Fri.

In the moonlight・・・ 4  

「・・・ハイオートンで撃たれた人を見せて」

 人化したイリスは、館の中でそう冒険者たちに促した。
 フォットの持っていた見慣れない魔剣が放つ光は、ジーニに真っ直ぐ飛んだのである。
 それは、すでに張ってあった風の障壁すら貫き、彼女を意識不明の重体に陥らせていた。

ScreenShot_20130107_035618281.png

「お願いだから、そんなに怒らないで」

 事情を説明されないことにむっとしているアレクを宥め、ミナスからナイフを借り受けると、イリスはそれを右の手のひらに2cmほど食い込ませた。

「痛・・・っ」

 右手から流れ出る血を振りかけると見る見る間に・・・なんと、傷が癒えていった。

「・・・ん・・・」
「気が付いた?」

 そうっと起き上がって「え~と・・・」と呟いているジーニに、仲間たちは安堵した。

「大丈夫?体調悪いところはない?」
「イリス・・・?」

 自分を助け起こしてくれた少女の姿をジーニはしばし見つめていたが、大丈夫だと弱弱しい声音ながら呟いた。
 幼馴染に負けず劣らずイライラしていた様子のギルは、その返事を聞くと、待ち構えていたように切り出す。

「イリス――一体、どうなってるんだ」
「・・・始まりはね・・・イスタンが魔力を得て、種族の仲間入りをするための儀式があったことから始まるの――」

 その年は口減らしが必要だった程に、作物が不作だった。
 だから猫族の仲間入りをするのを少なくしたかった・・・そこで、”死の踊り”という儀式が行われたという。二匹の猫が、死ぬまで戦い合う・・・そして生き残った一匹が猫族の仲間になれる。イリスの弟のイスタンと、フォットとの会話に出てきたスーニ。その二人が死の踊りに挑む――はずだった。

「・・・でも、スーニは死の踊りには来なかった。・・・途中で、人間の奴隷商人に捕まったのよ」
「そんな・・・主よ・・・」
「・・・一度、死の踊りを拒否したものは二度と仲間になることができない・・・」

 こうして、イスタンが猫族の仲間になった。フォットは、スーニの父親なのだとイリスは語る。

「フォットはスーニの行方を狂ったように探し・・・。そして――その行方が分からなくなった。フォットは、私を憎んだ」
「なんでだ・・・」
「一緒にマタタビの香りを嗅ぐ家族が彼にはもういないから。二度と娘が毛繕いする姿を見ることがないから。私にはイスタンという家族が残ったから」

 エディンの疑問に、すらすらとイリスは答えた。それは硬質で、まるで氷の棺のように冷たく滑らかな声だった。
 それからスーニという同族殺しの疑いがかけられるようになった、と結んだ。
 納得して黙りこんでしまった冒険者たちを見やり、イリスは気分を変えるように微笑む。

「イスタンを探すのを再開しましょう」

 館はこんな山中にあるにしては広く、そして荒れ果てていた。
 隙間風が吹き込む部屋などもあり、首をすくめてマントを締めなおすと、冒険者たちはエディンを先頭に歩き始めた。
 途中で年老いた使用人らしきものにも出会ったが、全くこちらに気づいた様子はなく、ただ愚痴のようなものを繰り返し続けているだけだった。
 狂人なのか、こりゃ関わらないほうがいい、と冒険者たちが踵を返そうとしたが――。

「そういえば・・・あの猫ちゃんはどうしたかの・・・」

という言葉に足を止めた。アレクが目を細める。

「イスタンのことか?」
「最近元気がなかったがの・・・。どれどれ・・・少し探してくるとするかの・・・」

 使用人を追ってすぐドアを潜ったが、すでにその姿はない。

「あれ?さっきのじいさんは?」
「・・・消えた?悪意や恨みは感じませんが、ゴーストなのでしょうか・・・・・・」

 その後、他の部屋にもその年老いた使用人の姿は出てきたのだが、またすっと玄関ホールへ出て行ってしまう。
 今度は消えないようにと慌てて追いかけると、二階へ続くらしい大扉の前で、

「フォフォッ・・・御主人様!御主人様!御主人様!お夕食でございます!お夕食でございます!お夕食でございます!」

と彼が大声で呼ばわると扉が開いた。
 その大扉は鍵穴もなく、一度調べた時には開かなかった筈のものである。
 もう一度、館の中を丹念に調査したほうがいい、というイリスの意見に頷き、一行は手分けしてあちこちの部屋を探索した。
 そのうち、客間らしいベッドの並んだ部屋で、エディンがとある本を見つけた。

「”扉の種類には幾つかあり・・・日常生活を楽しくしてくれる扉もある”・・・扉の種類の説明・・・の本かぁ」

 呆れたようにエディンが持ってきた分厚い本のページをめくり、ギルが呆れたように呟いた。
 本来ならジーニの役目のはずなのだが、あのフォットから受けた傷を治療して以来、どこかぼうっとしている彼女に無理はさせたくないと、朗読の役目を引き受けたのである。もっとも、中身がルーン文字だったらこうはいかなかったろうが・・・。

「ギル、それ。さっきの大扉のこと分かるんじゃないか?」
「・・・・・・!アレク冴えてる、それだ!」

 慌ててページをめくると、確かに該当するような項目があった。

「最後の項目だ・・・”魔法の扉”」

 三度用事を叫べば開くように、扉に魔法をかけておくのだという。書斎にあった大きな本棚といい、どうやらここの館の主は魔法の心得があるようだ。
 大扉の前に戻った一行は、そろってジーニを見つめた。無理はさせたくないものの、神の奇跡によらない魔法は彼女の領分である。
 しかし、よりにもよって「猫を出せっ!」と三度叫んだジーニとその頭を殴るイリスを見て、「・・・充分元気じゃないか」と思ったリーダーはやれやれと階段に足をかけた。

 同時刻。
 館の前でフォットは立ち尽くしていた。
 無効結界により比類ない魔剣ハイオートンを持つ彼は、この館に「弾かれて」しまったのである。
 この結界が解けない限り、ドアの向こう側へ入ることが出来ない。

「・・・どういうことなのだ・・・なぜ無効結界が・・・」

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 だが、不意に彼の目に明らかだった結界が月の光に溶けるように消えていく。

「・・・・・・・・・まぁいい・・・入るか」

 フォットが入ると同時に低く声が響く・・・。

『今・・・・・・らの・・・とな・・・ん・・・死すべき・・・・・・を再び越え・・・大・・・よ・・・全てを曲げる盾を作・・・・・・この・・・・・・を守り・・・え・・・』

 再び・・・無効結界が張り巡らされた・・・。

2013/01/11 17:30 [edit]

category: In the moonlight・・・

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