Thu.
アルク・トゥルスピカ 3 
「おおおお!すげー!」
「ちょ、ギル、先行しすぎですよ・・・・・・って、確かにこれは凄い・・・」
空気はひんやりとして、滝の生み出す轟音が絶え間なく続くが不思議と静謐を感じさせた。
器用に魔物を避けて飛行する妖精を見失わぬよう、”金狼の牙”たちは洞穴を進む。
途中、壁に鉱石が埋まっているのを発見し、うまく削り出して荷物袋の中へ入れるということが数回あった。
ギルが金の混じった石と碧に輝く石をそれぞれの手に持ち、幼馴染に問いかけた。
「金鉱石と碧曜石か・・・前の依頼でも鉱石もらったし、縁があんのかな?」
「さて・・・俺には分からん。それにしても、なんだってこんなに・・・」
「貴重ではあるけど、一般の市場で欲しがる品物とは違うから、あまり採掘されてないんでしょうね」
それに、とジーニが続ける。
「こんな辺鄙な場所に来る物好きは、さっきのグリズリーにやられちゃってるんじゃない?」
「・・・なるほど」
アレクがその説明に頷くうち、一同はぽっかりと開けた場所に出た。
遥か頭上に巨大な空洞、陽の射す広い空間。
地底湖の水面は光を湛え、辺りには草花が咲いている。
なんとも幻想的な光景に、冒険者たちは安らぎを覚えた。
そうして探索を続けるうち、ミナスの笹の葉のような耳に愛らしい歌がかすかに届いた。
「あ、さっきの子だ。きっとこっちだよ!」
彼の先導する方向へ歩き出すと、やがて妖精たちの歌が聞こえる・・・・・・。
妖精たちは流麗に言葉を紡ぐ。
♪
むかしむかし、あるところ、一組夫婦が住んでいた。
妻は大好き、指輪や宝石。夫はちょっぴり乱暴で。
でもふたりはケンカもするけれど、たいそうなかよしだったとさ。
たまにガラにもないけれど、星を見たりしたんだと。
「あの星は?」
人に尋ねてみたところ、夫婦星という星らしく。ふたりはその星気に入った。
「生まれ変わっても一緒だよ」
ふたりは約束交わしたの。
巡り廻って幾十年。ふたりは生まれ変わったの。産声上げる、ふたりして。
けれども、無常は世の常か。
輪廻の先に得た体。ヒトの形をしておらぬ。
妻の体は毛むくじゃら。肉食熊に成り果てた。
夫の体は緑色。二本角の怪物に。
いつしかふたりは離れたよ。同じ森にはいるけれど。
けものの習性なのかしら。襲いそうになるからね。殺して食ってしまおうと。
それを悟って離れるは、かつて愛したひとのこと、心が覚えていたからか?
けれども相手が誰なのか、お互いわかっていないのだ。
♪
「・・・・・・哀しい歌ですね・・・」
アウロラが愁いを帯びた声で言った。もしこの妖精の歌が本当のことなら、あのグリズリーは・・・・・・。
妖精たちはまだ歌い続ける。
♪
ふたりは夜空に星を見る。毎日、毎日星を見る。
夫婦星を見つけたよ。なんだか悲しくなってくる。
ふたりは夜空に星を見る。毎日、毎日星を見る。
ふたりは夜空に星を見る・・・・・・毎日、毎日星を見る・・・・・・。
(人間だ!)
妖精たちは”金狼の牙”たちの姿を認めると魔法のように消え去った。
地面に紙切れが置いてある。

『た すけ て く れて あり が とう』
・・・と汚い字で書いてある。きっと、小さな体で懸命にしたために違いない。
ミナスはその手紙をそうっとポケットにしまおうとして、紙切れのそばに指輪が落ちているのを見つけた。
「ジーニ、これ見て。綺麗な銀の指輪」
「あら?この金属・・・・・・」
エルフから手渡された不思議な輝きの指輪を、ジーニはそっと裏返したり青い宝石を覗き込んだりして鑑定した。
やがて、感嘆のため息をつくと、「これは精霊銀ね」と結果を報告した。
「精霊銀?たしか、ミスリル・・・だったか?」
「ええ、アレクの言うとおりよ。精霊の住まう異界に存在する幻の銀。身につけた者に邪念や煩悩を打ち払う、強い心を授けてくれると伝承にはあるわね」
「そんなにすごいものなの?」
きょとんとした表情の少年に、ジーニは笑って首を横に振った。
「そこまで凄い魔力は篭ってないけど・・・ただ、この指輪に意識を集中すれば、きっと強固な抵抗力を得ることでしょうね」
「魔法に対するお守りか。いいなあ」
そう呟いた後で、ギルがぱあっと明るい顔になった。
「そうだ、アレクがこれ使えよ」
「し、しかし・・・」
「そうね、いいかもしれない。ギルは≪護光の戦斧≫の効果が少しはあるから、貴方が持ちなさいよ」
仲間たちからしきりに薦められ、アレクは右手の指へ精霊銀の指輪を嵌めてみた。
さすがに中指や人差し指にはむりだったが、小指にどうにかおさまる。
心なしか、薄い波動のようなものが全身を包んだような気がした。
「ちょ、ギル、先行しすぎですよ・・・・・・って、確かにこれは凄い・・・」
空気はひんやりとして、滝の生み出す轟音が絶え間なく続くが不思議と静謐を感じさせた。
器用に魔物を避けて飛行する妖精を見失わぬよう、”金狼の牙”たちは洞穴を進む。
途中、壁に鉱石が埋まっているのを発見し、うまく削り出して荷物袋の中へ入れるということが数回あった。
ギルが金の混じった石と碧に輝く石をそれぞれの手に持ち、幼馴染に問いかけた。
「金鉱石と碧曜石か・・・前の依頼でも鉱石もらったし、縁があんのかな?」
「さて・・・俺には分からん。それにしても、なんだってこんなに・・・」
「貴重ではあるけど、一般の市場で欲しがる品物とは違うから、あまり採掘されてないんでしょうね」
それに、とジーニが続ける。
「こんな辺鄙な場所に来る物好きは、さっきのグリズリーにやられちゃってるんじゃない?」
「・・・なるほど」
アレクがその説明に頷くうち、一同はぽっかりと開けた場所に出た。
遥か頭上に巨大な空洞、陽の射す広い空間。
地底湖の水面は光を湛え、辺りには草花が咲いている。
なんとも幻想的な光景に、冒険者たちは安らぎを覚えた。
そうして探索を続けるうち、ミナスの笹の葉のような耳に愛らしい歌がかすかに届いた。
「あ、さっきの子だ。きっとこっちだよ!」
彼の先導する方向へ歩き出すと、やがて妖精たちの歌が聞こえる・・・・・・。
妖精たちは流麗に言葉を紡ぐ。
♪
むかしむかし、あるところ、一組夫婦が住んでいた。
妻は大好き、指輪や宝石。夫はちょっぴり乱暴で。
でもふたりはケンカもするけれど、たいそうなかよしだったとさ。
たまにガラにもないけれど、星を見たりしたんだと。
「あの星は?」
人に尋ねてみたところ、夫婦星という星らしく。ふたりはその星気に入った。
「生まれ変わっても一緒だよ」
ふたりは約束交わしたの。
巡り廻って幾十年。ふたりは生まれ変わったの。産声上げる、ふたりして。
けれども、無常は世の常か。
輪廻の先に得た体。ヒトの形をしておらぬ。
妻の体は毛むくじゃら。肉食熊に成り果てた。
夫の体は緑色。二本角の怪物に。
いつしかふたりは離れたよ。同じ森にはいるけれど。
けものの習性なのかしら。襲いそうになるからね。殺して食ってしまおうと。
それを悟って離れるは、かつて愛したひとのこと、心が覚えていたからか?
けれども相手が誰なのか、お互いわかっていないのだ。
♪
「・・・・・・哀しい歌ですね・・・」
アウロラが愁いを帯びた声で言った。もしこの妖精の歌が本当のことなら、あのグリズリーは・・・・・・。
妖精たちはまだ歌い続ける。
♪
ふたりは夜空に星を見る。毎日、毎日星を見る。
夫婦星を見つけたよ。なんだか悲しくなってくる。
ふたりは夜空に星を見る。毎日、毎日星を見る。
ふたりは夜空に星を見る・・・・・・毎日、毎日星を見る・・・・・・。
(人間だ!)
妖精たちは”金狼の牙”たちの姿を認めると魔法のように消え去った。
地面に紙切れが置いてある。

『た すけ て く れて あり が とう』
・・・と汚い字で書いてある。きっと、小さな体で懸命にしたために違いない。
ミナスはその手紙をそうっとポケットにしまおうとして、紙切れのそばに指輪が落ちているのを見つけた。
「ジーニ、これ見て。綺麗な銀の指輪」
「あら?この金属・・・・・・」
エルフから手渡された不思議な輝きの指輪を、ジーニはそっと裏返したり青い宝石を覗き込んだりして鑑定した。
やがて、感嘆のため息をつくと、「これは精霊銀ね」と結果を報告した。
「精霊銀?たしか、ミスリル・・・だったか?」
「ええ、アレクの言うとおりよ。精霊の住まう異界に存在する幻の銀。身につけた者に邪念や煩悩を打ち払う、強い心を授けてくれると伝承にはあるわね」
「そんなにすごいものなの?」
きょとんとした表情の少年に、ジーニは笑って首を横に振った。
「そこまで凄い魔力は篭ってないけど・・・ただ、この指輪に意識を集中すれば、きっと強固な抵抗力を得ることでしょうね」
「魔法に対するお守りか。いいなあ」
そう呟いた後で、ギルがぱあっと明るい顔になった。
「そうだ、アレクがこれ使えよ」
「し、しかし・・・」
「そうね、いいかもしれない。ギルは≪護光の戦斧≫の効果が少しはあるから、貴方が持ちなさいよ」
仲間たちからしきりに薦められ、アレクは右手の指へ精霊銀の指輪を嵌めてみた。
さすがに中指や人差し指にはむりだったが、小指にどうにかおさまる。
心なしか、薄い波動のようなものが全身を包んだような気がした。
2013/01/24 19:12 [edit]
category: アルク・トゥルスピカ
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