Fri.

氷室の囚人 1  

「えー、ちょっとお。こないだ雪崩に巻き込まれたばっかりって言うのに、寒いところに行けって?」

 不満の声をまずあげたのは、ジーニであった。

「しかも報酬がその石っころで支払える分だけとか、信じられない。エンヅーってばケチねえ」
「最近は不景気でねえ・・・・・・」

 エンヅーと呼ばれた男は、布にくるまれた青い水晶を取り上げ、宿の親父さんに見せる。

「話の場所から出たんだ。冷気を封じてあるらしいんだが、いくらになるね?」
「三百だな、掛け値無しだぞ」
「なるほど。じゃあ、あんた達には、その額で受けて欲しいんだが・・・・・・」
「まず財布の中身を全部見せろよ」

 エディンがミナスの口についたパウンドケーキのかすを取ってやりつつ、口を出した。
 ミナスの食べているのは、半年くらい前にマタタビ通りにオープンした「リューン&スイーツ」で評判の品で、娘さんのおやつのおすそ分けである。
 小さなエルフは、ホットミルクのカップを親父さんに貰いながら、忙しげに視線を交渉する仲間とエンヅーの顔に動かした。

「勘弁してくれよぉ・・・・・・」

 そう返したエンヅーは元冒険者である。
 中年の現在は、聖北巡察官として諸国を回っている。
 教皇直属のこの役は、邪教や魔物を監視すべく諸国を回る。広域の王権が華やかなりし頃、諸侯は巡察官を慇懃に出迎えたものだ。
 今は違う。
 諸侯どころか、地域の教会までもが(冒険者同様のごろつき・・・・・・)と侮蔑している。
 資金にも権威にも不自由した末、冒険者上がりを雇っているのだから、この侮蔑ももっともだ。

「給金じゃ女も囲えないから、色々とやりくりしてるんだぜ・・・・・・?」
「エディン、かこうってなあに?」
「男が女を保護すること。・・・・・・エンヅー、次に迂闊なこと言ってみろ。その舌引っこ抜くぞオイ」
「わっ、わりぃ・・・」

 エディンがミナスの疑問に(詳細を省いて)答えた後に凄んでみせたため、エンヅーの顔色は青くなっている。
 そして、エディンの交渉により報酬が600spに引き上げられるまでに、ますます青くなったり赤くなったりと忙しく変わったのであった。

ScreenShot_20130127_091550468.png

「スネグーロチカはまたお留守番かなあ。アレクはどうするの?」
「憑いてくるなと言っても聞くような奴じゃない。諦めた」

 アレクには前の冒険で雪精トールが憑く様になった。
 ミナスのスネグーロチカとは違って、氷の魔力を治療に使う精霊だから、寒い場所の同行に不都合があるわけじゃないのだが、どうにも無愛想なアレクとはノリの違う存在だったりする。
 一行はエンヅーから仕事の詳細を聞いて、カルバチアに向け出発した。

「ふーん。魔道師イーゼンの氷室ね」
「悪党じゃぁねぇが、魔道師の常、腹の底じゃあ倫理がねぇ」
「奥さんが亡くなったのをきっかけに、禁呪に手を出したって?大学で教鞭とった人とも思えないわね」
「ふん。一晩で氷から生命を作ってみせるとか、言ってたらしいがな。この前の冬に五十と三でおっちんだ。魔法の冷気を浴び続けてそこまで生きたとなりゃ、こりゃ、大往生だ。死に際の気の迷いで多少の禁呪に手を出そうと、うるさく言うつもりも無いんだが」

 エンヅーはいったん言葉を切って、顔をしかめる。

「どうもカルバチアの奴らは魔道の危険に対する認識が甘い。イーゼンの死後も地下の氷室を封鎖しただけで放り出しやがった」

 魔法使いは皆秘密主義であり、研究施設の封鎖には罠などの危険も伴う。また、再利用の機会があるかもしれないのだから、”遺産”として残すのは彼らなりの”やり方”なのだが、

「どうも、魔物が嗅ぎつけて住み着いちまったようだ・・・・・・」

 エンヅーは、一応は、仕事をこなす巡察官なのであった。

「カルバチアとなると、俺の立場じゃどうにも融通が効かねぇ」
「聖北教会とカルバチアの魔道学院では、管轄が違いますからね・・・巡察官の扱いも昔とは違いますし」
「だが、魔物の匂いがする以上、放っておくわけにもいかんだろう」

 要は墓荒らしを手伝えってことだと揶揄しながらも、流石に仕事に対する姿勢は真面目だった。
 道中で薦められた防寒着は200spもかかったが、それだけの価値はある。
 梯子を降りてイーゼンの氷室に侵入した途端、異様なまでの冷気に包まれてしまったのだ。

「・・・・・・帰りたい。暖炉が恋しいな・・・・・・」

 遠い目で都会育ちのエディンが呟いた。
 北に進むと、エンヅーが首をすくめる。

「冷気が集まってやがる・・・・・・、気にいらねえな・・・・・・」
「ここ、何か変だよ、皆。氷の精霊力が強すぎて、他の力が感じ取れない」

 怯えた様にミナスが注意を促したため、一行は補助魔法をかけてから進んだ。
 北の突き当たりのドア前まで移動した時、どこからか声が響いた・・・。

『迷い込みし旅人よ・・・・・・。スノーフェアリー様への目通り許さぬ・・・・・・』

 唐突にインプのような大きさのものと、冷気に包まれた半透明の女性が現れて襲い掛かってきた。

「なんだこいつら!?」

 ギルが驚きながら斧を振るうが、小さいもの相手になかなかあたらず苦戦している。
 ミナスは咄嗟にナパイアスに呼びかけ、激流を飛ばした。

「ギル、アレク、がんばって!」
「よくやった、ミナス」

 アレクが前に進んで刀身に魔力を込めたが、一匹だけその刃から逃げてしまう。

「全く、きりがありませんね・・・」

 【癒身の結界】を唱える為の詠唱を準備しつつ、アウロラがぼやいた。

「フフ・・・・・・、我らは吹雪、我らは不滅・・・・・・」

 いったん倒したと思ったのに、すぐ冷気が集まって再生してしまう。
 ギルとエディンの合図によって、一行はその場から逃げ出した。

2013/02/01 02:14 [edit]

category: 氷室の囚人

tb: --   cm: 0

コメント

コメントの投稿

Secret

プロフィール

最新記事

最新コメント

月別アーカイブ

カテゴリ

カレンダー

検索フォーム

RSSリンクの表示

リンク

ブロとも申請フォーム

QRコード

辺境に足を運んだ方の人数

▲Page top