/02/02 21:13 [edit]

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