Fri.

落日の鎮魂歌 5  

「・・・・・・・・・。生きて・・・・・・る・・・・・・?――!」
「う・・・。ぐ・・・・・・」
「じい様!」

 ギルが叫ぶ。

「・・・父、さん・・・?な・・・ぜ・・・」

 ”金狼の牙”たちの身代わりとなって魔術師の攻撃を受けた老人は、苦しげに息を吐きながら、小さく呻いた。

「ヨ・・・ハン・・・。おぬしは、おぬしは・・・。優しい・・・優しい子じゃ・・・」

 老人の血に塗れた手が、愛しげに魔術師ヨハンへ向けられる。

「人を・・・傷つけてはならぬと・・・。ずっと・・・昔から・・・教えておったじゃろ・・・?」
「父さん!私のことがわかるのか!?父さん!!」
「よおく・・・よおく、わかるよ・・・。わしの、かわいい、ヨハン・・・」
「父・・・さ・・・ん・・・・・・」

 魔術師は頭を垂れて、崩れ落ちた老人の手を握り締める。
 老人がもう余命幾許も無いことは誰の目から見ても明らかであった。

「わしの・・・せいじゃ・・・。心弱く・・・空想に逃げ込んだ、わしの・・・」
「じい様・・・」
「冒険者どの・・・。どうか、ヨハンを・・・。責めずにやっておくれ・・・」
「・・・父さん?父さん・・・。父・・・さ・・・――――」

 それきり、老人は動かなくなった。
 もはや、ギルにはどうすることもできない。力無き我が身を痛感して、ギルは唇を噛み締めた。

「・・・帰れ・・・」

 魔術師は、消え入りそうな声でそう呟く。
 全ての力を使い果たしたかのように、その姿はひどく頼りない。
 不意に、アウロラが老人と魔術師の傍に膝をついた。

「・・・これを、あなたに」

 先ほど老人から預かった古びた十字架を取り出し、その場を動こうとしない魔術師に渡した。

「・・・何、を・・・」
「その後老人から預かっていたものです。・・・ヨハンに――あなたに、渡すつもりだったそうですよ」

ScreenShot_20130130_102139046.png

 この老人はもしや、僅かな正気の時間で分かっていたのかもしれない――ヨハンが魔術で人を殺める外道と化した事を。
 それを止める力も、理性も残っていない自分を、その正気の戻った時間で責め続けていたのかも、とアウロラは思った。
 渡された十字架に魔術師の視線が、ゆるゆると落ちる。

「・・・・・・・・・。父、さん・・・?」
「じい様が言っていたよ。お前は、自慢の息子だとよ」

 ギルのその言葉を聞くと、今まで放心しているだけだった魔術師の瞳から、一筋の雫がこぼれる。

「・・・・・・・・・ッ・・・・・・・・・。父さん・・・・・・父さん・・・・・・・・・!」

 魔術師は、動かなくなった父親を胸にかき抱いて、嗚咽を漏らした。
 仲間たちもそれぞれ祈りの言葉を呟く。

「・・・行こう」

 そう言って踵を返しかけた冒険者たちを、アウロラの声が引きとめた。

「待ってください・・・!何か・・・光が・・・」
「神よ――・・・どうか、私に道をお示しください・・・・・・・・・」

 魔術師の祈りに反応しているのか――。

「なんだ・・・?十字架が・・・」

 アレクが呟く。
 見間違いではなかった。
 あの、古く錆付き、輝きを失っていた十字架からまばゆいばかりの光があふれ出していた。

「神よ――・・・どうか、どうか我らに赦しを――――」

 目のくらむような光の本流がおさまった後、その場は、何も変わっていないかに見えた。
 だが――。

「・・・父、さん?」
「・・・・・・・・・う・・・」
「まさか・・・」

 エディンが目を瞠る。

「ヨ、ハン・・・・・・・・・?」

 たったひとつ。たったひとつ、奇跡が起きていた。
 代々伝えられていた十字架の奇跡を起こす力は――哀れな迷い子の呼び声に応えて確かにその力を現したのだった。

「・・・まさに、奇跡の顕現、ですか。滅多にお目にかかれるものじゃありませんよ」

 奇跡を起こした十字架は、今やその役目を終えて乾いた鈍色に戻っている。

「・・・もう、ここに俺たちの出る幕はないな」
「だが・・・」
「あの魔術師にもう力はないさ。――そして、それを使う意味もな」

 依頼は達成だ、と微笑むギルにアレクが頷いた。

「・・・そうだな。その通りだ」

 まず最初にギルが扉をくぐる。仲間たちも後を追い――誰も振り返らなかったが。

「・・・ありがとう。優しい冒険者どの・・・」

 閉まる扉の向こうで、か細く、だがどこか暖かいしわがれた声が聞こえた――そんな気がした。

「さて・・・一仕事終わりだな。早く狼の隠れ家に帰って親父さんの飯でも食べたいものだ」
「その前に、麓の村に寄って報酬を貰うのを忘れないようにしねェと」

 リーダーの発言にエディンが注意をする。
 二人の会話を耳にしたアレクが首を捻った。

「報酬、貰えるのか?だって、まだ魔術師は・・・」

 にこっと可愛らしい笑顔をアレクに向けたミナスが言う。

「そこは、我らが参謀サマの交渉力にかかってる、ってね」
「あなたたちね・・・。人任せはよくないわよ」
「おー、そうだそうだ。折角、社交的になってきたんだからよ。精一杯交渉してもらおうじゃねェか」

 苦々しげなジーニの顔に、仲間たちが笑い声をあげる。
 その最後の残照が夕陽の光に溶けた時、ギルがぽつりと呟いた。

「・・・なあ。これで、良かったんだよな?」
「何をいまさら。ギルらしくないわね。冒険の結末を決めるのは、あなた自身。どうすれば良かったかなんて、誰が言うものでもないわ」
「俺自身――か」
「そう。・・・それに、奇跡は起こった。それで充分じゃない?」
「そう・・・。そうだな!!」

 いつもの調子を取り戻したらしいギルの肩を、アレクが叩いて「ほら」と促した。

「・・・見ろ。綺麗な夕陽だ」

 アレクの言葉に、ふと視界を上げると――。眼前いっぱい、連なる山々に重なる金色の夕陽が輝いていた。

「・・・ああ。本当に美しい夕陽だ」
「きっと、おじいさんとヨハンも今ごろ、この夕陽をながめているんだろうね」
「・・・ああ。ながめていることだろうな」

 父子ふたりで、きっと。ギルはそう続けて、気遣ってくれたミナスの頭を撫でる。
 ふと耳を澄ますと、西風に乗って微かなメロディーが聞こえてきていた。
 振り向けば、アウロラが小さく何かのメロディーを口ずさんでいる。

ScreenShot_20130130_104555437.png

 ギルがなんだと問いかけると、彼女は小さく笑った。

「知りませんか?有名な賛美歌ですよ。鎮魂歌(レクイエム)、とも言いますけどね」
「・・・全員、こうして生きているのに?」

 その問いかけに対し、アウロラは僅かに首を傾げて今回の舞台となった教会の方角を見やると、ふっと唇を緩ませる。

「・・・ええ。ヨハンの悪い魂は、天の御国に召されたんです」

 そう思えばあながち間違ってないでしょう?と言ったアウロラに、他の仲間たちが同意した。
 彼女の唇は再び旋律を紡ぎ出す。
 その音色は、どこか物悲しくもあり――同時に、限りなく優しい調べでもあった。

※収入1000sp、≪聖人伝・写本≫※

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■後書きまたは言い訳
33回目のお仕事は、keiさんのシナリオで落日の鎮魂歌です。全部のシナリオひっくるめた中で、Ask公式以外だと一番好きなシナリオかもしれない。時間はほどほどで、内容はぎっちりのマルチエンドシナリオ。これで処女作だとおっしゃるのですから、凄すぎる・・・。
地の文が素晴らしいのでほぼ弄るところがなく、その分リプレイで苦労しました・・・・・・。(笑)
あ、でも壁壊し提案をジーニからミナスにシフトしてます。ジーニは以前、血塗られた村で捕まった際に、一応建物の具合とかを観察出来てたので矛盾してしまうからです。

今回の裏テーマは「今までスポットが当たったことのないアウロラを目立たせよう」でした。
どうにも、僧侶や尼僧ってよほど強烈な個性持ってないと無難なキャラに落ち着きやすく、プレイ上でも特徴づけからかあまり目立たない事のほうが多いような気がします。
ダンジョンであれば盗賊が活躍するし、魔法の品や呪文書、また日記などが出てくる場合は魔法使いが前に出てきます。・・・・・・宗教観とか真面目に考えるのって面白いんだけど。(あくまでゲーム上のことですが)

さて、今回とあるフラグが一つ立ちましたので、徐々にそれを回収していこうかと思います。
いやー、許可いただけるといいなあ・・・駄目かなあ・・・。

当リプレイはGroupAsk製作のフリーソフト『Card Wirth』を基にしたリプレイ小説です。
著作権はそれぞれのシナリオの製作者様にあります。
また小説内で用いられたスキル、アイテム、キャスト、召喚獣等は、それぞれの製作者様にあります。使用されている画像の著作権者様へ、問題がありましたら、大変お手数ですがご連絡をお願いいたします。適切に対処いたします。

2013/02/01 21:06 [edit]

category: 落日の鎮魂歌

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