Wed.

金狼の牙の出会い  

「ほっほう!お前さんがあの時トレトが仕送りしてたガキか!でかくなったなあ!」
「そりゃそうだよ、俺もう19歳だぜ?」
「で、こっちのがオルフとラフィ=アンの息子だって?オルフそっくりだな・・・・・・」
「・・・よく言われる」

 斧を担いだ男と剣を佩いた青年は、≪狼の隠れ家≫という冒険者の店の親父さんと挨拶の最中だった。
 ここは、リューン市街でも端っこのほうにある。少し離れたところにはスラム街があり、細い裏路地を真っ直ぐ行けば賑やかな市場に出ることも出来る・・・仕事のことを考えれば便利な場所だ。
 数ある店の中でも老舗になりつつあるここは、利用する冒険者も古株が多く、新米は伝手で来ることが多い。
 この日現れた二人組みもその口で、彼らの親たちがかつて同じパーティに所属していたのである。
 それにしても、と斧を担いだ男が連れに囁く。

「俺が母さんから聞いた話からすると、親父さん年取ってないみたいなんだが・・・魔法でも使ってんのか?」
「・・・・・・不老のアイテムでもあるのかもしれん。あるいは呪いとか」
「あ、そうかも!だって親父さん、どう見ても戦士タイプだもんな!」
「・・・オイコラ、お前ら聞こえとるぞ」

 親父さんのこめかみに青筋が立っている。慌てて二人は口を噤んだ。
 その様子を見て肩をすくめた後、親父さんが「それで」と言って話を続ける。

「お前らも冒険の道に入るのか」
「ああ。その通りだ」
「でもほら、俺ら二人だけじゃ受けられる依頼も少ないだろ?」
「二人とも罠を調査したり、怪我を治したりするのは苦手でな・・・」
「それで、親から聞いてたこの店で仲間を見つけようってことか。ふむ、なるほどな」

 冒険者と言うのは、ある意味ならず者と一緒でもある。
 幾人かの実力者が名を売り、いわゆる”英雄”と呼ばれることもあるわけだが、志半ばで命を捨てる羽目になる者も多いし、中には裏の依頼専門に引き受けるような輩もいる。
 あまりオススメするような職業でないことだけは確かだ――しかし、親父さんは二人の眼を見て、こいつらならやれるかもしれないと感じていた。ふむ、とふたたび言って顎を撫でる。

「おい、エディン。あんた、仲間になる奴探してたろう。こいつらと組んでみちゃくれないか?」

 親父さんが声をかけたのは、隅のテーブルでワインを飲んでいた男だった。眠たげな目をした二人より年上らしいその人物は、黒っぽくて動きやすそうな服装をしている。
 彼はエディン。恐らく偽名だろうが、その名で通っていた。
 盗賊ギルドに長くいる男で、各部署(ギルドと冒険者の店の繋ぎもやっていた)の連絡役や、ギルドの新入りに罠外しを教える係りをやっていたのだが、どういう訳だか「冒険者になりに来た。仲間を組めそうな奴がいたら、適当に声をかけてくれ」と、一週間ほど前から≪狼の隠れ家≫に居座っている。
 エディンはのんびりとした挙措で、これからの希望に燃える若者たちをじっと見やった。

「お二人さん、戦士らしいが・・・名前は?」
「俺はギルバート。皆からはギルって呼ばれてる」
「アレクシスだ。・・・・・・長ければアレクで構わない」

 対照的な二人だ。ギルのほうは直情そうでいかにもの熱血戦士に見えるが、こちらから水を向けなければ余計なことは言わない。一方のアレクはやや言葉が少ない印象だが、白皙の美貌というちんけな修飾語が違和感なく似合っており、黙って立っているとまるで半神半人の彫刻のようである。
 面白い、とエディンは思った。

「俺はエディンだ。指先は器用なほうだから、少しは役に立つと思うぜ」
「仲間になってくれるのか!?」
「そちらが構わないならな。ただ、育ちが悪いんで、口が悪いのは勘弁してくれよ?」
「そんなの気にしないさ!よろしく!」
「・・・よろしく」
「よろしく、お二人さん」

 握手を済ませてから、エディンが不思議そうに問う。

「アレク。お前さん、人と話すのが苦手なのか?」
「いや・・・・・・そうではなく・・・・・・」

 二人の会話を、カウンターに突っ伏している人物が遮った。

「違うわよお。その子、”言霊”が怖いのよ」
「”言霊”?・・・・・・っていうか、ねえちゃん誰?」

 ギルの台詞に対し、くわあと大きな欠伸をして起き上がったのは、黒いローブ姿の中々色っぽい女だった。桜色の唇とよく手入れされた爪の持ち主である。手と肌の具合を見たエディンは、30歳前後だなと見当をつける。

「その綺麗な子、魔力を感じるわ。近親によっぽど魔力の強い人がいるんでしょう。違う?」
「・・・いや、その通りだ。父は精霊使いだし、母は塔の魔術師だった。今は違うが」
「母親から、言葉に魔力が宿ることについて注意されたんでしょう?」

 塔というのは、この場合賢者の塔を指す。
 古代文明や魔法の研究を専門とする団体・魔術師学連のリューン支部であり、魔法を日常の道具として利用推奨する彼らは、魔術師系の呪文を財あるものへ販売していた。また、いくばくかの手間賃を取ってマジックアイテムを鑑定すること等も行っている。
 アレクが黙って頷くのを、ギルとエディンは感心したように見守っていた。

「あまりに魔力が強いと、”言霊”って言って、普段の何気ない会話でも魔法使ってるようになることがあるの。剣を持ってる様子からすると、それを避けるために修行もしたんでしょうけど、自信が無いのね?」
「・・・・・・あんたは誰だ。まだギルの質問に答えてない」
「塔のマジックアイテムの鑑定係よ。・・・いや、鑑定係だった、かしらね?」

 そう言ってアレクへ悪戯っぽく微笑む女に、親父さんが口を開いた。

「ジーニ。そろそろ宿代をだな・・・・・・」
「稼ごうにも、『一人で冒険だと?危なっかしくて回せるか!』って言って仕事くれなかったの、マスターじゃないの」
「同じくらいの実力の奴と組ませたのに、怒らせて帰ってきたからじゃないか!」

 どうも、性格にかなり難がある女性のようだ。

「あのねえ。あたしが望んでいるのは、古代文明期の品々を直接鑑定すること。あいつときたら、『そんな危ない冒険なんてやれるか!地味にこつこつやるんだ』とか言うのよ。組んでなんてられないわよ」
「・・・・・・ってこたあ、そっちのねえさんはお宝を見つけたいのかい?」

 ばっと女がエディンに向き直った。

「ええ、それもありきたりの宝石とか金貨とかじゃない、本物のお宝よ!分かるでしょ、この意味」
「ああ、分かるつもりだぜ。・・・塔にいたんなら、魔法のひとつやふたつ、扱えるんだろ?」
「基礎的な奴ならね。どう、あたしも連れてってみない?」

 親父さんは困った顔をしている。古馴染みから預かった大事な新米たちに、こんな癖のある仲間を当てていいのかと・・・。
 能力的には優秀なのだが――いかんせん、この魔女の毒舌で宿の中の一部は雰囲気がぎすぎすしている。
 もっとも、楽観的なギルは彼女の言動について気にしていないようではあるし、エディンは妙に意気投合している。”言霊”について指摘されたアレクはむすっとしているが、この青年は始終こんな顔をしているので、あまり変わりは無い。

(あれ?ということは、こいつら仲間になっても大丈夫なのか?)

 親父さんは真剣に考え始めた。
 とりあえず皆で自己紹介しながらご飯でも・・・と、話がまとまりかけた頃。

「悪い、親父さん。ちょっとこいつ看てやってくれないか?」

と、一人の男が入ってきた。

「おう、ターミルじゃないか。なんだ、その子どもとお嬢さんは?」

 有角族らしい男は、一見ギルあたりと変わらぬ年齢のように見えるが、彼のような亜人は人間と寿命が桁違いだったりすることが多いので、一概にそうとは言えない。歴戦の戦士らしく、魔法が付与されてるらしい斧と盾を背負った姿は2mを越えていた。
 彼はたくましい腕に汚れた様子の子どもを抱えていた。後ろには、聖北教徒らしい修道服姿の女性が立っている。

「行き倒れてるのを見つけて拾ってきた。教会で治療して貰おうと思ってたんだが・・・」

 ここで彼は苦笑した。

「あの爺さんが亡くなっていたのを忘れててな。他の人に頼もうとしたら、エルフだからと断られて」
「えるふぅ?」

 ギルが驚いた声を上げる。
 他の者たちも注視すると、確かに抱えられた子どもの耳は笹の葉のように尖っていた。
 主に森に住み、時には”森人”とも呼ばれることのあるエルフ族は、あまり人間社会に出てくることはない。
 アウトローの集まりである冒険者の集団でこそ、ホビットやドワーフと同様見かけることは出来るものの、彼らの里は人の目のつかないところにあるらしく、ギルやアレクがこんなに間近にエルフを見たのは初めてだった。
 エディンやジーニは、以前の職業柄で会ったこと自体はあるものの、個人的に親しくしている者にやはりエルフはいない。
 そんなわけで、戸惑ったような様子の一同だったが、そこで修道服姿の女性が初めて口を開いた。

「うちの司祭の一人が、『亜人の治療など・・・』と言うのです。困った方に手を差し伸べるのが神の御心に適う信徒の姿でしょうに、まったく情けないったら!」
「彼女が、他のところで自分が治療をしようと申し出てくれたので、ここに連れて来た。悪いが親父、ベッドを・・・」
「皆まで言うな。おい娘、案内してやってくれ」
「はーい」

 奥のほうから、慌てて濡れた手をエプロンで拭きながら出てきた娘さんが、ターミルと呼ばれた男とエルフの子ども、修道服の女性を二階の空き部屋へと案内する。
 しばらくして、子どもを治療し寝かしつけてきたらしい彼らが下りてくると、親父さんは見計らったようにエールと軽い食事を用意して運んできた。

「そちらの聖北教会のお嬢さんも、遠慮せず食べていってくれ」
「よろしいんですか?」
「ああ。なあに、あんたの分のお代はターミルが支払ってくれるさ。そうだろ?」

 親父さんが片目を瞑って合図すると、ターミルは苦笑しながらも頷き、彼女へ食べるよう促す。
 食事が終わると、僧侶が珍しいギルやジーニが色々と彼女に質問を重ねた。

「私はアウロラ・チャーチルと申します。元は騎士の家に生まれましたが、両親が早くに亡くなったので今の養父母に引き取られて、教会で修行を続けておりました。養父は若い頃、ターミルさんの昔のお仲間に恩を受けたことがあったとかで、その話を覚えていたのです」

 それで養父の恩人の名前を出してきた有角族に興味を持ち、様子を窺っていたのだという。
 そこまではともかくとして、種族差別気味の司祭が治療を渋るのを怒鳴りつけて教会を出てきた、という顛末を聞いて、周りの聴衆は唖然としてしまった。
 代表してアレクが尋ねる。

「それって・・・・・・教会の仕組みはよく知らんが、まずいのでは?」
「いずれ養父が取り成してくれるとは思うのですが、非常に気まずいですね・・・」

 時間を置いて出直したほうがいいかも、でもその間どこに泊まったものか・・・と悩む彼女に、あっさりとギルが言った。

「じゃあ、俺たちと一緒に冒険者をやってみないか?」
「冒険者・・・・・・ですか?」

 思ってもみなかった申し出に大きな目を瞬かせる。

「治療の術は使えるんだろ?」
「それはまあ、【癒身の法】くらいでしたら・・・」
「俺たち、ちょうどそういう魔法使える人はいないみたいでさ。僧侶なら大歓迎するぜ」
「本当によろしいんですか?」
「もちろん!そうだ、どうせならこのまま自己紹介しちまおう!」
「そりゃいいな。じゃ、親父。エールもう三杯持ってきてくれ。お代はこっちの兄さんに・・・」
「こらエディン、勝手にターミルにつけるな!ターミル、お前も釣られて頷くんじゃない!!」
「マスター、あたしの分はワインでいいわよー」
「・・・エールで構わん」
「お前ら、だからだな・・・・・・!」

 その後、酔っ払いながら自己紹介を済ませ、どんちゃん騒ぎを繰り広げたギルたちであった。

 数日後、助けた子どもがやっと目覚めた。
 子どもはダークエルフによって住処を焼き払われ、命からがら逃げてきたのだと言う。
 ミナス、と自分の名前を呟いた小さいエルフは、これからどうやって生きていけばいいのかと、空ろな目をして臥せっていた。
 一度では治療し切れなかった傷へ【癒身の法】をかけて塞ぎながら、心配そうな目でアウロラが見つめる。
 ミナスを救ったターミルは、ギルに頼まれて斧の技をいくつか教え込んだ後、悪魔退治の依頼に出ている。
 そのため、まだ仕事の見つからないギルたちが、必然的に彼の世話をしていた。
 今日はアレクが小礼拝堂に忘れ物を届けに行っており、

ScreenShot_20120719_062509718.png

エディンやジーニはそれぞれ古巣に挨拶をしに出かけている。

「で、ミナスは何が出来るんだ?」

 法術をかけ終わったところを見計らい、ギルが声をかけた。
 もったりと重たげな視線をしばしギルへ当てていたミナスだったが、やがてやっとの思いであけた唇から、「水の、精霊。ちょっとだけ」と吐息と共に声を絞り出した。
 感心したようにアウロラが言う。

「水の精霊は、傷を塞ぐだけではなく、毒や麻痺を癒してくれる力があると聞いてます。まだ小さいのに、すごい才能ですね・・・」

 恐らく、リューンにたどり着くまでに、何度かその癒しを自分にも使ったのだろう。それで無ければ生きているのが不思議なほどの怪我を、ミナスは負っていた。

「そうなのか。すげえなあ、お前」

 くしゃっと亜麻色の頭を無骨な手が撫でる。
 最初は怯えたようにしていたミナスだったが、それが本当に好意から行われているのだと分かると、安堵したように身体の力を抜いた。
 その顔を見て、しゃがみ込んだギルが訊ねる。

「なあ。お前、自分の仲間の情報とか集めたりしたい?親がどうなったのか、とか」
「うん・・・・・・」
「ならさ。俺らと冒険者やってみねえ?」
「ぼうけん・・・?」
「うん。遺跡の中を調査したり、人探ししたり、色んな依頼を引き受けるんだ。もしかしたら、エルフの情報も入るかもしれない。生きていく手段にもなる。・・・どうだ?」

 それは、親父さんや他の仲間たちと相談していたことでもあった。
 宿で働くという案も出ていたが、エルフ族は概ね魔法への適正が高いし、子どもの冒険者がいないこともない。
 小さなエルフはしばらく目を閉じて何かを考えていたようだったが、その双眸が再び開いた時、決心はついていたようである。縦にゆっくりと首を振った。
 もし本人の希望があり、何か得意なことでもあるのなら、自分達の仲間に加えてみよう――そう意見を通したのはギルであった。
 エディンは答えた。

 ――本人ができるやれると言うならいいだろう。その代わり、その意見を主張したお前さんがリーダーをやれ。あの子どもや、俺たちについて責任を負うのは、お前さんにすべて任せる・・・・・・。

 エディンは気づいていたのだ。ギルが決定することに、なんとなく従っている自分たちがいることに。

 ――こいつは大した男になるかもしれない。

 彼の評価が正しいかどうかは、まだ何年もかかりそうであったが・・・・・・。
 こうして、彼ら”金狼の牙”がチームとして仕事を引き受けたのは、これから1週間後のことであった。

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■後書きまたは言い訳
拙い文章ではありますが、一応”金狼の牙”たちの出会いについて記しておきます。
・・・カウンターが末広がりの8でぞろ目になったらUPしよう・・・とか考えていたら、自分で踏んでました。何あの切ない気持ち。

ちらちらと出てくるギルの親たち世代のパーティは、オルフ(アレク父)、トレト(ギル母)、ミザ(子供盗賊でギル義姉)、ラフィ=アン(アレク母)、ジギー(アウロラ養父の恩人)、ターミルの六人です。
アレトゥーザやホクセルで英雄になったり、ポダルゲ様の承認を得たり、焔紡ぎの技を引き継いだり、アゼリナを翔けたりした10レベルパーティで、白い狼という名前でした。
ScreenShot_20130204_094102312.png
キャスト画像の著作権は、引田様:HP「53」にあります。

そんなわけで白い狼でやったシナリオは、うちのリプレイでは載りません。
ゴブリンの洞窟をやっていないのもこれが理由(白い狼でやったから)だったりします。

もし、こんなシナリオに関わらない創作でも、「また読んであげるよ」という優しい読者さんがいらっしゃいましたら、調子に乗って再び何か書くかもしれません。

「忘れ物を届けた小礼拝堂」律法の管理人:飛魚さん作
「アレトゥーザ」碧海の都アレトゥーザ:Martさん作
「ホクセル」吸血鬼の城:飛魚さん作
「ポダルゲ」風繰り嶺:Martさん作
「焔紡ぎ」焔紡ぎ:Martさん作
「アゼリナ」アゼリナを翔る者達:ABCさん作

2012/07/25 17:00 [edit]

category: 小話

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