Sun.

銀の鍵 2  

 通された客間は、暖炉に火も入れられておらず冷え切っていた。

「ようこそ、おこしくださいました」

 冒険者たちの前で挨拶をしたのは、一人の女性だった。整った顔つきだが、厳しい教師のような印象を受ける。
 きびきびとした動作は若々しいものの、恐らくすでに初老の域へ達しているだろう。

「ベルチと申します。わたくしから、依頼についてお話をいたします」
「では詳しい内容を・・・・・・」
「その前に」

 話し始めたエディンの出鼻をくじくように、ベルチが少し声を張り上げた。

「詳しいことを話す前に約束していただきたいことがございます」
「・・・・・・どうぞ、お聞かせ願いたい」
「ひとつはこれから申します話を聞いた場合、依頼を必ずお受けいただくこと」
「・・・・・・ふむ」

 ギルが困ったように頬をかく。聞いたら断れない依頼というのは、厄介なものでしかありえない。特に裕福な人ほど。

「もうひとつ。依頼内容は絶対に他言しないこと。これらを約束していただけますか?」
「守秘義務か。安心してくれ。通常の依頼でもぺらぺら話すつもりはないが、特にと望まれるなら絶対に言わないよ」

 目線で仲間を見るが、「受けてくれ」と顔に書いてある面子ばかりで、ギルは仲間の好奇心の強さに思わず苦笑してから「約束する」とベルチに宣言した。

「依頼は、張り紙に記載した通り手紙の配達でございます。ただし、配達先は普通の場所ではございません」
「・・・・・・続けてくれ」
「何と申しましょうか。異世界のような場所と思っていただければと思います」
「異世界ですって?」

 鋭い口調で繰り返したのはジーニだった。今まで落ち着かなさげに杖の髑髏を叩いていたが、急に興味が出たらしく身を乗り出すようにしている。

「実を申しますとわたくしも詳しくは存じ上げません。その場所に行くためには、後ほどお見せいたします仕掛けをつかうのだそうでございます」
「仕掛け・・・ねえ。マジックアイテムだとしたら、ぜひ見せていただきたいものだわ。どんなところ?」
「先日亡くなられたお嬢――いえ、奥様がお小さい頃行った場所のようです」

 小さい子がいける場所なので危険な魔物の類はいないと思うが、いずことも知れぬ場所に赴くのは不得手な者ばかり、そんな理由から冒険者たちにお鉢が回ってきたらしい。
 訳ありの訳がやっと見えはじめて安心したミナスが、手紙について尋ねた。

「手紙って何書いてるの?誰に届ければいい?」
「手紙はおそらくごく普通の手紙にございます」

 おそらくという部分を冒険者が聞きとがめるが、亡くなった奥様の手紙はベルチをはじめ誰も中身を見ていないそうだ。
 正式な遺言状とは別に今回配達をお願いする手紙と、この依頼を記した書類とが残されていたという。
 届ける相手については、あて先がヴァイオラと書いてあるため、女性だろうという予測しかない。

「奥様がお小さいころ御伽噺のおつもりか『魔法使い』とおっしゃってた人物がおりましたが、あるいはその方と同一かもしれません」
「ヴァイオラ、魔法使いねえ・・・報酬については1000でいいのね?」
「はい。これは成功報酬としてお支払いいたします。賃上げ交渉はご容赦いただきたいと存じます」

 前金なし、交渉なし、と聞いてジーニの肩ががっくりと下がった。あまりの現金さに、見守っていたミナスが忍び笑いをこらえたくらいである。
 笑ったら悪いと思ったアウロラが、「聞くべき事は聞いたと思いますので・・・」と自分で切り出した。

「出発なさいますか?」
「はい」
「こちらが、お届けをお願いする手紙にございます」

 ベルチの差し出す手紙をアウロラが受け取る。表には『親愛なるヴァイオラへ オリヴィアより』と記されている。

「先ほどおっしゃられた行くための仕掛けとは一体何なのですか?」
「少々お待ちください」

 部屋を出て行ったベルチが数分ほどで戻ってくると、その手に蜀台が握られている。

「お待たせいたしました。こちらが、先ほど申した『仕掛け』でございます」
「これが?」

 エディンとジーニがその蜀台に近づき、しげしげと眺める。
 唐草模様のように見えるものは模様ではなく文字のようだ。一般的に使われるものではないため、エディンにはこれ以上のことは分からなかったが、ジーニには空間に亀裂を作るもののルーンのようだと分かった。
 台座には「ともしびは汝を導く」と刻まれている。

「奥様は、お小さいころ『蝋燭灯して行けるかな』という戯れ歌をよく歌っておりました。ですから、蝋燭に火を灯せば道が開かれると思います」
「火種貰っておいて助かったな」

 小声で呟いたエディンは火口箱から鉄片やおがくずを取り出し、器用に火種を作った。
 蜀台の蝋燭に火を灯すが、しばらくは変化がない。焦れたギルが「何も起こらないな」と言い始めた時、

「・・・違うわ。見て」

とジーニが目を眇めるようにして煙を指さした。
 煙は最初普通に上へと昇っているように見えたものが、徐々にその場にわだかまり始め、段々と森のような形に姿を変えていっている。

「ま・・・!」

ScreenShot_20130108_055124265.png

 ベルチが驚きの声を上げるのを満足そうに見やったエディンが、ジーニにこれが入り口かと確認する。
 彼女が胸元の水晶のペンダントを握り締めながら頷いたのを見て、一行は煙から現われた時空の裂け目へ踏み出そうとしていた。

「・・・・・・お気をつけていってらっしゃいませ」

 見送るベルチが何か言いたそうなそぶりを見せている。
 不審に思ったアウロラが聞いてみると、ベルチは少し逡巡したものの何かを決意したように口を開いた。

「・・・それでは、ご好意に甘えまして。ひとつ、お願いがございます」
「私でできることなら構いませんよ。依頼人の悩みは私達冒険者の悩みです」
「こちらを・・・」

 ベルチが見せたのは小さな銀の鍵だった。

「お行きになった先でオリヴィアという女性がおりましたら、その方にこの鍵を見せていただきたいのです」
「わかりました」
「そしてもし、その方がこれを所望なさるのであれば差し上げてください」
(オリヴィア?手紙を書いたという奥様の名前じゃねえのか?)

 傍で聞いていたエディンは妙なことを頼むと思いながらも、アウロラが受け取ってしまったので口を出さずにいた。
 そして一人ずつ、屋敷内にできたその奇妙な裂け目へと飛び込んでいった。

2013/01/13 03:44 [edit]

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