Fri.

氷室の囚人 3  

 ・・・・・・・・・それはちょっと昔のことだった。

「わたしは何のために生まれたのですか?」

 スノーリットの問いに、イーゼンは困惑した。彼女は、生まれるために生まれたのだ。
 イーゼンは生命創造の実践を望んだ。そして成功した。
 成功は成功、それだけのことだ。
 氷の身体であるから、冷気が必要である。禁呪の産物でもある。
 二重の意味で、地上に出すことはできない。
 老魔術師は、(わたしとしたことが、老いに負け、道を誤ったか・・・・・・)と後悔した。

 スノーリットの日々は、うやむやに過ぎていった。
 外に出たことはある。だが、数歩も行かぬうちに肌を水が伝い意識が濁り始める。氷室に戻るしかない。
 やがてイーゼンが死んだ。よほど晩年の実験を後悔したのか、霊体となって氷室をさまよう。
 霊となったイーゼンは正気を失ってしまっていた。せめて正気であれば話し相手にもなってもらえるのにと、スノーリットの日々はおぼつかない。

 そんな日々のこと、スノーリットが目を覚ますと、

「スノーフェアリー様、お目覚めでございますか」

 一群の妖魔が膝を突いている。スノーリットは仰天したが、彼らの涙ながらの訴えによって状況を把握した。

「巡察官を名乗る男に、故郷の女王を殺められました・・・・・・」

 相手は、美しい少女の姿である自身とは違い、異形の妖魔である。
 それでも必要とされていることが嬉しかった。スノーリットの正直な気持ちであった。
 かくして、スノーリットと妖魔たちの氷室での生活は始まったのだが、ひとつ悩みがあった。
 妖魔たちは、人間が入ってくれば、

「取り殺さずにはいられません」

 我々は”そういうもの”なのだと主張する。
 しかし、人間は自分を作ったイーゼンと同じ存在である。その上、スノーリットは心優しい性質であった。
 むしろ、自分が女王として氷室に留まれば妖魔たちも外に出て人を襲うまい、と彼女はその座に収まっていたのである。
 そんなある日。

「旅人・・・・・・?誰か、ここに入ってきた者が!?」
「はい、さようにございます」
「まさか、殺しては・・・・・・」
「いえ、その、排除がまだ・・・」
「そ、そうですか。なら良いのですけど。でも、会って話さないと・・・・・・」
「強い個体ばかりでして。申し訳ございません、もうここに来るかと」

 スノーリットはどんな人間なのかを妖魔たちに問うた。

「ボウケンシャ・・・・・・?そういう方たちなのですか・・・・・・」

 そして菫色の髪をした氷でできた少女は、妖魔に囲まれながら”金狼の牙”たちとエンヅーの前へと姿を現したのである。

「スノーフェアリー様・・・か。なるほどねぇ」

 うーんと唸った。一目で状況を理解したようであった。

「魔術師の一世一代の禁呪が作り出した命の器は、妖魔の女王の体と同じ仕組みだったってわけだ」
「まあ、皮肉が効いてる事。・・・ま、人間が追い求める禁呪なんて、所詮そんなもんよねー」
「この仕事をしてると、つくづく、創世神話なんてのは、眉唾だねぇ・・・・・・」
「あっ、あの!」

ScreenShot_20130127_202627484.png

 エンヅーとジーニの会話に割って入り、スノーリットはこの事態に至るまでの、自分の事情を話し始めた。

「・・・・・・そんなわけでして。彼らも私も、この氷室にいたいだけなのです。積極的に人を襲うつもりはありません」
「そりゃまあ、分かったけど。問題は俺らじゃなくて、そっちだよな?」

 ギルはぽりぽりと頭をかいてエンヅーのほうを見た。この件をどう処理するかは、結局この男にかかっている。

「あー、皆まで言うな。分かった、分かったよ」
「では、見逃していただけるのですか!?」
「ああ、大人しくしてくれてるなら、それでいいのさ。人を襲って財宝を蓄えるとか、そういう物騒なことがなけりゃな」
「感謝・・・・・・感謝します!わたし・・・・・・なんと言って良いか・・・・・・」

 その顔に血は通っていない為に頬は上気していないが、スノーリットの歓喜は充分に伝わった。
 そしてエンヅーがぽろりと、余計なことを言ってしまうのである。

「なぁに、巡察官といっても、よりけりなのさ。真面目なやつもいりゃぁ・・・・・・」
「・・・・・・巡察官・・・・・・」

 ぞぞっと底冷えする声で呟いたのは、半透明の女性型妖魔であるスノーレディだった。その横で、ヤクローストも同じ台詞を呟いている――凶悪な冷気を発しながら!!

「・・・・・・!いけないっ!」
「お、おい、なんだよ。俺、気に触ること言ったか・・・・・・?」
「この者たちは、前の女王を、『巡察官』と名乗る人たちに殺されているんです!」
「そ、そいつは、同僚が、大変な失礼をしたみてぇだ・・・・・・」
「エンヅーの、大馬鹿者ーーーー!!!」←全員

 ――激昂した妖魔たちをどうにか再び退けると、辺りに静寂が満ちた。
 スノーリットは倒された妖魔たちの姿を見て、黙り込んでしまっている。
 エンヅーが口篭りながら謝罪を口にした時・・・・・・・・・。

「オオオオオオオォォォォォ」

 どこからか亡者のうめき声が聞こえた・・・。

 ・・・・・・――そして、ここは≪狼の隠れ家≫。
 親父さんが皿を拭きつつ、事件の顛末を聞き終わる。

「つまりなんだ、その魔術師の怨霊だかなんだかが、妖魔どもを助けたってことか?」
「そう。まあ・・・・・・何よりでした」

ScreenShot_20130127_204138203.png

 アウロラが安堵のため息をついて、手に持っていたブランデー入り紅茶のカップを置いた。男たちでトランプが始まり札を切り始めていたエディンは、そこでやれやれと肩をすくめる。

「それにしても、あの不良巡察官・・・・・・あんな辛い仕事をたった600でやらせやがって・・・」
「違うわエディ、防寒着を買ったから400よ。ああもう、寒いところはうんざりだわ!」
「フン、まあなんだ・・・・・・冒険者崩れにろくなやつは居ないってことかも知れんぞ」
「うわっ、酷ぇ・・・・・・」
「言ってくれるわね・・・」

 親父さんの台詞に対し、亀のように首を縮めたエディンやジーニの姿を見て、他の仲間は朗らかな笑い声を上げた。

※収入400sp※

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■後書きまたは言い訳
32回目のお仕事は、平江 明さんのシナリオで氷室の囚人です。平江さんのシナリオは、寝る前サクッとカードワースに収録の「無声劇」などでプレイされた方も多いでしょうか?
非常に独特な間のある文章で、他作者さんのシナリオ(特に読み物系)に比べると極端に会話が少ないことに気付きました。その分、同行のエンヅーと色々やり取りをする余地があって、私としては書き易かったです。いいですね、エンヅー。こういう経験を積んでいる(不幸な)盗賊っぽいキャラとか、大好きです。

キャラクターの特徴によって台詞分岐もあるようです。・・・実は、貪欲を持っているアウロラが「財布の中身を見せてみろ」発言してたので、それは流石に僧侶としていかんだろうと思い、リプレイではエディンにシフトしました。アウロラの貪欲特徴はより多くの人を助けたかったり、知識欲だったりの意味での貪欲なので、こういう時に困りますね。(笑)
そうそう、発言と言えば前回に憑いて来た雪精トール君をかなり勝手に喋らせています。
ご不快だという方がいらっしゃったらすいません。でも、アレク&トールの新コンビって結構話してる様子が面白そうなので、もし入れるスペースがあったらまた書いていきたいです。

こっそりと密かに、リンクを繋がせていただいてる宿の冒険譚と絡んでたり。でも、よっぽどマニアじゃないと分からないのではあるまいか。(なぜ書いた)
次回辺り、ちょっと毛色の変わった脱出ものシナリオを書いていこうと思います。

当リプレイはGroupAsk製作のフリーソフト『Card Wirth』を基にしたリプレイ小説です。
著作権はそれぞれのシナリオの製作者様にあります。
また小説内で用いられたスキル、アイテム、キャスト、召喚獣等は、それぞれの製作者様にあります。使用されている画像の著作権者様へ、問題がありましたら、大変お手数ですがご連絡をお願いいたします。適切に対処いたします。

2013/02/01 02:48 [edit]

category: 氷室の囚人

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