Thu.

アルク・トゥルスピカ 1  

 さて、彼らは翡翠の海における依頼が済んで帰る途中であった。
 立ち寄った高山の村において見知らぬ女性に「息子を助けてください」と呼び止められたのは、或いはあの心優しき大精霊の采配だったのかもしれない。
 女性の息子はとある病毒に冒されており、通常の解毒が効かない。ただ、≪魔獣の角≫というアイテムがあれば回復するらしい。
 実在するのか定かではないそれを、わざわざ取りに行こうと引き受けたのは、有体に言って暇だったからだ。

「うわあ・・・・・・」

 ギルはぽっかり口を開けて目の前の断崖絶壁を見上げる。

ScreenShot_20130120_050943250.png

 これは登るのに骨が折れそうだと考えていると、その横でミナスが小さくコマンドワードを呟いている。

「ん?・・・あ、そっか!飛行すりゃいいんだ!」
「そういうこと!僕が使い終わったら、皆に貸してあげるからね・・・はい、ギルからどうぞ」

 フェニックスの装飾がされた≪エア・ウォーカー≫は、ただ美しいだけの腕輪ではなく、魔法の翼を現出させるアイテムである。
 以前にバザーで交換を持ちかけられた際、これは便利だと喜んで買い求めたのだが・・・。
 エディンががりがりと頭を掻いて言った。

「いやいや、助かった。こいつで順繰りに翼を生やせばどうにかなるな」
「どれどれ・・・・・・おおお!見てくれよ、アレク!ほら、飛んでるぜ!」
「分かった、分かったから腕輪を早く回せ!」

 こうして白い魔法の翼を背から生やした6人は、そろって崖の出っ張りを蹴飛ばしては上昇していく。
 崖はかなりの高さだったのだが、”金狼の牙”たちはあっという間に断崖を越え、鬱蒼とした森へと入った。
 エディンがしゃがみ込み、辺りの様子を確かめる。

「森は本職じゃねえんだがなあ。ま、足跡くらいは見分けられるさ」

 エディンは巧みな観察眼で、落ち葉の重なる土の上の痕跡を見分けた。

「こっちだな。静かに・・・つっても限度はあるだろうが、ついてこいよ」

 たまに名も無い薬草などを採取しながら進む。

「待った・・・・・・」
 
 エディンが手振りで頭を下げるように指示する。彼の視線の先に、野生の獣の群れがいたのだ。まだ気づかれないうちに、パーティを別の道へと先導する。
 森を歩くとき、生存のために最も重要なこと。
 道に迷わぬこと。そしてこのような野獣の棲む森では、同時に危険察知も怠れない。
 一瞬の判断の遅れが命運を分ける事もある。
 森は絶えずざわつき、四方八方獣のにおいがする。
 足元に転がる獣の小骨を踏み砕き、エディンは神経を尖らせた。

「エディン、大丈夫。危なそうな大きい生命の気配は感じられないよ」

 ミナスが微笑みを浮かべてエディンに声をかけた。

「そうか・・・そういや、お前は森生まれか」
「流石に、何かを探したりなんだりする技術は、まだ習わなかったけどね」

 それよりも、と彼はある一方を指した。

「向こうね。なんか水の気配がする・・・」
「なんだってえ?」

 小さな指の指摘に、エディンはその場にしゃがみ込んで聞き耳を立てた。
 言われてみると、確かにそちらのほうからかすかな轟音が聞こえる・・・・・・。

「リーダー、滝か何かあるかもしれない。どうする?」
「そうだなあ・・・」
「水場の確保は重要ですよ。水筒の水、ここに来るまでに結構消費してますからね」

 ちゃぽん、と水筒を縦に振ってアウロラが意見を出した。

「あたしもアウロラに賛成。・・・・・・水場があるなら、顔と手くらい拭きたいわ」
「分かった分かった。でも、油断するなよ。水場には動物が集まるもんなんだから。・・・エディン、頼む」
「あいよ」

 一行はエディンを先頭に轟音のほうへと進路を定めた。

2013/01/24 19:06 [edit]

category: アルク・トゥルスピカ

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