Tue.

雪山の巨人 3  

 ざっくざっくざっく・・・。
 一行は下山の途中である――背後にフロストを引き連れて。
 ギルが引きつった顔で幼馴染に囁いた。

(なあ、アレク。あいつまだついてきてる・・・)
(おい、トール。足止めしろ)
(あんさん、何薄情なこと言ってまんねん!無理ですがな!

 銀盤の上に突如現れた青い絨毯――その幻想的な風景から無事レドシラ草を採取し、さて下山しようとした時にそいつは現れたのだ。
 あくまで退治を主張する依頼主に、アウロラとジーニが口を揃えてレドシラ草を村に持ち帰るのが先だと説得したが、彼はなかなか頷こうとはしなかった。挙句の果てに妹を一人にするのかとジーニに責められ、ようやく退治を断念したのである。
 フロストを刺激しない様に気をつけつつ進むものの、あのフロストはとっくにこちらに気づいているとジーニは指摘する。
 見やれば、確かにフロストの雰囲気が現れた時とは違っているようだ。

 ざっくざっくざっく。

 一同は無言で降りて行く。
 それは来た道を降りて行くだけだが、登山家は下山する時の方が遭難率が高いのだと言う。
 気の弛みが、時に洒落にならない事態を引き起こすのだそうだ。

(まだ追いかけてくる・・・)

 つう、とジーニの背筋を冷や汗が伝った。
 だが、しかし。いつまでたってもフロストは攻撃を仕掛ける素振りを見せなかった。

「・・・ねえ」
「ああ。気付いたか。あのフロスト、こちらに危害を加える気は無いようだな」

 職業柄、人一倍殺意に敏いエディンがジーニに返した。
 それどころか、好意的な眼差しすら感じられる。何かやきもきした挙動を見て取り、ジーニは首を傾げた。

「どういう事なの?」
「機嫌が良いのかも」
「ご冗談!」

 半ば以上本気で言ったミナスの意見を切って捨てたジーニは、ひたすら慣れないかんじきに苦労しつつ、村へと急いだ。
 やがて、下方にオルウェンの村の灯が見えて来た。
 それだけでも一同は安心する。
 ほっと息をついた時、いつの間にかフロストの姿が消えている事にエディンとギルが気付いた。

「アレクはん、あれなんでっしゃろか?」

 雪精トールの指摘に顔を上げると、そこには奴らが待ち受けていた。、

「へっへっへ」
「おいおい、待ち草臥れたぜェ」
「お前達、さっきはよくもやってくれたな」
「全く・・・。ニ、三日は安静にせねばならない程度に痛めつけてあげたつもりだったのですが」

ScreenShot_20130126_030937250.png

 冷厳としたアウロラの台詞に、仲間たちはぎくりと肩を強張らせた。

(怒ってる・・・・・・めっちゃ怒ってる・・・・・・!)

 単にチンピラ達が気に食わないのか、先程までフロスト・ジャイアントという脅威に緊張していたからか、疲れきって早く帰りたいところを邪魔されたからか。普段はむしろお人よしとまで評価される娘の目は、確実に凍りついていた。

「な、なんでェこのアマ・・・!」

 リース達が一歩踏み出したのを見て、仲間たちも各々の得物を構える。

「身ぐるみ剥いでやるぜェ!」
「やれるものならやってご覧なさいまし」
「今度は一筋縄じゃいかねェ!覚悟しやがれィ」

 しかし、ミナスがナパイアスで押し流して動きが止まったところを、上手く前衛たちが攻撃していくのに、リースの手下たちはまたもやあっという間に倒れていく。

ScreenShot_20130126_032005046.png

「強い・・・ちょっと・・・快感かも・・・」
「ちょ、ちょっと・・・っ!変な方向に目覚めないでよッ!!」

 ジーニの【魔法の矢】に貫かれた男が恍惚と呟くのを聞き、彼女は珍しく慌てた。

「・・・ポッ」(ばたり)
「・・・このまま埋めてやりましょうか、この男」
「アウロラが怖い・・・」

 ミナスは≪森羅の杖≫で魔力を集中させながら慄いた。
 その脇を、かんじきを履いているとは思えないスムーズさですり抜けたエディンが、新調したミスリル製レイピアで攻撃する。

「ぐえっ」

 最後にリースが倒れる。リースの横に、気絶から回復したらしい手下が近寄り、”金狼の牙”たちを睨み付けた。

「糞ッ、やってくれたな・・・!だが今回、こっちにはとっておきのアイテムがあるんだ。前の様にはいかないぜ!!」
「下手な脅しは通じません。観念なさい」
「ヒヒヒ、そうかなァ・・・?おい、二人とも、アレを出せ」

 リース達が取り出した呪符は・・・。

「げっ。あれ、火精の紋だよ!」
「なっ」
「くっくっく!!驚きで声も出ねェようだな。やっちまえィ!」

 田舎のチンピラどもと思い油断したのが致命的だった。またたく間にコマンドワードを読みあげていく・・・!
 迂闊と吐き捨てたアレクが真っ先にミナスを抱え込み、受身の体勢を取る。仲間たちもそれに倣った。
 サラマンダーの力の開放による局地的爆発が起き、大爆音とともに眼前の地面が抉れる。
 吹き飛ばされた雪が眩しく輝くと同時に、”金狼の牙”たちは思わぬ深手を負った。

「へっ、俺たちを甘く見たのが運のツキだぜっ!!」
「なぶり殺しにしてやるよォ!!覚悟しな!!!」
「こ、この馬鹿ども・・・・・・。なんつーことを・・・」

 重傷を負いながらも、ギルは必死に斧を杖にして立ち上がろうとした。こんなところで爆発を起こしたら・・・。

「ん・・・?あの音は何だ?」

 チンピラの一人が呟くのに、”その音”が何か分かってしまったギルが身を強張らせる。他の仲間たちも、状況を察した様子だ。
 山頂から鈍い音が木霊していた――それはゴゴゴゴゴと形容するに相応しい。

「お前達・・・」

 心底あきれ果てたと言った態で、アレクが言った。

「何をしたか分かってないな?雪崩を起こしたんだぞ」
「な」
「何だってーっ!?」
「に、逃げるぞォーーー!!!」

 それはまさに白く重たい波だった。
 轟音とともに、腹を空かせた鮫の如く牙を剥いて襲い掛かってくる!!!

「エディン、ジーニを!アレクはミナス頼む!」

 ギルは必死にそれだけは叫ぶと、がっしと間近にあったアウロラとダレイドの身体をしっかり抱えた。
 そして冒険者達とチンピラ達は、全員雪に飲まれた。
 ”金狼の牙”の冒険はここで幕を閉じた――。

2013/01/29 00:12 [edit]

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