Fri.

In the moonlight・・・ 6  

 ハイオートンの魔力に引きずられて力を使い切ったフォットに、もう戦う力はほぼ残っていない。剣を下げるように苦笑する猫族に、アレクはなぜここに来たかを問うた。

「イスタンが魔力を取り戻せない場合・・・イスタンを葬る使命とイリスを殺すためだ」

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 猫族は魔力を失った猫を追いかけてはいけない、という掟を口にするフォットに、かねてからそれを疑問に思っていたアウロラが理由を訊いてみた。すると、一つの単語がフォットの口から洩れた。

 月獣化。
 猫族は満月の時、非常に不安定な生き物となる。
 その時・・・一つの負の感情、確執・・・それらに捕らわれた者は獣と化す。

「イスタンがもし死んでいると、イリスが月獣化を起こすからここにいるのか?・・・フォット」
「それとも――娘を殺されたという妄執でここにいるの?」

 ギルとジーニの質問に、フォットは肩をすくめた。すでに彼は、この部屋におけるスーニの最期の一端を見ている。
 フォット自身にも、月獣化は起こってもおかしくはないらしい。すべてを忘れての暴走を羨む黒猫に、ギルは他にもイリスを追いかける理由があるのではないかと詰め寄った。

「・・・魔力復活の儀式がいけないのだ」
「なぜ?魔力を復活させればそれで終わるじゃない?」
「やはり教えなかったのか・・・話せば協力して頂けるかね?」
「話の内容によっては・・・」

 頷いたフォットは、赤く輝く目を閉じて語り始めた。
 猫族の魔力復活には他種族の魂の源が必要なこと。それは人間の魂であれば人間の心臓を必要とすること。
 誰も心臓なんか上げないわ――と首を静かに振るジーニに、フォットは続けた。
 猫族の血は、他種族にはすばらしい生命力を与える反面――血を与えた者へ服従する作用があるのだと。

「血を分け与える機会など殆どない・・・実際には気をつける必要はないと思うが・・・」
「・・・血・・・たしか・・・下の階で・・・」
「・・・まさか・・・」

 ジーニの言葉に仲間たち・・・そしてフォットも一様に青ざめていた。

「・・・もう一つだけ・・・聞きたい・・・」
「なんだ?」
「あなたの娘スーニは・・・本当にイリスが奴隷商人に売ったの?」
「売った。――間違いない」

 返答は明晰で、だからこそ救いがなかった。ここでスーニが死んだ後に、ここの主人から事の次第を書き記した私信をフォットが受け取っていたのだ。そこにはイスタンの魔力も復活させると書かれていた・・・。

「・・・・・・・・・」
「お・・・おい?ジーニ、どうした?」

 よろよろとさっきの館の主人のように揺れ動いたジーニが、唐突に奥の・・・イリスがいるであろう扉に駆け出した。
 驚いたアレクが彼女の名前を呼び、無言で近づいたエディンがとっさに肩を掴むものの、「邪魔・・・」と杖の先でみぞおちを突かれ振り払われる。

「ぐっ・・・おい、やめろ馬鹿ッ!」
「呼んでいる・・・」

 切羽詰ったアレクは止める方法をフォットに聞くが、

「イリスにやめさせるか・・・それとも」
「殺すか、か」

と目の色で察したアレクが返した。
 ジーニとイリスの口げんかに呆れはしたが、あの二人がお互いを曝け出しぶつかっていたのは事実だ。イリスを殺すことを・・・・・・ジーニは承知するだろうか。
 「くそっ!」と叫んで後を追うアレクにギルやミナスが続く。アウロラがエディンを助け起こし、フォットと共に扉を潜った。

「・・・・・・・・・」
「さぁ、こっちにきて。ジーニ・・・イスタンに魂を捧げるのよ」

 もう何も隠すことのなくなったイリスが、不気味に笑ってから冒険者たちに視線を移した。フォットと一緒に出てきたのを認めて、彼女はもう一度笑った。イリスとイスタンの両親は人間が殺したのだという・・・。そのために人間を好いていたスーニを罠にはめたイリスを、彼らは憎み、だが憎みきれないでいた。

「ねぇ。人間さん。私は殺さないの?・・・でも、できないわよねぇ・・・お仲間が捕まってるもんね」
「イリス・・・やめろ。貴様の勘違いにはもう飽きた」
「勘違い?イスタンを助けるために人間を犠牲にすることが勘違いなの?」

 しかし、フォットだけは冷静な目でイリスを見つめる。

「・・・彼らは何も関係が無い。貴様の両親の様に不幸な事を起こした人間ではない」
「でも、他の人間は私たちを捕まえるわ。殺すわ。奴隷にするわ・・・!それと私の行っていることの何が違うの?」
「イリス・・・もう、やめて!」

 アウロラの悲鳴も、白い耳には届かない。

「別にいいじゃない・・・人が一人死ぬだけよ」

 フォットが赤い帽子の位置を直しつつ、前に一歩進んだ。

「私がなぜここに来たと思う?・・・・・・イスタンは死んでいる。そこにあるのは魂の器だ」
「嘘に決まってるわ」
「・・・死期を悟ったイスタンは、お前が追いかけてくるであろう事を予想していた」

 だからこそ、魔力を復活させて帰ろうとした。だが魔力回復に失敗した。
 この屋敷はここの住人が死ぬ寸前の出来事を永久に繰り返す。・・・・・・イスタンとて例外ではない。

「ニャーア・・・」
「ほらっ!私の声に答えてくれたじゃない」
「ニャーア・・・」
「・・・・・・」

 イスタンは同じ発音、同じ言葉を・・・永久に繰り返していた。それに気づいたイリスは、狂ったように・・・いや、狂って頭をかきむしり叫び始める。

「死んでいない・・・死んでいないのよっ!」

2013/01/11 17:37 [edit]

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