Mon.

翡翠の海 2  

「――では、先生っ!今日から1週間、よろしくお願いします!」

 大精霊に見えないお下げの少女は、しゅびっと敬礼をして元気よく言った。
 ”清流の飛沫”ペリエのアドバイスによると、1~3日頃は罠が薄いので罠設置と警備/巡回を多めにし、それ以降は罠を維持しつつ、結界強化に力を注ぐのがいいらしい。
 ただ、罠だけで敵を止められるとは限らないので、最低でも常に1人は警備/巡回を選んで欲しいようだ。
 6~7日にもなれば罠がかなり効き始めるはずだ。そうなれば、罠と警備人員はほどほどで良くなる――。

「なるほどねー。その分の人員を他に回せばいいわけね」
「そそっ。警備/巡回の担当者はいつもに増して少人数で戦うことになるから、最適な装備で挑んでよね」

 警備/巡回は妖魔たちとの直接戦闘、罠設置は森に罠を仕掛けて敵減少、勉強は魔術や常識を教える、お世話は身の回りの世話等で成長を促す・・・・・・。
 それぞれに大切な役目である。いい加減に選ぶわけにはいかないだろう。

 1日目。
 ギル、アウロラが警備/巡回、アレクとエディンが罠設置、ジーニがお勉強、ミナスがお世話。

「・・・そういうわけで、今日の授業を担当するジーニよ。短い間だけど、よろしく」
「授業を担当されるミナクアです。よろしくお願いします!」

ScreenShot_20130119_105252421.png

 社交性にはやや問題がある(と宿の誰もが思っている)ジーニだが、意外と先生役に向いているのか、颯爽とした口調で魔術の成り立ちからミナクアに教授している。
 彼女たちの後ろでは、ミナスが二人のためにお茶を淹れている。
 最近になってアウロラの料理の手伝いをしているためか、手際はやけにいい。

「ねぇ、ミナス。今日は何するの?アタイも手伝うよっ!ガッツ、ガッツ!」
「・・・手伝い?・・・君が?・・・ふぅん?」

 からかうようなミナスの声音に、ペリエがたちまち「酷いっ!」と言って辺りを飛び回った。賑やかである。
 ――夜。
 妖魔の襲撃により、森の外縁がにわかに騒がしくなる・・・・・・!

「・・・おや、出番ですか」

 アウロラは外套をそっと脱いで、魔力を≪氷心の指輪≫に集中し始めた。
 のんびり立ち上がったギルが、重い響きを立てて戦斧を地につける。

「遅かったじゃないか。・・・ちょっと、待ちくたびれたな」

 目視できる距離にきた妖魔たちは、下級妖魔のゴブリンと亜種のホブゴブリンだった。ゴブリンは槍を持って武装している。
 そのほかにコボルトとウルフも一緒に来ているが、戦い慣れた相手であった。

「予想外の切り札くらいは持っているかもしれません。・・・油断は禁物ですよ」
「はいはいっと!」

 アウロラの助言に軽く答えると、ギルは身体と斧を回転させて敵の集団へ切り込んでいった。【薙ぎ払い】である。

ScreenShot_20130119_110216781.png

 たちまち意識不明にさせられていく妖魔側は、すでに立っているのが2匹のみという悲惨なことになっていた。
 斧の刃を翻してホブゴブリンへ向うギルに、アウロラがため息をつきつつも【光のつぶて】の呪文を唱えた。光弾に、あっさりとコボルトが撃ち抜かれる。
 ・・・・・・1日目は、あっという間に終わった。

「おはようございます、先生。昨夜はよく眠れましたか?」

 翌朝、足りないものがあったら遠慮なく言って欲しい、というミナクアの可愛らしさに、”金狼の牙”たちは目を細めた。

 2日目の昼は、特筆すべきことも無く過ぎた。
 夜になればやはり妖魔が襲撃を掛けてきたのだが、せっせと仕掛けている罠で敵の数は減っている。
 アレクは≪黙示録の剣≫を静かに引き抜いた。今夜の彼の仲間は、この剣とお世話をアウロラに代わってもらったミナスである。

「――武器を抜いたからには、覚悟してもらおう」
「渓流の精霊よ。君の水圧で撃ち払って!」

 今夜の襲撃にはゴブリンシャーマンが紛れていたので、呪文を警戒したミナスは【渓流の激衝】を使った。この呪文は、激流で敵を吹き飛ばすことで沈黙させることができるからだ。――ただ、ナパイアスの激流は強すぎて、必ずしも狙った相手にいくわけでもないのだが。
 猛々しい中位精霊は、あっという間にその水流で敵を文字通り押し流していった。

「・・・・・・」
「・・・ジーニ。何か心配事でも?随分と険しい顔をなさってますが・・・・・・」
「・・・いえ、大したことじゃないわ。まだ確信のもてる話じゃない」

 杖の先についた灰色の髑髏を顎に当てつつ、彼女は呟いた。

「ただ、どうして妖魔達はいつも決まった時間にほぼ同じ方向から攻めてくるのか――それが、少し気になっただけ」
「・・・・・・」

 その横では、罠を作成し終わったエディンも所在無げに小石を放り投げながら、ミナクアの眠る湖のほうを見ている。

 3日目、4日目、5日目・・・と大過なく日々は過ぎていった。
 相変わらず、妖魔達の夜の襲撃は止むことを知らないかのようである。

「さぁ、それでは、授業を始めよう。最初のキーワードは・・・・・・」

 ジーニはミナクアに知識を授けながら、いつかの夜に巡回している以外の仲間たちと話していた事項を思い浮かべていた。

「――定刻どおりの襲撃。同方向からの襲撃。同規模の部隊での襲撃」
「・・・ジーニ。前に言ってたこと、当たってるかもしれないね」
「・・・どういう事?」
「・・・妖精達に妙な話を聞いたんだ」

と言って、ミナスは居住まいを正した。

「あの妖魔達、日中には森の外縁で何かを探っているらしい」
「もうすぐ満月だ。ミナクアの転生も完了する。その前に何かを仕掛けてくるかもしれねえな」

 エディンは、細剣の柄の感触を確かめるように撫でている。
 彼の手を眺めながら、ジーニは自分の懸念が当たらなければいいのにと、ため息をついた。

2013/01/21 12:03 [edit]

category: 翡翠の海

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