Fri.

In the moonlight・・・ 5  

 乾いて乾燥した動物の糞、空になった皿・・・二階に来て最初に入った部屋にあったのは、そんなものだった。
 そして部屋を出ると、またあの使用人が立っていたのである。
 彼は「開けますぞ~」と暢気な声と共にまだ入っていない扉を開け・・・。目をカッと見開き驚愕した表情を見せた後、姿を消した。 

「え!?な、なんだ、今の顔!?」
「・・・・・・何かに驚いたようでしたけど。エディン?」
「ん。罠はねえ、鍵もねえ」

 エディンはひょいっとノブを掴んで開けた。その先は、他の部屋より明るい場所だった。

「ああ、壁全体に穴が開いてるのか。ワールウインドの遺跡みてえだな」
「しかし・・・これでは風が吹き込む。ミナス、このマフラーを使え」
「ありがと、アレク」

 何かあるかとしばらく部屋を探索したが、何も得るものはない。
 あきらめて、一度彼らは部屋から出ることにした。

「・・・一応この館の部屋は調べたわ・・・」
「一体どうなってるの・・・この館は」

 呟くジーニとイリスだったが、同時にはっと階段の大扉の方を見やった。使用人の声がしたのだ。

ScreenShot_20130107_045010968.png

「ほーい・・・猫ちゃんよ~い。どこへ行ってしまったかのぉ・・・また月見台へ月を見に行ったのかのぉ」

 「御主人様は実験に忙しいようで・・・」とぶつぶつ愚痴るその幽霊は、またもや一行の前で扉を開けてみせる。
 ・・・・・・・・・そして、また消えていった・・・。
 そしてまた、同じ事を愚痴る使用人が現われ・・・・・・。

「・・・繰り返されて――」

 目前の現象に気づいたジーニが、全員に「まだ使用人が来てないうちに、部屋に入るのよ!」と促す。
 何かの魔法装置で歪んだ空間があるとしたら、それに影響された幽霊が同じ時間をループしている可能性がある。
 そう、今までジーニは頭がぼうっとして気づかなかったが、それと気づいて警戒してみれば、この館は大掛かりな魔力の残り香のようなものに包まれていた。まるで、魔方陣のある導師の研究部屋のようだ。
 手の届く仲間を引っつかみながら、ジーニは幽霊が来る前に扉を開けた。

 一人の・・・60歳前後の男が椅子に座っていた。
 そして・・・一つの紫色のクリスタル・・・・・・誰かの肖像画がこの部屋に見えた。

「女の・・・人・・・?」
「いや、猫族だ。耳がある」

 ミナスの独り言にアレクが素早く言った。

 しかし、肖像画の右耳はイリスのように三角に尖っているものの、左耳は何かの事故にあったのか・・・痛々しい傷跡が残っている。
 男は・・・力なく呟いた。

「・・・これで完成のはずだ・・・イスタンの魔力を回復させることができるはずだ・・・猫族の秘密の儀式を行わずとも・・・」

 男は誰かの肖像画に顔を向け・・・。

「・・・スーニ・・・スーニ・マクヴァール・・・君との約束を果たすことが出来たのだろうか・・・」
「!?」

 たちまち顔色が青くなったイリスをよそに、男は肖像画に呟き続ける・・・。

「・・・君は・・・片耳を無くして・・・奴隷市場に売られていた。今は逝ってしまった妻に似ていた君を・・・」
「フォットの娘さん、か。ずっとこの男が匿っていたのね・・・」
「・・・君には約束したはずの耳を・・・猫の魔力を取り戻させることができなかった」
「・・・・・・無表情だね。あの肖像画・・・」
「ああ。だが、この男にとってみれば――」

 家族同然だったのだろうとアレクは思った。
 たとえ妻と同じ存在ではないと分かっていたとしても、肖像画を眺める男の目は愛情に満ちていた。

「イスタン・・・といったかな・・・君の死んだ後に来た猫がいてね・・・その子もまた・・・猫の魔力を取り戻したい、と言っていた」
「・・・・・・・・・」

 クリスタルが魔力復活の装置であることは、ジーニならずとも冒険者達には明らかだった。秘密の儀式に頼らないとなると、その魔力量は莫大なものなのだろう、自然儀式は時間のかかるものになったはずだ。
 そして難度の高いその技は、恐らく最後の仕上げに・・・・・・。

『今・・・汝らの力とならん・・・今死すべき運命を再び越え・・・』
「フォットとの戦いの後に聴こえた呪文です!」
『大気よ・・・全てを曲げる盾を作り・・・この卑小な者を守り賜え』

 アウロラが囁くとほぼ同時、男の呪文は紡ぎ終っていた。続けて魔力を注ぎ込もうとした男は、不意に顔を大きく歪めてよろめく。
 今見ているものが過去の投影であると頭で分かっていながら、思わずアウロラは駆け寄ろうとした。
 しかし、ギルがその腕を捕らえ首を横に振る。

「ぐ・・・・・・」
「御主人様~開けますぞ~」

 ドオオオオオオオオオン!と大きな轟音と共に、視界の全てが真っ白に染まり・・・・・・過去の投影は、全て消えていた。

 この館の不思議は、全て男の心臓発作から起こった魔力の暴走・・・・・・その結論に達した冒険者たちは、魔力復活の儀式をイスタンに施そうと最後の扉を飛び出したイリスを見送った。しかし、今の暴走の結果が過去本当にあったことだとしたら・・・イスタンの生死は絶望的なのではないだろうか?
 いつも憎まれ口を叩いているジーニが「・・・生きてるといいわね」と呟いた、その時。
 軋みを上げる入り口から入ってきたのは、フォットだった。

2013/01/11 17:34 [edit]

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