Tue.
雪山の巨人 2 
病を得たレベッカを行きがけにお見舞いした一行は、村の出入り口の辺りで3人のチンピラ風の男たちに行き会った。
行く手を塞いでいる彼らに呼び止められ、”金狼の牙”たちはこれが例のチンピラかと見当をつけた。
「何人か見慣れねェ顔が居るな?悪いことは言わねェよ。俺たちに任せてもらおうか、な?」
「兄貴の言うとおりだ。酷いじゃないか。よそ者を信用するのかい、ダレイドさんよ!」
藪にらみで睨みつけられたダレイドは、きっとした顔で言い返した。
「お前達だって、まだ村に住むようになって1年も経っていないじゃないか」
「なあんだ。よそ者はそっちも変わらないな、ははっ」
笑ったギルを、リースと呼ばれた男が殺意を込めた目で見やる。
お前達ではフロストに適わないと主張したダレイドを、さり気なく前に出たエディンが庇った。
「そういうことだ。絵に描いた様なチンピラだな。邪魔するなら容赦はしない」
「チンピラぁ?!雇われ冒険者風情が何を!俺達の実力を見くびるな!」
「そんじょそこらの冒険者より、俺達の方が強いって事を見せてやるぜェ」
(・・・弱い奴ほどよく吼える)
チンピラ達が各々の得物を構え戦闘開始となったが、決着が付くのは早かった。
冒険者達は詠唱に集中し過ぎていたアウロラが怪我をおった程度で、後はミナスの新しく契約したイフリートや前衛たちの連携攻撃で、あっけなく敗北した。
「口ほどにもない」
ひゅんっと、≪黙示録の剣≫についた血のりを払いながらアレクが鼻で笑う。
一行はまた雪山へと向かった。
「痛たたたた、くっそう、あいつら。覚えてやがれー!」
チンピラの一人がそう叫ぶも、一顧だにせず”金狼の牙”たちは進む。
足に装着したかんじきでしっかり雪を踏みしめ、前へ、前へ。
あまりの寒さを紛らわせようとしたか、ジーニはダレイドに話しかけた。少し気にかかることがあったからだ。
「ダレイドさん。チンピラ達・・・ええと、リース一味だっけ?に言ってましたよね。『お前達ではフロストは倒せない』と・・・」
「ええ。だってそうでしょう?彼等はきっとフロストの姿を見ただけで逃げ出しますよ」
「否定する要素がないわね。でも、戦うつもりなのです?その、フロストと・・・」
「あくまで「そうなった」場合・・・の話ですよ」
ジーニはフロスト・ジャイアントについて詳しくはないが、ギルの話からすれば、決して侮っていい相手ではないはずだ。
戦闘はできるだけ避けたいと口にするジーニに、ダレイドが刺々しく応えた。
「随分と慎重な意見をおっしゃる・・・冒険者とはもっと・・・好戦的な方々だとばかり思っていましたよ」
「そんな人オンリーだったら、早死にする率がもっと高くなると思いますね」
「私には、奴が・・・。奴が許せません・・・。私の父は・・・、フロストに殺されたのです!」
「えっ?」
冒険者達は意外な言葉に足を止め、それぞれダレイドを見つめた。
悲壮な顔をした依頼人は、ぽつりぽつりと事情を話し始める。
――1年前、雪山に薬草を採りに行ったダレイドの父は、瀕死の重傷を負って帰って来たと。ダレイド自身はその場に居合わせなかったものの、村人から聞いた話によれば、彼はダレイドとレベッカの名を呼んだ後に『フロスト』と叫んで倒れたという。
鬼気迫るダレイドの感情が、ギルを包む感じがした。それほどまでに憎い怪物――かける言葉も見つけられず、目を伏せた。
「過ぎた事です。でも機会があれば仇をとりたい。・・・そう思ってきました。ただ、私にはその力はない」
「だから・・・冒険者を雇った。という訳ですか?」

薬草の採取にかこつけて。
口には出さなかったものの、ジーニの目は雄弁にそう付け加えていた。それに対する応えはない。
復讐心。冒険者達は危険なものを感じとる。
こそっとミナスがギルに近寄って囁いた。
(ねえ、フロストってどのくらい強いの?)
(大きな身体に似合わず、敏捷な動きを見せるはず。それに雪山は、フロストのいわばホームグラウンド・・・)
(そっかあ・・・)
(加えて俺はともかく皆は、慣れない雪上行軍を強いられている。戦うならば、かなりきつい戦闘を覚悟しなければならないだろうな)
(そんなの相手に、銀貨700枚で命賭けさせられるのはごめんだね)
二人の内緒話を聞きつけたエディンも、こっそり参加する。
この依頼は、あくまで薬草レドシラを採取して帰還するまでの護衛に過ぎない。
しかし、ダレイドは機会があれば嬉々として冒険者達にフロストを殺せと命ずるだろう。いや。そうに違いなかった。
依頼主には聞こえないように舌打ちすると、ギルは先に立ってまた歩き始めた。
木々の間を目を凝らして見ると、1頭の白銀の毛並みを持ったウルフがこちらの様子を窺っていた。
(あれがヒララギウルフか・・・縄張りに踏み込んだようだな。注意して進まねば)
冷たい風が頬を打つ――。
後ろを振り返ったがもう村は見えなくなっていた。
その時、遠吠えと同時に木々の間からウルフが次々と飛び出し、彼等は群れに取り囲まれてしまった。
「グルルルル・・・」
ウルフ達は円陣を組み、しつこく攻撃を仕掛けてくる。
群れ単位で襲ってきているらしく、いったんリーダー格を倒しても、また別の群れが襲い掛かってくるので、アレクやエディンはほとほと辟易した。
(統率を失えば暫くは現れまい・・・)
三つ目の群れを追い払うと、ウルフ達は遠吠えを残しながらも波のように引いていった。
怪我を癒して傾斜を登ると、次第にきつくなってきた。
まもなく頂上へ辿りつくのだろうか?
「あんさん・・・ あんさん・・・」
「ん?誰か何か言ったか?」
アレクが反応して周りを見渡すと、その小さな声は陽気に指示をした。
「ちゃうちゃう・・・、ここですねん」
なんと現れたのは体長15cm程の精霊であった。
「いやぁ~。ウルフどもに住処を追われてまして困ってましたん。どうもおおきにー」
「そりゃよかったな。じゃあな」
硬質の美貌に1グラムほどの動揺もなくアレクがそのまま通り過ぎようとするのを、精霊は慌てて呼び止める。
「ああっと、雪国だからってそんなサブイこと言わんといてな。あんさんの腕っ節に惚れたんや」
「お前、どこかで聞いたような方言で何言ってるんだ」
「そういうわけで憑いていくことにしたで。断っても無駄やからな」
そう言うと精霊はアレクシスの懐に潜り込んでしまった・・・。
「なんなんだ、こいつは!?」
「俺の名前はトール。なぁに、役には立つから安心してぇな。あと雪の精霊やさかい火気厳禁な」
「はぁ・・・仕方ないな・・・」
ミナスによると、トールは彼が契約を結んでいるスネグーロチカとはまた違う種類の雪の精霊で、傷口を凍結させて精霊の力で癒してくれるものらしい。
それは便利だと言ったアレクが、先程のウルフに傷つけられたギルとジーニを癒すよう、さっそく頼んでみる。
「・・・・・・た、確かに、傷口は塞がったけどもさ・・・・・・」
「ちょ、寒いんだけどお。すごく体温下がる・・・」
二人は唇を青くしながら、がちがちと歯の根が合わぬ様子で抗議した。
「・・・・・・すまん。早計だった」
「次は私が癒しますから・・・」
アウロラが苦笑いして、二人に前以って親父さんが入れてくれたウォッカを渡し、飲むように促した。
行く手を塞いでいる彼らに呼び止められ、”金狼の牙”たちはこれが例のチンピラかと見当をつけた。
「何人か見慣れねェ顔が居るな?悪いことは言わねェよ。俺たちに任せてもらおうか、な?」
「兄貴の言うとおりだ。酷いじゃないか。よそ者を信用するのかい、ダレイドさんよ!」
藪にらみで睨みつけられたダレイドは、きっとした顔で言い返した。
「お前達だって、まだ村に住むようになって1年も経っていないじゃないか」
「なあんだ。よそ者はそっちも変わらないな、ははっ」
笑ったギルを、リースと呼ばれた男が殺意を込めた目で見やる。
お前達ではフロストに適わないと主張したダレイドを、さり気なく前に出たエディンが庇った。
「そういうことだ。絵に描いた様なチンピラだな。邪魔するなら容赦はしない」
「チンピラぁ?!雇われ冒険者風情が何を!俺達の実力を見くびるな!」
「そんじょそこらの冒険者より、俺達の方が強いって事を見せてやるぜェ」
(・・・弱い奴ほどよく吼える)
チンピラ達が各々の得物を構え戦闘開始となったが、決着が付くのは早かった。
冒険者達は詠唱に集中し過ぎていたアウロラが怪我をおった程度で、後はミナスの新しく契約したイフリートや前衛たちの連携攻撃で、あっけなく敗北した。
「口ほどにもない」
ひゅんっと、≪黙示録の剣≫についた血のりを払いながらアレクが鼻で笑う。
一行はまた雪山へと向かった。
「痛たたたた、くっそう、あいつら。覚えてやがれー!」
チンピラの一人がそう叫ぶも、一顧だにせず”金狼の牙”たちは進む。
足に装着したかんじきでしっかり雪を踏みしめ、前へ、前へ。
あまりの寒さを紛らわせようとしたか、ジーニはダレイドに話しかけた。少し気にかかることがあったからだ。
「ダレイドさん。チンピラ達・・・ええと、リース一味だっけ?に言ってましたよね。『お前達ではフロストは倒せない』と・・・」
「ええ。だってそうでしょう?彼等はきっとフロストの姿を見ただけで逃げ出しますよ」
「否定する要素がないわね。でも、戦うつもりなのです?その、フロストと・・・」
「あくまで「そうなった」場合・・・の話ですよ」
ジーニはフロスト・ジャイアントについて詳しくはないが、ギルの話からすれば、決して侮っていい相手ではないはずだ。
戦闘はできるだけ避けたいと口にするジーニに、ダレイドが刺々しく応えた。
「随分と慎重な意見をおっしゃる・・・冒険者とはもっと・・・好戦的な方々だとばかり思っていましたよ」
「そんな人オンリーだったら、早死にする率がもっと高くなると思いますね」
「私には、奴が・・・。奴が許せません・・・。私の父は・・・、フロストに殺されたのです!」
「えっ?」
冒険者達は意外な言葉に足を止め、それぞれダレイドを見つめた。
悲壮な顔をした依頼人は、ぽつりぽつりと事情を話し始める。
――1年前、雪山に薬草を採りに行ったダレイドの父は、瀕死の重傷を負って帰って来たと。ダレイド自身はその場に居合わせなかったものの、村人から聞いた話によれば、彼はダレイドとレベッカの名を呼んだ後に『フロスト』と叫んで倒れたという。
鬼気迫るダレイドの感情が、ギルを包む感じがした。それほどまでに憎い怪物――かける言葉も見つけられず、目を伏せた。
「過ぎた事です。でも機会があれば仇をとりたい。・・・そう思ってきました。ただ、私にはその力はない」
「だから・・・冒険者を雇った。という訳ですか?」

薬草の採取にかこつけて。
口には出さなかったものの、ジーニの目は雄弁にそう付け加えていた。それに対する応えはない。
復讐心。冒険者達は危険なものを感じとる。
こそっとミナスがギルに近寄って囁いた。
(ねえ、フロストってどのくらい強いの?)
(大きな身体に似合わず、敏捷な動きを見せるはず。それに雪山は、フロストのいわばホームグラウンド・・・)
(そっかあ・・・)
(加えて俺はともかく皆は、慣れない雪上行軍を強いられている。戦うならば、かなりきつい戦闘を覚悟しなければならないだろうな)
(そんなの相手に、銀貨700枚で命賭けさせられるのはごめんだね)
二人の内緒話を聞きつけたエディンも、こっそり参加する。
この依頼は、あくまで薬草レドシラを採取して帰還するまでの護衛に過ぎない。
しかし、ダレイドは機会があれば嬉々として冒険者達にフロストを殺せと命ずるだろう。いや。そうに違いなかった。
依頼主には聞こえないように舌打ちすると、ギルは先に立ってまた歩き始めた。
木々の間を目を凝らして見ると、1頭の白銀の毛並みを持ったウルフがこちらの様子を窺っていた。
(あれがヒララギウルフか・・・縄張りに踏み込んだようだな。注意して進まねば)
冷たい風が頬を打つ――。
後ろを振り返ったがもう村は見えなくなっていた。
その時、遠吠えと同時に木々の間からウルフが次々と飛び出し、彼等は群れに取り囲まれてしまった。
「グルルルル・・・」
ウルフ達は円陣を組み、しつこく攻撃を仕掛けてくる。
群れ単位で襲ってきているらしく、いったんリーダー格を倒しても、また別の群れが襲い掛かってくるので、アレクやエディンはほとほと辟易した。
(統率を失えば暫くは現れまい・・・)
三つ目の群れを追い払うと、ウルフ達は遠吠えを残しながらも波のように引いていった。
怪我を癒して傾斜を登ると、次第にきつくなってきた。
まもなく頂上へ辿りつくのだろうか?
「あんさん・・・ あんさん・・・」
「ん?誰か何か言ったか?」
アレクが反応して周りを見渡すと、その小さな声は陽気に指示をした。
「ちゃうちゃう・・・、ここですねん」
なんと現れたのは体長15cm程の精霊であった。
「いやぁ~。ウルフどもに住処を追われてまして困ってましたん。どうもおおきにー」
「そりゃよかったな。じゃあな」
硬質の美貌に1グラムほどの動揺もなくアレクがそのまま通り過ぎようとするのを、精霊は慌てて呼び止める。
「ああっと、雪国だからってそんなサブイこと言わんといてな。あんさんの腕っ節に惚れたんや」
「お前、どこかで聞いたような方言で何言ってるんだ」
「そういうわけで憑いていくことにしたで。断っても無駄やからな」
そう言うと精霊はアレクシスの懐に潜り込んでしまった・・・。
「なんなんだ、こいつは!?」
「俺の名前はトール。なぁに、役には立つから安心してぇな。あと雪の精霊やさかい火気厳禁な」
「はぁ・・・仕方ないな・・・」
ミナスによると、トールは彼が契約を結んでいるスネグーロチカとはまた違う種類の雪の精霊で、傷口を凍結させて精霊の力で癒してくれるものらしい。
それは便利だと言ったアレクが、先程のウルフに傷つけられたギルとジーニを癒すよう、さっそく頼んでみる。
「・・・・・・た、確かに、傷口は塞がったけどもさ・・・・・・」
「ちょ、寒いんだけどお。すごく体温下がる・・・」
二人は唇を青くしながら、がちがちと歯の根が合わぬ様子で抗議した。
「・・・・・・すまん。早計だった」
「次は私が癒しますから・・・」
アウロラが苦笑いして、二人に前以って親父さんが入れてくれたウォッカを渡し、飲むように促した。
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