Thu.

月へ向かう船 4  

 襲撃の決着が着くのは早かった。
 取り巻きたちからミナスやギルへ怪我を負わせられたものの、伸ばした指先から迸る雷を放ったアレクが、兵長・ティグレを一撃で仕留めてみせたからからである。

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 怪我した腕をアウロラに治療されながら、ギルが安堵の息をついた。

「・・・・・・何とか、撃退したな」
「ええ、でもまた来るんじゃないかしら。そんな気がする」
「・・・・・・だろうな。だが、もうすぐ目的地だ。奴らが再び来る前に、月光葬を済ませられれば――」
「月光葬?」
「そう言うの。――月の光を呼び集め、星に上げる妖精の葬儀のこと」

 音もなく忍び寄ってきたフォットが会話に加わる。

「警戒は怠るべきじゃないな」
「それはもっともだ」

 エディンは頷いた。横でミナスが自分で水精を呼んでいる。
 その様子を眺めつつ、ファルがやや震える声で言った。

「でも、エディンさんたちがいなかったら今頃どうなってたか・・・・・・本当、ありがとう」

 ファルはカルバチアの図書館司書の家を出て以来、オロール老と共に暮らしてきたそうである。
 本当の祖父と孫娘のように仲睦まじく生きてきた彼女が老のためにがんばる姿は、なんとなく弟を取り戻そうとする姉――イリス――を連想させ、ジーニは切なくなった。
 もちろん、ファルはオロール老のために心臓を取ろうとしているわけでも、なんとしても彼を取り戻そうとしているわけではない。
 ただ、あの時に救えなかったものをここで救えるのかもしれないと思った。

「あの黒いの――」
「あれが船長のクラージュ。他にもまだ、幹部はいるわ」
「あれが船長なのね。――他のクルーについては知っているの、ファル?」
「・・・・・・ええ、だいたいは」

 あとで説明すると言ってファルは席を外した。そろそろ、オロール老が危ないらしい。
 ガートは船の操作を、フォットはオロール老とファルの護衛に入ったため、”金狼の牙”たちは休憩後、巡回をすることにした。戦力を整える必要もある。

「・・・・・・ふぅ。あの海賊、また来ると思います?」
「ああ。彼らがああ言ってるんだし、来る確率は高いんだろうな」

 手元の細剣を磨きながらエディンが応じた。

「警戒にこしたことはない、か――」

 宿で親父さんに言われた台詞を、ジーニが口に上らせる。
 そうしてどのくらい経ったのか――ふっ、と周囲の明るさをジーニは覚えました。
 見事に丸い満月が、すぐ近くにあった。静かに空を滑っていた船は到着したのだろう、そこで止まる。

「着いた。ここで――行う」

 ガートがこちらへと歩み寄ってきたのに気づき、ジーニが声をかける。

「オロール老は?」
「・・・・・・ついさっき、逝ったよ。ファルと少し、話してたようだったけどね。とっとと始めないと、魂が散り消えちまう。だから――」
「ああ、やっててくれ。警戒はしている」

 護光の戦斧を肩に担いだギルが頷いた。

「あぁ、ありがとう。・・・・・・・・・月よ――」

 ガートが、船室の上で立っていた。
 そばには、動くことなく横たわるオロール老と、寄り添うファルがいる。
 ただ静かに煌々と、月明かりが妖精たちと人間たちを照らしていた・・・・・・。
 大きくはないが通った声でガートが唱える。

「――月よ、その光の欠片をこの小さき魂に――」

 ――――ふ、と。月が揺らいだ。
 小さな小さな、それは目を凝らしてやっと判るほどの細かな粒たちがゆっくりと、ゆうっくりと、物言わず眠る老猫に降りてきている。
 凛然とした佇まいの月より――。

「――星となりて吾等の導と――」

 不意に変わった夜風に気づいたのは、アレクとジーニだった。

「――!?」
「あれは!!みんな、来たわ!」

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 月に映る影は、鳥のようであり、また鳥の如くではなかった。
 ギルがいらただしげに舌打ちする。 

「奴らだ!よりにもよってこんな時に!!」
「さっきは不覚をとったがなァ!今度はそうはいかねェぞ、人間どもがッ!」

 先程の、船長らしい黒帽子が月を背に立っていた。

「かかれッ!」
「おうッ!」

と、一斉に現われた海賊たちの声がわんっ、と唱和した。その人数にジーニが眼をむく。

「6人!?くい止めないとッ!」
「こんな狭い船で固まってたらマズいよ!離れて戦おうよ!」

 ミナスの叫びに、各々が顔を見合わせ・・・頷く!

「ふんッ、小癪なマネをッ!タイマン張って勝てるつもりかッ!」

2013/01/17 19:04 [edit]

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