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賢者の選択 1  

 ぴちゃん、と水滴の音が響いた。
 暗い石造りの部屋の中、かび臭い空気に眉をしかめて呼吸しながら、”金狼の牙”たちは車座になっていた。
 傍らには、立派な鎧に白い胸当てをつけた騎士の死体が横たわっている。
 おもむろにギルが口を開いた。

「えー、では頭の悪い俺のために、分かりやすい現状説明を頼む」
「あんたねえ・・・ま、いいわ。あたしたちはミナスの母親がもしかしたら隠れ里近くの都市に潜んでいるんじゃないかと考え、行商人の護衛がてらヴィスマールへ行ってみた」
「結局、お母さんは見つからなかったからリューンに帰ることにしたんだけど、野宿が多くてうんざりしてたんだよね」
「そうそう。んでリーダーが、『揚げじゃがの匂いがする!』つって、賢者の選択亭ってとこに走っていったんだろうがよ」
「・・・・・・俺たちが温かい食事にひと段落つくと、騎士が宿に入ってきた。彼の名はミューゼル卿、中央公路沿いの村々を視察しているリューン騎士だと言っていた」
「ミューゼル卿はカナナンの村というところで村人の挙動に不審を抱き、ひそかに監視するうち、国家的犯罪者である呪術士ディマデュオの姿を発見したのです。卿は村を大人しく去ると見せかけ、呪術士を捕らえるための人手を探しました」
「それで僕たち、近くに騎士団や治安隊がいないからってミューゼルさんに雇われて、村の監視をすることになったんだよ。宿の主人に、リューンへお使い頼んでからね」
「・・・だよな?それがどうして、俺たちこんな所にいんの?」
「・・・覚えてないんですか?」

 しきりに首を傾げるギルへアウロラが尋ねるが、本当に彼は覚えていないらしく、ため息混じりにやれやれと説明を始めた。

「村の監視を始めた途端、ディマデュオに先手を打たれて眠らされたんですよ。賢者の選択亭のご主人が、村への内通者だったんです」
「あっ・・・・・・!」

 ギルの脳裏に、やっと白い霧のような【眠りの雲】のガスと、その向こうに立つ人物が浮かんだ。深緑のローブに身を包んだ40歳がらみの男と、自分たちに冷たいエールや熱々の料理を運んでくれたはずの固い表情をした宿の主人。その後ろにいる数多くの人影・・・。

「思い出したな?・・・まあ、そう言うわけだ。ミューゼル卿はナイフのようなもので滅多刺しにされてる。血の量からすると、別の場所で刺されてから俺たちと一緒に放り込まれたらしい。くそっ!!」

 エディンが声を荒げて床に拳を打ちつけた。滅多にないことだけに、びくりとミナスが身をすくませる。

「俺としたことが、あんなしょぼくれた中年の正体を見抜けないとはな・・・。宿屋で気づかなかったのが苛立つぜ・・・!」
「済んだ事をあれこれ言っても仕方ないわよ、エディ」
「ミューゼル卿は、私たちのような冒険者にまで礼儀正しい方でした。彼の仇くらいは取ってあげたいですね」
「・・・俺としちゃあ、個人的な恨みのほうが強いけどな。まあ、気持ち切り替えていくか」

 大声を出したことである程度は気も晴れたのだろう・・・エディンは仇発言には苦笑で返しながらも、立ち上がって頑丈そうな扉を仔細に調べ始めた。
 扉の向かいにある石造りの門の道は、途中で巨大な岩盤にふさがれていたのを確認済みである。人間の力では除去する事は不可能だ。

「古い扉だ・・・鍵や罠は見当たらない」

 蝶番が軋みをあげる音を響かせながら扉が開く。その向こうは、真っ暗な通路が続いていた。
 少し進むと、北壁に扉が一つある。

「開けるぞ・・・」

 素早く調査を終えたエディンがそっと扉を押すと、そこは小さな石造りの部屋だった。
 部屋の中央に大きな石棺が置かれている。その周りの床の上には石の破片が無数に散らばっている・・・。
 そこまでを見て取ったアウロラの顔が青ざめたのを見て、ギルが声をかけた。

「どうした?大丈夫か?」
「ええ・・・。部屋の様式からすると、私たちが閉じ込められているのはどうやら、旧文明時代の地下墓地・・・のようです」

 アウロラの言葉を裏付けるかのように、アレクとエディンが無造作に開いた石棺の中には、人間のものらしき遺体が納められていた。半ば朽ちた衣装は確かに旧文明期のものだろう。
 ジーニが静かにそれを観察して言う。

「・・・死体の首が鋭利な刃物か何かで胴体から切り離されているわ。いったい誰がこんな事を・・・?」
「ろくでもない予感しかしない。とりあえず、墓だと分かったんだしここから離れよう」

 ”金狼の牙”たちがしばらく進むと再び北壁に扉を見つけたが、恐らくさっきと似たような部屋だろうとアウロラの意見があり、入ることはやめておいた。
 さらに歩を進めると、今度は東壁に扉がある。

「罠とかはないが・・・この札、古代文字か?」
「どれ?ふーん、呪法に使用する札のようね」

 エディンの疑問に、札を覗き込んだジーニがそう判断する。
 急にしっ、と人差し指を口の前で立てた盗賊が、そっと床に耳を当てた。

「・・・かすかだが、がちゃがちゃと金属が触れ合う音が聞こえてくる」

 じっと話を聞いていたギルが言った。

「ジーニ。これって、剥がしたら呪われるとかそういう奴?」
「いいえ。文字の綴りからすると、中の存在を封じるための何かっぽいわね・・・この魔力、どっか別のとこと繋がってるくさいなー」
「ディマデュオかな?」
「多分ね」
「そうか。んじゃ」

 ギルは扉を躊躇なく開けた。札は音もなく破れ、地面へと舞い落ちた・・・。

「ええええええ」

 あまりの迷いの無さに、アウロラが間の抜けた抗議の声を上げる。
 アレクが「おい」と言って肩を掴むのに、ギルが不思議そうに返した。

「札がディマデュオの作ったものなら、あの気に入らない男の邪魔が出来るチャンスってことじゃん」
「・・・お前、この向こうにあるのが、俺たちの手に負えない何かだったらどうするんだ。あいつが封じてたんだぞ?」
「封じてたってことは、呪術士の敵だろ。敵の敵はとりあえずの味方・・・かもしれないし」

 彼はぐっとノブを引いた。
 ・・・中は広い部屋だが、他の部屋同様、床や壁は全て石造りだった。
 部屋の奥には、黒いビロードのローブをまとった老人が、頑丈な鎖で壁に縛り付けられている。

ScreenShot_20130118_082721140.png

「・・・誰じゃ?」
「・・・あなたはいったい・・・?」

 アレクの問いに、老人はしばらく無言を貫いていたが、不意にくっと口の端を持ち上げてみせた。

「・・・なるほど、村の者ではないんじゃな。村の呪術士にこの地下墓地に閉じ込められた・・・そんなところか?」
「・・・・・・」

 ミナスが黙ったまま、正体を訝って老人を見つめた。

「・・・わしかね?わしはこの墓地の主じゃ。あの若造にしてやられてな、この有様じゃよ」
「じい様も、あの野郎にやられたのか」
「その様子では出口を探しておるのだろう。気の毒じゃがな・・・この地下墓地に出口はない」
「なんだって!?」

 気色ばむアレクに、老人はぼそぼそと応える。

「・・・ある事はあるが、巨大な岩盤とあの忌々しい呪術士の魔法で封じられておるわ」
「なるほど。じゃ、あの札と繋がってた魔力は石造りの門の・・・」

 老人の説明に納得しかけていたジーニが、ふと口を噤んだ。
 彼女の持つ≪死霊術士の杖≫が、かすかではあるが小刻みな波動を繊手に伝えている。
 それには気づいていないのか、老人は諦めてグールにでも食われてしまうんじゃな、と続けた。
 しかし、そこでミナスがアレクの背中にしがみ付いたまま、哀しげな声を上げた。

「・・・この地下墓地から抜け出す手段はないの?」
「・・・・・・」

 老人はゆっくりと小さなエルフを見つめた・・・。

2013/01/21 09:35 [edit]

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