Fri.

落日の鎮魂歌 1  

『山奥の廃墟に棲み付いた、恐ろしい魔術師を捕らえていただきたいのです』

 ――彼らが見た依頼書は、そんな内容から始まっていた。
 成功報酬は銀貨1000枚、麓の村から出されたその依頼に釣られてきたのだが・・・・・・。

「まいったな・・・」

 ギルの言葉に、仲間たちもそれぞれ困惑の表情を浮かべる。
 実際、”金狼の牙”たちは困り果てていた。

「なあ・・・。ここに閉じ込められてからどのくらい経った?」
「2時間半ってところかしら。ほら、太陽が傾き始めてるわ」

 さすがにジーニは良く見ている。
 しかし、こんな薄暗く黴臭い小部屋で2時間半も無為に過ごしているという事実に、また、誰とも知れず大きな溜息をついた。

「やれやれ・・・。どうしてこんな事になってしまったのでしょうね」
「・・・前にも、こんなことあったな。カナナン村で」
「アレク言わないでー。やめてー。思い出しちゃったじゃないの」
「僕たち、そろそろ【眠りの雲】の対策練らないと駄目だね。フォウと正式契約しとく?」
「あーあ。俺腹減った。本来なら・・・・・・」

 ギルは思う。
 そうだ。本来ならば、今頃は依頼を達成して村人たちの賞賛の言葉を存分に浴びながらエール片手に笑いあっていたはずだ。
 ところがどうだろう、瞳を開ければそこは斜陽が微かに差し込む、薄暗い石畳の小部屋。

(山奥の廃墟とやらに辿り着き、くだんの魔術師と対峙したはいいが――。・・・そうだ。あの時は――・・・)

 ギルの脳裏に、岩山の中腹で魔術師と向かい合った時のことが浮かんだ。

ScreenShot_20130130_060529109.png

「人々の安全を脅かす背徳の魔術師よ。お前の悪行もこれまでだ」
「・・・・・・・・・」

 ギルの向けた金に輝く斧の刃に、魔術師の暗い顔が映りこんでいる。
 ジーニが杖の先の髑髏を相手に向けて言った。

「この人数に敵うとでも思ってるの?おとなしくお縄につきなさい」

 簡単な依頼だった。否、簡単な依頼だと、思っていた。
 ギルたちも冒険者としていくつかの場数は踏んできている。
 対する標的はただひとり。6人で挑めば、まず負けるはずがないと誰もが思っていた。
 ――それが、油断に繋がるとは。

「・・・・・・・・・――――、」
「この期に及んで、抗うつもりですか?無駄なあがきを――」
「・・・・・・・・・!危ない!みんな、下がって――」
「・・・・・・・・・もう遅い」

 いち早く魔力の集束に気付いたジーニであったが、その声が仲間たちに届くより早く魔術師の指先から乳白色の霧が放たれる。

「・・・・・・・・・っ」
「うう、眠い・・・」

 アレクとミナスが膝を折り――。

「力が、抜けていく・・・。神、よ・・・」
「・・・・・・・・っ!おい、みんなしっかりしろ!」

 アウロラが崩れ落ちたのをギルは受け止め――。

「ちっ・・・。しくじった・・・ぜ・・・」
「読み違えたわ・・・。ごめ、ん・・・」

 エディンとジーニが倒れる。
 抗えぬ睡魔に支配され、無情にも冒険者たちの意識は闇の中に霧散していく。そして――。

「みんな、目を覚ませ!寝てる場合じゃな、・・・・・・い・・・・・・、・・・・・・・・・」

 小柄な仲間の身体を支えつつギルの意識も、また――――。
 ・・・目覚めてみれば。情けなくも――このざまだ。

「・・・油断した。俺の責任だ」

 ギルは悔しげに呟くと、閉じた拳をさらにきつく握り締める。
 ミナスは座ったままギルへ膝でにじり寄ると、その拳にそっと自分の手を乗せた。

「誰の責任でもないよ。そう気にしないで」
「・・・ありがとう」
「・・・やれやれ。それより、そろそろ脱出方法を考えないとね」

 その台詞と同時、皆の視線が一人に集中する。周囲の期待に満ちた視線にエディンは軽く肩をすくめた。

「・・・あのな、お前ら。俺だって、ただ何時間もぼーっとしてたわけじゃないぜ」
「わかってますって。ですが、何もしないわけにもいかないでしょう?」
「ま・・・その通りだな。あらかた調べつくしちまったが、まだ可能性があるとしたら・・・」

 エディンが指摘したのは3点だった。
 自分たちを入れる際に使ったに違いない、今は開かずの扉。
 そしてギルやアウロラが背にしている、崩れそうな石の壁。
 最後に、辛うじて外が見える高い位置の小窓。

「どうすんだ、リーダー?」
「さて・・・」

ScreenShot_20130130_064414375.png

 ギルはまず、石の壁から調べて貰うことにした。幸い装備はつけたままだ、上手くすれば壁を崩せるかもしれない。

「床や天井と同じ材質の石で出来た壁だ。かなり古い建物なんだろうな、ところどころひび割れてるぜ」
「そんなに脆そうなら、一気に壊して脱出できないかな?」

 ゆっくり指を壁に這わせて調べていたエディンにミナスが訊いたが、呆れた顔で振り返られた。

「・・・馬鹿か?この建物は、かなり古いと言っただろ。壁を崩したが最後、全員、瓦礫の下でお陀仏だぜ。それでもいいのかよ?」
「・・・いや、よくないな。それにしても・・・」

 ギルはそっと近寄って、壁に耳を当てる。

「ひび割れて脆そうな割に何も聞こえてこないな」
「・・・まあ、もともと廃墟だしな。人がいねェんだろ」

 この調子で、残りの2点もエディンに調査して貰ったが、どう頭を捻っても脱出出来そうな感じがしない。

「盗賊的な目で見るなら、この程度が限度っつーことだな。ほかの奴らにも見せたらどうだ?」

 エディンの薦めで、ほかの者たちもそれぞれ壁や扉を調べ始める。
 一番先に声を上げたのは、内側に鍵穴がないという堅牢そうな扉を見つめていたアウロラだった。

「・・・この扉・・・」
「心当たりでもあるの?」

 ミナスが問いかけると、アウロラはにこりと笑って彼の頭を撫でてから言った。

「・・・ええ。この取っ手の部分、そして扉全体に刻まれている文様・・・。全て、教会の建築様式に則ったものです」
「教会の建物?」
「はい。宗教都市ラーデックあたりで良く見られますね」

 ミナスに勉強を教えるように、指を這わせて文様の特徴などを説明していたアウロラに、ジーニが続きを促した。

「つまり・・・」
「間違いありません。ここは、教会跡地です」

 確信に満ちた声でアウロラはそう告げる。仲間たちは互いに顔を見合わせた。

「なるほど・・・ただの廃墟と聞いてたが教会だったとはな」
「・・・まあ、脱出の糸口にはほど遠い情報ですが・・・。お役に立てず、すみません」
「いや、充分な手がかりだ。ありがとう」

と言って、ギルはアウロラの肩を軽く叩いた。
 そして、石壁を荷物袋から取り出した≪蒼石の指輪≫の宝石でなぞり出したジーニに声をかける。

「そっちはどうだ?」
「・・・ええ。もしかしたら、この壁の向こうに人がいるかもしれないわ」
「・・・マジか?物音は何も聞こえねェんだが」

 聞き耳と気配の察知を先に行っていたエディンが、軽くショックを受けた表情で言う。

「物音は、確かに聞こえないわね。だけど・・・。微かだけど、魔力を感じるのよ」
「なるほどな。魔力となると、俺にゃ完全に専門外だぜ」

 ミスリル製のレイピアや、軽いコマンドワードから発生する魔術式――そういう小道具から得られる魔力を操る術であれば、エディンにも使うことは出来た。だが、純粋にこのような微かに漏れ出る魔力を察知する、というのは、やはり魔術師ならではの能力であろう。
 今探ってみると言ったジーニが、おもむろに精神を集中し始めた。
 ジーニの魔力が、その輪郭を僅かにゆらめかせる。

「・・・わかったわ。やっぱり、隣の部屋に誰かいるみたい。でも、例の魔術師じゃないわね」
「・・・どんな相手か分かるか?」

 アレクの質問に静かな口調で答える。

「邪悪な力は感じないの。だけど・・・あまりにも弱々しい。今にも消えそうな光よ」

 時間が経ってきたせいか、顎に僅かに伸びてきた髭をつまんで抜きつつ、エディンが言う。

「もしかすると・・・。俺ら以外にも誰か捕まってるんじゃねェか?」
「その可能性はあるわね。とはいえ、何も聞こえてこないし、だからといって、この脆い壁を壊すわけにもいかないわ」
「フーン・・・」
「さて。どうしたものかしら・・・」
「・・・やはり、アレでしょうか」

 大人同士の会話を聞いていたアウロラが、大きな目でちらりと小窓の方を見る。
 ギルが彼女の台詞に頷いた。

「唯一、外界と接しているところだからな。あそこから、その人に声をかけてみるしかないか」
「とは言っても・・・」
「ああ、アレクの言うとおりだ。とは言っても、位置が高すぎる、だろう?」

 アレクが黙って首を縦に振る。

「あの高さまで登れる奴といったら・・・」
「・・・なんだ?」

 嫌な予感に襲われて、エディンが訝しげに聞き返した。

「エディン様仏様お願いします」
「へっ、そう言うと思ったよ。全く、人使いの荒いリーダーだぜ」
「頼りっきりですまない」

 ぜんぜん悪びれない口調で、それでも全幅の信頼を置いた目でギルは仲間を見やった。

「だが、あの高さまで登れるのはお前しかいないだろう?」
「僕の≪エア・ウォーカー≫じゃ、飛び上がり過ぎて天井まで行っちゃうもんね・・・」
「よろしくお願いしますね」
「エディ、今度エールとおつまみ奢るわよ?」
「・・・そのつまみ代くらいなら俺が出す」

 次々と言い募る仲間たちに根負けして、エディンは両手のひらを上げて降参のポーズをとった。

「わーった!わーったから!・・・任せときな」

2013/02/01 20:34 [edit]

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