Sun.

銀の鍵 3  

「・・・まぶしいな」

 裂け目の向こうは広葉樹の古木の茂る深い森だった。晴天に太陽が輝いている。
 さっきまでいた世界ではもう雪が降るかもと予想していたのに、ここには冬のふの字もない。

「暖かいですね。・・・正直助かりました。凍えそうだったので」
 
 冒険者たちは冬の外套を脱いだ。

「ヴァイオラさんとそれに出口も探さないとな。とにかく探索するぞ」

 アレクの台詞に全員が同意し、万一に備えて隊列を作る。
 見渡すばかり木また木だ。ふと、木の枝が落ちているのを見つけた。
 エディンが確かめると、太さといい長さといい乾き具合といい、そのばしのぎの松明にはなるだろうことが分かった。
 何かに使える可能性が高いと、荷物袋に入れる。
 手近な枝にハンカチを細かく裂いたもので印をつけしばらく歩くと、不意にミナスが顔をきゅっと強張らせて言った。

「なんだろう・・・・・・この森、エントとかの気配がない。その代わり、こっちの奥にウンディーネの力を感じる」
「行けども行けども同じ景色だ。何かの手がかりかもしれない、行ってみよう」

 小さな精霊使いの導くほうへと進むと、木々の向こうに水の塊が浮いて漂っている。
 冒険者たちは陣形を整え武器を構えた。
 しかし、単なる水の塊とも見えるそれは視線らしきものを僅かにこちらに向けただけで、それ以上動こうとはしなかった。

「・・・・・・襲ってくる気はなさそうだな」
「・・・僕が感じた水精は多分あれだね。狂ってる様子はないし、ちょっと話してみる」

 ミナスは心配そうな仲間に見守られつつ水精に声をかけた。

『ウンディーネ、清らかな水の精霊。君は何でここに?』
『我、火精ヲ滅シ、土精を助ク』

ScreenShot_20130108_062124296.png

 何の事か分からないミナスが色々呼びかけるも、水精はそれ以上語ることは無かった。
 ミナスが眉間をコイル巻きにしながらも話した成果を報告すると、幼馴染コンビが同時に腕を組んだ。
 
「火精・・・サラマンダーだよな?」
「ノームを助けるのがウンディーネ・・・なんだか、こないだの五行みたいだな」
「ん、ベルサレッジの地下墳墓の事件?あれは迷宮内のリドルだったけど・・・」
「ギル。もしかしたら、この森に他の精霊もいるんじゃないのか?」

 アレクが以前に片付けた事件から閃いた予測を口にすると、ギルの目の色が変わった。
 ミナスに向き直り、

「他の精霊の力も、近くにいれば分かるか?」

と尋ねる。

「今みたいな存在の仕方してれば分かると思うよ。森にエントたちがいないから、精霊力がはっきり感じられるし」
「よし、とにかく歩き回ってみよう。この森なんか変だ。鳥は鳴いてるけど、さっきから一羽も姿を現さないし他の動物もいやしねえ」

 リーダーの発言に、他のメンバーも「そういえば・・・」と辺りを見回した。

「何らかの結界であれば、『核』になり得るものがどこかにあるはずよ。行きましょう」

 杖の髑髏を顎に当てながらジーニが言う。
 それから”金狼の牙”一行は、あちらこちらを歩き回った。他の精霊たちに会う途中で、水筒やフイゴなどを見かけることもあった。
 どの精霊も「何を滅し、何を助く」としか言わない。何のヒントだろうと考えつつ歩く途中で、彼らは家を見つけた。

「あれか・・・?」

 結界の核の部分だろうかと、アレクが先頭に立って歩き出す。
 やがて他の仲間たちも追いつくと、彼らは足を止めてしばしその家を眺めた。
 泥に汚れた外壁。僅かに煙の立つ煙突。作業途中なのか、巻きかけの糸巻き車。
 すべてが、田舎の村にありそうな風景である。だが、エディンは静かに首を横に振った。

「・・・いや、あの家、普通じゃないぞ。人の気配・・・それ以前に生命の気配が全く無い」

 人の姿はむろん見られず、傍らには家畜小屋とおぼしきものがあり家畜の世話に用いられる熊手などの道具が見られるものの、家畜の姿はなく鳴き声さえも一切聞こえてこなかった。
 あたりはただ、鳥のさえずりが聞こえるのみである。

「・・・ん?」

 外壁に触ろうとしたミナスの手は空を切った。

「これは幻影ね」
「幻影・・・つまり実体がないってこと?」

 ミナスがジーニを見上げると、彼女は杖の先に魔力を集めて外壁の泥の部分などをなぞっていた。

「ええ。それなら、気配のなさも説明がつくわ。たぶん、本当の入り口を隠しているのね」
「ということは、この幻影を消せば入り口が出てくるってことか?」
「たぶんね」
「消すといっても具体的にはどうすればいいんだ?」

 眉を八の字に下げてギルが言う。何しろ、魔法の素養というのは殆どないリーダーだ。この方面には仲間に頼りきりである。

「これほどの幻影を術者なしに存在させるにはなにか媒体が必要なはずよ。媒体をどうにかしましょう」
「媒体・・・・・・さっき出会った精霊たちか!」

 エディンがそう言って手を打つと、ジーニも微笑みを浮かべて頷いた。

「ええ、四精霊を配置しているのはそういう訳だと思う。解除は、おそらくミナスが聞いた精霊の言葉」
「滅すると助ける・・・」
「力を強めるなら『助ク』なんでしょうけど、この場合は解除だから『滅ス』だと思うわ」
「途中に落ちているフイゴやら水筒やらは、解除に必要な道具ということでしょうか?」
「そういうこと。依頼人が言ってたでしょう、奥様は小さい頃に出入りしてたって。精霊と一戦交えずに通れる道があるはずよ」
「フイゴは風に必要な道具ですね・・・あ、ちょっと待ってください!」

 アウロラが、狼の隠れ家でもらったうちわを取り出す。

「これ、娘さんからいただいたの忘れていました。これがあれば風を起こせるのでは?」
「なーいす、アウロラ。えっと、風で滅するのは・・・」
「水、ウンディーネだって言ってたよ」

 ミナスの言葉に従って移動し、ギルがうちわで水の塊を扇ぎ始めた。
 これは今年の夏にリューンで流行った東洋の品物で、何かの景品で娘さんがもらってきたらしい。渡したほうもこんなところで使うとは思わなかったろうな・・・とミナスは不器用にうちわを操るリーダーを見ながら思う。
 うちわの起こす風が当たると、水精はその形をゆらめかせた。
 一瞬あとには、小さな泉だけが残っていた。

「なるほど、今度は水筒を拾ってきてこの水をサラマンダーのもとへ持っていけば良いのか」
「よし、急ごう」


2013/01/13 03:50 [edit]

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