Sun.

銀の鍵 6  

「シャー!」

 その化け物はどこが目なのか口なのか、果たして生きているのかすら怪しい「何か危険な存在」だった。
 ベルチはいつの間にか現われた化け物を見て、傍についていた下男に使用人の避難と、リューン騎士団への連絡をするよう指示を出す。
 不気味に蠢くそれは、窓から庭園へ出ようとしていた。
 未知の生物への恐怖は確かにあったのだが、あえてそれを無視してベルチが窓と化け物の間に立ち、両手を広げた。
 この先の庭園は、彼女の大事なお嬢様――オリヴィアが愛したものであった。たとえ殺されるのだとしても、こんな冒涜的な存在にお嬢様の宝物を荒らさせてはいけない。

「いいえ、化け物。ここは一歩も通しませんよ」

 語尾が震えるのだけは、どうしようもなかった。
 化け物はもう一声唸り声を上げると、ヘドロのような腕を振り上げてベルチに叩きつけようとしている。

「ひっ!」

 首をすくめて目をつぶりその時を待ったが、一向に何も触れる様子はない。
 そして、

「ベルチさん!下がって」

と毅然とした女の声が耳に入り、ベルチは恐る恐る目を開けた。

「あなた達――!」

 それはついさっき蜀台の仕掛けから見送ったはずの冒険者たちだった。
 しかし、オリヴィアと会えたのか、ヴァイオラと呼ばれる人物に手紙を渡すことはできたのか、と問いかける暇はない。

「ウアァァァ・・・・・・」

 急に現われた”金狼の牙”たちを警戒していた化け物は、一際大きな咆哮を上げると彼らに襲いかかってきた。

「これがフェステさんの言ってた『よからぬもの』なのですか・・・?」
「少なくとも、俺達の見知った魔物ではないな。例の宝玉、使ってみるか?」

ScreenShot_20130108_075422765.png

 アウロラに答えたアレクが幼馴染に視線を走らせると、ギルはすでに宝玉を掲げているところだった。

「フェステさん、あんたを信じるぜっ!」
「――――!」

 宝玉の中心が白く輝くと、すべての景色が真っ暗に変わり――。
 屋敷は依然として冷たく沈んでいた。

「ベルチさん、怪我は?」
「・・・ええ、その・・・御陰様で。・・・ありがとうございます」

 化け物の姿こそなくなったものの、まだ震えは止まらない。しかし、ベルチは気丈にもそう答えた。

「みなさまも、無事にお戻りになられましたようで・・・。その本は・・・?」

 ベルチは冒険者たちの手にしている本に目をとめて尋ねた。
 その問いに、冒険者たちは互いに顔を見合わせた。本に触れたことまでは憶えている。しかし、掴んで持ってきた記憶は誰にもない。
 ギルが困ったように笑い、ベルチに言った。

「なんと言っていいのか・・・とにかく、手紙を届けた先にあったんだ」
「・・・・・・よもやそこで、オリヴィア様にお会いになられませんでしたか?」
「あなたの言ってる人と同一かはわからないけど・・・・・・オリヴィアという女性、いいえ、少女がいたわ。金髪で青い目の――」
「おお・・・」

 ベルチは泣き崩れた。

「オリヴィア様、オリヴィア様、わたくしは・・・・・・」

 アウロラがその肩を抱き、おろおろとしたミナスがベルチの背中を撫でる。やがてベルチはほどなく顔を上げた。

「・・・・・・失礼しました。お見苦しいところをお見せしまして・・・」

 目こそ赤いもののその表情は先ほどまでと同じ落ち着き払ったものだった。
 ベルチは成功報酬をギルへと渡すと、誰も持ってきた憶えないのない鍵の掛かった本も差し出してきた。
 アウロラが愛しそうに表紙を撫でてから、それを受け取る。

「・・・ありがとうございました」

 ”金狼の牙”たちは、お辞儀をして見送るベルチの目の端に、まだ光るようなものがある気がした。
 ・・・外は雪がちらついていた。

「・・・・・・あまり時間はたっていないようだな」

 エディンがしばらくじっと風景を見てから言った。
 歩き出してからまた少しして、幼馴染コンビとアウロラが口を開く。

「今回の件、つまりどういうことだったんだ?」
「・・・・・・やっぱり死者に手紙を届けたのかな」
「オリヴィアさん、奥様なんて呼ばれるくらいですから大人の女性ですよね。・・・・・・あそこにいたのは子供でしたよ?」
「推測でしかないけれど」

 ジーニは仲間に伝わる表現を探しつつ言った。

「あの世界は、狭間っていうか境目みたいなものだと思うのね」
「・・・何と何の?」
「この世とあの世のよ。ヴァイオラとオリヴィアは双子って言ってたでしょ?ヴァイオラは亡くなった姉妹なんでしょう」
「どうして二人であの世界にいることになった・・・?」
「本よ」
「あの俺たちが持ち帰ってしまったヤツか?」
「そう。この世にあるべきものを境目に持ち出してしまい、円が綻びてしまった。だからあの本を取り除くことで円が閉じる・・・」

 ギルはしばらくその言葉を吟味していたが、途中で理解を止めたらしく、「じゃあ俺たちは、オリヴィアさんの幽霊にあったのか?」とジーニに尋ねた。

「オリヴィアがあの世界に遺した想い、魂に近い思念のようなものじゃないかしらね」
「思念・・・?」
「そう。魂ではないから、一番あの世界に馴染んでいた少女の姿で現われた・・・・・・全部推測だけどね」

 あ、と小さくジーニが声を上げる。

「狼の隠れ家が見えてきたわ」
「あれ、親父じゃないか?」

 目のいいエディンが真っ先に薪を抱えた親父を見つけた。

「なんだお前ら、早かったな。依頼、受けなかったのか?」
「いや。もう、ひと仕事してきた」

 エディンの応えはいまいち意味不明だったものの、親父さんは薪運びを手伝うよう彼らに言いつけた。
 たちまちブーイングが出るものの、やらなければ暖炉に十分な火が入らないぞと脅され、しぶしぶ雪の降る中を親父さんの手伝いに回った冒険者たちは、今日も自身が物語の主人公であったことを知らない。

※収入1000sp、≪(語られざる物語)≫※

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■後書きまたは言い訳
22回目のお仕事は、蒼馬さんの銀の鍵です。ReadMeにはライトな探索ものとあります。探索もだけど、どっちかと言うとリドルメインかな?上品な言葉遣いのベルチさんがお気に入り。

もっとも、リドルがどうしても解けないor娘さんにアイテムをもらい忘れた場合は、戦闘を行う必要性が生じるのでこの限りではないかもしれません。”金狼の牙”もあえて戦っても良かったのですが、ベルサレッジの遺跡探索で五行についてのリドルを解いたあとだったので、リプレイのような仕儀となりました。
要港都市ベルサレッジといえば、勝手に依頼のダークエルフをミナスに絡めてしまいました。作者様にメール届かなかったので、もし問題ある場合はご連絡乞う。

なお、ジーニの解釈はゲームに出てきません。あくまで銀の鍵をプレイしたLeeffesの感想です。プレイされた方々には各々の解釈があると思いますが、どんな感じなのかしら・・・。

当リプレイはGroupAsk製作のフリーソフト『Card Wirth』を基にしたリプレイ小説です。
著作権はそれぞれのシナリオの製作者様にあります。
また小説内で用いられたスキル、アイテム、キャスト、召喚獣等は、それぞれの製作者様にあります。使用されている画像の著作権者様へ、問題がありましたら、大変お手数ですがご連絡をお願いいたします。適切に対処いたします。

2013/01/13 04:10 [edit]

category: 銀の鍵

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