Mon.

翡翠の海 3  

「おはようございます。今日は最終日ですね。最期まで気を引き締めていきましょう!」

 ミナクアは元気よく挨拶した。その頭上を、くるくると寂しそうな顔でペリエが飛んでいく。

「・・・今日で最後、かぁ。キミ達ともお別れなんだね・・・・・・」

 自分らしくないとでも思い直したのか、一際大きく円を描いて”金狼の牙”たちの目線まで降りてくると、彼女は小さな拳を突き上げて宣言した。

「――よしっ、頑張ろう”それで、全部終わったら、みんなでパーティーしましょ?」
「・・・いやいや。死亡フラグだから、それ。しかも、こっち側の・・・・・・」

 眉を八の字にしてアウロラが言う。

「――あのっ、先生!」

 かの大精霊(やっぱりそうとは見えない)に先生と呼ばれるのにも、すっかり慣れてきた。
 ギルが一同を代表して彼女に訊く。

「・・・どうした、ミナクア」
「――あ、いえ。なんでもありません。・・・今日も頑張ってくださいね」
「・・・・・・?あ、ああ・・・・・・」

 彼女の様子は気にかかるものの、冒険者たちもまだそれなりに忙しい。彼らは、急いで配置についたのだった。
 最終日のお勉強は、アウロラとジーニ二人がかりでの教育である。

ScreenShot_20130119_114616437.png

「・・・気を静めて、力の流れに集中しなさい。霊力を身体に循環させて――」
「・・・・・・」

 言われたとおりにミナクアは気を静めた。自分の中に流れる、”それ”が体中を駆け巡るのを感じる・・・・・・。

「・・・・・・Zz」

 ・・・前にうたた寝していた。
 シュバ!っと素早く杖の先の髑髏がミナクアの脳天に振り下ろされる。

「――あぅっ!」
「・・・そこ、寝ないように」
「ごめんなさ~い」

 一度教えると決めたからには、とことんまで厳しいのであった。まあ、この1週間ですっかり情が移ったせいか、多少の苦笑交じりで済んでいるわけだが。
 その様子を、もう一人の教師役であるアウロラは微笑ましく見守っている。
 ミナクアは水の化身だけあって、純粋で優しい心の持ち主だと思っている。きっと、彼女が成長を無事果たせば、立派な大精霊としてこの地を守っていくことだろう。アウロラは、「まあまあ」と取り成して、授業の続きを始めた。
 そして。
 最後の夜ともなれば、流石にそろそろ罠の効果も――。

「――だあああっ!何でこんなに残ってるんだ!くそ、もうウンディーネの援護ねえぞ!」

 ――ちょっと手を抜いたせいか、ギルは数の暴力によりちょっと苦境に立たされていた。

ScreenShot_20130119_115218062.png

 それでもどうにか退治を終えることはできたのであった。
 そんな戦いの少し後、翡翠の海の湖畔にて――。

「ミナクア様ぁー!やりましたよ、本日も撃退に成功です!」

 ”金狼の牙”たちが最後の夜襲を撃退した後、ペリエが結果を報告する為に一足先に湖畔へと飛ぶと――。

「・・・・・・?ああ、ペリエ・・・・・・。ごめんなさい、ぼうっとしていました」

 ――そこにはたった一人で湖畔に腰掛け、足先で水面を弄ぶミナクアがいた。

「・・・そう。先生達は勝ったのですね。後は私の仕事・・・・・・」

 ミナクアは何処か呆けた様な表情で呟くと、再び視線を落として俯いた。

「・・・おや?ところで、ミナクア様。こっち側にいた冒険者はどうしました?」
「残ってらした方々には、警備の方を迎えに行く様、私がお願いしました。少し――、ほんの少しだけ、一人になりたかったから・・・・・・」
「ありゃりゃ・・・・・・。それは失礼しました!それじゃあ、アタイもどこかで時間を潰してきまーす」
「――あっ、ううん、いいの。気にしないで頂戴」

 背を向けて飛び立とうとするペリエを制止した。
 ちょっと考え事をしていただけだから、とミナクアは言う。その姿を人間が見れば、こう言うだろう――まるで親に置いていかれた子どものようだ、と。
 ミナクアは微笑を浮かべたまま再び湖面に視線を落とした。
 天上には満月が光り輝いており、その円光を写し取った水面も青々と鏡面のように映えている。

 ――静かな、とても幻想的な夜だった。

 水の色・・・・・・木々の鼓動・・・・・・草の香り・・・・・・この地に生きる命たち。
 力が戻ってきているのを感じる、と彼女は言った。

「よかったじゃないですか、ミナクア様。・・・でも、それにしては妙に浮かない顔ですね・・・・・・」
「うん・・・でもそうするとね。急に不安になってきちゃって・・・」

 自分は本当にこの結界を――みんなを、ペリエを、守っていけるのか。
 その不安は、1週間ずっとミナクアについて回っていたものだった。勉強をし、身の回りを世話されて霊力を高めつつも、本当にこれで十分なのか、これからやっていけるのだろうか・・・・・・と。 
 ペリエはふわり、と跳ねる様に飛んでミナクアの傍らに着地し、彼女の横に座って空を見上げた。

「・・・でもさ、そんなに難しく考えなくても良いんじゃないかなぁ?」
「・・・えっ!?」
「だって、上手くいくかどうかなんて、やってみなくちゃ分からないじゃないですか」

 ペリエは小さな人差し指を一本立て(水のように揺らいでいるが)て、口を開く。

「どんな事だって、最終的には出来るだけの事をやるしかないわけですし、始める前からグダグダ考えてたって無駄でしょう?」
「・・・・・・」
「・・・それに、ミナクア様は一週間、その為の準備をされてきたじゃないですか」

 なら信じましょうよ、と小妖精は笑った。

「頑張ってきたミナクア様を。それから、修行をつけてきたあの冒険者達の事を、ね?」
「信じる・・・。自分を――、先生達を――?」

 虚をつかれた顔でペリエを見つめていたミナクアは、そのまま満月を暫く見つめていた。

「・・・うんっ、そうね。私、信じます。先生達が教えてくれたんだもの。きっと、なんとかできる・・・・・・」

 気分が楽になったと礼を言ったミナクアは、そう言ってすっと立ち上がり、にっこり笑ってから両目を閉じて瞑想を開始した・・・・・・。

2013/01/21 12:06 [edit]

category: 翡翠の海

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