Sun.

花を巡りて・・・ 1  

 夕刻、狼の隠れ家にて――。
 買い出しに出かけていた”金狼の牙”たちは、夕飯を作ってくれる親父さんを横目に、リューンで買ってきた物を整理し始めていた。
 ギルが依頼の張り紙に目をやる。朝は無かったものがあった。
 それに気づいたジーニが声をかけると、ギルが増えた張り紙を示す。

「え?チェックしとこうよ」

 ミナスの台詞に頷いたギルが、件の張り紙をはがしてテーブルに置いた。

「うーんと・・・『フィロンラの花』?」
「フィロンラの花と言えば、リィナさんの依頼で取りに行ったあの花ね」

 フィロンラの花は、古代文明期にある魔道師が作り出したもの・・・と言われている。ある奇病を治すには、どうしてもそれが必要になる・・・しかし、花自体が非常に希少価値が高いために、その病気を治すことは現在、ほぼ絶望視されていた。
 リィナの弟もまた、その奇病に罹患した一人だったのだ。

 治ったらまた会いに来ると言っていたリィナを懐かしみ、”金狼の牙”たちが思い出話に耽っていると、親父さんが難しい顔で「・・・その依頼か」と言いながら食事の載ったトレイを持ってきた。
 鹿肉のシチューや川魚の香草焼きを平らげた後、親父さんに食器を返しながら依頼について詳しく聞いてみる。
 依頼人の名前は医術研究家のヴィーアシー氏。聞きなれない職種に首を傾げる仲間には、ジーニが説明をした。

「医術研究家・・・薬草の調合から新種の特効薬の研究、栽培、改良・・・未知の病気の研究などを行う人ね」
「そうだ。まあ医者とちがって、直接患者を治すというわけではなく研究の成果で大勢の人を助けるような人間だな」
「ええ・・・それで、その方の個人的な情報はありますか?」

 アウロラの質問に親父さんは残念そうに首を振った。依頼人は初めての人物だったらしい。
 再びあの遺跡に行くのだろうかと思ったミナスが確認すると、今度の花の所在はレピア村というリューン郊外にある小村らしい。歩いて3日ほどかかるという。花の有無が確実でないため、苦い顔になったエディンが「規約違反で報酬なしってのは勘弁してもらいたいな」と言うと、そこは一応交渉しておくんだなと気のない返事があった。

ScreenShot_20130116_100232750.png

 それまでずっと黙っていたアレクが不意に口を開く。

「なぜ、この花をそこまで急いで手に入れる必要があるんだ?」
「うむ・・・とりあえず非常に貴重で、しかも脆いものらしい。一足違いでもう無かった、というのもやりきれないというのと・・・」
「それは前の経験で知ってはいるが・・・」
「どうも最近、リューンで例の奇病の症状がポツポツ見られるらしくてな・・・」

 親父さんが顔を曇らせる。まだ事態はそれほど深刻化していないようだが、症状が進行していく前にその花を手に入れて研究を進めておきたいのだろうということは、容易に察せられた。
 明日の朝、また依頼人のヴィアーシー氏が来る手はずになっており、話がまとまればそのまま出発という流れになるだろうと親父さんが言うので、ギルの提案で一行は早めに休むこととなった。

 翌日の早朝、親父さんの言うとおり食事後にヴィアーシー氏がやってきた。
 初老の男で、眉間の皺と片眼鏡が堅苦しい印象を与える人物である。
 職業柄だろうか、値踏みするような視線が落ち着かず、アウロラは思わず身じろぎした。

「ふむ・・・・・・では、さっそく依頼の話に移らせてもらいますかな」

 彼は同じテーブルに腰をおろすと、”金狼の牙”たちの反応を窺うこともせず、話し始めた。
 やはり、今の研究は花がなければほとんど進歩が見込まれない・・・というものになるようだ。レピア村に赴き、花があるかどうかの調査及び探索、もしくは交渉などで花を手に入れて欲しいというのが希望だと言う。
 報酬は前金で500sp、花を手に入れればさらに1500sp上乗せ。”金狼の牙”たちからすれば美味しい値だった。
 用心深く、アレクが尋ねる。

「・・・花を手に入れられなければ?」
「前金の500spのみ・・・だが、花はなくても研究に役立つものがあるなら、考慮対象にはしよう」
(考慮対象、ね・・・)

 明確な基準が分からない以上、やはり花自体を手に入れるのがベストと言わざるを得ない。アレクは思わず黙り込んだ。

「ああ、言うまでもないことだが、花があろうとなかろうと報告には来てほしい。ないとは思うが、前金持ち逃げされてはかなわんのでな」
「・・・・・・・・・・・・・・・分かってるよ」
「ふむ・・・ならば良い」

と依頼人は頷いたが、返事をしたエディン以外のメンバーは苦々しそうな顔つきのままだった。”金狼の牙”が、今までの依頼において持ち逃げなどと言う不名誉を起こしたことはない。疑われるのは心外である。
 まあ依頼人が特別用心深い性質なのかもしれない、と楽観的なギルは気を取り直し、交渉の際に使う資金はどうするのか訊いてみた。
 すると、驚くべきことに助手を同行させるので心配はないという。
 冒険のど素人を連れて歩くのは今までの護衛の経験上、大変な事が分かっているので、出来るならば断りたいところであったが、レピア村の出身者で道案内にもなるということなので、了承するしかない。
 ギルは依頼を引き受けることにした。

「・・・あの花がそんなに貴重だったなんてね・・・」

 前金をリーダーが受け取った後のミナスの呟きに、ヴィアーシーはじろりと視線を向けた。

「ふっ・・・・・・君はフィロンラの花を知っているのかね?どうせ・・・・・・」
「・・・よくは知らないけど、手に取ったことくらいならあるよ」

 鼻先で哂ったヴィアーシー氏の機先を制するようにミナスが言う。

「・・・何?」
「病気の弟を治したい、って人のためにフィロンラの花を取りに行ったことが・・・ね」
「そうか・・・君達が例の冒険者か。・・・もったいないことをしたものだ」
「・・・・・・!?」

 依頼主の口ぶりにむっとしたミナスが立ち上がるのを、エディンが慌てて止める。
 エルフの少年の剣幕には構うことなく、ヴィアーシー氏は言葉を続けた。

「ただ一人のためにフィロンラの花を使ってしまうとは・・・それさえあれば、今やあの病気は根絶やしに出来ていたかも知れぬのに・・・」
「何だよ、それ・・・」
「ミナス!」

 ギルも少年を呼ばわるが、ミナスの口は止まらなかった。

「ほっておけばすぐにでも死んでしまうような肉親がいる人に、あんたそんなセリフ言えるの!」
「・・・・・・・・・その花が研究に使われ、薬が作られれば結果的に多くの人が助かるのだ。それまでくらい持ちこたえて当然ではないかね?」
「・・・・・・何?!」

 気色ばんだ少年の気持ちを痛いほど分かりながら、ギルはリーダーとして諭すしかなかった。

「やめろ。依頼人と口論している場合じゃないんだ。出発するぞ」

 ミナスはこみあげる苛立ちを隠し切れず、ヴィアーシーを見据えた。
 ふと、アウロラはこの依頼人にも助けられなかった身内がいたのかもしれない・・・と思った。間に合わなかった人がいたのではないかと。
 さまざまな思惑を抱えながらも、一行は親父さんに挨拶して狼の隠れ家を出発した。

2013/01/20 16:43 [edit]

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