Tue.

雪山の巨人 1  

 厳しすぎる寒風の中で、アウロラのくしゃみが響く。

「ハ、ハ、ハクチョン!」
「大丈夫かあ?」

 何度目か分からないクシャミに、ギルは心配そうな顔を向けた。
 頷いてマフラーを巻き直すアウロラの横で、ジーニも冷える冷えると地団駄を踏んでいる。
 冒険者達は今、とある小さな村に向かっていた。
 ヒララギ山の麓にある村、オルウェン。そこが彼らの目的地だった。

 ――始まりは、宿屋の掲示板のコルクボードに貼られた一枚の張り紙からだった。
 オルウェン村のダレイドという依頼人から、雪の中に咲く薬草採取のための護衛依頼。
 防寒具等は依頼人持ちで報酬が700sp。
 全然聞いたことがない村の名前だと、ギルが依頼書をはがして首を傾げていると、≪狼の隠れ家≫の親父さんは丁寧に場所やその辺りで稀少な薬草が多く群生していることを教えてくれた。
 オルウェンが馬車で二週間もかかる北方の小村とあっては、古株の多いこの宿で引き受ける者もなかなかいなかったらしい。
 特に村の名前の由来になるほどの稀少な薬草が、去年から品切れ続きと聞いて、”金狼の牙”たちは遺跡に咲くフィロンラの花や、その探索を依頼してきた医術研究家たちのことを思い出した。
 きっと、手に入らずに困っている一般人もいることだろう。

「ふーん。親父のお墨付きか・・・」

 前の依頼で冒険者になった原因が解消されてしまったエディンは、腕組みして唸る。
 彼がギルドから呼び戻されパーティを抜けるのではと、仲間たちは戦々恐々していたのだが、紅い鷹旅団退治で恩を売った”コウモリ”の小細工で、まだしばらくは冒険者生活を続けていけるらしい。
 エディンの物問いたげな目を見て、親父さんは笑いながら言った。

「依頼人のダレイドさんは、まだ若いがちゃんとした男だよ。仕事さえきちんとすれば、報酬は間違いなく支払ってくれる」
「リーダー、どうする?」
「ちょっと報酬は安いかもしれないが、道具は向こうで用意してくれると言うし・・・やってみないか?」

 他の面子も、ここのところ憂鬱になっていたために、そろそろ新しい依頼でもやって気を晴らしたい・・・と考えていたところだった。

ScreenShot_20130126_010115359.png

「面白そうじゃないか。この依頼、引き受けた!」
「雪山かあ。そこに住む怪物相手じゃ、スネグーロチカは置いていった方がいいのかな?」
「そうだ、ミナス。新しい精霊契約をしたって言ってなかったっけ?」

 たちまちワイワイと賑やかになってきた”金狼の牙”たちへ、親父さんがオルウェンまでの地図を寄越してくれる。
 寒いから準備はしっかりしろと助言をもらい、冒険者達は枯れ葉通りの馬車停留所から、はるばるここまでやってきたのだった。
 オルウェン村に到着したのは、早朝のことである。
 小規模の民家が立ち並ぶ平凡な寒村という印象で、ギルはデジャヴに目を細めた。

「俺がいたところみたいだなあ」
「あら、ギルはこんな寒い地方の生まれなの?」
「うん、似たようなもんだよ。お袋と同居する前には叔母さん家で世話になってたんだけど、雪の積もる小さな村にいたんだ」

 ギルの母は、≪狼の隠れ家≫でもトップクラスの腕前のファイターである。組んでいた仲間と別れた後、田舎に預けていたギルをリューンへ呼び、短期間の依頼をこなしながら、彼を鍛えて育て上げた女傑であった。
 聞いて回るうちに分かった依頼人宅のドアを叩くと、

「どなたですか?」

と応えがある。
 張り紙を見てやってきた冒険者であることを明かすと、慌てて鍵を開ける音の後、若い健康的な男性がドアを開いた。
 年はまだ10代後半といったところか。
 そのあどけなさの残る容姿とは裏腹に、はきはきとした口調や立ち振る舞いは極めて利発そうで大人びて見えた。

「それは・・・!お寒い中ありがとうございます。私が依頼人のダレイドです」

 彼はニ、三歩家の中に下がると、手で奥を指し示した。

「長い旅路でしたでしょう?どうぞお入りください」

 暖炉に手をかざすと指先の収縮した血管が膨張し、びりびりと痺れた。
 自己紹介を改めて終えると、雑談もそこそこに依頼についての話となった。

「我家は代々薬草の扱いに長け、村の癒し手として貢献してきました。私も父より薬草の見分け方を伝授されております」
「若いのに大したものなんだな」

 エディンが顎を撫でて感心する様子に微笑みながら、ダレイドは再び口を開いた。

「ときに皆さんは・・・レドシラという草をご存知ですか?」
「ううん。それが張り紙にあった薬草なの?」
「はい。そのレドシラ草が、どうしても欲しいのです」

 理由としては、ダレイドの妹・レベッカが厄介な病に掛かってしまったから。
 癒し手であるダレイドですら知らない症状ばかり、もうお手上げかと思っていた時に、たまたま家まで薬を取りに来ていた村人が精霊術に精通していたらしく、レベッカを一目見るなり「咳をすると、それと一緒に光る結晶も吐き出すだろう?それは風の精霊の悪戯だよ」と言ってくれたらしい。

「非常に珍しい事らしいのですが。風精霊が咽につき、その跡が結晶となって悪さを働くらしいのです」
「へえ~。そんな病気があるのね」
「ミナス、お前分かる?」
「ん・・・厄介だね。その結晶が咽に残っている限り、体力を蝕まれ続ける・・・」

 ギルから話をふられたミナスは、自信なさげに続けた。

「症状は分かるけど、その原理などは解明されていない。治療法があるのは知っているよ」
「それが幸い、私の家に伝わる薬の調合法の中に、風の精霊に関する病の特効薬の作り方が伝わっておりまして」
「へえ、ラッキーだったね!」
「それでレベッカを病気から救うために、特効薬の材料であるレドシラ草がどうしても必要になるのです」
「で、そのレドシラ草がヒララギ山に・・・・・・」

 察したギルがそう言うと、ダレイドは頷いた。
 黙って話に聞き入っていたアレクが疑問を質す。

「その植物を求めて山に登るのは良いとしても、この季節に群生地を探すのは難しくないだろうか?」
「いえ、もう既に群生地は把握してあるのです。この山には癒し手の一族のみに入ることが許される区域があって、そこにレドシラ草が群生しているのですよ」
「ああ、なら安心だな」
「昔、父に――」
「・・・?」
「いえ・・・父に、群生地を教わったことがあります。雪が積もると花が咲くかなり変わった植物ですから・・・」

 今の季節なら最適だと説明するダレイドに、さっきミナスが感じた一瞬の躊躇いの影は見られない。
 ミナスは気を取り直して、どうして冒険者を雇うつもりになったのかを聞く事にした。
 群生地が分かっていて、尚且つ熊などは冬眠する季節なのだから、ダレイド一人でも行けないことはないのではないか。

「それが、そうもいかないのです」

 ダレイドはため息をついた。

「雪をものともしない狼族・・・ヒララギウルフの活動が、村の近辺で活発になっているという噂があります」
「雪に耐性のある狼・・・厄介ですね」
「それに・・・」

 ここでダレイドは言葉を区切って、苦々しそうに言う。

「皆さんは・・・。フロスト・ジャイアントという生き物の名前をお聞きになった事は?」
「フロスト・ジャイアント・・・?」

 パーティ1の博識が首を捻る。こういう地方の特殊モンスターには疎いらしい。
 寒冷地出身のギルが、やれやれといった態で説明を始めた。

ScreenShot_20130126_014359921.png

「フロスト・ジャイアントは、雪山の洞窟に住む亜人の一種だ。フロストと呼ばれるのが一般的だな」
「へえ・・・さすがリーダー、よく知ってるわね」
「長い体毛で被われた巨大な身体の持ち主だ。性格には個体差があるらしいがな。温厚なものが居れば、凶暴なものも居るというぜ」
「温厚なものも・・・ですか。とにかく出るのですよ。このヒララギ山にも、そいつがね」

 ダレイドの様子に違和感を覚えながらも、アレクはフロストと遭遇する確率を訊いてみた。

「ええ。恐らく・・・出会ってしまうでしょうね。だから、私がレドシラ草を必要としていると知った村のチンピラ達は、自分達を雇えと言ってきましたよ」
「彼等の腕が立つならそれも・・・」
「とんでもない!確かに力はあるでしょうが彼等は粗暴なだけです」
「いるんだよなあ、どこにでもそういう自信過剰な奴」

 ギルは呆れたように頭をかいた。フロスト・ジャイアントはチンピラの手に負えるようなモンスターではない。その太い腕から繰り出される攻撃は、生半可な戦士の比ではないのだ。
 事情を全て話し終えたダレイドは、そわそわした様子ですぐ出かけたいから準備をして欲しい、と切り出した。

2013/01/29 00:05 [edit]

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