Mon.

賢者の選択 3  

 その後、スケルトンやゾンビに出会ったものの、大過なく退けることに成功した”金狼の牙”たちは、とある扉を開けて後悔していたところだった。
 巨大な石棺の蓋を開けたところで上方に気配を感じ、見上げると女の亡霊がいたのである。

「女の・・・・・・亡霊?」

 やや呆然と呟いたアレクを他所に、彼女はゆらゆらと漂い、何の感情も読み取れない顔で冒険者たちを見下ろしていた。
 しかし、次の瞬間――。

「――――――!!!!」

 女が絶叫した。亡霊は、嘆きの声で人を惑わせ体力を奪う、バンシーという種類のアンデッドだったのだ。

「ぎゃあああ!!」

ScreenShot_20130118_095622781.png

 ほとんどの者がその強烈な悲鳴に精神を冒される中、アレクだけが静かな眼差しをひたと亡霊に向け、詠唱を紡いだ。
 固い指先にバチッ、バチッと小型の雷が呼び寄せられる。その雷は狙い過たず、亡霊の胸を貫いた。
 バンシーは跡形もなく消滅してしまった・・・。

「うー・・・僕まだ耳がツーンてする。痛いよー・・・」
「な・・・なんでアレクシスだけ平気だったのよ・・・」
「これがあれか・・・イケメンの特殊能力ってヤツなのか」

 アウロラの【癒身の結界】で傷を癒されながら馬鹿なことを口にするエディンに、半ば本気で頷いていたギルが言った。

「・・・ん、奥の方に何かある・・・」

 石棺の奥をまさぐっていた彼の手が、棒状の何かを掴む。取り出してカンテラの灯りにかざしてみると、ミイラ化した腕だった。

「うげっ!気持ちわるっ」
「捨てんな、リーダー!それがじじいの左腕だ」

 諭されたギルは、涙目になりながらも変色したそれを荷物袋に納めた。
 もうこんな所に長居は無用と、一行は前に通ったのとは違う通路を通って、老人のいた部屋へ戻ろうとする。
 その途中あった西壁の扉の前で、ふとジーニが足を止めた。

「どうかしましたか?」
「ここ、何か杖が反応するのよね。エディ、ちょっと見てくれる?」
「ん?」

 鍵や罠はないと断言され、ジーニは静かに扉を開けた。
 その向こうは大きな部屋だった。四方を囲む壁に美しい装飾が施されている。天井もずいぶんと高い。
 部屋の奥に大きな石棺が置かれている。

「おいおい、またかよ・・・」

 及び腰になるギルを放って、ジーニは棺に近づいた。
 表面には美しい紋様が彫り込まれている。かなりの年代物に違いない。側面に刻まれた旧文明期の文字を、彼女はゆっくり読み上げた。

「『麗しの都・・・ソドムの王・・・偉大なるカナン・・・』?」
「どうやら、この棺はカナンと呼ばれる人物のものらしいですね。ここはその人の墓所のようです」

 アウロラが言うのに、ギルが首をかしげた。

「随分と身分が高かった人みたいだけど・・・その割には質素な造りだな」

 石棺に蓋は乗せられていない。”金狼の牙”たちは中を覗き込んだが、空だった。
 何も無かったことにいっそうのうそ寒さを感じ、首をすくめると彼らは部屋を出て、今度こそ老人の待つ部屋へと向かった。
 刻み付けられた古代文字と見つけた魔法の武具、そして村の名前に何かを考え込んだジーニを促して。

「・・・腕を持ってきたのかね?」
「ああ。ほら」

 エディンが荷物袋から目的のものを取り出すと、老人に渡した。

「おぉ、二本とも持ってきたか。重畳、重畳・・・」

 干からびた腕を受け取った老人は、無造作に腕の付け根を合わせる。
 やがて、合わせ目の辺りが黄色く輝き始めた・・・。
 光がおさまった頃、腕はまるで何事もなかったかのように繋がっていた。緑色だった皮膚も血色のいい肌色に変貌している。

「うむ、これでようやく元通り、力が使えるようになったわ。後は・・・」

 その時、扉が乱暴に開けられ、数名の人影が室内に入り込んできた。咄嗟に、冒険者たちが己の得物を構える。
 見覚えある姿にアレクが「ワ、ワイト!?」と声を上げるが、老人は落ち着いたままだった。

「慌てるな、馬鹿ども・・・そやつらはわしの忠実な下僕じゃ」
「・・・下僕!?」

 アウロラが柳眉をひそめる。

「腕が戻り、ようやく我が支配下に取り戻す事ができたわ。全く、不自由な事よの・・・」

 老人はワイトの前に進み出た。その姿には、この世ならざる威厳が感じられる。

「・・・下僕達よ、わしの寝所をうろつく汚らわしいゾンビやグールどもを早々に片付けるんじゃ」

 老人がさらに崩れている廊下の修復をも命じると、空ろな目をしたワイトたちは無言で頷き、身を翻した。

「さて・・・次はお前達の始末じゃな」
「・・・・・・」

 用心深く眠たげな目をもっと細めたエディンに、ふっと老人は笑った。嫌な笑い方だった。

「案ずるな。約束じゃ。ちゃんと表に出してやるとも・・・お前達にはまだやってもらわんとならん事があるでな」
「やってもらう事・・・?」
「わしはまだ表に出る事が出来ん。呪術士の若造が張りおった結界は存外に強力じゃ」

 わしの力を持ってしても破る事はできん、という老人に、ギルは無遠慮に言った。

「なんだ、じい様でもダメなのか」
「ギ、ギル・・・」

 慌てて幼馴染が彼の口を手で塞いだ。代わりに老人へ続きを促す。

「しかし・・・生あるお前達であれば、呪法は及ぶまい。我が魔法により、表へ飛ばす事も可能なはずじゃ」
「・・・ただではないだろう」
「もうわかるな?表に出してやる代償としてお前達にはあの呪術士の若造を殺してもらう」

 依頼ではない、命令だと念を押した老人は、かすかに頷いたアレクに満足そうに笑い、目を閉じるよう言った。
 老人の声に底知れぬ力が感じられる。冒険者たちは逆らう意志すらなく、素直に老人の言葉に従った。

「・・・闇夜をさまようものよ・・・我、ここに死者と不死者の王として命ずる・・・」

 しばしの別れじゃ・・・そう、老人は詠唱の最後に呟いたようだったが、判然としない。

「・・・・・・ここは・・・」

 次に目を開けた時、彼らの姿は小高い丘の上にあった。
 アレクが現状を把握しようと振り返ると、彼らの背後に古い石造りの祠がある。
 丘から見下ろした先には、カナナンの村があった。

「随分とあの墓所で時間を食ったみたいだ。どっかで休もうぜ」
「リーダー・・・本当に、あのじじいの言うこときくのか?」
「じい様は関係ないよ。俺がそうしたいからするのさ」

 金に輝く戦斧を肩に担いだギルの顔を見直して、エディンは小さく息をついた。

「・・・まあ、俺もあの野郎には仕返ししたいからな」
「ミューゼル卿の仇くらいはとってあげたい、と最初に申しましたし」
「ギルを放っておくとろくなことにならんのは、昔から知ってる」
「皆が行くなら、僕はどこまでも一緒だよ!」
「ジーニは?」

 ギルに意見を促された魔法使いは、じっと杖の髑髏を見つめてから顔をあげて言った。

「分かってるの?あの老人、恐らくは死霊術の比類ない使い手なのよ?多分、ソドム王国の・・・」
「やばいヤツなら、約束守らないと余計やばいんじゃね?」
「・・・・・・・・・あー、もう!分かったわよ、確かにギルの言うとおりだしね!」

 王だろうが死霊だろうがテロリストだろうが、来るなら来いと息巻くジーニに、仲間たちは笑った。

2013/01/21 09:42 [edit]

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