Sun.

銀の鍵 5  

 しばしあって――。軽い足音と共に、一人の男が現われた。

「よく参られた、客人どの。フェステだ」

 黒いローブに身を包んだその男を見て、ベルチが言っていた魔法使いとはこいつのことかとジーニは思った。
 彼女の予想が正しければ、あの蜀台にこの異空間へ繋がる魔術の仕掛けを施した人物。
 そして不自然な森というクッションを作って、知恵の回るものだけがここへたどり着くように結界を張った人物でもあるはずだ。

「何用かな。客人よ」

と掠れたようなバリトンで言う男に、ギルは居心地悪そうに「ここはどこで、あんたは一体何ものなんだ?」と訊いた。
 男は小さく「ふむ」と呟くと、やがてゆっくりと口を開いた。

「そなた達がここに至るまでの道はどのようなものであったのか。それを考えれば自ずとから答えは得られよう」
「???」
「私はフェステだ。ここの番人をしている」
「つまり、この閉ざされた空間の見張り役というわけね。不要な者が来ないように」

 まったく意味が理解できていない様子のギルに代わって、ジーニが質問をする。

「そなた達のようにここにありうべかざるものをもとに戻すのも仕事のうちだ」
「たとえあの蜀台を使っていても、ここに存在すべきではないってこと?」

 男は不意に双子の少女たちへ視線を走らせ、きっぱりと言った。

「オリヴィア、今はそなたの戻るときでもある」
「いやよ。わたし、ずっとここにいる」
「そうよ。オリヴィアはずっとここにいるの」

 男の言を否定したオリヴィアを、ヴァイオラがぎゅっと抱きしめる。

「ならぬ。そなたは、ここにいてしかるべきものではない」

 男は厳かに言った。

「円環は閉ざされなければならぬ。傷は癒されなければならぬ。その掟は、時が生まれるより先に定められたのだ」
「・・・・・・何の事かさっぱりなんだが」
「あとで説明してあげるわよ」
 
 ギルとジーニが小声でやり取りをしているのにも構わず、フェステは少女たちを見下ろす。

ScreenShot_20130108_073228906.png

「それをまげることは神々すらまかりならぬ。わかったな。オリヴィア、そしてヴァイオラ」
「・・・わかったわ」
「・・・・・・」

 しぶしぶオリヴィアが頷くと、ずっと抱きついていたヴァイオラがいやいやその身を離した。
 フェステが冒険者へ向き直り、懐から林檎より一回りほど大きな宝玉を差し出した。

「客人よ。この・・・・・・宝玉を持っていくがよい」
「これを?」
「・・・時空の裂け目を抜けよからぬものが来るようだ」
「ギル、受け取って。お願い」
「ああ・・・」
「あたしの予測が正しいのなら、それはミッシング・リングの欠片よ」
「失われた円環・・・?」

 フェステはヴァイオラから鍵の掛かった本を渡してもらうと、冒険者たちに触れるように促した。
 すべてはあるべきように戻るだろう、と語るフェステの顔は、ローブに隠れてまったく見ることが出来ない。
 ジーニが頷くのを見て、ギルは本へ左手を触れさせた。
 辺りの色彩が失われ、白黒からやがて灰色の世界へと変わる・・・・・・そして、灰色の視界も段々と輪郭が淡くなっていった・・・。
 冒険者たちがかろうじて認識できる1点の光のような『何か』に向かっていると、聞き覚えのある凛とした声が聞こえてきた。

「いいえ、化け物。ここは一歩も通しませんよ」

2013/01/13 03:55 [edit]

category: 銀の鍵

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