Sat.

男爵の密かな楽しみ 2  

「おい、起きろよ」

 どうにか受身を取ったり、風の障壁でダメージを和らげたりした一行は、暗い中で謎の声に呼びかけられていた。

「だ、誰だ・・・?」
「ここは・・・?」
「地獄の入り口さ」

 エディンやジーニの声にそう応えたのは、石で出来た彫像・・・・・・のように見えた。
 驚いて息を呑むアウロラや、どうなってるのか興味津々のジーニを余所に、彫像は「ただの石じゃねえ」と言う。

「ひどい奴に石にされたかわいそうな喋る石さ」
「・・・・・・・・・」

 あまりのショックに黙り込んでギルの外套に隠れたミナスに気づき、男はさらに話し続けた。

「そう身構えるなよ。あんたらも前に来たやつらと同じく男爵にここに落とされたんだろ?」
「一体何の目的で・・・」

ScreenShot_20130124_162115531.png

「殺すことさ。しかも飛び切り苦しめて足掻かせた挙句に殺すんだそうだ」
「冗談じゃねえ!」

 息巻くギルの横で、ふんっとジーニが鼻を鳴らす。

「悪趣味ねー」
「悪趣味だろ?奴は今も見てるぜ。それにそろそろ・・・」

 部屋にトラップ男爵の声が響いてきた。

「フフフ・・・ようこそ私のアトラクションへ」
「どういうつもりですか・・・!」
「この石ころめが言っただろう。君たちを殺す。それも飛び切り苦しめて」
「これだから貴族って奴は・・・趣味が悪いぜ」

 エディンが肩をすくめる。

「くくく・・・怒れ怒れ。その怒りも私の悦楽となる。子供もいるのか。切り刻むのが楽しみだ」

 男爵は、この地下のどこかに脱出路があると言い残して哂った。足掻いて死に行く姿を見るのが、よほどに好きらしい。

「あのやろう、生かしちゃおけねえな」
「待て、ギル。領主殺しは重罪だ」
「このまま泣き寝入りしろっていうのか、アレク!」
「そうじゃない。・・・やるのなら、あいつを始末してもいいくらいの、証拠を探しておかないと」

 アレクは言う。この喋る石ももちろん、他にも色々悪事の証拠は残っているだろう、と。

「そいつを探し出して、俺たちの手で提出できるようにするんだ」
「男爵が調子に乗って言っただろう、脱出路があるとな。とっとと探してやろうぜ、リーダー」
「もちろんだ!」

 喋る石に話を訊くと、「自分はゲームの道具で迷宮について教える事は出来るが、嘘や真実を織り交ぜて言うことになってる」というので、”金狼の牙”は何度か質問して情報を集めることにした。

「時として無駄もある、か。安全確保して休むなら魔法の鍵とか、重要そうなワードがいくつか出たな」
「僕、ちゃんとメモしたよ!」
「幸いといってはなんですが、重傷の方はいません。このまま、迷宮を探索してみましょうか?」
「そうだな。よし、エディン頼む」
「あいよ」

 迷宮は、喋る石が忠告したように意地が悪いほどトラップが満載だった。
 一つの場所に一つのトラップとは限らず、二重になっている場合もある。
 初めて見つけた扉の罠と鍵を解除し、一同は中に入った。

「なに・・・これ・・・」

 臓物、骨、脳漿、血、肉・・・人間だったものが散らばっている。見るに耐えない光景だ・・・。
 ミナスが怯えたように首をすくめた。エディンとアレクが答える。

「死体置き場か・・・。多分今までここに来た連中のな」
「おそらくこう言いたいんだな。お前たちもああなるぞと・・・」

ScreenShot_20130124_164210953.png

「ひどい・・・」

 震えるミナスをアウロラがそっと抱きしめて後ろに庇った。
 死臭が立ち込める中、エディンが手近な死体を丁寧にひっくり返している。

「どうしたの、エディ?」

 ジーニや、他の仲間の呼びかけにも構わず、彼はひたすら死体をひっくり返して・・・・・・ふと、手を止めた。

「ああ・・・・・・」

 嘆息した彼を他のものが注視する。

「お前、いたのか。ここに」

 格好からすると、まだギルやアウロラと同じくらいの歳だろう。柔らかな皮鎧は血と膿に汚れ、顔は皮膚が剥がされた挙句にずたずたに刻まれているのだが、それでもエディンには誰か分かったらしい。

「エディン。誰だ、それは」
「弟子だ。俺が最初に罠の外し方や鍵開けを教えた。・・・探してたんだ」

 エディンはアレクから剣を借りると、静かに彼の遺髪を切り取り、懐に入れた。
 問題の死体は、エディンが冒険者稼業に身を投じる一因となった男だった。なかなかいい稼ぎをしていて、今度まとまった額の上納金をギルドへ献上する予定だったのが、リューンの北西に向ったのを最後に消息が途絶えていた。
 上納金を取りまとめる担当の幹部が、その行方を追うようにエディンに命じていたのだが・・・。

「こんなになっちまうなんてなあ。腕は悪くなかったのに・・・」

 肩を落とすエディンに、ミナスがまだ青ざめたままタックルをかました。
 なんと物陰からグールが襲い掛かってきたのだ!
 グールの麻痺毒を含んだ爪は、危うくエディンの肩当をかすっただけに留まった。
 油断さえしなければ怖い相手ではないのであっという間にグールを倒すと、その懐になにやらメモが挟まっている。

「悪魔の四行詩・・・?」

 紙片には、”神に愛された娘は欲望のために悪魔にささげられ”とある。

「何かのコマンドワードかもしれないわね」
「一応、持って行きましょう」

 冒険者たちはまた移動することにした。
 しばらく歩くと大きな扉の前に出た。部屋に入ると、古代語で書かれた石板が真ん中にある。
 ジーニが解読する。

「『矢の雨が降る場所・・・隣合う道は鏡写し、日出の地から日没の地を結ぶ場所にて悪魔の詩を捧げよ。されば道は開かれん』」
「矢の雨か。トラップのことじゃねえか?」
「もしかしたらね。日出の地と日没の地ってのが、よく分からないけど・・・」
「他に目に付くものはねえな」

 ”金狼の牙”は、またエディンに罠を見てもらいながらしばらく歩き始めた。
 悪魔の四行詩の紙片は、その後も出てきた。
 歩き回って分かったことは、この地下迷宮はかなりの広さがあること、トラップの数が尋常ではないこと、妙な魔法生物がうろついていることだった。

「以前に経験した魔術師の墓の洞窟より、手が込んでるな・・・」
「しかも数段、根性の悪い手の込みようね」
「火晶石持ってる木製の兵士だの、毒ガスを充満させて扉の鍵を閉める罠だの・・・よくまあ、考え出しますこと」

 喋り方は普段とかわらず丁寧なものの、アウロラの言葉の端々に棘があるのは明らかだった。彼女の回復の法術も、さっきから頻繁に使用することになっている。
 エディンが言うように、以前経験した洞窟にあったようなパズルもあったのだが、不正解どころか一回ボタンを押すごとに電流が走るなど、非常に厄介な仕掛けが施されていた。
 それでも、そこで手に入れた石の像を、暗闇の部屋の黄金の像と取り替えて報酬を確保できそうだったが・・・。

「呪われてるからねえ、この像。まあ、金銭価値は高いから、我慢して荷物袋に入れておきましょう」

 ジーニが言うように、報酬になりそうなそれは、邪悪な気を放って冒険者たちにプレッシャーを与えていた。


2013/01/26 15:23 [edit]

category: 男爵の密かな楽しみ

tb: --   cm: 0

コメント

コメントの投稿

Secret

プロフィール

最新記事

最新コメント

月別アーカイブ

カテゴリ

カレンダー

検索フォーム

RSSリンクの表示

リンク

ブロとも申請フォーム

QRコード

辺境に足を運んだ方の人数

▲Page top